攻略TOPへ BG2トップへ 第1章へ 第2章アスカトラ市外へ
スラム地区にあるコパーコロネットという宿酒場には、儲け話を求めて冒険者達が大勢集まっていると聞いた。そこに行けば、また新たな仲間を捜すことも出来るかも知れない。そう考えて、私達はウォーキーンズ・プロムナードをあとにし、スラム地区へと行ってみることにした。道を進むに従って、町並みが変わってくるのがわかる。人々の服装も薄汚れたものになり、私達を見る目つきもウォーキーンズ・プロムナードの人々とは違っていた。
「気をつけたほうがいいわね・・・。」
ジャヘイラが呟いたとき、道の先から1人の男が現れた。まるで私達を待っていたかのように。
「あんたは俺の探している人じゃないか?」
その男は一応笑顔で近づいてきたが、油断のならない狡猾な光が彼の目の中に見て取れる。私はまず男の名を聞いた。男は「ゲイラン・ベール」と名乗り、『あんたのことは知っている。ウォーキーンズ・プロムナードで連れ去られた若い娘のことを探しているだろう』と言いだしたのだ。これは罠かも知れない。だが、ゲイラン・ベールは笑ってこう言った。『ここは大通りだぜ?取りあえず俺の家の前まで案内するから、入るか入らないかはあんたが決めればいい。入らなければそれまでだ。だが、あんたが俺の家に入ってくれたなら、絶対にあんたが興味を示すいい話をしてやるぜ』こちらは5人。もしも危害を加えようとするならば十分に対応出来る。少なくともイレニカスに掠われたときのような、一方的な展開にはならないはずだ。私はついていくことにした。
ゲイラン・ベールの家で私達が聞かされた話は、ゲイランがイモエンを探すことの出来る組織を知っているというものだった。その組織に手助けを依頼するために、必要なのはゴールドと、あとはおそらく手駒としての働き・・・。そんなのはどこも似たようなものだ。それにしてもそのゴールドの額というのが、2万ゴールドとは、あまりにも法外過ぎる。だが、イモエンを連れ去ったカウルドウィザードという組織を敵に回すことになるのだから、それでも安いくらいだとゲイラン・ベールは言う。それに、それだけ出せばその組織は、確実にイモエンを探し出すだろうと言い切る。これは大きな賭けだ。私は負けるかも知れない。でも、今のところイモエンを探し出せる手がかりは、この男の話以外に何もない。私は2万ゴールド集めることを承諾した。とにかく動き出さなければ何も始まらない。幸い、ゴールドを集めるまではここに来なくてもいいし、ゲイラン・ベールは別に私達を拘束したりすることは考えていないようだ。もっとも、この男がタイミングよく私達を見つけることが出来たのは、すでに監視がついているからなんだろうけれど。
「集めたものを売りたいときは、この家の2階で商売してる奴がいるから、そいつに売るといいぜ。なかなかめずらしいアイテムを取り扱っているようだから、かえって金を使う羽目になるかも知れんがね。」
ゲイラン・ベールはにやりと笑った。狡猾そうな目の光は変わらないが、悪意はないように思える。この男を信じるか信じないか、それはゴールドを集めながら考えてみよう。
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スラム地区にあるコパーコロネットの奥で行われていたのは、なんと奴隷を使っての売春、そしてビーストと戦わせるという残虐極まりない商売だった!
