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「どうしたんですか?」
 
「えーとねぇ・・・この辺に、デートコースに良さそうなおしゃれな通りがあるって聞いたの。わかる?」
 
「ああ、そこなら・・・こっちです。」
 
 今度はアスランが先に立ち、イルサがすぐ後ろをついてきた。二人で歩いているのに黙っているのも何なので、アスランはイルサに話しかけた。
 
「あの・・・イルサさん。」
 
「なぁに?」
 
 イルサが返事をして、アスランのとなりに並んで歩き始めた。
 
「イルサさんは・・・どうして司書になろうと思ったんですか?やっぱりソフィアさんみたいに本に埋もれて過ごしたいとか・・・。」
 
 ソフィアが司書になった理由は、『一生本に埋もれて過ごせるなら何にも要らない』と言うほどの本好きだったからだそうだが、そのわりにはちゃんと結婚して子供もいる。好きなことを仕事に出来て、家族に囲まれて日々生きていける・・・理想の人生かもしれない。
 
「そうねぇ・・・昔はあんまり本は好きじゃなかったのよね・・・。ふふふ・・・私、昔はね、いたずらっ子だったのよ。」
 
「イルサさんが・・・いたずらっ子?」
 
 今自分の隣を歩くこの女性は、とてもいたずらっ子には見えない。しとやかではかなげにさえ思えるのだが、その見かけどおりでないことはさっきの本の運搬で証明済みだ。
 
(女ってのは・・・わからないなぁ・・・。)
 
「そうよ。いたずらっ子でね、よく幼馴染の・・・・・」
 
 イルサはいきなり言葉に詰まった。
 
「・・・イルサさん・・・?」
 
「あ・・・ああ、ごめんなさい。いつも幼馴染達といたずらばかりしていて、よく叱られていたわ。ライラはその頃から本が好きでね、父のお友達のお医者様の家に、よく本を読ませてもらいに行っていたのよ。そのお医者様の家にはすごい量の本が並んでいる書斎があってね・・・・。」
 
(どこかで聞いたような話だな・・・・。)
 
 どこで聞いたんだろう・・・。医者の家にある書斎・・・。本がたくさんあって、そこでいつも本を読んでいて・・・・。何か思い出しそうになるのに、アスランの意識は今のところイルサに集中しているので、思い出しかけた何かはするりと頭の中から逃げていってしまった。
 
「・・・ライラが楽しそうに本を読むのを見ていて、こんなに人を楽しませることが出来る本についてもっとよく知りたくなったの。だから私の場合、自分が読むよりも、誰かが自分の選んだ本を読んで面白いって言ってくれるほうがうれしいのよね。」
 
「へえ・・・。俺は自分で読むほうがいいな・・・。図書室の冒険小説はもう半分くらい読んだと思っていたら、ソフィアさんが入れ替えちゃったらしくてまた読んでいない本が増えちゃったんですよ。」
 
「あら、冒険小説が好きなの?」
 
「そうですね。難しい勉強の本は開いた途端に寝そうだし、恋愛小説はちょっと甘ったるくて・・・やっぱり冒険小説が一番面白いです。」
 
「ふぅん・・・。そういえば今日クロンファンラから持ってきた本の中にも冒険小説があったわよ。」
 
「国で運営している図書館なのに、冒険小説も恋愛小説もたくさんあるんですよね。初めて王宮の図書室に行ったときはびっくりしましたよ。」
 
「国で運営する図書館はね、もともと識字率をあげるのが目的で作られたらしいのよ。」
 
「識字率?」
 
「ええ。昔はね、お金がなかったりして学校に行けない人がかなりいたんですって。だから読み書きの出来ない人がたくさんいたらしいわ。ある程度大人になってから文字を憶えるのって結構つらいのよね。それに周りの人達に、自分が読み書き出来ないことを知られたくないと言う人もいたそうなの。だから楽しい冒険小説とか、流行の恋愛小説なんかをたくさん置いて、みんなが楽しんで文字を憶えられるようにと言う配慮だったそうよ。」
 
「へぇ・・・そんな理由があったんですか・・・。」
 
「まあそれも昔の話でしょうね。今の図書館に冒険小説がたくさんおいてあるのは、単に歴代司書の趣味なんじゃない?」
 
 イルサが笑った。
 
「趣味ですか・・・。でも俺みたいに金がなくて本を買えない奴にとっては、ありがたいですよ。買うと高いですからね。」
 
「そうねぇ・・・。あ、ここだわ。」
 
 イルサが立ち止まった。そこは商業地区の中でも、おしゃれな通りとして人気のデートコースになっている通りの一番奥で、普通の家のような建物だった。コーヒーカップの絵が描かれている看板に、『セーラズカフェ』というコルクで作られた店名が貼りつけてある。
 
