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「おい、オシニスいるか?」
 
 乙夜の塔の入口の脇にある詰所の扉が開き、非番のはずの剣士が顔を出した。
 
「はい、あれ?今日は非番じゃないんですか?エリオンさん。」
 
「ああ、久々の非番だからと思ってロビーでのんびりしていたんだが、ランドに頼まれてな。さっき剣技試験の合格者が出たんだ。二次試験官の出番だぞ。」
 
「へぇ・・・。やっと4人目ですか。」
 
「ああ、やっとだよまったく。最近はろくな奴が来ないってランドの奴こぼしていたからな。」
 
「どんな感じの奴でしたか?」
 
「うーん・・・。ちらっとしか見なかったからなぁ・・・。でも何となくおとなしそうな奴だったぞ。」
 
「おとなしそう?そんな奴が王国剣士なんて務まるのかなぁ。」
 
 オシニスは少しだけ不安そうな顔をした。
 
「でもランドの見立てがはずれたことなんて今までないじゃないか。」
 
 隣で黙って聞いていた相方のライザーが口を挟む。
 
「そりゃそうだがなぁ・・・。」
 
「まあ、わからんさ。見た目がおとなしそうでも実は全然違うってこともあるからな。」
 
 そう言う割にはエリオンも首を傾げている。
 
「そうですね。あ、それで、そいつの研修はどのコースですか?それによって俺のほうの準備も変わってきますからね。」
 
 オシニスはエリオンに向かってにやりと笑ってみせた。王国剣士となるためには、まず剣技の試験を突破しなければならない。採用担当官と、直接剣を交えるのだ。だが、そこで合格出来たからと言って、いきなり正式採用というわけにはいかない。剣の腕に問題がなければ、次はその人となりが試される。そのために研修期間を設けているのだが、すべての剣士が同じ研修を受けるわけではない。いくつかのコースがあり、それは実際に剣を交えた採用担当官ランドによって決められる。彼の目は確かだ。彼が採用担当官に就任して以来、剣の腕を認められながら人格に問題ありと言うことで不採用となった剣士は一人もいない。
 
「モルダナさんの指輪探しだそうだ。」
 
「え・・・?あの研修を・・・!?」
 
 オシニスばかりでなく、隣にいたライザーまでが驚いてエリオンを見た。モルダナというのは、エルバール城下町から遙か西の方にある小さな村に住む女性である。その村はローランの村と言って、エルバール北大陸の西の港に隣接する、風光明媚なのどかな村だ。モルダナは2年ほど前までは、この国の女王フロリアの側近くに仕えていた。元々はフロリア女王の乳母として王宮にあがったらしい。だが乳母の役目を終えてからも、母がわりとして陰になりひなたになり若き女王を支えてきた。それほど歳をとっているわけではない。だが一度体調を崩し、息子夫婦の住むローランの村に帰ってきたのだ。それ以前から、彼女はいつも王国剣士の研修に協力してきた。フロリアを護ってくれる剣士達の育成のためならと、喜んで申し出てくれたのだった。そして5年前、剣技試験に合格したばかりのオシニスとライザーが受けた研修こそ、この「モルダナの指輪探し」であった。
 
