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第七章

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 やっとのことでキャンドルキープの地下墓地を抜け、私達は外に出ることが出来た。辺りは暗い。この闇に乗じて出来るだけ遠くに行かなければ、また捕まってしまうかも知れない。私達は急いでキャンドルキープを離れた。こんな形でここを離れることになろうとは・・・。
 
 遠ざかる城壁が涙でにじんだ。私を故郷におびき寄せ、殺人の罪を着せて葬り去ろうとした人物。あの「サレヴォク」という男・・・。あの男は私を罪に陥れただけではない。ずっと前から密かにドッペルゲンガーをキャンドルキープに侵入させ、懐かしい友達を何人も殺した。そして尊敬するゴライオンの姿に似せたドッペルゲンガーまで用意して、私を陥れようとした。その理由がなんであれ、もうどうでもいい。絶対に許さない!!
 
 あの男は私に敵意を持っている。殺らなければ殺られるのだ。
 
 私達はひとまずベレゴストに落ち着いた。もはや自分がお尋ね者になっているのはわかっている。バルダーズゲートには一刻も早く戻らなければならないが、いまはただ、ほっと一息つける時間がほしかった。この街にはフレイミングフィストはいない。私達は狂人バッシラスを倒した英雄として迎えられている。身を隠すにはちょうど良い場所だ。そしてもう一つ、私がバルダーズゲートに真っ直ぐ行かなかった理由がある。それはあの地下墓地へとつづく秘密の部屋で心に決めたことを、みんなに伝えるためだ。
 
 フェルデポストインで久しぶりに温かい食事をして、おいしいワインを飲んだあと、私はそのことを切り出そうとした。が・・・・
 
「ちょっとみんな、聞いてくれないか。」
 
 コランが先に立ち上がって話し出した。ああ・・・私が言わなくても、きっとみんなそう思ってる。邪神バールの子など、こんな疫病神と誰だって一緒に旅をしようなんて思わないはずだ。私は黙ってコランの次の言葉を待った。
 
「言うまでもなく、我々はお尋ね者になってしまっただろう。あのクォヴレサとか言う男・・・いや、アイアンスロウンのリーダーの息子、サレヴォクと言うんだったな、奴は周到だ。おそらく我々に父親を殺された悲劇のヒーローとして、今頃大公達に泣きついている可能性もある。そうなればエルタン大公もあてには出来ん。お尋ね者を雇っていたなどと知られるのは世間体が悪いだろうからな、我々のことなど知らぬ存ぜぬで押し通されると思っていたほうがいいかも知れない。」
 
「ふむ、まあそれは充分に考えられるじゃろうな。お偉いさんなど、どこも似たり寄ったりなもんじゃ。」
 
 喋りながらイェスリックは3本目の骨付き肉にかぶりついている。パンはすでに大きなのを5個ほど平らげており、スープはもう何杯おかわりしただろう。墓場の中では手持ちの食料を出来るだけ小分けにして少しずつ食べていたので、相当お腹が空いていたらしい。
 
「だからといって、バルダーズゲートに向かわないわけにはいかぬだろう。このまま逃げていたところでなんの解決にもなりはせぬぞ。」
 
 カイヴァンの声はいつものように静かだ。
 
「それはそうだ。だが、たとえば我々がこのままバルダーズゲートに向かって奴らと対決するにしても、装備も懐具合もいささか心許ない。墓場の副葬品は確かにいいものばかりだったが、さすがにまだ売りさばくのはまずいだろう。」
 
「それはそうね。あっという間に足がついて、殺しの他に泥棒の罪まで着せられたのではたまらないわ。」
 
 ブランウェンが肩をすくめた。なんだか話がちっとも進んでいない気がする。コランはこれからどうするつもりなんだろう。バルダーズゲートに戻るなんて、そんなのは私1人で充分のはず。みんなまで巻き込むことは出来ない。
 
「そこでだ!」
 
 コランがにやりと笑った。
 
「またウルゴスビアードさ。」
 
「ウルゴスビアードって、この間行ったあの小さな村?」
 
 イモエンが聞き返した。いったいどう言うことなんだろう。
 
「そう。あそこにはまだまだ儲け話が転がっている。実際この間行ったときも、確かに後味の悪い思いもしたが、それなりに実入りはあったじゃないか。」
 
「ふむ・・・コランよ、お前さんが言っておるのは、あのイケとか言うベンダーが主催している、デューラッグの塔ツァーのことかの?」
 
「さすがドワーフ殿は察しが速い。まさにそれだ。」
 
「へぇ、デューラッグの塔ツァーかぁ・・・。この間はあのライカンスロープの島から戻ったばかりで、さすがにそこまで足を伸ばす気になれなかったのよねぇ。でも今なら行ってみてもいいかもね。」
 
