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  2 王国剣士団

 
 ハディとカインが考え込んでいた同じ夜、2人が明日向かうはずの山岳地帯の頂上付近で、野営をしながら打ち合わせをしていたのはオシニスとライザーだ。
 
「うーん・・・やっぱりここで1人が逃げるようにしないと、2人でかかってこられたりしたら振り切れるかどうかなんとも言えないなあ。」
 
 2人は明日、カインとハディがやって来たときにどう対処するかの手順を打ち合わせしていた。大まかな流れはいつも同じだが、正体をばらすかどうかとか、やって来る新人剣士のサポートがすでに試験の内容を知っている先輩剣士か、何も知らない入りたての新人剣士かによって、細かい手順が変わってくる。
 
「そうだなあ・・・。それじゃ俺が残って、お前が先回りをするってことでどうだ?俺はお前がこっちのポイントに移動するまでこいつらをからかって少し時間を稼ぐぞ。」
 
「そうだね・・・。それじゃ僕はここで待ち伏せして、仕方ない、少し痛い目を見てもらうか。」
 
「気が進まなそうだな。」
 
「殴りたくて殴るわけじゃないからね。」
 
「ま、後で少しだけ治しといてやればいいさ。そのことでこいつらが文句を言ったら、正体をばらすなって言ったランドのせいだって言ってやろうぜ。」
 
「ははは、僕らだってことに気づけばたいしたものだけどね。」
 
「あんまり期待は出来ないけどな。そうだなあ・・・そうしたら、俺はこいつらと剣をまじえながらこっち向きに・・・誘導して、お前と同じ方向に向かって走ればいいわけか。」
 
「あとは、2人が同時に君を追いかけるか、旅人を気遣うか、そのあたりがポイントになるかな。」
 
「カーナとステラみたいに、自分が身代わりになるなんて言われたりしてな。」
 
 オシニスが笑った。カーナとステラも実はこの試験を受けた。当時の試験官はオシニスではなかったが、何とこの2人、山賊に向かって『自分が捕まるから旅人を離してやってくれ』と交渉しに来たのだという。試験の合否に明確なラインはない。要は自分でどこまで判断してどこまで動けるか、そしてその判断が的確なものかどうか、見ているのはそこだけなのだ。
 
「まあそうなったらなったで、目隠しでもしてここまで連れてきて置いていけばいいか。男相手に裸踊りでもして見せろと言ってもなあ。」
 
 王国剣士団の2次試験は、かなり周到に準備をして行うことになっている。そのために『山賊の根城』もきちんと確保してあるのだ。そして2人が野営しているのがまさのその場所だ。山賊の根城である以上、生活の痕跡がなければならない。
 
「でもその台詞はアドリブだったって言う話じゃないか。ずいぶんと思い切ったことを言ったもんだね。」
 
 ライザーが笑った。
 
「あれはグラディスさんの悪のりだ。ガウディさんが後で怒っていたからな。」
 
 カーナとステラが入団試験を受けた頃は、試験官はガウディという王国剣士だった。副団長グラディスの元相方で、現在は除名処分となり、行方がわかっていない。ガウディは真面目な性格だったので、新人王国剣士とは言え若い女性に向かって『裸踊りをして見せろ』とはなんと言うことを言うんだと、カンカンに怒っていたことを、2人は覚えている。
 
「しかし、カーナの返事も相当なもんだぞ?『ダイエットするからあと半年待て』だもんな。」
 
 オシニスがまた笑った。何とカーナは山賊の理不尽な要求に対し
 
『裸踊り?うーん、ダイエットするからあと半年くらい待ってくれない?最近お腹が出ちゃって、とても人様に見せられないのよねぇ。』
 
 と言い放ったのだ。呆れたステラが山賊に向かって啖呵を切り、結局戦闘になったのだが、コンビネーションもなかなかだったそうだ。そこでここまで見定めれば問題ないだろうと言うことで、2人は晴れて合格、その場でガウディとグラディスは正体を明かして挨拶を交わした。
 
「まああの2人の場合は、太刀筋も性格もちょうどいいって話だったからな。」
 
 カインとハディの場合は、ランドがかなり迷っている。いや、迷っていると言うより、『コンビを組ませない決定的な何か』を探しているのではないかという気がする。ランドの中で、カインとハディのコンビは、すでに『ない』ものとして考えられているのではないだろうか。だが、新人剣士が2人になったのだからその2人をなぜ組ませないのかという意見は必ず出るだろう。いかに採用担当官として信頼されているとは言っても、今までにもその決定に異を唱える者がいなかったわけではない。
 
「つまり、ランドはあの2人が合わないという決定的なものが、この研修で見えてくるのではないかと、そう考えているのかな。」
 
「かもしれないな。だがそう簡単にわかるもんじゃないがなあ。けっこう難問だぞ、これは。」
 
「うまいこと難問の答探しを押しつけられたってところかな。まあ仕方ないね。新人剣士の人生もかかってるんだから、一肌脱ごうじゃないか。」
 
「そうだな・・・。あきらめて肚を括るか。」
 
 
                          
 
 
 翌朝、キャンプ地を予定通りに出発したカインとハディは、山岳地帯の山頂付近に向かっていた。途中何人かの旅人とすれ違った。特に変わったことはないと、みんなそう言って山を下りていった。
 