「へぇ・・・あの研修を受けさせるなんてどんな奴なのかな。楽しみになってきたぞぉ!!」
 
 オシニスはやる気満々である。
 
「それじゃ、すぐに出てくれ。新人剣士は明日ここを出るからな。追いつかれるなよ。」
 
「ははは。判ってますよ。まずはローランに寄って、ドーソンさん達とモルダナさんに話を通しておかなくちゃな。それじゃライザー、俺はすぐに出るよ。」
 
「わかった。そうなると僕は夜勤の剣士達と合流するまで休憩か・・。また訓練場でカインの相手でもしてあげようかな。」
 
「そうだなぁ・・・。あいつも早く相方見つけてやらないとな・・・。」
 
「そのカインが新人のサポートに就くそうだ。」
 
「カインが!?」
 
 オシニスとライザーが同時に声をあげた。
 
「てことは・・・。そのおとなしそうな奴がカインに釣り合うほどの腕の持主ってことか・・・。」
 
「僕も興味が湧いてきたな・・・。時間があればその新人の顔でも見ておくよ。」
 
「よし。それじゃ、俺は見つからないように非常階段から出入りするか。ライザー、あとはよろしくな。」
 
「ああ。気をつけて行って来てくれ。」
 
「それじゃエリオンさん、ランドの奴に俺が出たって言っておいてください。」
 
「判った。伝えておくよ。気をつけてな。」
 
 エリオンとオシニスが詰所を出ていき、ライザーが一人残された。通常王国剣士は二人一組で行動する。今回のように、コンビを組んだ剣士達がバラバラに行動することなど、滅多にない。とは言え、この二人の場合は少し特別だった。
 3年前、ある出来事で相方を失った副団長グラディスが、時々オシニスと一緒に出かけていたからだ。副団長の腕は当然相当なものだが、だからといって危険な南地方に出かけるときに一人で行くわけにはいかない。だが行く場所が場所だけに、誰でもいいから一緒に行けばいいと言うわけにもいかない。そんな理由から、若手剣士の中でも実力が一番のオシニス・ライザー組に白羽の矢が当たり、さらに副団長と太刀筋の相性がより良いほうと言うことでオシニスが選ばれた。
 
 ライザーにしてみれば、一人で残されることには慣れていたが、副団長との外出の時とは違い、新人剣士の二次試験というのはある日突然やってくる。新人剣士は随時受け付けているので、剣技試験の合格者が出れば、その新人が研修場所に発つ前に、試験官はその場所に行って待機していなければならない。前回合格者が出た時も、オシニスは試験官として出かけたのだが、その時はライザーも同行した。その時オシニスが扮する予定だった役は山賊。山賊がたった一人で出没したりしたら、それだけで不自然だと思われてしまう。そのために二人で出かけたのだった。
 だが今回の役どころは盗賊だ。今回の場合、二人でいた方がかえって怪しまれる。思わぬ休み時間が出来てしまったライザーは、ため息をつきながら詰所を出ようとした。そこにまた別の若い剣士が駆け込んでくる。彼はダウニーと言って、入団して3年だ。
 
「ライザーさん、ランドさんが呼んでいますよ。」
 
「僕を・・・?何の用事だろう・・・。」
 
「うーん・・・。急にちょっと呼んできてくれって言われただけなんで・・・。でも確か・・・ランドさんさっきは新人の仮入団の手続きしてたはずなんですけど・・・。」
 
「わかった。とにかく行ってみるよ。ありがとう。」
 
 ライザーは詰所を出た。まだ陽は高い。
 
(ランドの用事が終わったら、訓練場に行ってみよう。カインがまた一人でいるかも知れない・・・。)
 
 カインは一ヶ月ほど前に新人剣士として正式入団した、素晴らしい素質を持った若者だ。カインと同じ頃に入団した新人剣士は二人。一人は槍使いのリーザ。もう一人は大剣使いのハディ。この二人とカインとの3人の中で、誰を組ませるのが一番いいかと言う議論がなされたが、太刀筋などを見る限りリーザとハディを組ませるのが一番いいとのランドの見立てと、剣士団長パーシバルの判断によって、一組の新人剣士コンビが誕生していた。そしてこれ以降新人剣士は入って来ていない。その間カインだけが、相方がいないばかりに一人前の仕事をこなすことが出来ず、いつも中途半端な状態に置かれていた。先輩のコンビが出かける時に、時々ついて行くなどすることは出来るが、毎回というわけにもいかない。どこへも出かけることが出来ない時は、いつもカインは訓練場にいた。カインは3人の中では多分一番実力がある。だがその力があるために、なまじな剣士と組ませてはかえってカインの足を引っ張ってしまう。訓練場でカインの相手をするたびに、この力をこんなところでくすぶらせておくのはもったいないと、ライザーはいつも思っていた。
 今日合格した新人剣士は、本当にカインに釣り合うだけの力を持っているのだろうか。ランドに呼ばれたのならちょうどいい。自分の眼でそれを確かめてみよう。ライザーはそんなことを考えながら、王宮本館の採用カウンターへと急いだ。
 
 階段を上がると、受付の脇にある椅子に座っている若者の後ろ姿が見えた。黒い髪・・・。エルバールで黒い髪はめずらしい。この辺りの出身ではないのだろうか。若者の向かい側に座っていたランドがライザーに気づき、顔をあげた。
 
「ランド、何か用か?」
 
「ああ、ライザー、休憩中だってのにすまないな。」
 
「いや、それは構わないけど・・・。何か用事だったのか?」
 
「実はたった今、めでたく仮入団扱いになったこちらの彼なんだがな。身元引受人がいないらしい。お前の同郷だというので来てもらったんだが、知っているか?名前はクロービスだ。」
 
