攻略TOPへ BG2トップへ 第1章へ 第2章アスカトラ市内へ
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ウマル・ヒル
ウマル・ヒルについた途端、怒号が聞こえてきて驚いた。声はここからでも見える広場のほうから聞こえてくる。行ってみると、品のいい紳士が広場の中央に立ち、必死でみんなをなだめている。人々は口々に彼に向かって罵声を浴びせ、女達は泣き叫んでいる。よくよく聞いてみると、ディロンが言っていた変死事件について、どうやら解決の糸口は見つかっていないらしい。私達の前にも冒険者を頼んで調べてもらっていたらしいが、その冒険者達も戻ってきていないようだ。人々の顔は恐怖にひきつり、村全体が暗い雰囲気に包まれている。ディロンと出会ってから少し時間が過ぎていたから、その後の様子を見るつもりで来てみたけれど、これは腹を決めてかからなければならないようだ・・・。
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ウマル・ヒルの小さな小屋に、その男はいた。トルゲリアスの言っていたような非道な殺人鬼ではなく、精悍な顔つきの、若きレンジャーだ。ヴァリガーの話によれば、トルゲリアスがヴァリガーを執拗に追い回すのは、スラム地区に現れたあの巨大な球体に関係しているのだそうだ。それを作ったのはコルサラ家の先祖のラヴォクという魔法使いで、あの球体、プレイナー・スフィアは、コルサラ家の血を引く人間にしか開けることが出来ないという。
「ラヴォクは悪魔のような存在だ。俺はあのグールのような男の命を終わらせる。だから協力してくれないか。」
トルゲリアスが言っていたことは、自分達にとって都合のいいことだけだった。たとえばこの男を約束通り引き渡したとして、イモエンの居場所を素直に教えてくれるとは思えなくなった。ならば、このヴァリガーという男を信じて、プレイナー・スフィアの中に入ってみるのも悪くない。
「では少しだけアスカトラに戻ってみましょう。プレイナー・スフィアの中の様子を見て、それからこっちに戻ってくればそんなに時間はかからないはずだわ。」
確かに大きなものではあるが、あれだけの広さの球体だ。探索にそんなに時間はかからないだろう。ウマル・ヒルの事件も気にはなるけど、名うての冒険者達が戻ってこないと言うことは、こちらもそれなりに装備を調えてから取りかからなければならないようだ。プレイナー・スフィアに少しだけ行ってみて、使えそうなものがあればもらってこよう。多少はこちらでの探索の足しになるだろう。この時私は、自分がどれほど大きな考え違いをしているか、まったく気づいていなかったのだ・・・。
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寺院の廃墟
プレイナー・スフィアは、まったくもって奇妙としか言いようのない代物だった。だが、それをつくったラヴォクという人物は、ヴァリガーの思っていたような人物ではなかった・・・。
「俺は何でも知っているつもりでいたんだがな・・・。思っていたより知らないことが多すぎたようだ・・・。」
もっといろいろなことを知りたい、もっと世界を見たい、そう言ってヴァリガーは私達に同行を申し出てくれた。もちろん私は承諾した。なぜかとても・・・ヴァリガーと出会えたことが、とても・・・うれしかった・・・。
ウマル・ヒルに戻ろうとした私達の元に、飛んでもない知らせが舞い込んだ。知らせの主は判事のバイランナ・イアヌリンで、アノメンの妹を殺した犯人が、やはりサエルクであったらしいということと、娘の仇を討とうと単身サエルクの屋敷に乗り込んだアノメンの父親が、返り討ちに遭ってしまったという内容だった。アノメンは、法に任せて妹の仇を討たなかった自分を責め、パーティーを飛び出した。今度こそサエルクを討ち果たすと言い残して・・・。そんなことをさせるわけにはいかない。せっかく騎士になれたのに、ここで怒りを抑えることが出来なければ、これからの人生を生きていくなんて出来やしない。
私達がサエルクの屋敷に飛び込んだときには、アノメンのメイスは血で真っ赤に染まり、そこかしこにサエルクの屋敷の見張り達が倒れていた。怒りに我を忘れたアノメンは、物音に驚いて出てきたサエルクの娘までも殺してしまった。結局アノメンは、自分の中の怒りを自分で制御することが出来ず、そのはけ口を復讐に求めているに過ぎない。仮にここでサエルクの一家を皆殺しにしたところで、彼の心の中には底知れぬ深い闇が広がっていくだけだ。その闇を克服するために協力すると説得を試みた。アノメンは「私を愛してくれているのか」そう何度も聞いてくる。愛しているのならば私の言うことを聞くというのだ。彼の人生を決めるのは彼自身だというのに。だが、今はとにかくこの場を収めなければならない。でも愛しているから旅に戻ろうと言ったあとで、何かひどく大きな嘘をついたような気持になった。判事の手紙を受け取ったときも、アノメンは私を罵った。私が法に任せるべきだと言ったからその通りにしたのに、こんなことになったと・・・。