「何もないならそれに越したことはないけどなあ・・・。」
 
「でも何もありませんでしたじゃ、子供の使いじゃないか。」
 
「でも出なけりゃ仕方ないさ。呼んでくるってわけにも行かないし。」
 
「それはそうだけど・・・。」
 
 あたりは静かだった。さわさわと風にそよぐ木々の音と、小鳥の声が聞こえるだけだ。モンスターすら出てこない。
 
「静かなもんだな・・・。」
 
 ハディが拍子抜けしたようにつぶやく。
 
「そうだな・・・。ま、出ないなら出ないでいいんだけど・・・。」
 
 がっかりした気持ちが半分と、ほっとした気持ちが半分。カインは複雑な思いのまま、ハディと二人山の奥へと進み、やがて頂上付近の道に出た。
 
「どうする?もう帰るか?」
 
 ハディはきょろきょろと辺りを見回しながら、カインに声をかけた。
 
「そうだな・・・。まあ一応テントは持ってきたから・・・出るまで泊まり込んだほうがいいのかも知れないし・・・。」
 
 そんな会話を交わしている2人は、自分達を見ている目があることに少しも気づいていない。
 
 
 
「来た来た。」
 
 うれしそうに小さな声で言ったのはオシニスだ。
 
「うほ、見事な赤毛だな。ありゃ目立つぞ。」
 
「きれいじゃないか。エルバール城下町で赤毛はめずらしいね。それより、そろそろ仕掛けようか?」
 
「そうだな。いつまでもぶらぶらさせておくのも気の毒だし。それじゃ、手はず通りお願いします。」
 
「わかりました。」
 
 そう答えたのは、山賊に襲われる旅人の役を担当する男性だ。後2人が商人の姿をしているが、2人は『歯の根も合わず震えている』と言うことにして、うつむいたままガタガタと震えて見せた。この2人は役者だ。この後、町の中で出会っても彼らだとはわからないよう、3人とも顔にはかなり特殊な化粧をして人相を変えている。舞台役者の化粧の腕は確かだ。その3人は後ろ手に縛られた格好で地面に転がっている。協力するだけとは言っても、その時々の状況にあわせて縛られたり斬りつけられたりと、これでなかなかホネの折れる仕事なのだ。
 
「た、た、助けてくれぇ〜〜〜!!誰かぁ!!」
 
 助けを呼ぶ役の男性が出来るだけ弱々しく必死に叫ぶ。あまり元気がよくても変だし、小さすぎては聞こえない。カイン達とオシニス達のいる場所は、まだまだ遠く離れている。
 
 
「今何か聞こえなかったか!?」
 
 そう言ったのはハディだった。
 
「聞こえた。行ってみよう!」
 
 カインもその声を聴いていた。そう、『声』だ。しかも間違いなく人間のものだ。誰かが襲われている。それが山賊なのかモンスターなのか確かめなければならない。二人は走り出した。やがて山の頂上近くにある鬱蒼とした森の前で、旅人が縛り上げられているのが見えた。
 
「出やがったか・・・。」
 
 ハディが忌々しげに舌打ちをした。太い木の陰に隠れているので、山賊達はこちらに気づいていないらしい。と、2人は考えた。だがその山賊達は、カインとハディがこのあとどう言う行動に出るのか、興味津々で待ちかまえていたのだ。
 
「さて、どう出るかな。かかってくるか逃げていくか。」
 
「それとも交渉しに来るか、かな。」
 
「来たらたいしたもんだが、今見た感じではどっちもそんな選択肢は選びそうにないな。」
 
「そんな感じだね。」
 
 山賊達が自分達をそんな風に言っているとはつゆ知らぬカインとハディ、さてどうするべきかと、それぞれが考えていた。
 
「相手は2人か・・・・。」
 
 カインがつぶやく。2人ならこちらも2人。戦力を分散させることが出来れば勝機はあるかも知れない・・・。いや、しかし剣士団長からの指示は『報告』のみだ・・・どうする?どうすればいい?!
 
「だがかなりの腕って感じだぞ?」
 
 ハディの目には、カインが今にも飛び出していきそうに見えた。だが、本当に山賊は2人なのか?ここから見えるのが2人だと言うだけで、飛び出したところに何人もの仲間が待ち伏せしているのではないか?そして、この状況で、誰が自分達を見ているのか?合否の判定をチェックしているのは誰か?どこからか?それがわからないのに、カインにいきなり飛び出されては困る。確かに山賊達はかなりの腕に見えるが、それ以上に、今のハディの言葉はカインへの牽制のつもりだった。
 
「この状況を・・・黙って看過ごして王宮に帰れって言うのが・・・剣士団長の言う研修なのか・・・。」
 
 悔しさのあまりカインは、歯をギリギリと噛みしめた。ここから見ても、縛り上げられた旅人達が震えているのがわかると言うのに!
 
(ちっ・・・俺の話を聞いていないのかこいつは・・・!)
 