 同郷・・・。ライザーは剣士団に入る前、城下町にある孤児院にいた。その時一緒に育った友達なのだろうか。でもあの中に黒髪の友達などいた記憶はない。でも確かに聞き覚えのある名前だ・・・「クロービス」・・・。
 その時その若者がおずおずと振り向いた。背はあまり高くない。黒い髪に黒い瞳・・・。
 
「クロービス・・・?」
 
「あの・・こんにちは・・・。」
 
 若者は遠慮がちに頭を下げた。
 
 そうだ・・・。この若者を自分は知っている。ライザーの頭の中に、少しずつ記憶が甦ってきた。ライザーは生まれた時から孤児院にいたわけではない。彼が生まれたのは、エルバール北大陸の北の端よりもさらに北側にある、小さな島だった。物心ついた時には、既に病気を患っており、子供らしく走ったり飛んだりして遊ぶことが出来なかった。ライザーが7歳の時、我慢出来ずに走り出して倒れた彼を、その日島にやって来た一人の紳士が助けてくれた。その紳士は、自分は医者としてこの島で開業したいのだと長老に伝え、ライザーの病気を必ず治してくれると請け合った。
 
 その言葉どおり、ライザーが10歳になったばかりの頃、病気は全快した。その医師の名はサミル。そして彼が島に来た時つれていた、彼の小さな息子の名前が『クロービス』と言った・・・。黒い髪に黒い瞳で、好奇心旺盛で、とっても引っ込み思案な・・・。島に来たばかりの頃は、父親にくっついて離れなかったクロービスだが、ライザーが毎日通ううちに彼になつき始め、やがて彼のあとをいつもついて歩くようになった。ライザーにしてみれば、弟が出来たような気がして、嬉しかった。だが、彼の病気の全快と時を同じくして両親が亡くなった。そしてライザーは迎えに来た叔父夫婦に連れられて島を出た。それ以来クロービスには会っていない。今自分の目の前にいる若者が、本当にあのクロービスなのだろうか。確かに昔の面影もあるような気がするが・・・。
 
「クロービスって・・・島の・・・診療所の・・・?」
 
 ライザーは慎重に尋ねた。
 
「そうです。」
 
「サミル先生の息子さんの・・・?」
 
 ライザーはこの若者の父親の名前を口に出した。だが若者はぎくりとして顔色をかえ、黙り込んでいる。名前が違っていたのだろうか・・・。いや、自分の恩人の名前を間違えたりなどしない・・・。ではやはりあの先生の息子さんではなかったのか・・・。考え込んでしまったライザーの顔を窺い、若者は慌てたように返事をした。
 
「あ、あの・・・そうです。」
 
 ライザーの心は懐かしさで一杯になった。やはりそうだったのか・・・。あの頃、いつも自分の後をついて歩いていた小さな男の子が、こんなに立派に成長して現れるとは・・・。
 
「やっぱりそうか!思い出したよ・・・。懐かしいなぁ・・。久しぶりだね。僕が島にいた時はまだ小さかったけど、すっかり立派な青年になったんだね。」
 
 ライザーは笑顔でクロービスと握手した。クロービスはほっとしたようにため息をついたが、突然その瞳から涙が溢れ始めた。
 
「お、おい・・・。ライザーと会ったのがそんなに嬉しかったのかな・・・?」
 
 ランドは泣き出してしまったクロービスを見て、どうしていいのか判らず戸惑っている。
 
「す、すみません・・・。そうじゃないんですけど・・・。あ、あの、ライザーさんに会ったのが嬉しくないわけじゃなくて、でもその・・・違うんです・・・。」
 
 しどろもどろになって必死で言い訳をしながら、クロービスはゴシゴシと顔を擦った。少ししてやっと涙が止まり、ランドもほっと安堵のため息を漏らした。一体彼の心に何が起きたのだろう。
 
「どうやら落ち着いたみたいだな・・・。ライザー、クロービスの身元引受人になってくれそうな人を知らないか。こちらで斡旋するってわけにはいかないが、お前が同郷のよしみで紹介する分には問題ないだろうと思うんだが。」
 