今回のことに限らず、アノメンは何かにつけて、自分を愛しているかと聞いてくる。何度も何度も、そのたびに同じ答を返しても、彼の心の中ではいつでも不安だけが募っているようだ。そして何につけても私の意見を聞いて、私の言うとおりにして、それで安心しているところがある。だから具体的な答を返さないと不機嫌になるし、しばらくするとまた同じ事を聞いてくるのだ。そんなアノメンと話をしていると、時々いらつく事がある。今までなら黙り込んでしまうところだけれど、今はそんなとき、アノメンとの会話を避けて、ヴァリガーと話をする事が多くなった。プレイナー・スフィアの一件以来、ずいぶんと明るい表情をするようになったヴァリガーと話しているのは楽しい。彼と話していると、よくカイヴァンを思い出す。いまごろどうしているのだろう・・・。
最近時々思うことがある。もしかしたら私は、アノメンを愛してはいないんじゃないか、成り行きで一晩共に過ごしてしまったことは、大きな間違いではなかったのかと。
思ったよりも戻るのが遅れてしまったウマル・ヒルだったが、そこでは驚くべき事実が待ちかまえていた。私達はあの奇妙な球体「プレイナー・スフィア」の中で、何週間も過ごしたと思っていたのだが、ロイド司祭に尋ねたところ、せいぜい数日程度しか過ぎていないというのだ。その数日の間に事態は何一つ変わっておらず、村人達の不安も限界まで来ているらしい。もはや一刻の猶予もない。この集落の北にある、今では廃墟となっている寺院に行かなくては。
「俺はここに残るよ。メレラの消息がわかるまで保護レンジャーを務めよう。考えたくはないが、メレラに万一のことがあった場合でも、俺ならレンジャー仲間にすぐ連絡がつく。かわりの保護レンジャーを見つけることも容易だろう。」
ヴァリガーがそう言って、イムネスヴェイルの村に残ってくれることになった。ここまで一緒に過ごしてきて、ヴァリガーの人となりも、剣の腕もある程度わかってきたつもりだ。彼ならば心強い。でも、『お願いするわ』と言ったあとで、それを心のどこかで寂しがっている自分に気づいた。
「アデル、君はこのパーティーのリーダーだ。そんな顔をしないで、早いところこの騒動の原因を突き止めてきてくれ。俺はこの村を守りながら待っているよ。そして1日も早く、君の幼なじみを捜し出す旅に戻ろうじゃないか。」
ヴァリガーはそう言って、優しく肩を叩いてくれた。自分がどんな顔をしていたのかを気にする余裕もなく、『気をつけてね』それだけを言って、私は残った仲間と共に寺院の廃墟を目指して歩き出した。言葉に出来ない、もどかしい思いを抱えたまま・・・。
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一連の事件の犯人は、『シェード・ロード』だった!
寺院の廃墟の近くにある洞穴で出会ったライカンスロープ『アナス』は、シェードウルフとなってしまった仲間の仇を取るために犠牲になった。私達はシェード・ロードの神殿に潜入し、この事件を調べるためにロイド司祭が以前依頼していたマジーという戦士を見つけて助け出した。だが・・・マジーの恋人パトリックは、残念ながらシェード・ロードの下僕にされてしまい、助けることは出来はなかった・・・。私達はシェード・ロードを討ち果たし、むりやり依り代とされていた、イムネスヴェイルの保護レンジャーメレラを解放することが出来た。命を救うことは出来なかったが、メレラはありがとうと涙を流して息絶えた。私達は、寺院の祭壇を清めて光を取り戻し、パトリックが塵のように消えたあとに残っていた鎧とハルバードをマジーに渡した。
「いいの?これは売ればいいお金になるわ。あなた達の旅の資金にしても・・・」
「いいえ、それはあなたのものよ。パトリックがいない今、あなたが彼の代わりに役立てて。」
「ありがとう、アデル・・・。」
マジーの瞳から、涙が流れ落ちた。
イムネスヴェイルの村に戻った私達はロイド司祭に一部始終を報告した。ロイド司祭はとても喜んでくれた。ヴァリガーの働きかけで、村の保護レンジャーは彼の仲間の一人が務めてくれることになり、私達はマジーと別れ、ヴァリガーと合流した。別れ際マジーは、自分の家がトレードミートにあるから、そこに寄ることがあれば来てくれと言った。トレードミートと言えば、シティゲートで頭を抱えていたブライアンという男が、ドルイドと町とのもめ事を解決してくれないかと言っていた場所だ。いずれ行くことになるだろう。だが、今は一度アスカトラに戻るつもりだ。私の心は今度こそはっきりと決まった。クレリックとして、もう一度最初から自分の人生を始めてみようと。
忘れ去られた寺院・・・シェード・ロードに穢されていたあの薄暗い寺院は、本当はアモーネイターのものだった。人々に忘れ去られ、誰一人信仰する者がいなくなってしまった寺院は、荒れ果てていた・・・。アモーネイターを信仰するというわけではないけれど、あの寺院のありさまは、私の心の奥底を突いたような気がする。クレリックとして再出発したところで、自分に何が出来るのかなんてわからないけれど、ただ今は信仰の意味を深く考えてみよう、そう心に決めていた・・・。
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トレードミート
「ばかばかしい!全くの茶番だ!」
エドウィンが怒り出したのは、イムネスヴェイルの一件の報酬として、ロイド司祭が提示してくれたゴールドの報酬を私が断ったことに原因があるらしい。最初に約束してくれたとおり、魔法のかかった上等な革鎧をもらったので、その他にゴールドなんて最初からもらうつもりはなかった。それでなくてもあの村は、シェード・ロードのせいで物資が滞り、困窮している。これから何とかして村の再建を図らなければならないところだ。お金はそのために使ってほしいと私は考えたのだが・・・