私は詳細な情報を得るためにジェンサンという奴隷を買う振りをして話を聞き、彼等を助け出すことを約束した。そして剣闘士としてビーストと戦わされていたヘンダックという奴隷を助けた私達は、彼が同じように奴隷として虐げられている仲間を救うため、コパーコロネットの持ち主であるレーティナンを殺すのを見届けた。そしてヘンダックの頼みで、スラム地区に巣くう奴隷商人の隠れ家を急襲、奴隷として連れてこられた幼い子供達を救うことが出来た。ミンスクは大喜びだし、ジャヘイラも満足げだ。ただ、この町の言わば『顔役』に喧嘩を売った形になってしまったことを、ヨシモは心配している。得体の知れないのは相変わらずだが、彼は今のところよく働いてくれていると思う。このままずっと同じように仲間でいてくれるといいのだけど。そしてもう一人、コパーコロネットにいた騎士見習いのクレリックを仲間にくわえた。回復の呪文を使えるのがジャヘイラ一人では、この先ジャヘイラにばかり負担を強いることになってしまう。もちろんエアリーのこともあてにはしているが、エアリーには魔法のほうで力を発揮してほしい。アノメンというそのクレリックは、口調は偉そうだが、クレリックとしてはそこそこ行けそうだ。この際贅沢は言っていられない。取りあえず仲間になってもらうことにした。
コパーコロネットには、他にも仲間になってくれそうな戦士やメイジがいたが、取りあえず話を聞くのはもう少し後にすることにした。このアスカトラという町の中を、もう少し歩いてみたい、そう思ったからだ。
奴隷商人達に大打撃を与えた私達は、レーティナンに取って代わってコパーコロネットの持ち主となったヘンダックに歓迎され、しばらく宿にとどまっていた。そこに、エアリー宛のメッセンジャーがやってきた。どうやらクァイルがエアリーに戻ってきてほしいらしい。エアリーにとってクァイルは恩人だ。一刻も早く彼の元に戻りたいというエアリーの頼みを聞いて、私達は1度サーカスに戻った。そこで私達は、クァイルの古い知り合いである『ラエリス・シャイ』という女性に力を貸してやってほしいと頼まれた。彼女は今、ファイブ・フラゴン亭という宿酒場の地下劇場にいるらしい。だが、そこに向かう前に、もう1ヶ所向かわなければならないところがある。それはガバメント地区という場所にあるという、カウンシルだ。カウルドウィザードの元を訪ね、それとなくイモエンのことを聞き出してみようと思っている。
ガバメント地区
カウンシルの行政庁舎に向かうために、ガバメント地区を訪れた。向かったのが夜だったのはまずかったかも知れない。通りに立ちはだかったアムン兵達に、私達は疑いの目を向けられた。最近、シャドウシーフと謎のアサシンギルドの抗争が悪化しているというのは、シーフ達が夜の通りで怪しげなヴァンパイアらしき者と戦っているのを何度も目撃していたからわかってはいたが・・・まさか私達までが、その連中と同じだと思われるとは・・・。
幸い誤解はすぐに解けた。もめ事の解決に手を貸すと言ったが、アムン兵は「いいから何か見たらすぐ逃げろ」というばかりだ。同じアムン兵でも、ナシュケルのアムン兵達はもう少し素直だったものだが・・・まあ仕方ない。ここはアスカトラだ。
「シャドウシーフね・・・。なるほど、2万ゴールドと使い捨ての手駒として、私達は期待されているわけね。」
ジャヘイラが忌々しそうに言った。確かに、こうも露骨にあちこちで戦いがあれば、いやでも気づいてしまう。おそらく、私達を雇い入れようとしているのはシャドウシーフ・・・。でもこの際だ、贅沢は言っていられない。ただ気になるのは、あのヴァンパイアが言っていた「ミストレス」という存在だ。シャドウシーフの側につけば、いやでもあの連中を敵に回すことになるのだろう。その覚悟だけはしておくべきなんだと思うけど・・・。
カウンシルの前で、マーディンという男に出会った。カウルドウィザードのトルゲリアスという人物が、私達に頼み事をしたいという。ちょうどよかった。イモエンのことも聞き出してみよう。頼み事をするつもりなら、こちらもそれ相応の要求くらいはしてもいいだろう。