 ライザーはしばらく考えていた。自分だってこの町にそれほどたくさん知り合いがいるわけではない。自分をこの町に連れてきてくれた叔父夫婦は、今のところやっと生活が軌道に乗ってきたところだ。迷惑はかけられない。あと頼れるのは・・・孤児院の神父だけだった。彼ならばきっと手を貸してくれる。自分の頼みなら、とんでもない無茶なことでもない限り聞いてくれるだろう。そしてこの若者は自分の恩人の息子だ。自分は小さな頃の彼をよく知っている。問題を起こすような人物ではないはずだ。
 
(故郷の島には、サミル先生がいるんだろうけど・・・この城下町で生きていくのなら、この町の誰かに身元引受人になってもらうほうがいいだろうし・・・。)
 
 ライザーの脳裏に、ふとサミルの顔が浮かんだ。
 
「・・・それじゃ、僕が育った孤児院の神父様に頼んでみるよ。あの人なら事情を話せばわかってくれると思う。」
 
「そうか、それじゃ後で案内してやってくれるか?」
 
「そうだね。研修のあとの方がいいだろうな。」
 
「そうだな。よろしく頼むよ。」
 
 クロービスがほっと一息ついたような気がした。彼はなぜこの町に出てきたのだろう。あの島で父親のあとを継ぐものとばかり思っていた。本当にこのクロービスが、カインと釣り合うだけの腕を持っているのだろうか。ライザーは少しクロービスと話がしてみたくなった。希望に燃えて王国剣士としての使命を全うしようとしているカインと、うまくやっていけるだけの腕と人格が本当にこの若者に備わっているのか、自分の目で確かめたくなったのだ。とりあえず言葉を交わしてみれば何かしら判るだろう。それに・・・彼はきっと、今現在の懐かしい故郷の島の様子をよく知っているはずだ。
 
「それじゃ、僕がクロービスを部屋まで連れて行くよ。きっと疲れているんだろう。僕達の部屋で少し話でもして、落ち着いてからのほうがいいだろうから。かまわないか?」
 
「次の勤務は・・・夜か?」
 
「ああ。時間はたっぷりあるから、一通りのことは説明しておくよ。」
 
「そうか、それじゃ頼むよ。」
 
「クロービスの部屋は・・・3階のあの部屋でいいのか?」
 
「ああ、そうだ。やっと何とかおさまりそうだよ。クロービスなら・・・きっとうまくいくさ。」
 
 そう言うランドの顔には安堵の笑みが浮かんでいた。やはりランドはカインとクロービスを組ませるつもりらしい。彼の目の確かさは今までの新人剣士達で実証済みだ。これでカインは今の中途半端な状態から抜け出せるだろう。
 
「君の見立てなら間違いないな。」
 
 ライザーも笑ってみせた。
 
「ではクロービス、あとはライザーからいろいろと聞いてください。」
 
 ランドはクロービスに向き直ると、丁寧に一礼した。それを見てクロービスが慌てて頭を下げる。
 
「はい。ありがとうございました。」
 
 ライザーがクロービスを促し、ロビーを横切って剣士団の宿舎に向かおうとした時、近づいてくる人影があった。
 
「おお、ライザー一人か?オシニスはどうした?」
 
 ライザーよりも3年ほど早く入団した先輩剣士、セスタンだった。
 
「オシニスなら、出掛けましたよ。」
 
「出掛けた?一人でか?」
 
 セスタンは怪訝そうにライザーを見ている。今自分のあとをついてくる新人剣士の研修のために出かけたとは言うわけにはいかない。
 
「ええ。いつものところですよ。」
 
 何とかこの言葉で判ってもらうしかない。通じなければうまくごまかして話を切り上げなければ。だがセスタンはハッとした表情で小さく頷いた。
 
(通じたみたいだな・・・。)
 
「ああ、なるほどな・・・そうか。だがコンビのお前も大変だな。ガウディさんがあんなことにならなけりゃ・・・。」
 
「セスタンさん、その話は・・・。」
 
 思いがけない人物の名前が出たことで、ライザーは慌てた。ガウディとは3年前まで剣士団に在籍していたベテラン剣士で、いつも二次試験の試験官を務めていた人物だった。副団長グラディスの相方でもあった。だが彼は、3年前に突然剣士団から姿を消した。そしてその理由を知る者には、決して口外しないようにとの箝口令が出されている。ライザーにとっては尊敬する先輩でもあったが、だからといってこの宿舎の中で彼の話をするわけにはいかない。
 