「お前のような血筋の者に善行など似合わんと言いたいところだが、お前の養父の躾のせいだと思えばそれは仕方なかろう。だがな、あれだけの苦労をしたのは我々も同じなのだ。それを勝手に!」
結局エドウィンは、自分の手を借りたかったら頭を下げに来いと言い残してパーティーを出ていってしまった。
「ふん・・・以前のようにウィザードすべてがイービルだとは言わないが、あの男は信用出来ないな。」
ヴァリガーが忌々しそうに呟いた。私はエドウィンに頭を下げる気はない。正直なところ、彼と私の考えはあまりにも違いすぎると、以前から思っていた。今回のことだって、別に今いきなりエドウィンが腹を立てたわけではない。マジーにパトリックの形見を渡したときもそうだったし、私が過剰な報酬を断るたびに不機嫌そうにしていたことは、ずっと前から気づいていた。彼は強力なメイジではあるけれど、今は袂を分かったほうがいいと思う。でも、パーティーにメイジは必要だ。私は、以前ガバメント地区で助けたヤン・ヤンセンと言うシーフの元を訪ねた。彼はイリュージョニストとしての顔も持っている。カブについての蘊蓄を蕩蕩と述べ立てられるのは困りものだが、裏表のないノームだと思う。ヤンは私の申し出に喜んでくれて、たくさんの怪しげな道具をガチャガチャ言わせながら旅支度を調えてきてくれた。
「ヘルムはお前の入信を歓迎してくれている。今は奉仕の時だと思うのだが、お前はこれからどうするつもりだ?」
アノメンが尋ねた。クレリックとなった今の私にとって、確かにアスカトラの寺院への奉仕も考えなければならないところだ。ヘルムのハイウォッチャー・オイシグは、私がクレリックになることを歓迎してくれた。が・・・それは単に「バールの子を手元に置いて監視できる」からに他ならないだろう。ヘルムを蔑ろにする気は毛頭無いが、私はまずトレードミートに出掛けてみようと思っている。フライディアンから話を聞いてから、ジャヘイラがとても気にしているからだ。ドルイドが町の人々ともめ事を起こすなど、普通なら考えられない。では、普通でないことが起っているのか、だとしたらそれは何なのか、フライディアンのあの困りようからして、あまり時間をおくことが出来ないのは確かだ。
「いったいどう言うことなの!?」
トレードミートに着いて、最初にそう叫んだのはジャヘイラだった。私達はトレードミートに着くなり、動物に襲われた。市民軍の兵士達が勇敢に戦っていたが、すでに何人かが傷つき、片膝をつきながら必死で防戦している。相手が動物とは言え、人を襲っているとなればほっておくわけには行かない。不本意ながらも動物たちを殺し、傷ついた兵士達の治療を終えたとき、ジャヘイラがたまらず怒りだしたのだ。市民軍の隊長は私達の助太刀に感謝し、この騒動がドルイドのせいだと言われており、一人ドルイドが捕まっているとの情報をもたらしてくれた。そして、協力してくれるというのなら、まずは「ハイ・マーチャントのローガン・コプリス卿」を訪ねてくれとも。さっそく訪ねてみよう。ジャヘイラでなくても、こんな状況が普通でないことくらい理解できる。私達はさっそくコプリス卿の家を目指すことにした。
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高位のドルイドだというサーンドという男を、私達は牢から救い出した。もっとも、コプリス卿は彼に危害を加える気は毛頭無く、保護のために一時牢に入れていたに過ぎない。サーンドに協力して、この事件の捜査をすることになった私達だったが、これから行くのは森の中、あまりにも多人数になると動きが鈍くなるというヴァリガーの提案で、ヴァリガー本人が一度パーティーを外れることになった。私達が事件のために動いている間、ヴァリガーは市民軍に協力し、出来る限り動物たちを傷つけずに追い払うことを考えると言ってくれた。動物達が相手なら、サーンドかジャヘイラでもいいかもしれなかったが、トレードミートの人々は今のところドルイドを信用していない。
「俺はレンジャーだからな。ドルイドを信じていなくとも、レンジャーなら動物を手なずけるにはもってこいだと、まあ市民軍の連中は考えているらしいよ。」
こんなとき、ヴァリガーは必ず自分から動いてくれる。それほど人当たりがいいとも思えないのだが、市民軍の兵士達はみんなヴァリガーに悪い感情を持っていないようだ。そんな打ち合わせをしている最中にも、動物たちがやってきては市民軍と戦闘を繰り広げていると兵士が駆け込んでくる。
「のんびりしてもいられないようだ、君達は早く事の真相を見極めてくれ。」
ヴァリガーはそう言って兵士と共に外に出ていった。私達も出掛けなければならない。サーンドが言っていた「ドルイドの森」へ
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ドルイドの森
もう少し鬱蒼とした森を想像していたのだが、思っていたよりその森は開けていた。歩く程度の道は確保されている。ドルイド達が、自然を壊さない程度に道を作ったりしたのだろうか。そんなことを考えながら歩いていた私達の前に、突然1人の男が立ちはだかった。サーンドは彼を見て「パウデン!」と叫んだ。知り合いらしい。ここはサーンドに任せよう。
2人のやりとりを聞いていて驚いた。この森を今支配しているのは「ファルドーン」というシャドー・ドルイドだという。まさか・・・クロークウッドの奥にいた、あのファルドーン!?