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こんなところであのドロウと再会することになるとは思わなかった。ヴィコニアというそのクレリックは、ドロウであることがばれて、危うく火あぶりにされるところだった。ドロウだから殺してもいいという考え方にはまったく賛同出来ない。そう言えば、ヴィコニアと最初に出会ったのも、彼女がフレイミングフィストに殺されそうになっていたときだった。私はヴィコニアを助けて、彼女を火あぶりにしようとしていた狂信者の集団を倒した。私もジャヘイラも、ヴィコニアと共に旅をすることに異存はなかった。ヨシモは元々ドロウだろうがなんだろうがまったく意に介さない。驚いたことに、あの騎士見習いのアノメンも、仲間に入れても構わないという。だが・・・問題はエアリーだった。アヴァリエルとドロウの間にも、相当暗くて悲惨な歴史があるらしい。青ざめて怯えるエアリーを見ていると、さすがにヴィコニアを仲間にすることは出来なかった。
「しょうがないねぇ。気が変わったらまた会おうじゃないか。」
ヴィコニアは、地上暮らしが長いせいか、あんまりドロウらしくない。でも見た目は確かにドロウそのものだ。エアリーが怯えるのも仕方ないと思う。ヴィコニアは、この町の墓場にあたる「グレイヴヤード地区」というところに隠れているからそこで会おうと言って去っていった。
「あなたは問答無用で反対するかと思ったけど」
そう尋ねると、アノメンは少しきまりの悪そうな顔をした。
「私とてそこまで石頭ではないつもりだが・・・。」
驚いたことに、顔を赤らめている。少しからかってやろうかと思ったがやめておいた。口調は偉そうだし、自慢話も多い。鼻持ちならないところはあるが、苦労してきたことは確かなようだし、妹さんのことで大分悩んでいることは、会話の端々からもわかる。案外優しいところもあるのかも知れない。
ブリッジ地区
ブリッジ地区にやってきた。この地区のどこかにある、「ファイブ・フラゴン亭」という酒場を探すためだ。そこにはクァイルの友人、ラエリスという女性がいるらしい。
事の起こりはこうだ。コパーコロネットでの滞在中、クァイルからのメッセージを受け取ったエアリーと共に、私達は1度サーカスに顔を出すことにした。そこで私達がクァイルから聞いた話は、彼の友人である『ラエリス・シャイ』という女性を助けてくれないかというものだった。詳しいことはクァイルも知らないらしいが、相当切羽詰まっているらしい。
「だが、君には君の仕事があるだろう。無理にとは言わんよ。」
クァイルはそう言ったが、かなり心配そうだったのは確かだ。幸い、それほど急ぎの仕事は請け負っていない。せいぜいカウルドウィザードのトルゲリアスから、『ヴァリガー・コルサラ』という人物の捜索依頼を受けている程度だ。あとはあのディロンという少年からウマル・ヒルと言う土地での調査を依頼されてはいるが、すぐに行ける距離ではない。ディロンもそれは承知しているようだ。お金を持たせて帰らせたけれど、無事に帰っただろうか。
「どうせ一度町を出れば当分戻ってこられないんだもの。今のうちに出来ることはしてしまいましょう。」
そんなわけで、私達はブリッジ地区にやってきたのだが・・・
この地区で困っていたのは、ラエリス・シャイだけではなかったようだ。地区の入口で出会ったアイギスフィールド警務官は、この町で起きている不可思議な「皮剥ぎ殺人」について調査していると言うが、たいした成果は上がってないらしい。同じ地区で起きたことなら同時進行も可能だろうから、出来る限りのことはするよとアイギスフィールド警務官に言ってみたけれど、「これ以上市民が危ない目に遭うのは・・・」と消極的だ。とても律儀でいい人物らしい。取りあえず少し調べてみよう。何かわかれば知らせることが出来るかも知れない。
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まったくもって薄気味悪い事件に遭遇したものだ。人の皮を生きたまま剥いで殺す・・・およそまともな神経ではとても出来そうにない恐ろしい殺人が、この町で起きていた。犯人を見つけてせっかく家まで踏み込んだというのに、残念ながら逃げられてしまった。だが、報告に戻った私達に、アイギスフィールド警務官は丁寧に頭を下げてくれた。
「犯人は我々が必ず追い詰める。ありがとう。」