「お、そうだったな・・・。」
 
 セスタンは慌てて声を落とした。確かにガウディがいれば、オシニスが新人の研修のために出かけたり、ライザーが一人で訓練場で過ごすことなどなかっただろう。だが今さら言ってみても始まらない。
 
「慣れればなんと言うことはありませんよ。これも仕事のうちですから。」
 
 ライザーはまた元の穏やかな表情に戻ってにっこりと笑った。
 
「ははは、それは確かにそうだな。そいつが新人かい?」
 
 セスタンは、ばつが悪そうにライザーの後ろにいた新人剣士の顔を覗き込んだ。
 
「クロービスと言います。僕の同郷でしてね。」
 
「お前の・・?ほぉ、クロービス、俺はセスタンだ。入団して8年かな。よろしくな。」
 
「クロービスです。よろしくお願いします。」
 
「セスタンさん、これからどちらですか?」
 
「これから南さ。さてと、そろそろ行かないと、あいつにどやされるからな。えーと、クロービスか。研修頑張れよ。それじゃまたな。」
 
 言うだけ言うとセスタンは離れていった。ライザーはほっとして、またクロービスと共に歩き出した。宿舎への階段の前に着き、上がろうと振り向くとクロービスがいない。ライザーは慌ててロビーの中を捜した。すると、女性剣士用宿舎へと続く階段の前に立ち、不思議そうに上を覗き込んでいる。ライザーは、しまった!と思った。いつもの癖で素通りしてしまったのだ。ちゃんと教えるべきだったと、慌ててクロービスの元に走りながら叫んだ。
 
「クロービス!そこは女性剣士用宿舎への階段だよ!上がっちゃダメだ!」
 
 ライザーは急いでクロービスの腕を掴み、引っ張るようにしてその階段から遠ざけた。ロビーで休んでいた剣士達が一斉に振り向き、くすくすと笑っている。
 
「す、すみません。どこに通じてるのかなあ、と思って。」
 
 クロービスは真っ赤になっている。間に合ってよかった・・・。
 
「いや、僕もうっかりしてた。いつも素通りするからその調子で・・・。ごめん、ちゃんと言わなくちゃわからないよね・・・。でも・・・君は変わらないね。その好奇心の強いところは小さな時そのままだ。」
 
 ライザーは思わずくすくすと笑いだした。この若者は、間違いなくあのクロービスだ・・・。好奇心旺盛で引っ込み思案な、あの頃のクロービスそのままだ・・・。
 
「そ、そうだったんですか?・・・すみません・・・。小さなころのことは憶えてなくて・・・。」
 
 クロービスは赤くなったまま頭をかいている。ライザーが故郷の島を出たのは、もう15年も前のことだ。彼は確かあの頃5歳くらいだったか・・・。そんな小さな時のことなど憶えていなくて当たり前だ。では彼は・・・どうして自分がここにいることを知っていたのだろう・・・。
 
「憶えてない?ははは。君は小さいころ、箱があれば必ずふたを開けるし、人形の首は必ず一度は取ろうとしたし・・・。どんなものでも中を見ないと気が済まないみたいだったよ。」
 
「そ、そうなんですか・・・。」
 
 そんな会話を交わしながら、ライザーの脳裏には、クロービスに人形の首を取られて泣きじゃくる幼馴染み、イノージェンの姿が浮かんでいた。
 
(イノージェンは・・・どうしているんだろう・・・。)
 
 よくイノージェンが言っていたっけ。
 
『もう!!クロービスったら、いつも人形を見せると首を取ろうとするのよ!!』
 
 首の取れた人形を前にして、クロービスはいつもきょとんとしていた。幼い彼にとって、首はふたであり、ふたを開ければ中身が見えると思っていたのに、ぽきりと折れてそれっきりなのが不思議だったのかも知れない。
 
 やがて二人は3階の一番奥にある、扉の前に着いた。この部屋が、ライザーと相方オシニスの部屋だった。今日は久しぶりに、懐かしい人達の消息が聞けるかも知れない。懐かしい・・・イノージェンのことが聞けるかも知れない・・・。
 
 
                          
 
 
 セスタンはライザーと別れ、ロビーへの階段に向かおうとしていた。この俺ともあろうものが、まったく大失態をやらかすところだった。新人剣士を前にして、その試験官の所在を尋ねるとは・・・。
 