パウデンの話では、彼女は森と結びついたという。森を守るためとはいえ、森から力を搾取するなど許されることではないのではないか・・・。自分の信念のためには手段を選ばないらしい「ファルドーン」は、やはりあの時出会ったあの少女なのだろう。だとすると、いささか厄介かも知れない。
パウデンが去ったあと、サーンドにファルドーンの話をした。おそらくは説得の余地はないだろうと・・・。
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思った通り、そこにいたのはあのファルドーンだった。だが、森と結びつくことで強大な力を得た彼女は私達を見下し、せせら笑った。その姿からは、あの時のひたすらに森を守るという信念を貫こうとしていた、真摯な少女の面影はなかった。サーンドが何か言うより早く、ジャヘイラが怒りだしてファルドーンに挑戦した。もちろん私は止めなかったし、止める権利もなかった。私達に出来ることは、ただ1つ、見届けること・・・。
長く苦しい戦いだった。力では明らかにファルドーンが勝っていただろう。実際ファルドーンは自信満々だった。そしてその慢心が彼女の命取りになった。ブラックベアに変身したジャヘイラの鋭い爪によってその喉が引き裂かれ、ファルドーンは倒れた。そして2度と動くことはなかった・・・。変身を解いたジャヘイラの顔に、勝利の笑みはなかった。
「この森はこれからが大変よ。この女との結びつきで、大きな被害を被っている・・・。でも私達に出来ることはもうないわ。あとはこの地のドルイド達に任せましょう。」
硬い表情のままジャヘイラはそう言って、ファルドーンの骸に背を向けた。サーンドはジャヘイラの健闘をたたえ、ローガン・コプリス卿に報告するために、私達と共にトレードミートに戻ることになった。トレードミートはどうなっているだろう。ヴァリガー達は動物達をうまくあしらっているだろうか・・・。でもいまごろはもう、動物達が襲ってこなくなっているに違いない。そう考えると、少し安心した。でもなぜ安心したのか、よくわからなかった・・・。
トレードミートへ戻った私達は、市長と市民から大歓迎を受けた。そしてなんと、以前訪ねたときはろくな挨拶もしてくれなかったギルドの長であるブシャから、この町の商売を乗っ取っているジンを何とかしてくれと頼まれたのだ。ジンのテントを訪ねた私達に、彼らのリーダー格らしいカーン・ザーラーは、とある取引を持ちかけてきた。彼らはどうやら、彼らの町の犯罪者を追いかけてここまで来たらしいのだが、なかなか足取りがつかめない。そこでこの町の商売を乗っ取り、返してほしければその犯罪者をつかまえてくるように要求していたというのだ。が、そんな話はブシャ達にはまったく伝わっていない。せっかく動物達の問題が解決しても、元通りの商取引が行われるようにならなければ、この町が元に戻ったとは言えない。私達はジン達が探している「イタフィア」という名前の「ラクシャサ」を探しに出掛けた。
トレードミートマップEジンのテント
ドルイドの森Kアドラサの家
まさかあのおばあさんがラクシャサだったとは・・・。驚いたことに、殺した途端に老婆の姿は消え、虎の顔をしたラクシャサの姿になっていた。私達は首を持ち帰ってジンに渡した。ジンは喜んで私達に報酬をくれて、仲間と共にさっさと姿を消した。おかげでトレードミートの市場には活気が戻り、市場の商人達からも歓迎を受けた私達は、めずらしい品物を安く買うことが出来るようになった。そこに年配の女性がやって来て、ぜひ息子を助けてくれないかと言いだした。私達はまるで物語の英雄のように思われているらしい。あまり持ち上げられるのも困るが、出来ることがあるなら手助けしたい。女性の家に案内してもらい、息子の話を聞いているうちに、俄然闘志が湧いてきた。アスカトラブリッジ地区で私達が取り逃がした皮剥ぎ事件の犯人が、どうやらこの町に潜伏しているらしい。今度こそ捕まえてやる!