 ハディは苛立った。とにかく、今はこいつに合格してもらうのが先決だ。こいつと俺が組むことでこんな山賊の被害なんてきっとあっという間になくすことが出来る。
 
「それが命令なら仕方ないだろう。あの山賊ども・・・旅人を縛り上げているって言うことは、殺す気はないんだろうな。殺すならとっくに殺ってるはずだからな。さてと、俺達は帰るぞ。」
 
「帰るだと?!」
 
 カインがハディを睨んだ。何を考えているんだこいつは?あの山賊達が、このまま旅人の身ぐるみを剥いで命を助ける保証はどこにもない。それに丸腰でここに放り出されたのでは、助かるものも助からない。だからといって山賊が立ち去るまで隠れていて、後でのこのこ出ていったりしたら、その旅人に非難されるのは目に見えている。
 
「ああ、そうだ。俺達は報告しなくちゃならないじゃないか。」
 
 『報告』・・・。剣士団長からの指示は報告のみ・・・。山賊が出たら引き返せ・・・。それでは、それでは俺はいったい何のためにここにいるんだ。新人だろうと王国剣士の制服を着ているというのに、罪もない旅人が恐ろしさに震えているこの状況を見過ごすことが、正式入団への条件だと?!
 
「・・・お前一人で帰れよ。」
 
 カインは肚を決めた。
 
「俺が一人で帰って、お前はどうするんだ?まさかあの山賊に斬り込むなんて考えているんじゃないだろうな!?」
 
「俺は王国剣士だ。俺の義務はエルバールを護ることだ。」
 
「だが命令に背けば入団も出来ないぞ?!」
 
「今目の前の人達を救うことが出来なくて、何が正式入団だ!」
 
 カインの声が少しずつ大きくなってくる。
 
「俺は王国剣士だ!子供の使いでここに来たわけじゃないんだ!!」
 
 カインは叫びながら剣を抜き、山賊に向かって突進した。
 
「あ、おい!待てよ!早まるな!」
 
 ハディの声は、もはやカインの耳には届かない。カインはついこの間買ったばかりのキラキラと輝くアイアンソードを構えながら、走った。
 
 
「お、カインの方はかかってきたか。」
 
「さすがハディはサポートだけに慎重だね。それじゃ僕は手はず通り、あちら側に向かうからうまく誘導してくれよ。」
 
「了解。それじゃ少し遊んでやるか。」
 
 突進するカインの目には、山賊の一人が慌てて逃げていくように見えた。逃がすものかとあとを追おうとしたが、もうひとりのほうに行く手を阻まれた。そうだ、まずは旅人の安全確保の為に、こいつを何とかしなければ。
 
「この人達を離せ!」
 
 カインは山賊を睨みつけ、剣を構えた。追いついたハディも剣を抜く。
 
「まったく!!なんでお前はそう無鉄砲なんだよ!」
 
「帰ればいいじゃないか!これは俺の独断だ!」
 
「ばか野郎!お前を置いていけるか!!それにお前のサポートが俺の初仕事なんだ!お前を置いて帰れば、俺は自分の仕事を放棄したことになる!!」
 
 二人は山賊と向かい合った。この山賊はかなり背が高く、剣の腕も相当なものに見えた。隙がない・・・。
 
(へえ・・・ハディの奴も、こうなるとなかなか熱いな。ちょうどいいや、コンビネーションの確認も兼ねて、カインの腕も見せてもらうか・・・)
 
 オシニスはすっかり楽しくなっていた。もう少し怒らせてみようか。
 
「ばかな奴らだ・・・。おとなしく帰ればいいものを・・・。」
 
 2次試験官ともなれば、声色ぐらいは瞬時に変えられなければならない。オシニスは不気味な笑い声をあげてみせた。カインとハディがほんの一瞬、その声に呑まれそうになるのを確認して、剣を振りあげ、躍りかかった。
 
「うわっ!」
 
 慌ててカインは相手の剣をはじき返した。山賊は、はじかれた剣を今度はハディに向かって振り下ろす。何と素早いことか。これでは攻撃を仕掛けるどころか、相手の剣を防ぐのがやっとだ。必死になって山賊の剣を受け止める二人に対し、山賊は終始にやにやとしながら剣を振るい続けている。
 
「たいしたことないなぁ・・・。これが王国剣士か・・・。」
 
 山賊のつぶやきにハディが真っ赤になって怒鳴り返した。
 
「うるさい!山賊風情に言われる筋合いはない!」
 
「その山賊風情にこれほど苦戦しているのは誰だ?まったく時間の無駄だったな。そろそろ失礼させてもらおうか!」
 
 オシニスはわざとらしく高笑いをあげてみせ、カイン達とは反対側の道に駆け出した。その先にはライザーが待ち伏せしている。
 
(なるほどな・・・。ランドが迷っているわけがわかった・・・。)
 
 なぜランドがこの2人のコンビに難色を示していたのか、なるほど奴の目は確かだと、オシニスは改めて思った。
 
 
「くそ!逃がすか!」
 
 ハディは迷わず山賊の後を追いかけた。ついさっきまでは何としてもカインを止めるつもりだったハディだが、山賊の剣にいいように翻弄され、すっかり頭に血がのぼっていた。
 
「あ、ばか!ハディ!おい待てよ!一人で行くな!!」
 
 カインも駆け出そうとしたが、道の脇に転がされている旅人達が視界に入った。こんなところにこのまま放り出して行くわけには行かない。カインは旅人達の縄をほどいた。
 
「あ・・ありがとうございました。」
 
 旅人達は青ざめた顔で震えている。
 
「ここから、あなた達だけで戻れますか?」
 
「大丈夫です。いつもなら山賊くらい追い払うことは出来るのですが、あの山賊は素早くて・・・抵抗する間もありませんでした。本当に助かりました。」
 
「では、道中気をつけて・・。」
 
 カインは何度も頭を下げて礼を言う旅人達に別れを告げた。やはりさっき、帰ってしまわなくて本当によかった・・・。
 
「そうだ!ハディは・・・?」
 
 戻ってくる気配がない。あのまま山賊を追いかけていったのだろうか。
 
(まったく・・・ハディの奴無茶しやがって・・・。)
 