「こんにちは・・・。」
 
 イルサは先に立ち、そっと扉を開いて声をかけた。中には何組かの客が食事をしていたが、いずれも男女二人だ。きっと恋人同士ばかりなんだろう。
 
「いらっしゃいませぇ。」
 
 明るい、よく通る女性の声が出迎えてくれた。少し遅れて、
 
「いらっしゃい。」
 
 渋めの男性の声が響いた。
 
「あのぉ・・・空いてますか?」
 
「ええ、さあ奥へどうぞ。お二人ですか?」
 
「はい。」
 
「それじゃ、あちらの席が空いてますから。」
 
 明るい、よく通る声の持ち主は、見た目もまだ若々しく美しい女性だった。アスランの母親も見た目は若いとよく言われる。年格好もおなじくらいだ。本当にこのママさんとアスランの母親は顔見知りかも知れない。まさか自分の顔立ちを見て誰の息子かまではわからないだろうが・・・。
 
 店の一番奥にある席に二人で座った。早速ママさんがおしぼりと水を持ってきてくれる。
 
「いらっしゃいませ。お二人ともうちは初めてよね?」
 
「ええ、私の兄がこちらのコーヒーがとてもおいしいって教えてくれたので、来てみたんです。」
 
「あなたのお兄さん?」
 
「ええ、ライラって言うんですけどご存じですか?」
 
「・・・ライラって・・・ハース鉱山の地質学者のライラ・・・?」
 
「そうです。」
 
 イルサが答える。
 
(あ!)
 
 突然アスランの頭の中ですべてが繋がった。さっき頭の中で引っかかった『何か』がなんなのかやっとわかったのだ。2ヶ月ほど前にアスランはライラに会っている。王宮のロビーで、相方のカインの幼なじみとして。どうして気づかなかったんだろう。ハース鉱山に勤めるライラという名前であの時はすぐにわかったのに。
 
 ライラが剣士団の中で噂になりはじめたのは、もうだいぶ前らしい。ハース鉱山に赴任していた王国剣士が、ライラがいつも腰に下げている剣があまりにも使い込まれているのでからかったのが最初だった。
 
『君は地質学者なんだろう?だいぶ使い込まれているようだけど、誰の剣を借りてきたんだい?』
 
 そのからかいに、ライラは笑顔で自分のものだと応えた。その王国剣士はあまりにも落ち着いた答を返されて少しむっとしたらしく、ライラに立合を申し込んだのだ。そんなに訓練しているのなら腕前も相当なものなんだろうと言う、まあ嫌み半分だったらしい。最初は固辞していたライラだが、その剣士も引っ込みがつかなくなってしまったようで、だんだん怒り出した。そこで仕方なく申し出を受けたのだが、その剣士はほとんど攻撃のチャンスがないうちに剣を跳ね飛ばされてしまったらしい。それはアスランが入団する前のことのようで、しかも王国剣士が、『何の訓練も受けてない』はずの『地質学者』のさらに『20歳そこそこの若者』に負けてしまったと言う実に情けない結末になってしまったことから、剣士団の中ではどちらかというと『口にしてはいけない』的な風潮があるらしい。もっとも剣士団長のオシニスはその逆で、
 
『ふん・・・そうやって現実から目を背けているから、いつまでたっても前に進めないんだ。相手が誰だろうと負けは負けだ。そもそも、そんなくだらないことで立合を申し込むなんて王国剣士の所業とも思えんがな。』
 
そんなことを言っていた。実際その剣士は、ハース鉱山から戻ったあとオシニスにこっぴどく怒られたらしい。アスランがこの話を最初に聞いたのは、王宮の鍛冶場でだった。王宮鍛冶師達の総元締めであるタルシスから聞いたのだ。タルシスは何十年も前から王宮鍛冶師として働いていて、もう70歳は過ぎているらしいのだが、『生涯現役』を標榜し、未だに若い鍛冶師達に混じって槌をふるっている。
 
『その後も何人かの王国剣士達がライラに立合を申し込んだんだが、あとはもう応じてもらえなかったそうだ。だが、最初の立合でライラは充分過ぎるほどの実力を見せつけた。それで誰言うともなく『王国剣士ならぬ学者剣士』と呼ばれるようになったのさ。』
 
 タルシスはその話をしながらうれしそうに笑っていた。まるで孫の成長を喜ぶおじいちゃんみたいだなと、アスランは思ったものだ。そのライラに会った日の夕方、カインは部屋に戻ってきてしばらくの間黙って考え込んでいた。そして突然アスランに振り向き、
 
『アスラン!早く南地方に行けるようにがんばろうな!』
 
と、大声で叫んだ。これにはアスランのほうがびっくりしてしまい、その時いろいろと話を聞いたのだった。ライラに双子の妹がいることも、その妹が故郷を出る前にカインに何を言ったかも・・・。
 
「へぇ・・・それじゃあなたがクロンファンラの司書さんなのね。若いのにたいしたものねぇ。他にも幼なじみ達がどんどん夢を叶えているそうじゃないの。えーと、あの時一緒にいた男の子はなんて言ったかしら・・・。確か・・・・。」
 