ついに私達は、あの時の犯人レジーク・ハイズマンと、その仲間であるスキンダンサーを殺した。ティリスの恋人を無事助け出し、若者達は幸せになることが出来た。これでやっとアスカトラに帰って、寺院への奉仕を考えることが出来る。アノメンがブツブツとぼやき始める前にアスカトラに帰ろうとしたのだが、私達に対するトレードミートの市民達の感謝の気持ちは、私達が想像していたより遥かに大きかったようだ。
「君達をぜひトレードミートの名士達に紹介させてくれ。そのためのパーティーを企画しているんだ。もう少し滞在してくれるな。それと、市民達が君達の銅像を建立するそうだ。ぜひ見に行ってくれ。」
ローガン・コプリス卿のこの言葉を無視するわけには行かなかった。私達は盛大なパーティーの席でトレードミートの名士達に紹介された。パーティーが終わった頃、どうやらこの町の名士達の中でもかなりの有力者らしいルラソル家とアリバッカー家の当主がそれぞれ自分達の家に招待したいと言ってきた。その様子を見ていたローガン・コプリス卿は「あまり関わらない方がいいが、君達の判断に任せる」と、複雑な表情で言った。
順番に訪ねようと、私達は軽い気持でルラソル家に先に行ったのだが、どうも考えが甘かったらしい。ルラソル家の女当主から持ちかけられた相談は、この町の『創始者の一族』がルラソル家であることを証明するために一肌脱いでほしいというものだった。
醜い争いを終わらせるために、私達は『証拠の品』をコプリス卿に渡した。ルラソル家もアリバッカー家も手のひらを返して私達を罵ったが、もう気にすることはなかった。今度こそ私達は腰を上げた。自分達の姿をした銅像を面映ゆい思いで見上げ、コプリス卿に別れを告げて、アスカトラに戻ることにした。するとサーンドが、自分も一緒に行くと言い出した。なんと彼の家がウォーキーンズプロムナードにあり、ずっと帰ってないというのだ。そこで私達は全員でアスカトラに帰った。まさかあんなことが起きるとは予測もしていなかったのだが・・・。
サーンドは一度結婚していたのだが、自然に仕えるという名目で離婚していたらしい。だが事の次第を聞いた限りでは、非はサーンドにあるような気がする。高位のドルイド以前に、一人前の男としての責任感が欠けているように思えたのだ。彼は私達の協力で無事子供を取り戻したけれど、どうかその子がドルイド達の手によって真っ直ぐに育ちますようにと願わずにはいられない。
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「これでやっと15,000ゴールドかぁ・・・」
トレードミートから戻って、私達はコパーコロネットに来ていた。ローガン・コプリス卿からの謝礼、ギルド長ブシャからの謝礼、それにあちこちで見つけた高価なアイテムを全て売り払っても、ゲイラン・ベールとの約束である20,000ゴールドには届かない・・・。
「仕方ないわ。飲まず食わずというわけにはいかなかったのだし、それに、あまり胡散臭い仕事を受けるのは、あなたとしても気分がよくないでしょうからね。」
それを言うならジャヘイラのほうがよほど仕事の内容や依頼主を気にしていたと思うのだが、それは言わないでおいた。確かに、明らかな殺しや盗みには関わりたくはない。そう考えると、ここまでお金が集まったのが不思議なくらいだ。
「ここでこうしていても仕方ない。仕事を探してもう少し町の中を歩いてみようか。」
ヴァリガーがそう言った時
「ねえ、私を助けてくれない?」
そう声をかけてきた女がいた。見ればまだ若い。私と同じか、少し下くらいだろうか。
「助けがいるの?」
そう尋ねた私にその女は言った。
「そうよ!助けてほしいの。今まであなた達みたいな人をたくさん助けてきたのよ。今度は私を助けてくれてもいいでしょう?」
「あなた達みたいな?それはどういう意味かしらね。」
ジャヘイラがむっとした顔で尋ね返したが、その女はけろりとしてこう言った。
「あなた達みたいな人よ。こんなところで貧しい暮らしをしている人達を、私はたくさん助けてきたの。」
どうやらこの女は、自分がどれほど相手に対して失礼なことを言っているのかわかってないらしい。なかなか上等な服を着ているところを見ると、おそらくは裕福な家のお嬢さまなのだろう。私も気分はよくなかったが、まずは話だけでも聞いてみようか。
「どう言うことなのか聞かせてくれる?」
その女は名をナリアと言い、デアルニス家の娘だと言うことだった。そのデアルニス家の領地が何者かに襲われているので、助けてほしいと言うのだ。彼女がどんなに失礼なことを言ったとしても、ほっといていいこととは思えない。では行ってみようと言うと、ナリアは喜んで私達の持つ地図にデアルニス家の領地の場所を記し、そして領地を救ってくれれば報酬も出すと約束してくれた。そして私達に同行したいと言ったのだが、それは断った。道々先ほどのような物言いで話しかけられたのでは、私より先にジャヘイラが怒り出すだろう。
「ふん・・・世の中には助ける価値がない者もいるのだが・・・今はそんな場合ではないな。仕方あるまい。」