すっきりしないが、ひとまずこの町での殺人はもう起きないと見ていいだろう。次はラエリスの依頼を片付けなければ。
「でも妙な話だね。どうしてラエリスはそんなにジェムにこだわるんだろう。」
エアリーが首をかしげた。
彼女の劇団の看板俳優エルダリスは、彼の持つジェムを奪い取ろうとする強欲なウィザードによって拉致された、だからエルダリスとジェムを取り戻してほしい、これがラエリスから聞いた話だ。
「だってジェムなんかより仲間のほうが大事じゃないか。もしもサーカスの仲間がこんなことになったら、私なら・・・ううん、クァイルだって、ジェムなんてどうでもいいから仲間を無事に取り戻してくれって、絶対そう言うよ。ラエリスはおかしいよ!」
確かに、ラエリスは異様なまでにそのジェムにこだわっている。それほど仲間が大事なら、ジェムなどくれてやればいいと、私も思うのだが・・・。
「何を考え込んでいるんだ?答は簡単さ!そんな強欲な悪党に、コイン1枚くれてやる必要はない!このミンスクとブーが見事取り戻してみせるぞ!その俳優も、ジェムも一緒にな!」
皮剥ぎ事件の解決で、どうやら私達の名声がこの町の中で上がりつつあるらしい。ミンスクはすっかり気をよくしている。放っておいたら大声で自分達の名誉を叫びながら歩きそうだ。「クァイルの友人」が、どうも仲間の命を軽視しているように見えてエアリーは少し落ち込んでいたのだが、ミンスクの言葉で笑顔を取り戻した。
「そうだね。確かに、そんな卑劣な奴には何もくれてやる必要はないね。でもミンスク、これから行くのはテンプル地区だから、寺院がたくさんあるよ。静かにね。」
少し前に、ミンスクはエアリーに「デジェマのためのウィッチ」になってくれるように頼み込み、エアリーが承諾していた。「ウィッチ」の言葉に、ミンスクはとても素直に従う。
エルダリスの居場所を、ラエリス達は把握出来ていなかったようだが、彼を拉致したウィザードが下水道の奥にいるという情報だけは得ていた。それを聞いたエアリーが、下水道の入口ならテンプル地区にあると思うと教えてくれたのだ。
(寺院か・・・。)
イェスリックとブランウェンに話を聞かせてもらったことが懐かしい。2人は今頃どうしているのだろう。今うちのパーティーにいるクレリックは、あの2人とは似ても似つかない短気で毒舌の過ぎるアノメンだが、やはり彼は修行を積んだクレリックだった。皮剥ぎ事件の時に、犯人の家の中で邪悪な気配にいち早く気づいたのがアノメンだ。もしも私がクレリックとして修行を積もうとしたら、自分の体の中に流れる邪悪な血をいつも感じながら生きていくことになるのだろうか。それとも神は、そんな人間でも救ってくれるんだろうか。テンプル地区にある寺院は、ヘルムとラサンダーとタロスだと聞いた。この町には他にもウォーキーンやイルメイターの寺院がある。そう言えばドック地区にはオグマの寺院もあると聞いた。オグマの寺院はキャンドルキープにもあったから、司祭には話を聞かせてもらったことがある。もっともその時は、あくびばかりして怒られていたっけ・・・。
「どうしたネ?コインでも踏んだのなら、黙って素早く拾うのがいいネ!」
いつの間にか立ち止まっていた私の顔を覗き込みながらヨシモが言った言葉に、思わず笑い出した。
「なんでもないわ。さ、早いところ囚われの役者を助けに行きましょう。」
過去を振り返ったところで、もうあの頃に戻ることは出来ない。今はただ、前だけを向いて歩いて行こう。
テンプル地区
テンプル地区に着いた。もう少し静かな雰囲気を想像していたのだが、案外賑やかなものだ。でも、やはり何となく空気がちがう。下水道の入口はどこなんだろう。
「下水道の入口はもっと先だ。」
アノメンがまるで私の心を読んだかのように応えたので、一瞬ぎくりとした。だが考えてみれば、私達がここに来たのは、エルダリスという役者が囚われている可能性のある、下水道への入口を捜すためだ。別にアノメンでなくたってそういうだろう・・・。
「すぐそこに見える入口がヘルム寺院、その向こう側にはラサンダーの寺院がある。あとここからは見えんが、もう少し奥に行くとタロスの寺院まである。私としてはそんなものはさっさと駆逐してほしいところだが、信者もいることだし、寺院の集まる場所にタロスの寺院だけがあってはならぬと言う理屈は通らぬからな。そう強くも言えないのが現状だ。」