 とにかくハディを探さなければ。カインはハディと山賊が走り去った方向に走り出した。それでなくても早く強くなりたくて焦っているところに、山賊ごときに自分の腕をばかにされてハディはすっかり頭に血が上っている、それはカインの目から見ても明らかだった。だが、あの山賊の腕前は悔しいがカインも認めざるを得ない。二人であれほど苦戦していたのに、ハディ一人でなど・・・。
 
「あ!そう言えば!」
 
 カインはハッとした。自分達が山賊を見つけた時、もう一人いたはずだ。自分が斬りかかろうとした時、いきなり逃げ出した。あの山賊の態度が、最初から自分達を挑発するのが目的だったとしたら・・・。『逃げだした』のではなく、『先回り』していたのだとしたら・・・。ハディは二人の山賊に待ち伏せされているかも知れない。カインは足を速めた。もうひとりの山賊の腕前は判らないが、1人であれだけの腕前なのだ。もう1人を侮るのは愚かというものだろう。あれほどの手練れに二人同時に襲いかかられたら・・・。やがて前方に誰かが倒れているのが見えた。山賊の服ではない、剣士団の制服だ。
 
「ハディ!!」
 
 叫びながらハディに駆け寄ろうとした瞬間、衝撃がカインの後頭部を襲い、目の前が真っ暗になった。
 
 
 
「・・・気絶したかな?」
 
「大丈夫だろう。完全に気を失ってるぞ。」
 
「それじゃ、少しだけ治しておこうか。」
 
 ライザーが治療術を唱え、カインとハディの後頭部の傷を少しだけ治しておいた。
 
「これなら、あとはちょっとした気功か治療術ですぐ治るよ。」
 
「そうだな・・・。それじゃ、俺達は今のうちに山を下りよう。報告をまとめるからつきあえよ。」
 
「わかったよ。」
 
 オシニスとライザーは山岳地帯から離れ、キャンプ場所に向かった。着いた頃にはもう陽が沈み、そろそろ辺りが薄暗くなるところだった。
 
「いまごろは頭をさすりながらぶつくさ言ってるんだろうな。」
 
 オシニスがおかしそうに言った。
 
「まったく、正体をばらすななんて、ランドの奴も簡単に言ってくれるね。力任せに殴るわけに行かないし、ひやひやだったよ。」
 
「ははは、後で豪華なメシでもおごらせようぜ。しかし、ランドの迷いがどこにあるのかってのは、何となくわかったぞ。」
 
「僕も何となくわかったよ。あの2人では時間がかかり過ぎるってことじゃないのか?」
 
 オシニスはうなずいた。
 
「俺もそう思う。どちらも素質はあるんだよな。だが今の力としてはカインの方が上だ。ま、ハディとしゃべっているうちにどんどん声がデカくなっていったり、俺達にかかってきたりした辺りを見ると、少し頭に血がのぼりやすい性格なんだろうとは思うが、剣さばきはカインの方が遙かに冷静だった。ハディの方は最初は冷静だったが、俺に挑発されて怒りだしてからは隙が大きくなるばかりだ。今の状態からコンビとして安定した力を発揮出来るようになるまでには、時間がかかりすぎる。」
 
「それに、ハディがいつまでもあの調子でいたんじゃ、コンビどころかいずれ王国剣士としても壁にぶつかるのは目に見えてるんじゃないか?自分の欠点を自分で認めて、きちんと克服していけるようにならないと、前には進めないと思うよ。」
 
「そうなんだよな・・・。さっき戦ってみて思ったが、カインの剣は素直で真っ直ぐなんだ。おそらくもっともっと伸びるだろう。今のハディでは、カインの足を引っ張るだけだ。今のハディと組ませるなら、奴の冷静さを維持してくれる剣士か、あるいはどんなに奴に隙が出来てもすべてカバーしてくれるほどの腕前の持ち主でないと、難しいだろうな。」
 
「でもそれでは根本的な解決にはならないよ。第一ハディが相方に頼ったり、カバーしてもらってることに気を使えるとは思えないけどな。」
 
「まあそうだろうな。ただ、その点においてはカインも似たようなもんじゃないか?性格も似ているみたいだからな。どっちも前しか見ていないタイプみたいだし。」
 
「さすが、自分と似てる性格はすぐにわかるみたいだね?」
 
 ライザーがにやにやしながらオシニスを横目で見た。
 
「お、おい・・・。ま、否定出来ないけどな。」
 
「ははは。君みたいなのが2人揃っていたら、そりゃうまくいかないだろうな。まあそれなりに意気投合はしていたみたいだけど、仲がいいからと言っても太刀筋の相性はまた別の問題だからね。」
 