 イルサが少し顔をこわばらせた。その時カウンターの中からマスターがママさんに呼びかけた。
 
「おいセーラ、せっかくのデートに首をつっこむな。こっち出来たぞ、運んでくれよ。」
 
 セーラはいたずらっぽく笑って肩をすくめてみせた。
 
「はいはい。それじゃご注文は?」
 
 二人とも慌ててメニューを見て、何が出てくるのかわからないまま『本日のおすすめ』を選んだ。
 
「はい、ありがとうございます。それじゃ邪魔者は失礼するわ。今お昼時で少し混んでいるからゆっくり待っていてね。」
 
 
「・・・イルサさんの幼なじみの人達は、みんな夢を叶えてるんですね・・・。」
 
 セーラが去ったあと、アスランがつぶやくように言った。
 
「そ・・・そうね・・・。助産婦をやってる人もいて・・・。」
 
「・・・知ってます。アローラさんて言うんですよね。」
 
 イルサが青ざめて言葉をつまらせた。
 
「・・・もうお互い知らないふりはやめましょうよ。カインは俺の相方です。アローラさんのことはカインに聞いたことがあるんです。助産婦の仕事はしているけど、まだ将来どうするかは決めてないらしいって。あなたはカインの幼なじみなんでしょう?さっきママさんが言っていたのもカインのことですよね。」
 
「・・・いつから・・・気づいてたの・・・?」
 
「ここに来てからですよ。さっきママさんがあなたのお兄さんのことをハース鉱山の地質学者って言ったから、それで思い出したんです。俺、あなたのお兄さんに会ったんですよ。もう2ヶ月近く前ですけど、王宮のロビーで。あの時俺は洗濯物があったから一緒に行かなかったけど、きっとカインはあなたのお兄さんと一緒にここに来たんですね。」
 
「・・・・・・・。」
 
「あなたはお兄さんから俺のことを聞いていたんじゃないですか?幼なじみが王国剣士になったって話をするなら、相方がどんな奴かってことも話題にのぼるはずです。それにさっき剣士団長と俺の話を聞いていたんだから、カインに今彼女がいるってことだってわかったはずだ・・・。俺をここに誘ったのは・・・カインのことで探りを入れたかったからなんですか・・・?」
 
「ち、ちが・・・・」
 
 イルサの声は途中で消え、かわりに涙がこぼれ落ちた。
 
「違う・・・。でも・・・そうかもしれない・・・・。」
 
「・・・・・・・・。」
 
「・・・このお店に来たかったのは本当よ。あなたに本を運んでくれたお礼がしたかったことも・・・。でも本当は・・・」
 
 イルサは唇を噛みしめてうつむいた。
 
「本当は・・・どうしたかったのかしら・・・。図書室であなたを紹介された時はまだ半信半疑だったけど、オシニスさんと話をしていて、あなたがカインの相方だって確信できたわ。だから話をしてみたかったの・・・。でも何を話したかったのか、自分でもわからないのよ・・・。」
 
 涙を拭きながら、イルサは顔を上げ、そしてアスランに向かって頭を下げた。
 
「こんなことを言っても信じてもらえるはずがないわね・・・。黙っていてごめんなさい・・・。」
 
「・・・あなたが知りたいことかどうかわかりませんけど、カインに彼女がいるのは本当です。この間、やっとつきあってもらえることになったって喜んでました。」
 
「そう・・・。」
 
 頭を下げたままのイルサの瞳からまた涙が溢れてくる。その痛々しい姿を見てもなお、アスランの心には苛立ちばかりが募っていた。自分がこんな意地の悪い人間だとは思わなかった。そしてイルサに出会ってからいままで、どうしてあんなに彼女のことばかりが気になって仕方なかったのか、やっとわかったような気がした。
 
(俺は・・・多分この人が好きなんだ・・・。)
 
 出会ってから、まだほんの何時間しか過ぎていないのに、アスランはもうイルサに心を奪われていた。でもイルサが自分を食事に誘ったのは、カインのことが知りたかったからかも知れない。そう思うと悲しくて、ついひどい言葉をぶつけてしまった。イルサの謝罪の言葉も、今のアスランの耳には入らない。
 
「お待ちどうさま・・・。」
 
 いささか遠慮がちに、セーラが食事を運んできた。香ばしい匂いのする肉料理や、ふかふかの焼きたてパン、それに透き通った香りのいいスープと新鮮なサラダ・・・。
 
「デザートとコーヒーは食後にお持ちします。・・・ごゆっくり・・・。」
 
 それだけ言ってカウンターの中に引き上げてきたセーラに、ザハムが声をかけた。
 
(おい・・・。やけにおとなしく引き上げたな・・・・。)
 
(だって・・・あんな時にはへたに口出さないのが一番じゃない・・・?)
 