アノメンはあからさまに不満げな顔をしているが、だからといって、何が何でもタロスの寺院をこの地区から追い出したいと考えているわけでもなさそうだった。タロスと言うと「邪悪な神」程度の認識しかないが、その神を信じるか信じないかは人それぞれの自由だと、私は考えている。もちろん、私自身はそんな邪悪な神なんて信じたくはないけれど・・・
(邪悪という点では、バールだっていい勝負だものね・・・)
どんな神であれ、私にはその神を邪悪だなどと言える立場にない・・・。
「普通の家はないの?」
アノメンに尋ねた。タロスの話を出したあと、黙っている私を見てばつが悪そうにモジモジしていたアノメンは、少しだけほっとしたような顔をした。まさかこの男が私に気を使ったのだろうか。そんな気の利く人物ではないと思っていたけど。
「あ、ああ。住宅も少しはある。だが、ほんのわずかだ。寺院以外の施設としては、タロス寺院の前を過ぎて、今我々が立っている場所と反対側の場所に、我がレディエントハート騎士団の本部がある。一度くらいは見学してもらいたいものだ。」
「でも騎士団が私を受け入れてくれるとは思えないわ。そう言ったのはあなたでしょう?」
「そ、それは・・・その・・・あの時は些か気が立っていたのだ。そのことについてはあとで謝ったではないか。水に流してくれているものとばかり・・・。」
「別に怒って言ってるんじゃないわ。私のような血筋の人間を、騎士団が歓迎してくれるとは思えないだけよ。」
別に騎士団だけじゃない。どこに行ったって、今では私のことが知れ渡っている。最初は知らなくても知った途端に手のひらを返す。自分の居場所など、見つけられるとは思えなかった。
「我がレディエントハート騎士団は公明正大だ。騎士団に身を置く者としては、今の言葉は聞き捨てならないところだが、それは騎士団に行って、自分の目で確かめてもらう以外にないだろう。とにかく、このアスカトラで足場を築きたいなら、挨拶の一つもしておいて損はないはずだ。」
「それもそうね・・・。」
別に騎士になりたいわけじゃない。入れてくれと言ったら門前払いを食らうかも知れないけれど、挨拶くらいなら、確かにしておいても損はないだろう。
「それから、寺院も全部回ってみるのがいいだろうな。」
「どうして?」
聞いてから思いだした。アノメンはヘルムのクレリックだったっけ・・・。
「前に言っていたではないか。クレリックとしてやっていきたい気持があると。クレリックになるつもりならば、どこかしらの寺院に所属しなければならぬ。どこを選ぶかはお前次第だが・・・。」
「あなたは何が何でもヘルムを勧めるかと思ったわ。」
「誰がどの神を信じるかなど、私がとやかく言うことではないからな。」
「そうね。お気遣いありがとう。あとで回ってみるわ。とにかく、下水道の入口を探しましょ。」
少しつっけんどんだったかなと思ったが、私は先に立って歩き出した。クレリックとして・・・そうすることで救われるかも知れないと、ずっと考えていたのは確かだけど・・・なんとなく、この世の中で私を受け入れてくれる場所なんてないのじゃないか、いつまでたっても、どこまで行っても、この命ある限りさすらっていく以外にないのじゃないか・・・。
この頃の私は、ずっとそんなことを考えてばかりいた・・・。
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何とか囚われの役者を救い出すことに成功したが・・・どう考えても、私達は体よく利用されたとしか思えない。メクラスはエルダリスを「シーフ」と罵っていた。あの美しいと言うより奇妙なジェムは、元々エルダリスのものではなかったのか?さっきからエアリーは一言もしゃべらない。彼女の心にも、疑惑が膨らんでいるらしい。心優しく、クァイルを尊敬して止まないエアリーにとって、そのクァイルの友人が自分達を利用してまんまとジェムを盗み出させ、あまつさえその持ち主を殺させたかも知れないなど、きっと受け入れがたいことなんだろうと思う。
「とにかく真相を突き止めましょう。ラエリスを問いたださなければならないわ。」