 イモエンはすっかり乗り気だ。
 
「そう言うことなら私も乗るぞ。これから戦う相手を考えれば、あの薄気味悪い塔のツァーもちょうどいい腕慣らしになろうというものだ。」
 
 カイヴァンまでもがそう言いだした。
 
「いいわねぇ。度胸試しにも良さそうだわ。」
 
「ふぉっふぉっふぉっ、同胞の作ったあの珍妙な塔の中を覗いてくると言うのも、悪くないわい。」
 
 ブランウェンもイェスリックもすっかりその気になっている。
 
「ちょ、ちょっと待ってよ!」
 
 私は慌てて立ち上がった。
 
「そう言えば、アデルはあの塔のツァーには乗り気ではなかったんだな。だが、どうだろう?気分直しにしばらく塔の探索でもして、お宝探しというのも、悪くないと思うが?」
 
「そ、そんなことじゃないの!・・・なんで、なんでみんなそんなに平気なの?サレヴォクのことは、私1人の問題よ。あの男は私を狙っている。何とかして葬り去ろうとしてる。でもみんなには関係ないじゃない。だから、今ここで、パーティーを解散するわ。みんなはデューラッグの塔に行って。私はバルダーズゲートに戻る。サレヴォクをこのままにしておかない。」
 
 一気にそこまでしゃべって、やっと私は息をした。途中で止めようものなら、もう絶対に口から出せなくなってしまう。
 
「ということは、君は1人で行くというのか?」
 
 コランが私を真っ直ぐに見つめて言った。何だか怒っているように見えた。
 
「そりゃそうよ。こんなことに巻き込んでしまって、本当にごめんなさい。ここで私が抜ければ、みんなはもう自由よ。お尋ね者として追われることはないわ。」
 
「やれやれ・・・情けないのぉ・・・。」
 
 悲しげに呟いたのはイェスリックだ。
 
「アデルよ、わしらはそんなに頼りにならんか?お前さんが1人で行ったほうがまだマシだと思うほどに。」
 
「ち、違う!そうじゃなくて・・・・」
 
「アデル、ずるいわよ、今さら1人で行くなんて。約束したでしょ?ずっと一緒だって。」
 
 イモエンが立ち上がった。泣き出しそうな顔をしている。
 
「で・・・でも、私と一緒にいたら・・・」
 
「あなたとここで別れたとして、あのサレヴォクという男が私達をほっておくと思う?自分の父親を殺すような男よ?」
 
 ブランウェンも怒ったような顔をしている。
 
「ふむ・・・ここでアデルと別れても、おそらくあの男のことだ、我々を捕えて拷問し、アデルをおびき寄せるエサにするくらいのことは平気でするだろうな。」
 
 カイヴァンの声はいつもと変わりなく静かなのに、怒りがこもっているのがはっきりとわかった。
 
「・・・・・・・・。」
 
 言い返せない。みんな私に関わってしまったために・・・。
 
「ごめんなさい・・・。どうやって償えばいいの?みんな・・・私のせいでこんなひどい目に・・・。」
 
「勘違いしないでくれ。君のせいで騒動に巻き込まれたなどと思っているものは、ここには一人もいないんだ。私達が怒っているのは、君がパーティーを解散するだの、1人でバルダーズゲートに戻るだのと言いだしたからだぞ?」
 
「だって!!私のせいで・・・」
 
「君のせいじゃない」
 
「私がいなければトラブルなんて・・・」
 
「君がいなければ、多分トラブルを呼んでくるのは私の役目だろうな。」
 
 コランが笑い出した。
 
「冒険者稼業などやっていれば、こんなのは日常茶飯事さ。今さら驚くほどのこともない。」
 
「コランの言う通りじゃ。お前さんは、自分の出自について相当思い悩んでいるようだ。それはわかる。誰だってあんな話、はいそうですかと聞けるものではないし、事実だと言われたって受け入れたくはないものだ。だが、お前さんは今まで、ずっと悪と戦ってきたのではないか?ソードコーストの鉄不足を解消し、野盗を討伐し、そしてクロークウッドの鉱山ではわしや他の鉱夫達を助けてくれた。お前さんの血筋がどうした?そんなものは何一つ、お前さんの今までの人生に影響を及ぼしておらんじゃないか。」
 
「イェスリックの言う通りよ。本当に邪悪なものがそばにいれば、私達にはわかるの。でも、あなたからはそんなもの何一つ感じないわ。」
 
「まったくだ。それどころか、アデルは私の仇であるタゾクを討ち果たすと約束してくれた。今いなくなるのは、約束違反だぞ?」
 
 めったに笑わないカイヴァンが、少しだけ微笑んでいる。
 
「ほらアデル、そんな顔しないで。私達、みんなあなたが好きだからあなたについてきたのよ。これからもついていきたい、それだけなの。」
 
 イモエンが私の肩をバンバンと叩いた。うれしくて、みんなの言葉が、ただもううれしくて、何も言葉が出てこなかった。
 
「というわけだ。アデル、君も一緒にデューラッグの塔に行くだろう?」
 
「そうね・・・。薄気味悪い塔だけど・・・」
 
 これから相手にしようとしているのは、もっとタチの悪い連中だ。
 
「行きましょう。何があっても、前に進みたいわ。」
 
 迷わず進もう。仲間を信じて・・・。
 
「その意気だ。それではここで装備を調えてから出発しよう。」
 


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