(まあその判断は正解だ・・・・。しばらく静かにしてるか・・・。)
 
(そうね・・・。)
 
 いつの間にかフロアにいた客はみんな引き上げていた。お昼の時間も、もう終わりに近づいている。きっとこれから午後のデートを楽しむのだろう。静かになったフロアに、イルサのすすり泣きが響いていた。
 
「・・・あったかいうちに食いませんか?腹が減ってるとよけいに泣きたくなりますよ。」
 
 イルサはうつむいたままうなずき、ナイフとフォークに手を伸ばした。それを見て、アスランも食べ始めた。黙ったまま、二人ともただ黙々と食べ続けた。
 
(うまい・・・。)
 
 こんな時にさえ、味覚はちゃんと働いてうまいものをうまいと感じさせてくれる。うまい食事を食べれば、人間気が晴れるものだが、イルサはどうなんだろう・・・。
 
「おいしい・・・。」
 
 イルサは涙を擦りながら、鼻をすすりながら、小さくつぶやいた。どうやらイルサの味覚もちゃんと働いているらしい。
 
「うまいですね、これ。」
 
「そうね・・・。」
 
 イルサは顔を上げないまま、鼻をすすってうなずいた。その姿を見て、アスランの中に突然罪悪感が押し寄せた。二人がきれいに食事を平らげた頃を見計らって、コーヒーとデザートのケーキが出てきた。ケーキはこの店オリジナルらしい。ほんのりと紅茶の香りがするスポンジケーキの間に、たっぷりの生クリームと煮リンゴのスライスが挟んである。そして全体にもたっぷりとした生クリームが塗られているのだが、こくがあるのに不思議と重さを感じない。普段あまり甘いものは食べないアスランでさえ、このケーキはうまいと思った。そして何より、この優しい甘さがアスランの中の苛立ちを、きれいに溶かしてくれたような気がした。
 
「すみませんでした・・・。ひどいこと言って。」
 
 ケーキを平らげ、コーヒーを一口飲んだところでアスランはイルサに頭を下げた。このコーヒーもうまい。ライラが天下一品と言うだけのことがある。
 
「いいのよ・・・。別にひどいことじゃないわ。あなたは事実を教えてくれただけ。私が吹っ切れないのが悪いの。クロンファンラに行ってから、毎日が忙しくてもうすっかり忘れたと思っていたのに・・・。だめね・・・思い切りが悪くて。」
 
 『俺が忘れさせてみせる』とでも言いたいくらいだが、ぺーぺーの下っ端王国剣士ではさっぱり説得力がない。
 
「そのうち忘れられます。きっと・・・。」
 
 アスランの母には父と知り合う前に好きな男がいたらしい。でも今、アスランの両親は強い絆で結ばれて仲むつまじく暮らしている。それを考えれば、一生忘れられないなんてことがあるはずがない。そう思った時アスランの頭の中からは、店に入る前にイルサと交わした約束のことなどきれいさっぱり消え去っていた。
 
「・・・俺の母親は昔歓楽街にいたんです。」
 
 イルサがぎょっとして顔を上げたが、アスランはかまわず話し続けた。
 
「お袋には好きな男がいたらしいけど、結局だめになったらしいです。でもそのあと親父と知り合って結婚したんです。」
 
 母から聞いた話と、父から聞いた話を、思い出せる限りイルサに話して聞かせた。セーラとザハムにこの話を聞かれても、もうどうでもよかった。
 
「・・・お袋が好きだった人ってのがどんな人なのかは全然知らないし、仕事が仕事だから、もしかしたらただの片思いだったのかも知れないけど、でもきっと、結ばれないってことはそれが出会うべき相手じゃなかったってことなんです。だからきっと、自分が出会うはずの誰かがこの世の中にいるはずなんですよ。」
 
「出会うべき相手・・・・。」
 
 イルサが繰り返す。それが自分だったらいいのにとアスランは思っていたが、ここでそんな話を出すのはイルサの弱みにつけ込むみたいで気が引けた。
 
「そうです。友達とかもそうじゃないかって思います。俺は・・・カインのことが好きです。すぐ突っ走るしお調子者だし早とちりなところがあるけど、すごくいい奴だと思ってます。あいつとは親友になれると思う。そりゃその・・・友達なら別に何人いたっていいけど、俺とコンビを組める奴はあいつしかいないって思ってるんですよ。」
 