ため息と共にジャヘイラが言った。ヘルムや騎士団からも仕事の依頼を受けていたが、私達はひとまずファイブ・フラゴン亭に戻ることにした。怪しげなカルト教団のことも気にはなるが・・・仕方ない。疑惑のタネは1つずつ、確実につぶしてから先に進みたい。
囚われの役者を助けてファイブ・フラゴン亭に戻った私達は、ラエリス達を手助けすることになったのだが・・・ここで、飛んでもない事件に遭遇する羽目になってしまった。
どうにか切り抜けてアスカトラに戻り、事の次第をクァイルに報告するために、ウォーキーンズプロムナードのサーカステントにやって来た。ラエリスのことは元々、クァイルから頼まれてしたことだ。クァイルはラエリスの直面していた危機に驚き、彼女達を救い出すためにプレイナー・プリズンまで私達が出掛けていったことを知って青ざめた。
「世話になったな。大分迷惑をかけてしまったようだ。」
ため息と共に、クァイルはそう言って目を伏せた。
「そんなことないよ、クァイルおじさん。」
エアリーはクァイルを慰めようと一生懸命だ。クァイルの友人であるラエリス・シャイは、実は異次元からやって来た人物で、しかも危険な敵に追われていた・・・。彼らの救出に一役買いはしたが、それも彼らがこの町にいた間だけのこと。今ではどこでどうしているのかわからない。クァイルは、図らずも私達とかわいいエアリーを大きな危険にさらしてしまったことで、大分精神的に参っているようだ。私達はサーカステントを出たが、エアリーがクァイルを心配していることは明らかだ。エアリーの魔法の腕には大分助けられてきて、これからもあてにしたいところだけれど、いずれは彼女をここに帰したほうがいいのかもしれない。
「さてアデル、そろそろドック地区に行ったほうがいいと思うけど、ドウネ?」
ヨシモが言いだした。この男が自分からこんなことを言い出すのは、たいてい何かあるときだ。ほとんどの場合はヨシモにとっては都合のいい、そして私達にとってはあんまり関わり合いたくないことばかりなのだが・・・・。とは言え、そろそろ行かなければと思っていたのは私も同じだ。
ドック地区に向かった私達は、途中の路地裏で妙な連中に襲われた。どうも奴隷商人の残党らしい。なるほど、私達が奴隷商人の隠れ家を壊滅させたことで、彼らは職を失った。もちろん、この手の商売というものはいずれまた復活してしまうものではあるが、コパーコロネットという「優良な取引先」を失ったあの連中が、以前のように盛り返すことが出来るようになるのは大分先の話だろう。もっとも、そんなことは私達には関係ない。こんな薄汚い商売をしようなんて考える連中に、慈悲の心を持つ必要はない。
(ほんとに・・・?)
突然心の奥で声が響く。
(本当は、殺しを楽しんでいる・・・?)
違う・・・
(血しぶきを見ると心の奥から喜びが湧いてくる・・・?)
違う!!!
正義のためなんて偉そうなことを言うつもりはないけれど・・・無用な殺しなんて、いつだってしたくないのに・・・。
ドック地区
ドック地区に入るなり、ヨシモからこの町の「顔役」についての話を聞かされた。リーナル・ブラッドスキャルプという物騒な名前のその男は、ドック地区を本拠地とするシャドウシーフの実力者だというのだ。ヨシモはどうやら彼らの縄張りを侵害したらしく、ぜひ私に挨拶に言ってほしいと言うことらしい。
「今あんたと一緒だから安全ヨ」
その言葉にはいささか引っかかる物があるが、そもそも私はソードコーストにいる頃からシャドウシーフに見張られていた。ゲイランが紹介してくれると言っていた組織も、おそらくはシャドウシーフだろう。町の中で出会って思わず助けてしまったあのサンスキという男、あの男もシャドウシーフの一員だった。彼らを全面的に信用する気はないけれど、あの時サンスキを襲っていた薄気味悪い連中よりはまだ扱いやすい気がする。もちろん進んで交流を持ちたい相手ではないが、選択の余地は多分ないのだろうと思っている。
隣で溜息が聞こえた。アノメンは最愛の妹の死からこっち、ずっとふさぎ込んでいる。無理もない。父親の元に残してきたかわいい妹が殺され、犯人の目星すら付いていない状況だと言うことを知ったのは、ついこの間だ。
復讐に燃えるアノメンの父親は、自分の宿敵が娘を殺したのだと決めつけた。だが、憎しみは憎しみを呼ぶだけ。私はアノメンに復讐を思いとどまるよう説得し、彼は聞き入れてくれた。こんな時には1度この町を離れるほうがいいのかとも思うが、シャドウシーフ達に会う前では、町を出られるかどうかわからない。