「あの調子では、まずは2人で戦うこと自体に慣れるまでに相当な時間を要するだろう。チームワークがよくなるまで待って、それから太刀筋となると・・・。」
 
「思い切って組ませてみれば案外うまくいくのかも知れないけど・・・それは危険な賭けという気がするからなあ。」
 
「確率は五分五分だからな。それに、結局うまくいかなかったときに、軌道修正出来るかどうかも微妙なところだ。そんな理由で相方を取り替えるってわけにも行かないしな。」
 
「そこまでして無理に組ませても、共倒れになると思うよ。僕は賛成出来ない。」
 
「となると、俺達の意見は『あの2人のコンビはなし』と言うことでいいか?」
 
「そうだね・・・やめておいたほうがいいと思うけど、そうなるとせっかく入った2人の新人剣士を、中途半端な状態でずっとおくことになってしまう可能性があるから、団長はともかく、他の人達がどう言うかなあ。」
 
「そうだなあ・・・。ま、剣士団内部のほうは理解してくれるとしても、問題は御前会議の連中や、行政局の連中あたりかな・・・。」
 
「財政的にはかなり厳しいって言う話だしね。人を増やす限りはすぐにでも仕事をさせたいと考えるのが普通だろうね。」
 
「1人が2人になったんだから、さあ外に出せとか言われそうだな。」
 
「どちらもしばらく中で訓練させないと、外には出せないんじゃないかな。特にハディは注意しておかないとね。」
 
「ああ、それもあったな・・・。」
 
 ハディが今まで住んでいたのは、エルバール北大陸の中でもモンスターの動きが活発な南地方の町、クロンファンラだ。だが、入りたての新人剣士を南地方になど向かわせるわけにはいかない。ハディが家に帰りたければ、南地方に向かう剣士達と一緒に行く以外に道はないのだが、ハディが『自分の力で』クロンファンラに行きたがっているのは明らかだった。
 
「まったく・・・奴が自慢する親父さんが片腕をなくすほどの怪我を負ったところを見ているのに、なんで自分は大丈夫だと思うのかがさっぱりわからん。」
 
「冷静な判断が出来なくなっているんだと思うよ。そう考えると試験の時も、実はそれが試験ではないかって言う、ある程度の推測があったから冷静でいられたのかも知れないね。」
 
「ああ。それに、さっきカインを止めようとしていたようなのも、カインを合格させることしか考えていなかったからだろうな。実際、俺の挑発にいとも簡単に引っかかったしな・・・。」
 
「そのあたりも、あくまで僕らの意見と言うことで報告しておかないか。今あの2人を組ませて外に出せば、おそらくハディはすぐにでも南地方に向かうだろう。誰がなんと言おうと聞かないと思う。それに、南地方の実態を知らないカインは、腕試しくらいのつもりでついて行ってしまう可能性が高いよ。」
 
「新人剣士が初仕事で命を落とすなんて事態にもなり得るわけだ。だが、そんなことになったら剣士団の存在自体が危うくなっちまう。それでなくても『あのお方』は、俺達を快く思ってないんだからな。」
 
「自分だって護衛に王国剣士をつけているのにね。」
 
「ふん!奴にとっちゃ、俺達はいくらでも替えのきく消耗品さ。剣士団がなくなれば、何か別の組織が自分を守ってくれるとでも思っているんだろう。」
 
 フロリア女王の叔父、エリスティ公は、現在のところこの国では王位継承権第1位の地位にある。だが彼は王国剣士達ほぼすべてに評判が悪いと言っても過言ではない。そもそも国民にもまったく慕われていないのだが、本人はそんなことはどこ吹く風、ひたすらに王位のみに執着し、姪のフロリアの失脚を狙っているとささやかれている。そしてやたらと身分を気にして、平民出身の者が多い王国剣士を悪し様に言うことが多い。王国剣士団の後ろ盾となっている最高神官レイナックが押さえているので、今のところ表だった動きは見せていないが、何をするかわからないという危うさがある。
 
「とにかく、あんな奴につけ入る隙を与えるわけにはいかん。その辺りはランドにも気をつけていてもらおう。故郷の再建をしたいなんて殊勝なことを言っているわりには、本気で強くなろうとしているのかどうかもよくわからんしな。」
 
「今のままでは無理だろうね。何に引っかかっているのかはともかく、誰かに勝負を挑んで負けても、反省しているようにも見えないしね。」
 
「ま、あとで訓練場で会ったときにでも相手をしてみるか。」
 
「正体を見破られないようにね。」
 
「それは大丈夫だろう。あれだけ頭に血がのぼっていれば、俺の太刀筋なんぞろくに覚えちゃいないさ。剣もいつものと違うしな。」
 
 オシニスもライザーも、『ナイトブレード』という両手持ちの大剣をもっとも得意としている。普段の試験のように『合格と認めたら正体を明かしてもよし』と言うときなら、2人は自分の剣を持ってきたのだが、今回はこちらの正体を何一つ悟られないようにしなければならない。そこでこの日は山賊らしく、2人とも細身のスティレットという剣を持ってきていた。スティレットとは、ダガーよりは長く剣よりは短く、柄には美しい装飾が施され、優美な印象を受ける剣である。以前は貴族達の護身用に用いられていたが、軽くて持ちやすく、また、荷物や懐にも隠しやすいことから、暗殺者の道具として好まれるようになった、ある意味悲運の剣だった。
 
「それじゃ、明日は普通の王国剣士として帰ろうぜ。そろそろ山賊の衣装も脱ぎたくなってきたぞ。」
 
 オシニスが笑った。
 
 
                          