「・・・あなたにとっては、カインが王国剣士として出会うべき相手だったってことね・・・。」
 
「俺はそう信じてます。」
 
 イルサは顔を上げ、アスランに向かって微笑んだ。
 
「慰めてくれてありがとう。約束は出来ないけど、忘れられるようがんばろうって言う気になってきたわ。」
 
「無理はしないほうがいいと思うけど、きっと忘れられますよ。」
 
「そうだといいわね・・・・。」
 
「明日は帰るんですよね。」
 
「そうね。あとはまた来月ね。」
 
「来月の今頃って言うと、祭りの近くですね。」
 
「ああ・・・そうねぇ・・・。早くするか遅くするかしたほうがいいのかしら・・・。」
 
 イルサはため息をついた。毎年行われているエルバール王国の建国記念祭が今年もやってくる。祭りは一ヶ月程度だが、祭りが始まる一ヶ月前から人々は落ち着きをなくし始め、祭りが終わった一ヶ月後くらいまで、交通網に限らず様々なトラブルが起きる。
 
「祭りには来ないんですか?」
 
「来たいって言えば来れると思うけど、まだ決めてないわ。」
 
「それじゃ来ませんか?」
 
「・・・え・・・?」
 
「俺、今日のお礼がしたいんです。祭りの時には俺が案内します。治安が悪くなるから、俺がちゃんと武装してエスコートしますから。」
 
「でもあなた達はまだ新人さんよね?お祭りの間は仕事じゃないの?」
 
「夜なら大丈夫です。俺達はまだ夜の警備はさせてもらえないんですよ。まあその・・・ペーペーの下っ端なもので・・・。だから見せ物を見たりメシを食ったり・・・今度は俺がおごりますから。」
 
「そんなことは気にしなくていいのよ。」
 
「そうはいかないです。それに、祭りでばか騒ぎすれば、気も晴れると思うし・・・。」
 
「そうね・・・。いい気分転換になるかも知れないわね・・・。」
 
「カインの奴の顔を見たくなければ、あいつ等と予定が合わないようにしますから。」
 
 イルサは少し寂しげに笑った。
 
「そうね、考えてみるわ。もしも来れるようなら、手紙で連絡するわね。・・・もしも予定が合ったら、ライラも一緒でいい?」
 
「いいですよ。俺ももう一度ライラ・・・さん・・・に会ってみたいですから。」
 
 内心は残念だったが、アスランは笑顔で答えた。ここで『ぜひ二人きりで』などとしつこく言っては、下心が大ありだと思われかねない。いや、実際ないわけではないのだが・・・。
 
 
「どうもありがとうございました。またおいでくださいね。今度はお兄さんも一緒にね。」
 
 笑顔のセーラに送り出され、二人はさっきよりは明るい顔で、店を出た。二人が出て行き扉が閉まったあと、セーラが小さくつぶやいた。
 
「・・・これって・・・運命って言うべき?それとも・・・ただの神様の気まぐれなのかしら・・・?」
 
「運命なんてものがあったとしても、それも結局は神様の気まぐれじゃないのか?」
 
 ザハムが答える。
 
「そうね・・・・。それじゃ神様にお願いしたら、ハッピーエンドにしてくれるかしらね・・・。」
 
「普段信じてもいない神様にこんな時だけ祈っても効き目はないぞ。」
 
「それならこれから信仰するから、願いを叶えてほしいわ。」
 
 ザハムは『やれやれ』といった風に首を振り、小さくため息をついた。
 
「・・・俺もそう思うよ・・・。」
 
 
                          
 
 
 外に出て、アスランとイルサはまた並んで歩き出した。通りには恋人同士らしい男女の二人連れがたくさん歩いている。
 
(カインの奴、その辺を歩いていたりしないだろうな・・・。)
 
 少しあたりを見回してみたが、カインとフローラらしい二人連れは見あたらない。とその時、通りの遙か向こう側を横切っていく王国剣士の制服が見えた。こちらには気づかなかったらしいが、それを見てアスランはハッとした。来るときは気にしなかったが、よく考えてみると王宮からずっと二人で歩いて来たのだから、町の中を警備する同僚や先輩達に出会ってもおかしくない。今はたまたま気づかれなかっただけで、目のいい先輩達は、通りのこちら側から反対側の端っこにいる人の顔まで見分けられる。もしも見られていた時に黙り込んで歩いていたら、なんだか変に思われそうだ。アスランはあわててイルサに話しかけた。
 
「今日はこれからどうするんですか?」
 
「そうねぇ・・・。実を言うとね、今日の入れ替えの手続きは一日かける予定だったのよ。でもあなたが手伝ってくれたおかげで早く終わってしまったし・・・明日する予定だった買い物でもしようかと思って。あなたは?」
 
「俺は・・・。」
 
 本当ならその買い物に付き合いたいくらいだが、さすがにそこまでいうのは気が引けた。
 
「そうですね・・・。さっきソフィアさんに貸し出しの手続きしてもらった本があるから、宿舎に戻って読もうかな・・・。」
 
「ふうん・・・。あなたは誰かお付き合いしている女の子とかはいないの?」
 
 アスランの心臓が飛び出しそうなほどドキンと鳴った。これは社交辞令だ。別にイルサが、自分に決まった相手がいるかどうかを気にしているわけじゃない。頭ではそうわかっているつもりでも、心臓の鼓動はどんどん早くなっていく。
 