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私はハーパーという組織を、多少なりとも信頼していた。だが、それが信頼に値しないと、はっきりとわかった。ガルヴァリーは私を「手土産」に、自分の保身と出世を狙っていたのだ。何も知らずに仲間に従い、結局彼らを「裏切った」形になってしまったジャヘイラが気の毒でならない。あの場所にいたハーパー達は、みんな堕落していた。彼らの陰謀にはまる形で殺されたツァーとモンタロンもかわいそうだ。この地で再会したときのツァーの態度には確かに腹が立ったが、だからといってあんな殺され方をする謂われはなかったはずだ。
「まったくだネ!シャドウシーフのほうがまだ仁義ってものを心得ているヨ!」
ヨシモにまで呆れられるとは、ハーパーも地に落ちたものだ。そんな連中にお尋ね者呼ばわりされるのは心外だが、仕方ない。とは言っても、無用な殺しはしたくない。ジャヘイラにとっては「同胞」なのだからなおさらだ。出来る限り、説得は試みるつもりでいる。
それにしても、シャドウシーフギルドといい、ハーパーホールドと言い、飛んでもない連中の巣窟だ。やはりエアリーをクァイルの元に返したのは正解だったようだ。ミンスクはデジェマのウィッチであるエアリーについていったが、そのうちコパーコロネットに現れるだろう。とにかく今は、ドック地区の探索のために仲間に入れたエドウィンとコーガンのために、グレイヴヤード地区に探索に向かうことにしよう・・・。
グレイヴヤード地区
グレイヴヤード地区は、この町の言わば共同墓地と言うことのようだ。思ったより明るかったし、人の行き来もあるが、死者を弔い、思い出をしのぶにふさわしく、とても静かだ。エドウィンとコーガンの行きたがっている場所は、どうやらこの地区の地下墓地らしい。墓荒らしのまねごとをさせられそうなのがどうにも気にかかるが、文句を言いながらも協力してくれている彼らのために、私達も多少は役に立たなければならないだろう。
「なんとも素晴らしい日だな。」
こんな場所にいても、アノメンだけが妙に明るい。まあそれも理解できる。あれほどまでになりたがっていた騎士に、とうとうなれたのだから。
涙を呑んで妹の復讐を思いとどまったアノメンのつらい選択を、騎士団はしっかりと受け止めてくれた。アノメンは晴れて「アノメン卿」と呼ばれるようになり、騎士としての身分を保障された。騎士としての仕事もたくさんあるようだったが、私について旅をしている間はその仕事をしなくてもいいように取りはからってくれるという。破格の扱いを、アノメン自身は無邪気に喜んでいるが、実は騎士団がアノメンを私の監視役に据えたのではないかと、私は疑っている。もちろんアノメンはそんなことに気づいてもいないだろうけど。騎士として、おそらくアノメンは騎士団に様々な旅の記録を報告することだろう。胸を張って、すべてを包み隠さずに。騎士団は労せずして私の動向を、すべて把握することが出来ると言うわけだ。
「私がここまで来れたのはアデルのおかげだ。一刻も早く、アデルの妹殿を探し出さねばな。」
満面の笑みでそう言ってくれるアノメンの言葉に、裏はないとわかっている。それに、騎士になれたことで、以前のような仲間達との小競り合いも少なくなった。まあ騎士になってから、私に対する気持の表し方があまりにも率直になりすぎて、時々居心地の悪い思いをするのだけど、ジャヘイラに言わせれば、それは私自身もアノメンに対して同じ気持を持ちつつあるからなのだという。そんなものを持ってみたところで、自分の運命から逃れる術などない。失うつらさを味わうくらいなら、何もなかったことにして素知らぬふりをしているべきかも知れないと思ったりもしている・・・。
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墓場とは、死んだ人間を埋葬する場所だ。まさかそこに、生きた人間までも埋められているとは思わなかった。ティルダーを助け出した私達は、彼を生き埋めにすることに関わった墓守に話を聞き出し、そいつらがまた新たな犠牲者を出す前にブリッジ地区へと向かった。