「まったく・・・俺も間抜けな奴だな・・・。」
 
 相方のポーラに話したら、また大笑いされるに違いない。
 
「しかし・・・久しぶりの新人剣士だな・・・。」
 
 前に合格者が出たのはもう一ヶ月近く前だ。最初の合格者はハディという若者だった。故郷がモンスターのために壊滅させられ、その再建のために一日も早く強くなりたいと必死で頑張っている。だが、そのがんばりが、セスタンから見ればいささか見当はずれな方向に向いてしまっていた。もう少し視野を広く持つことを憶えさせなければならない。そして次の合格者がカイン。ハディが研修のサポートを務め、うまく行くようならコンビを組ませることが出来るかとも思ったが、ランドと剣士団長の出した答はノーだった。最後の合格者はカインと2〜3日違いで試験を受けに来た女性槍使いだ。名前はリーザ。どうやら王宮に隣接する貴族や富豪の住む区域に家があるらしい。かなりいい家のお嬢様らしいのだが、その風貌に似合わず、その槍さばきは素晴らしい。どうやら一流の槍術師について学んだらしい。そしてハディとリーザがコンビを組み、今に至っている。残されたカインは相方が見つかるまで、訓練をしたり、たまに先輩達について行ったり・・・。ずっと半端な状態におかれ続けていた。だが彼の実力は多分3人の中では一番だ。あのおとなしそうな、一目見ただけでは新人剣士とはとても思えなかったほどの若者を、カインと組ませることは出来るのだろうか。それとも、ランドはそんなことは考えていないのだろうか。
 セスタンは思い直して向きを変え、採用カウンターに顔を出した。ランドは机に向かい、書類に何か書き込んでいる。
 
「おい、ランド。」
 
「おや、セスタンさん、これから南でしたよね?」
 
「ああ。」
 
「早く行かないと、ポーラさんが怒りますよ。」
 
「ははは、そうだな。なあ、さっき合格した新人剣士なんだが・・・。」
 
「ああ、クロービスですか。彼がどうかしましたか?」
 
「いや・・・その、王国剣士としてやって行くにはおとなしすぎるような気がしてな・・・。」
 
「そうですねぇ。見た目は確かにそう見えるでしょうね。」
 
「剣のほうはどんな具合だ?」
 
「見かけに寄らず、ですよ。私の動きを読んで、ぴたりとついてきました。何度か先回りされましたからね。」
 
「ほぉ・・・。初めて手合せした相手の動きを読んでか?でもお前だってあの新人に合わせて手加減していたんだろう?」
 
「それはそうですけどね。最初の一撃でだいたい相手の力量というのはわかるものですから、私としては、彼よりも少し上のつもりに加減したわけだったんですがね。」
 
「なるほどな。それでどうだ?あの新人は、カインと組ませることが出来そうか?」
 
 尋ねながら、セスタンの心の中では「無理ですよ」というランドの声が聞こえていた。だが、実際にランドの口から出た言葉は、セスタンの想像とは正反対の言葉だった。
 
「私としてはそのつもりですよ。明日からの研修には、カインをサポートにつけて、様子を見ることにするつもりです。」
 
 この男の目の確かさを疑うつもりはない。それでもセスタンは半信半疑だったが、ランドがこれだけはっきりと言いきるだけの、何かがあの若者にはあるのだろう。セスタンは自分の心に湧き上がった疑念を押さえ込んだ。
 
「なるほどな。お前がそこまで言うのなら間違いはないだろう。あんまりおとなしそうでちょっと不安になったもんでな。悪く思わないでくれよ。」
 
「そんなことは思いませんよ。それより、ポーラさんに角が生えないうちに行ったほうがいいんじゃありませんか?」
 
 ランドがにやりとした。
 
「あ、そうだ!また怒鳴られそうだなぁ。それじゃ行ってくるよ。東の山脈越えをするから、戻りは一ヶ月くらい先だろうな。」
 
「お気をつけて。」
 
 セスタンの後ろ姿を見送って、ランドはため息をついた。この先、クロービスを見た誰もが、同じ不安を抱いて自分に尋ねに来るのだろう。実際自分も、彼を最初に見た時は同じ事を考えた。はっきりと試験を受ける意志だって、ここに来るまであったかどうかもわからない。いや、もしかしたらここに来て初めて決心がついたのかも知れない。そう思えるほど、クロービスの態度は不安げだった。だから自分も必要以上に親切に色々と話して聞かせた。『今でなくてもいいのだ』と何度も繰り返し伝えた。だが彼はすぐに試験を受けることを望み、剣を交えてみたらこれが見た目とは全然違う。特別鋭さがあるわけではない。キレがあると言うほどでもない。素早さだってそれほどとも思えない。なのになぜか防ぎきれない。とらえどころがない。あんな不思議な太刀筋の持主に会ったのは初めてかも知れない。とにかく、彼のことを剣士団長に伝えなくては。
 