「い、いや・・・そんな相手はいないですよ。」
 
「そう?ならいいんだけど、恋人がいるのに私なんかにつきあわせてしまったとしたら悪いことをしたかなと思って。私ってそう言うところに気が利かないのよね。」
 
「そんなことないですよ。俺は剣士団に入ってまだ三ヶ月だし、第一さっきの団長の言葉を聞いたじゃないですか。王国剣士としてはまだまだ半人前なんです。彼女どころじゃないですよ。未だに城下町の中しか警備させてもらえないし、南大陸どころか南地方だって夢のまた夢なんですから・・・。本当にイルサさんに剣の相手をしてほしいくらいです。」
 
「剣の相手か・・・。私、カインとは何度も手合わせしたことあるわよ。」
 
「カインと?」
 
「ええ。もう気づいていると思うけど、さっき話したお医者様の家って言うのがカインの家よ。父とカインのお父さんが友達で・・・。」
 
 イルサが不意に歩みを止めた。
 
「イルサさん・・・?」
 
「ねぇ、あなたカインに聞いたことない?私の父もカインのお父さんも、昔王国剣士だったのよ。」
 
「イルサさんのお父さんも・・・?」
 
 カインの父親が王国剣士だったという話は、カインから聞いている。
 
『うちの父さんはすごく強いんだ。僕の目標は父さんを超えることさ。』
 
 カインにとって、父親は自分の誇りらしい。
 
「そうよ。父はね・・・昔、オシニスさんとコンビを組んでいたそうなの。」
 
「・・・・へ・・・・?」
 
 アスランは一瞬ぽかんとしたが、
 
「け・・・け、剣士団長と!?」
 
 思わず大声を出していた。
 
「そ、そんなに大きな声出さないで!」
 
 イルサがあわてて制する。
 
「あ、す、すみません・・・。で、でも・・・」
 
 あの剣士団長とコンビを組んでいたと言うことは、当然のことながらイルサの父親も団長と同じ程度の腕前だと言うことになる。そんなすごい人が稽古をつけてくれたのなら、ライラとイルサに今の自分がかなうはずなどない。ライラに会ったとき、『一度手合わせしてくれよ』などと軽く言ってしまったが、ライラが承諾しなくてよかった。さっきイルサを祭りに誘った時も、『治安が悪いから武装してエスコートする』などと言ってしまったが、アスランが武装してみたところで、かえってイルサに守ってもらう羽目になるかも知れない。
 
「カインはそのことを知ってるんですか?」
 
 イルサは少し考えるようなしぐさをしたが、すぐに首を振った。
 
「知らないと思うわ。カインのお父さん・・・クロービス先生っていうんだけど、その先生が言ってなければね。私がこの話を聞いたのも王国に出て来るときよ。だからライラも鉱山に向かうときに聞いたと思うわ。もしも何かあったら、剣士団の団長を頼りなさいって。自分の名前を言えば、きっとわかると思うからって。」
 
「そうなんですか・・・。」
 
「ライラと私が小さいときは、私の父さんとクロービス先生が手合わせしていたこともあったのよ。すごい迫力だったわ。母さんが言ってたの。『最初に二人が立会いしたのを見たときは、怖くて震えてたのよ』って。今ならきっと手を叩いて喜ぶでしょうけどね。」
 
 イルサがくすくすと笑った。いつの間にか『父』と『母』が『父さん』と『母さん』になっている。イルサが少しずつ自分に打ち解けてくれているようで、アスランはうれしくなった。それにしてもどうやらカインの父親の腕も相当なものらしい。あの剣士団長の相方だった人と『すごい迫力の立合』が出来るのだから・・・。
 
(でもそのわりにカインの奴って・・・。)
 
 入団当初から二人でよく立合をしているが、最近どうもカインの様子がおかしい。つまらないミスをするし、以前より隙が多くなってきている。
 
 
「イルサさんはどんな武器を使うんですか?」
 
 剣を使えると聞けば気になってくるのが相手の使っている武器だ。『武器』という言葉とイルサはとてもそぐわない気がしたが、どんな剣を使っているのだろう・・・。
 
「私のはこれよ。」
 
 イルサが上着の裾を少しめくってみせた。そこにはシンプルな鞘に収まったダガーが下げられている。
 
「武器を持ってたんですか・・・・。」
 
「護身用だからいつも持ってるわ。こっちにもね。」
 
 イルサは反対側の腰もぽんと叩いてみせた。
 
「・・・もしかして二刀流・・・?」
 
「そんな大げさなものじゃないわ。そうねぇ・・・。」
 
 イルサは辺りをきょろきょろと見回し、
 
「ねぇ、城壁の近くならあんまり人はいないわよね?」
 
「え・・・?ええ・・・いませんけど。」
 
 イルサは何をするつもりなのだろう。
 
「それじゃちょっと来て。」
 
 イルサがアスランの袖を引っ張って、通りの反対側にある城壁目指して歩き出した。
 
 
 通りを何本か抜け、市場の出ている広場を横切り、イルサはどんどん歩いていく。アスランはと言えば、その辺で警備中の先輩に会うんじゃないかとひやひやしながらあとをついていった。
 