これも一応人助けにはなることだが、アノメンが珍しく乗り気でないらしい。だが確かにそんな場合ではないのだ。ナリアの様子からして彼女の家の領地は大分緊迫した様子らしい。その報酬がいくらであろうと、私は行くつもりでいる。
翌日、デアルニス・キープへと向かうために私達がコパー・コロネットから出た時、突然物陰からすーっと現れたシーフがいた。まるで何もない暗闇から抜け出てきたようで、朝だというのに背中を冷たいものが流れていく。そのシーフはヴァレンという女で、自分の女主人が私達と話がしたいと言っているという。その理由を聞いても答えない。ただ、それが私達にとって必ず得になると言うことと、詳しい話は夜、グレイヴヤードに来てくれれば話すと言うことらしい。夜の墓場になど行きたくはないが、そんなところで話をしたいと言ってくるということは、相手もよほど後ろ暗いところがあるのだろう。行けたら行くと、曖昧に返事をしておいた。ヴァレンは現れた時と同じように、暗がりにすーっと消えていった。よほど腕のいいシーフなのか、まるで本当にそこから姿を消したようにしか見えなかった。
「あ、いたいた!」
いきなり後ろで叫ばれ、私達は一様に驚いて振り返った。声の主はゲイラン・ベールの甥っ子だという少年だったのだが、私達よりも、振り向かれた当人のほうが驚いて私達を見ている。
「な、なんだよ?僕はあんた達にいい話を持ってきてやったんだぞ?そんな顔をしなくてもいいじゃないか。」
「いい話?」
「そうだよ。おじちゃんが呼んでるんだ。『話を進める前』に必ず来いってさ。」
「・・・そう。そして私達が行かないと、あなたがお小遣いをもらえないというわけね。」
「そうだよ。へぇ、戦士のねぇちゃん頭いいな。クレリックになったみたいだけど、やっぱり呪文を使えるようになると頭よくなるのか?」
「さあね。それじゃあなたのおじさんに、すぐに行くからと伝えて。」
「・・・あの小僧、計ったように現れるとは、気に入らんな。」
少年が去ったあと、忌々しそうにそう呟いたのはアノメンだった。
「そりゃ私達は、シャドウシーフから監視されているもの。もっとも、どうやらその対抗勢力からも監視されているようだけど。仕方ないわ。とにかく、ゲイラン・ベールのところに行きましょう。まずは話を聞かないとね。」
ゲイラン・ベールの家はコパーコロネットからそう遠くない。歩き出そうとしたが、ジャヘイラが動かないのに気づいた。
「ジャヘイラ、どうしたの?」
ジャヘイラはハッとして顔を上げ、『何でもないわ』そう言って笑ったが、笑顔がどこかぎこちない。この間ダーミンと会ってから、ジャヘイラはいつも何か考えている。声をかけても『大丈夫よ』と言う言葉しか返ってこない。心配になる・・・。
「よぉ、来たな。朗報だぜ。」
ゲイラン・ベールは、私達が彼の家に入った途端にそう切り出した。
「あんたの幼なじみを捜す費用だがな、15,000ゴールドでいいってことになったのさ。」
「・・・どういうこと?大安売りをしてくれるってわけでもなさそうだけど。」
「さぁてね。せっかくまけてくれるって言うんだから、俺があんたならこの機会を逃さないがな。で、金はあるのか?あるなら預かるぞ。」
「それはそうだけど、こっちも手持ちをあなたに渡したら、今日の夜食べるものも買えなくなってしまうわ。だいたい20,000ゴールド貯まるまでは待てるって話だったんだから、もう少しくらい待ってくれてもいいじゃないの。」
ゲイラン・ベールは一瞬忌々しそうな顔で私を睨んだが、すぐにいつもの狡猾そうな笑みに戻って言った。
「まあそれもそうだな。だが、この組織は気紛れでね。相手の気が変わらないうちに行動しておいたほうがいいぜ。これは俺からの忠告だ。」
「わかった。あなたに15,000ゴールド渡しても私達が旅をするのに困らない程度のお金が貯まったら、戻ってくるわ。」
やはり、さっきのヴァレンという薄気味悪い女が現れることを、シャドウシーフは予期していたということだ。あの女の主人というのは、おそらくあの薄気味悪い対抗組織のリーダーか・・・。ヴァンパイアを手先に使うような得体の知れない連中と関わり合うのはごめんだが、筋は通しておくべきだろう。でもまずはデアルニス・キープに行こう。ナリアは『私の家が何者かに襲われている』と言っていたが、その正体を知らないわけではなさそうだった。今頃気を揉んでいるだろう。
「あの、アデルよ、大変申し訳ないのだがなあ・・・。」
やっと出発できると思ったら、そこでおずおずと口を開いたのはヤンだ。さっきゲイラン・ベールの家に行く途中に、ヤンは自分の家に戻ったのだが、何でもカブの栽培について家族会議が開かれるらしいので、そちらに出席しなければならないというのだ。
「カブだと!?これから邪悪な者達との戦いが待っているというのに、何がカブだ!」
アノメンが怒鳴った。
「あんたにそんな言い方をする権利はないだろう。あんたにとって正義が大事なように、ヤンにとってはカブが大事なのさ。」
ヴァリガーが言った。
「わ、わ、私の正義とカブを同列に扱うつもりか!」
かんかんに怒るアノメンと、呆れたように肩をすくめるヤンとヴァリガーの対照的なことと言ったら!