 
 
「・・・・・あれ?・・・。」
 
 気づいた時、辺りはもう薄暗くなっていた。西の空が赤く染まっている。一瞬、自分の置かれている状況が飲み込めなかったカインだが、次の瞬間、さっきの戦闘の記憶がよみがえってきた。
 
「そうだ!ハディを追いかけて、いきなり頭にガツンと・・・。」
 
 後ろから殴られて気絶するという、あまりにも情けない失態を演じた自分に心の中で悪態をつきながら、慌てて辺りを見回すと、隣にハディが倒れていた。
 
「おい!!起きろ!ハディ!!」
 
 必死で揺り起こすと、ハディはうるさそうに眼を開けた。
 
「なんだよ・・・。」
 
「なんだよじゃないよ!大丈夫なのか!」
 
 カインの言葉にハディはハッとして飛び起きた。そうだ!俺は山賊を追いかけて、一太刀浴びせようとしたときに頭にガツンと食らったんだ・・・。
 
「そうだ!あの山賊ども!どこに行きやがった!」
 
 あまりの情けなさに、ハディは怒り心頭だった。
 
「ふぅ・・・。大丈夫らしいな・・・。いてて・・・。」
 
 ハディの無事を確認して安心したせいか、突然カインの後頭部が痛み出した。
 
「お前もやられたのか・・・。」
 
 ハディも後頭部を押さえている。
 
「らしいな・・・。しかし・・・それほどひどいタンコブもないし、傷にもなっていない・・・。なんで俺達気を失ったりしたんだ・・・?」
 
「知るか!くそっ!いいように手玉に取られて・・・。大失態だ・・・!」
 
 ハディは忌々しそうに地面を思いきり拳で叩いた。
 
「これから戻っても途中で暗くなるな・・・。どうする?」
 
 ため息をつきながら、カインはハディに尋ねた。もしかしたら、これでもう正式入団は絶望的かも知れない。それなら焦って王宮に戻る必要もない。
 
「そうだな・・・。ここらでキャンプでも張るか。食べ物とテントはあるしな。燃やすものには困らないし・・・。」
 
 ハディも肩を落としながら立ち上がり、二人はキャンプの準備を始めた。
 
「ハディ・・・。悪かったな・・・。今さら謝っても仕方ないけど・・・。」
 
「俺のことはいいよ・・・。それよりカイン、お前はこれで正式入団は出来ないかも知れないぞ?」
 
「仕方ないよ。またそのうち挑戦するさ。一度落ちたら二度と受けられないってわけじゃないだろうし。」
 
「それはそうかも知れないけど・・・。でも当然入団の条件は厳しくなるだろうな。」
 
「そうだなぁ・・・。」
 
 二人ともすっかり気落ちして、食べ物の味も何もわからないほどだった。そして翌朝早く、二人はテントをたたんで山を下り始め、来たときに野営したのと同じキャンプ場にたどり着いた。
 
「明日は明るいうちに王宮へは着けそうだな・・・。」
 
「そうだな・・・。宿舎に置いた荷物・・・ちゃんともって帰らなくちゃ・・・。」
 
「帰るって・・・。お前帰る家はあるのか?」
 
「あることはあるよ。家って言うほどのものじゃないけどな。とりあえず雨露がしのげる程度の小屋だ。貧民街の家なんて、みんなそんなもんだよ。」
 
「そうか・・・。しかし・・・やっぱり俺はお前を止めるべきだったよな・・・。」
 
 ハディはあの時、とにかく何が何でもカインを合格させたかった。だが、剣士団の試験は見た目通りではない。それはハディ自身が受けた試験でよくわかっているつもりだ。では、カインはどうすればよかったのか。剣士団長の指示通りにするべきだったのか、指示を無視して山賊達に斬りかかってよかったのか、それはハディにもわからない。だが、命令を無視しても首尾よく山賊を打ち負かせたならまだしも、取り逃がした上に殴られて気を失うとは・・・。
 
(もしもどこかで俺達の行動を監視している誰かがいたとすれば、このことはとっくに剣士団長に伝わっているだろうな・・・。)
 
 そう考えると、やはりあの時自分はカインを止めるべきだったと、改めて思うのだった。そして、山賊に挑発されて簡単に乗ってしまった自分が、あまりにも情けなかった。
 
「気にするなよ。あれは俺の独断だ。お前のせいじゃないよ。それに・・・旅人を助けることが出来たしな・・・。」
 
 命令を無視したうえに山賊を取り逃がし、あまつさえ殴られて気を失ってしまった。それでも、襲われていた旅人を助けることが出来たのだけが、カインにとってせめてもの慰めだった。だが・・・
 
(もしも正式入団出来なければ、フロリア様に会うことも出来ない・・・。)
 
 胸を張って、『王国剣士カイン』として再会するはずだったフロリア様に、会うこともなく王宮を去らなければならない、そう思うと、カインの胸は張り裂けそうだった。
 
「そ・・・そうだな・・・。」
 
 カインの言葉に、ハディはどきりとした。自分はあの時、山賊に襲われていた旅人を見殺しにしようとした。カインの合格にばかり気をとられて、青ざめて震える旅人を見て見ぬ振りをしようとしたのだ。もしかしたら、この試験の狙いはそこにあるのかも知れない。だとすれば、カインが合格出来る可能性はまだ無くなったわけじゃない。だが・・・。
 
(カインは、あの時まず旅人を助けることを選んだ。なのに俺は・・・。)
 
 頭に血がのぼって、旅人達に見向きもせずに山賊を追いかけた。あのまま自分達が立ち去っても、あの旅人達が殺されたかどうかはわからない。もしかしたら助かっていたかも知れないが・・・。
 
(くそ!俺は・・・いつの間にか命を軽く見ていたのか・・・!)
 