「この辺なら、誰かをびっくりさせる心配はないわね・・・。」
 
 城下町の東側の城壁近くに来て、イルサは辺りを見回した。そしてアスランに振り向き、
 
「ごめんなさいね。あんな人通りの多いところで武器を抜くわけにいかなかったから。」
 
そう言いながら、腰に下げたダガーを二本とも、抜いてみせてくれた。よく見るとダガーと言うよりは少し長い。そして一本ずつ長さが違う。
 
「これはね、故郷の島に住んでいる墓守のおじさんが作ってくれたの。私専用ですって。ほら、こんな感じで使うのよ。」
 
 イルサは二本の剣をさっと構えてみせた。一本は攻撃に、一本は防御に使うらしい。
 
「普段は司書の制服を着ているから、鎧を着たり盾を持ったり出来ないでしょ?だからとにかく素早く抜いてかまえられるようにって、いろいろ考えて長さを決めてくれたのよ。」
 
「見せてもらっていいですか?」
 
「はい、どうぞ。」
 
 アスランはイルサの剣を手に取ってみた。軽い。アスランのように大剣を使うタイプには軽すぎてかえって扱いにくいが、力の弱い女性にはちょうどいいかもしれない。イルサを『力が弱い女性』と言うべきかどうかは別にして・・・。
 
「この材質は普通の鉄鉱石ですよね?」
 
「そうみたいね。私も材質についてはよくわからないんだけど、ライラが言うには鉄鉱石を使ってこれだけ軽く丈夫に仕上げるには、かなりの腕前が必要らしいわよ。」
 
「そうですか・・・ありがとうございました・・・。」
 
 イルサに剣を返して、アスランは思わずため息をついた。
 
「すごいな・・・・。この剣を使って、イルサさんはずっとお父さんに稽古をつけてもらってたんですね・・・。」
 
 あの超弩級の強さを持つ剣士団長と、同程度の実力を持つはずの父親に・・・。
 
「そうね・・・。別に剣で身を立てようと思ったことはないんだけど、父はライラにも私にも、小さい時からずっと剣を教えてくれたわ。そのうちカインが大きくなって私達の訓練を見て、クロービス先生に自分にも剣を教えてくれって言い出したのよ。それからは時々私達と手合わせしていたわ。」
 
「それじゃイルサさんがこっちに来る前までですか?」
 
「いえ・・・もっと前までね・・・。ライラが島を出てからは私も毎日稽古はしなくなったの。護身用としては充分だからって。それに、その頃にはもう王立図書館で仕事をしたいと思ってたから、そっちの勉強を本格的に始めたわ。こっちに来る前までは、腕がなまらないようにって、父さんが時々相手してくれた程度ね。・・・そろそろ戻りましょうか。」
 
「そうですね。いろいろありがとうございました。」
 
 アスランは頭を下げた。
 
「あら、私なにもしてないわよ。」
 
 イルサが笑う。
 
「そんなことないです。こういう武器があるんだってことも初めて知ったし、いろんなことがわかってうれしかったです。」
 
 実は本当にうれしかったのは、イルサとの距離が少しずつ縮まっていくのを感じていたからなのだが・・・。
 
「それじゃ少しはお役に立てたのね。よかったわ。」
 
 イルサは剣をしまい、また二人並んで歩き出した。王宮への道をたどりながら、アスランはここに来る時ほどまわりのことが気になっていない自分に少し驚いていた。
 
(からかわれるかも知れないけど・・・別にいいや。カインに知られたら・・・ごまかすか・・・本当のことをいうか・・・どうするかな・・・。)
 
 自分はともかく、イルサはカインに今日のことを知られたくないんじゃないだろうか。
 
「ねぇ、ちょっとだけ見ていってもいいかしら?」
 
 不意にイルサに声をかけられ我に返ると、そこは商業地区の中心にある広場だった。ここにはいつもたくさんの露店が並んでいて、行き交う人も多い。人が多ければスリや泥棒も多いので、あまり気を抜いて歩けない場所だ。
 
「いいですけど、懐には注意したほうがいいですよ。」
 
「そうね。」
 
 イルサはクスリと笑って露店の一つを覗き始めた。一緒に店を覗いてみたかったが、あまりなれなれしくしても嫌がられるかも知れない。アスランはイルサから少し離れて、彼女に近づく不審者がいないかどうかに目を光らせていた。
 