ヤンがカブに対して凄まじいこだわりを持っていることはわかる。気にしないで家族会議に出席してくれと言って、私達はヤンと別れた。それからデアルニス・キープへ向かう道すがら、アノメンはずっとぶつぶつと言っている。でも、そんなアノメンの怒りも吹っ飛ばしてしまうような出来事が起きたのは、デアルニス・キープを目指してアスカトラを出た翌日の朝のことだった。
安全そうな森の入口でキャンプを張ったのだが、朝起きると、ジャヘイラがいない。昨夜は確かに一緒のテントで寝たはずなのに、いつの間にか荷物をまとめて出ていったらしい。ジャヘイラに預けていたポーションやスクロールのケースが私の枕元においてある。どこに行ったのか。探しに行こうにも手がかりすら見つからない。ずっと悩んでいたのはわかっていたのに、私は何も力になれなかった。
「おお、そこのお嬢さん、また会ったのぉ。」
見ると1人の老人が歩いてくる。この顔は・・・
「あ、あなたは!?」
「ほっほっほ。わしゃターミンスエルと言う者だがな、こんなものが風に飛ばされそうになっておったのでな。」
ターミンスエル?この老人はあのエルミンスターじゃないか。もっとも本物かどうかはなんとも言えないが。ソードコーストを旅している間、ちょこちょこと現れては私達をからかうかのようなことばかり言ってさっさと姿を消していた。その『自称』ターミンスエル老人は私に紙切れを握らせた。
「本当に大事なものはなくしてほしくないからのぉ。」
そう言って、老人は去っていった。こんなところに都合よく現れると言うことは、あの老人は、私達が殺したガルヴァリーの一味なのだろうか。でもそのわりには1人で来て1人で去っていった・・・。
「アデル、あのご老体のことはひとまずおいておこう。今の紙は何だ?」
アノメンに言われて我に返った。私が受け取った紙は・・・・
「ジャヘイラの手紙よ。ハーパーホールドに戻るって・・・・」
「あんなところに行ったのでは死にに行くようなものではないのか!?戻ろう。まずはジャヘイラを助け出さなくては。」
さっきまでブツブツ言っていたのと同一人物とはとても思えないほど、アノメンの動きは素早かった。キャンプを畳み、私達はアスカトラのドック地区にとって返した。
ガルヴァリーの屋敷では、傭兵が私達を出迎えてくれた。傭兵を雇うなんてハーパーのすることとは思えない。やはりこの屋敷に集っていたようなハーパー達は堕落していたのだろう。屋敷の2階でジャヘイラを見つけた。ジャヘイラは私の顔を見て驚き、そして必死に尊大な態度を保とうとしたが、私は構わず思い切りジャヘイラを抱きしめた。
「ごめんね・・・。あなたは大人だから、どんなことでも自分で解決するだろうからって、余計な口出しは出来ないような気がしていつも何も言えなかった。でも、私達は友達よ。私の前でそんなに無理して肩肘張らないで。どんなことも、一緒に乗り越えていきましょう。」
ジャヘイラの体から力が抜け、私にしがみついて泣き出した。ジャヘイラの涙を見たのは2度目、カリードの遺体を見つけた時以来だ。ひとしきり泣いたあと、ジャヘイラはこの場所について説明してくれた。本物のハーパー達はもうここにはいず、残っていたのは主人公達に復讐をしようとする者達だけだったこと。ジャヘイラは以前何度か会ったことがあるダーミンにもう一度会ってくれるよう頼むつもりだという。でもそれは彼に許しを請うためではない。ダーミンが以前と変わっていないのか、真のハーパーとしての心を持ち続けているのかを確認するためだという。
「アデル、迎えに来てくれてうれしいわ。あとで話しましょうね。」
「ええ、ではみんなでここを出ましょう。デアルニス・キープに行かなければならないわ。」
デアルニス・キープ
ハーパーホールドを出た私達は急ぎデアルニス・キープへと向かったが・・
「こ・・・これは・・・!?」
デアルニス・キープについた私達は目を疑った。領地の真ん中にそびえ立つ堅牢な建物は、おそらく領主デアルニス卿の屋敷だろう。だが・・・その屋敷に至る道の跳ね橋はあげられ、しかも道の両脇には・・・生首がいくつも晒しものになっている・・・。
あたりは異様に静かだ。屋敷の裏手に人がいるのを見つけて近づいた。ナリアもそこにいた。
「ああ、やっと来てくれたのね!アラート司令官、この人達よ!助けてくれるって!」
ナリアは泣き出しそうだ。
「ありがたい!今このキープは大変なことになっている!」
アラート司令官とは、どうやらデアルニス家の私兵の司令官らしい。ここで私兵の指揮を執っているらしいのだが、敵は手強く、あの晒しものの生首は、無念の死を遂げた私兵達のものだそうだ。
「何というむごいことを・・・。忠誠を尽くした者に死後までもあのような仕打ちをするとは・・・許さんぞ!」