ティルダーをどうしても殺すことが出来ず、結局生きたまま埋めるという飛んでもないことをしでかしたアムーシという犯人の一味は、哀れにも首謀者のカミティスに殺されてしまった。私達はカミティスと手下のレティを追いかけて殺し、囚われの身となっていたエルゲア婦人を助け出した。エドウィンは彼女の身代金を自分達が代わりに受け取ろうなどと言いだしていたが、まったく愚かなことだ。この町でこれ以上目立つことなんてしたくない。グレイヴヤード地区の地下墓所でリッチに勝利してから、エドウィンはどんどん傲慢になっていく。
その考えとあの怪しげなネザースクロールが、彼の身をいずれ滅ぼすのではないかと、少し心配になる。
シティゲート地区
そろそろ腰を上げようと思った。わけがわからないままに連れてこられたこのアスカトラで、イモエンは連れ去られた。その行方を突き止めるためには、まだまだお金を集めなければならない。私がずっと気になっていたのは、ガバメント地区で迷子になっていたディロンという子供の村だ。魔女に狙われていると怯えていたあの子は、今どうしているだろうか。
「ふん、魔女だと?そんなもの、この私にかかればひとひねりだ!」
ウマルと呼ばれているその魔女を、みんな恐ろしがっているというのがエドウィンとしては気に入らないらしい。そんな得体の知れない魔女よりも、自分のほうがよほど偉大な魔法使いだと言いたいらしい。まあ自分のほしいものを手に入れるためにはリッチにまで喧嘩をふっかけるようなやつなんだから、無鉄砲という点では確かに恐ろしいと言えば言えるけど。でもそんなことをわざわざ言う必要はない。こんな時はうまく持ち上げて働いてもらうのが一番だ。イモエンならそんなの朝飯前なんだけど・・・。
「ウマルだかなんだか知らんが、報酬はあるんだろうな?ただ働きをする気はないぞ!?」
コーガンがあくびをしながら言う。先日、グレイヴヤード地区の地下墓所で、以前の仲間に手柄を横取りされそうになって、コーガンは怒り心頭で彼らを追いかけて殺した。
あれ以来、コーガンの覇気が少し薄れてきているような気がする。本当はお金より何より、戦いの場でこそ彼は真の喜びを感じるのだ。戦士として生きてきたコーガンに、斧を収めておとなしく暮らしていくことなんて出来やしないだろう。その考え方は理解できるけれど、私とは相容れないものだ。私は無用な戦いはしたくない。他人が言うほど粗暴でもなく、裏表のない気持のいいドワーフだと思うけど、いずれコーガンとは道を違えることになるかも知れない。そしてそのほうがいいのかもしれない。
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私達はウマル・ヒルに向かって歩き出した。街道はよく整備されていて、のどかで美しい。ディロンはあれから無事に村に着いただろうか。だとすれば、私達の到着を待っているかも知れない。
「でもそんな恐ろしい事件を、いつまでもほっておくとも思えないわ。もしも誰かが解決してくれているなら、それはそれでいいことね。」
ジャヘイラが言った。
「そうね・・・。それは何よりなんだけど・・・。」
向かう先に、あまりいい予感がしない。こんな予感はたいてい当たるものだ。
「気にするな。お前まで暗い顔をしていたのでは不運を呼び込んでしまうぞ。」
肩を叩いてそう言ってくれたのはアノメンだ。
アスカトラを発つ前、成り行きで一晩一緒に過ごしてしまったけれど、それが果たしていいことだったのかどうか・・・。私などに関わって、これ以上誰かが命を落とすようなことになってほしくない。脳裏にサレヴォクの顔がちらつく。あの男を倒して、やっと平穏が取り戻せたと思ったのに、それがたとえつかの間でも仕方ないとは思っていたけど、次の災厄はあまりにも早く私の元にやって来てイモエンを連れ去ってしまった。今はイモエンを取り戻すためにこうして歩いているけれど、あのイレニカスという男がこのまま私をほっておいてくれるとは思えない。この地で出会った新たな仲間が、また私のせいで災厄に巻き込まれるなんて考えたくもないというのに・・・。
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