「ごめんなさい。もういいわ。行きましょう。」
 
 しばらくしてイルサは笑顔で戻ってきた。
 
「やっぱり城下町の賑わいはすごいわねぇ・・・。クロンファンラも大きい街だけど、ここには叶わないわ。売っているものも品数がすごく多いし、見てるだけで楽しいわね。」
 
「これからは月に一度はこっちに来るんですよね?いつでも見られますよ。」
 
「そうねぇ・・・。だいたいは向こうからこっちに入れ替えに来るけど、逆もあるから・・・。必ず毎月って言うわけではないかも知れないわ。先月まではこっちから向こうに入れ替えに行っていたのよ。」
 
「そうですか・・・。」
 
「でも、来月は私が来ることになってるの。そのあとは状況次第ってところかしらね。」
 
 そんな話をしながら王宮の前に着いた頃には、もう陽が傾きかけていた。
 
「今日は別館に泊まりなんですか?」
 
「そうよ。」
 
 別館とは王宮の北側にある別館のことである。王宮の造りは今も昔も変わらず、敷地内への門をくぐり抜けて少し歩くと玄関につく。玄関を入ると広々としたロビーがあり、ロビーの北側からは王国の政治の中心とも言うべき執政館へと続く通路があ。ここには国王フロリアの執務室、謁見室、御前会議が行われる会議室などがある。執政館の上の階には大臣達の執務室などもあり、エルバール王国の命運はこの建物で決まると言っても過言ではない。この執政館への通路に足を踏み入れることが出来る王国剣士は、入団から3年以上過ぎた剣士だけだ。アスランには当分縁がない。ロビー東側には王宮図書室があり、その隣から延びる通路の向こうには荘厳な礼拝堂がある。ここでは最高神官レイナックが朝夕の祈りを捧げ、大勢の修道士達が修行に励んでいる。そしてロビー西側の階段を上がった王宮本館の2階は、王国剣士団の本部となっている。採用カウンターとロビー、それに食堂と訓練場があり、剣士団長室もここに置かれている。その上の階は王国剣士団の宿舎だ。独身の剣士達はほとんどの者がここで寝泊まりをしているし、妻帯者や城下町に家があって自宅から通っている者でも、夜勤などの場合はここで寝泊まりすることになる。その夜勤も今のところアスランには縁がないものだ。220年前の建国の時からこの王宮は繰り返し増築され続けてきて、かなりの広さがあるのだが、それでも近年王宮で働く者達が増えてきたことから手狭になっていた。そこで10年ほど前に、王宮本館の北東と北西に、それぞれ別館が建てられた。そこはおもに王宮の外で働く人達の宿舎などになっている。ロコの橋の灯台守達の宿舎もここにある。もっとも彼らの職場は王宮から遠く離れているので、研修や定時報告で王宮を訪れた者が泊まる程度だ。彼ら本来の宿舎は、ロコの灯台のすぐ隣に建てられている。イルサ達のようにクロンファンラと王宮を行き来する司書達の宿舎は、西側の別館にあった。
 
「俺はこれから図書室に寄りますけど、イルサさんも一緒に行きませんか?」
 
「ええ、そうね。」
 
 二人はそのまま図書室へと向かった。案の定ロビーですれ違う王国剣士はアスランとイルサを振り返っていく。でも執政館への通路に立つ剣士や、玄関の警備にあたる剣士達は何も言わず、顔色一つ変えなかった。仕事中に見聞きしたことを噂にしたり、仲間同士で話したりはしない。『してはいけない』決まりはないのだが、決まりがなければこの程度のことも守れないようでは王国剣士たる資格がないというわけだ。無論不審者に関することや、事件が起きたりすれば別である。
 
 
 図書室の中はほとんど誰もいなかった。ソフィアが返却された本を一冊ずつ見ながら、補修が必要な箇所に印を付けている。
 
「あらおかえりなさい。ずいぶんゆっくりだったわね。イルサ、少しは気晴らしになったかしら?」
 
「ええ、アスランにはいろいろと助けてもらいました。」
 
「そう、よかったわ。」
 
「それじゃ、私は荷物の整理があるのでもう宿舎に戻ります。アスラン、今日はいろいろありがとう。」
 
 イルサは笑顔で右手を差し出した。
 
「また・・・会えますよね・・・?」
 
「会えるとしたら次はお祭りね。」
 
「そうですね。俺のほうこそ今日はごちそうさまでした。それじゃまた。」
 
「ええ、またね。」
 
 握手を交わして、イルサは図書室を出て行った。イルサは『さよなら』と言わなかった。きっとまた会える。ライラと一緒でもいいから、祭りに来てほしい。もっともその場合、『武装してのエスコート』は必要なくなるだろう。おそらく今の自分はライラにはとうてい叶わない。たった一人で南大陸へと渡り、自分の夢を実現させるべくがんばっている彼に、何もかも・・・叶わない・・・・。
 
(カインのことがなくても・・・そんな立派な兄貴がいるんじゃ、俺なんて頼りないだけだろうなぁ・・・。)
 
 

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