 翌朝になっても二人の重い気持ちは晴れなかった。カインは剣士団長の指示を無視したがために自分が演じた失態を、ハディは自分の目的と人の命をいつのまにか天秤にかけてしまった自分を、それぞれが悔いながら、ろくに会話も交わさないままただひたすらに歩き続けた。
 
 
                          
 
 
「・・・報告は以上だ。ほら。」
 
 オシニスは昨夜のうちに書き上げた報告書をランドに渡した。カイン達より1日早く王宮に戻ったオシニスとライザーは、その足でランドに報告書を渡しに来たのだ。
 
「ああ、助かったよ2人とも。これで、俺も自分の考えに自信が持てたよ。」
 
 ランドはほっとしたように笑った。
 
「ま、使い物にならないコンビを作るよりは、それぞれをみっちり訓練させて、腕の方の完成度を上げる方が先だと思うがな。」
 
「そうだな・・・。お前達がまとめてくれた意見書も合わせて、団長に報告しておくよ。」
 
「ああ、よろしく頼むよ。それより、俺達がいなかった間に2次試験待ちの剣技合格者でもいるのかと思ったんだがな。」
 
 オシニスがからかうように言った。
 
「ふん、いたらそりゃよかったさ。お前が帰る早々報告書をひったくって次の試験に送り出せるからな。」
 
 ランドが笑った。
 
「希望者は来たんだろう?」
 
 ライザーの質問に、ランドは渋い顔でうなずいた。
 
「けっこうな数は来たんだがなあ・・・。なかなか難しいよ。」
 
「ま、死と隣り合わせの仕事だからな。なまじな奴が何人来たところで合格させるわけにはいかないし、確かに難しいな。だが、カインとハディのコンビがなくなった以上、それぞれに合う相方を見つけてやらないと、2人ともやる気をなくしちまうからなあ。」
 
「そうならないように僕らが気をつけてやるしかないんだろうけど、取りあえずハディの方は心配いらないと思うな。多分帰ってきて今回の結果を聞いたら、怒りだしてまた訓練場で一悶着起こすさ。そのくらいの元気があるうちは大丈夫だと思うよ。問題はカインの方だと思うけど、ランド、結果が出たんだから聞かせてくれないか。カインが王国剣士を志した理由って言うのはいったい何なんだ?」
 
「ああ、その辺りは説明するよ。カインは22歳で、親兄弟はいない。結婚もしていない。住んでいたのは貧民街だそうだ。」
 
 ランドは、カインから聞いた簡単な彼の生い立ちや、剣士団に入ろうと思った動機などを一通り説明した。
 
「貧民街とはまた、めずらしいな。あの町に住んでいて王国剣士を志すとは。」
 
「副団長も同じことを言っていたぞ。セルーネさんとティールさんもな。」
 
「だろうなあ・・・。体格もいいし、どうせ剣を使う仕事なら、郊外の土木工事の用心棒でもやった方が遙かに実入りがいいんじゃないか。」
 
 貧民街の人々は、毎日をギリギリの状態で生活している。少しでもたくさんのお金を稼ぐために、貧民街の大半の男達が就くのが力仕事だ。モンスターのもたらす被害は人的被害ばかりではない。街道の石畳が壊れたり、大きな穴が突然あいていたり、古い城壁が崩されたりすることもある。モンスターによって被害が出た建造物の修復はそこかしこであり、力仕事ならばいくらでもあるのだ。そして、こう言った仕事は日雇いの仕事ばかりではなく、長期にわたる仕事もある。うまくいけば安定した高収入も充分見込める。商業地区の広場では、その仕事を求めて集まってくる男達と、雇う側の周旋屋達との駆け引きが毎日行われているのだ。
 
「そのわりに動機はごく普通だね。おそらくお金を得るために王国剣士を目指したわけではないってことなんだろうな。」
 
 ライザーも首をかしげた。
 
「つまり、ろくな実入りがないとわかっていてもこの仕事に就きたいと思うほどの、よほどのことがあるんじゃないかってことか・・・。」
 
「それはあるかもな。ただ、それを俺達には言わなかっただけかも知れない。」
 
「そう思えるだけの根拠があるってことか?」
 
 オシニスの問いに、ランドはカインの剣技試験の時のことを手短に2人に話して聞かせた。
 
「・・・へえ・・・。確かにそれは、よほどのことでもないとなかなか難しいかも知れないな。」
 
 一度ランドの術中にはまると、そこから抜け出せずにズルズルと負けてしまう者がほとんどだ。あと一歩踏み込めば、ランドは難なくカインの剣をはじき飛ばせたはずだったのに、カインは一気に体制を立て直し、ランドに手痛い一撃を食らわせたのだ。
 