アノメンは怒り心頭だ。
「私達が来たからには、何としてもこのキープを侵略者達から取り戻すわ。でもナリア、あなたは一番大事なことを私達に教えてくれていないわね。」
「そ、それは・・・。」
ナリアが青ざめて後ずさった。
「お嬢さま、もしやここを襲っている者達のことを・・・この方達に何も?」
アラート司令官が驚いてナリアを見た。
「ここまで来たんだから、今何を聞いても驚かないって約束するわ。だから私達がこれから何と戦わなければならないのか、それだけはきちんと教えてちょうだい。」
「・・・ごめんなさい。トロールよ。このキープはトロールに襲われているの。ユアンティもいるわ。うちの私兵達はみんな勇猛だけど、かなりの数殺されてしまった・・・。だから今はもうあなた達だけが頼りなの。」
「わかった。それじゃこれから行くわ。どこか中に潜り込めそうな入口はない?」
「あるわ。私が案内出来る。私も一緒に行かせて!ここでただ待っているのはいやなの!」
「お嬢さま!それは!」
アラート司令官が押しとどめようとしたが、ナリアがその手を振り払った。
「私も行く!アデル、お願い、連れて行って!」
「それじゃ来て。あなた魔法が使えそうね。手持ちのスクロールをあげるから、火と酸に関する魔法があれば憶えて、使えるようにしておいて。トロールとの戦いでは役に立つわ。それから、中の案内をお願い。武器や矢弾の置き場所があったら教えて。状況によっては使わせてもらうわよ。いいわね?」
「もちろんよ。行きましょう。」
「アデル殿と言われたか。中に入ることが出来たら、あの跳ね橋を何とか降ろしてくれ。跳ね橋さえ降りれば、我らも中に入って戦うことが出来る。それと・・・お嬢さまをよろしく頼む。」
屋敷の裏手にある、抜け穴のような入口から、私達は屋敷の中へと潜入した。
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私達は何とかデアルニス家の屋敷を奪還することに成功した。だが、屋敷の中に取り残された人のうち、助け出せたのは召使いとナリアの叔母だけだった・・・。ナリアの父親を救うことが出来なかったのだけが心残りだ。ナリアは私達について来たがったが、私は断った。ナリアには婚約者がいるらしいのだが、飛んでもないクセモノで、ナリアは結婚なんてしたくないらしい。だがこの家は男子が継ぐことに決まっているので、結婚しないと跡は継げないと言う。でも逃げ出してどうなる?ナリアにとってここは帰るべき家だ。自分の家なのだから、あなたが守らなければならないと言い残して、私達はデアルニス・キープをあとにした。
「ヤンを迎えに行かなければね。」
私達はヤンを迎えに行った。そろそろ家族会議も終わった頃だろうと思ったのだ。ヤンは笑顔で迎えてくれたが、どうも様子が違う。いろいろ聞いてみたところ、ヤンは今まで野菜を売り捌いて(あまり真っ当とは言えない商売をしていたらしい!)それなりに稼いでいたらしい。だが、今回家族会議で家に帰った時に手ぶらだったことから、金にならない冒険になど出掛けず、真面目に野菜を売ってくれと家族から苦言を呈されたというのだ。迂闊だった。私達が稼いだお金はパーティーみんなのものだ。イモエンを助け出すためとは言え、私が独り占めしてしまっていいものではない。
「それじゃ私に無理に誘われたって言えばいいわ。そして、次に帰ってくる時には野菜を売るよりもっと稼いで帰ってくるって、家族にはそう言ってくれていいわよ。」
ノームは家族の絆が固いのだろうか。家族がいるだけで羨ましい。養父とは言え大きな愛で包んでくれたゴライオンはすでに無く、たった1人の幼なじみも奪われた今の私にとって、家族とは願っても手に入らないものだからだ。ヤンは笑って、以前と同じように、いやさらに怪しげな道具を背負い込んで一緒に来てくれることになった。次にヤンが家に帰る時には、きちんと手土産を持たせなければならない。
「まずはあのヴァレンという女の主人に会いに行きましょう。」
「まさか仲間になる気じゃないわよね。」
ジャヘイラが例によって眉をひそめた。
「まさか。でも、行くって約束したんだもの。筋は通しましょう。そっちの話を聞いて、きちんと断ってから、ゲイランのところに戻ろうと思ってるわ。」
胡散臭さという点なら、どちらの組織もたいして変わりなさそうだ。でも、ゲイランの言う組織、おそらくはシャドウ・シーフだろうけど、そちらの方がわかりやすいと思う。それに、いくらイモエンのことで協力してくれると言われたところで、ヴァンパイアと知り合いになんてなりたくはない。
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