「でもそれだけ期待は出来そうじゃないか。早く相方になれるだけの力のある剣士が入ってくればいいんだけどね。」
 
「それなんだが、剣士団長からはもう一つ指示が出てるんだよ。」
 
「もう一つ?」
 
「ハディとのコンビについて俺がうまくいかないのじゃないかって話をしたんだが、それじゃ、お前らの報告を待って、それでもあの2人は組ませないほうがいいって話になったときのことだよ。剣士団で相方のいない剣士は別にハディ1人じゃないからな。」
 
「なるほどな・・・。新人同士にこだわる必要はないってことか。」
 
「それは言えてるな。ドーソンさんとキリーさんみたいに、入団年数が違ってもうまくいってるケースがあるんだから、もっと候補を広げてみようってことだね。」
 
 ドーソンとキリーというのは、現在北大陸西側に位置するローランという村の常駐剣士だ。ドーソンはセルーネ達と同じ入団して10年ほど過ぎる剣士だが、相方のキリーはオシニス達と1年しか違わない、6年目の剣士だ。ドーソンは病気で相方を亡くした。キリーの相方はディレンというのだが、何年か前に剣士団を辞めてしまった。それがちょうど同じ時期だったことで、ものは試しとこの2人を組ませてみたところ、なかなか相性がよかったというわけだ。
 
「うーん、相方がいないと言われて一番最初に思い浮かぶのは副団長だが・・・。」
 
「副団長は無理だろうな。誰かと組む気があるならとっくに組んでいるよ。副団長にとって、ガウディさん以上の相方なんて現れやしないさ。」
 
「わかってるよ。だが、今1人で仕事をしている人って言うと・・・」
 
 相方が退職したりして、1人になってしまった剣士は何人かいたのだが、パッと思い浮かぶ剣士達の腕や性格などを考えてみても、なかなかハディやカインと合いそうな剣士が見つからない。
 
「新人同士で組ませろって言うより難しいんじゃないか、これ。」
 
 オシニスがため息をついた。
 
「お前もそう思うか・・・。」
 
 ランドがうなずいた。もしかしたら、剣士団長だってそれが難問だとわかっていたのではないだろうか。
 
「それに、みんなけっこう1人を楽しんでいるようなところがあるじゃないか。夜勤のローテーションの補佐で入ったり、南地方に行くコンビについていったり、相方がいなくたってある程度の経験年数が過ぎれば、仕事がなくて暇でいるなんてことはないからね。」
 
「暇になるケースがあるとすれば、お前みたいに俺が突然試験でいなくなるとか、たまに1人になる奴だろうな。」
 
「ははは、でもそんなのは今のところ僕しかいないじゃないか。」
 
「オシニスが試験官でいるうちは、暇になって調子が狂うってのはライザー1人だからなあ。」
 
「なあランド、俺としては、あの2人をそれぞれ訓練場でしっかり育てることが先決だと思うぞ。ハディの奴はあの通りだし、カインだってまだまだ荒削りだ。せめてもう少し腕を磨かせて、それまでは時々外に出ていく連中について行かせるってことでもいいと思うがなあ。そのうち剣技試験の合格者も出るだろうから、その時は随行させて様子を見ればいいんじゃないか?焦ってコンビを組ませて外に出しても、取り返しのつかないことになったりする危険性のほうが高いと思うぞ。」
 
「僕もオシニスの意見に賛成だな。お金の問題は確かにあるけど、何よりも腕の確かな王国剣士を1人でも増やすためには、今はじっくり育てることを優先したほうがいいと思うよ。第一、君だって端からそのつもりであの2人を合格させたんじゃないのか?」
 
 ライザーの鋭い指摘に、ランドが笑った。
 
「ははは!ばれてたか。それじゃ、その話も合わせて団長に報告してくるよ。」
 
「ああ、そうしてくれ。」
 
「それじゃ、明日は2人とも非番だからゆっくり休んでくれよ。あと、オシニスには副団長が用事があるって言ってたから、後で聞いてみてくれ。」
 
「また南地方かな。」
 
「かも知れんな。多分西側の方だと思うが。」
 
「うーん・・・。それじゃ日程調整が必要だな。ま、いいや、今日はもう休もうぜ。腹も減ったし、たまにはのんびりするか。」
 
 窓の外はすっかり暗くなり、剣士団宿舎のロビーには日勤を終えてのんびりと新聞を読む剣士達がいる。2人は食堂に向かった。食堂では混雑のピークも過ぎたようで、食事をしている剣士はまばらだ。中には私服に着替えて酒を飲んでいる剣士達もいる。
 
「明日は休みだし、メシの後で軽く一杯と行くかな。」
 
「それなら部屋で飲まないか?ここで飲んでいると、いろいろと誘いが多いじゃないか。」
 
「それもそうだな。」
 
 2人は食事をすませ、つまみと酒をもらって部屋へと戻った。食堂に置かれている酒はどれも安価なものだが、贅沢を言わなければそこそこうまいものばかりだ。そしてつまみの方は、食堂のおばちゃん渾身の作が多く、評判がいい。もちろん食堂で飲めばそのつまみは食べ放題ではあるのだが、ほろ酔いで気分のよくなった他の剣士達から、歓楽街に繰り出すのなんのと誘われると断るのが面倒になる。そんなわけで、オシニスとライザーはいつも酒とつまみをもらって自分達の部屋に戻って飲むことにしていた。

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