「さて、団長はこの報告書をどう見ますかね・・・。」
 
 クロービスの試験結果を書き込んだ書類を横目で見て、ランドはにやりとしながら立ち上がった。
 
 
                          
 
 
「さあどうぞ。ここが僕と、さっき話の出ていた相方のオシニスの部屋だよ。男所帯だからきれいとは言いかねるけどね。」
 
 部屋に入るとライザーはそう言ったが、中はきちんと整頓されている。だが、部屋の半分が妙に雑然としていた。そちらがオシニスの領域だった。掃除や整理整頓が苦手な彼は、いつもライザーに頼りきりだった。ライザーも最初はいろいろとオシニスに教えていたが、そのうち面倒になって、掃除や洗濯などはある程度引き受けるようになってしまったのだ。だがさすがに下着だけは、それぞれ自分で洗濯している。
 
「その辺に座っていてくれ。お茶くらいは出せるからね。少し話をしようか。」
 
 クロービスを部屋の中央にあるテーブルに促し、ライザーはお茶を煎れた。
 
「それにしても、よく僕のことを憶えていたね。僕が島を出る時はまだ君は小さかったから、もう忘れられているかと思っていたよ。」
 
「・・・すみません。実を言うと、ライザーさんのことは憶えていなかったんです。」
 
 クロービスが申し訳なさそうに頭を下げる。やはり彼は自分のことは憶えていなかった。では自分がここにいると言うことは、きっと父親から聞いたのだろう。一年ほど前、思いがけず城下町で再会した恩人の先生に・・・。
 
「そうか・・・。別に謝るような事じゃないよ。それじゃ僕のことや、僕がここにいることは・・・サミル先生から聞いたんだね?」
 
「父から?」
 
 ライザーは何気なく聞いたのだが、クロービスは驚いて顔をあげた。
 
「違うのかい?それじゃ誰に・・・。」
 
 言いかけてライザーはハッとした。あの島で、自分が王国剣士であると言うことを知っている人物・・・。それがサミル医師でないのなら、あとは一人しかいない。剣士団に正式入団した時、真っ先にそれを知らせたかった幼馴染み・・・。小さなかわいいイノージェンをおいて他にない・・・。
 
「あの・・・どうして父は、ライザーさんがここにいることを知っていたんですか?」
 
 クロービスの声で我に返った。彼は父親から何も聞いていないのだろうか・・・。サミル医師はライザーと出会ったことを、なぜ自分の息子に黙っていたのだろう。
 
「サミル先生から何も聞いていないのかい?」
 
「父は・・・亡くなりました。それで私は王国に出てきたんです。」
 
「サミル先生が・・・亡くなった・・・?」
 
 あまりにも思いがけない言葉にライザーは凍りついた。亡くなった・・・。自分の病気を治してくれた、剣術や治療術を教えてくれた、あの優しい先生が・・・。ライザーは無意識に手に持っていたカップをテーブルに置いた。ガチャンと音がしたが、その音すら、ライザーの耳には入らず、クロービスに向かって身を乗り出していた。
 
「それは・・・いつ?」
 
「もう・・・10日近く前です。病気で・・・。父が亡くなってから埋葬をすませてすぐ、私は父の助手をしていたブロムさんに連れられて島を出たんです。」
 
「そんな・・・。」
 
 ライザーは呆然とした。では・・・あの時・・・城下町での思いがけない再会が・・・最後だったというのか・・・。
 
「そんな・・・サミル先生が・・・なぜ・・・こんなに早く・・・。」
 
 ライザーの瞳から涙が溢れ、頬を伝って流れ落ちた。彼は慌てて顔を片手で覆うと、クロービスに背中を向けた。こんなに早く逝ってしまうのなら・・・あの時、もっともっと話をしたかった。無理を言ってでももう少し護衛していけばよかった。もう会えない・・・。あれほどの恩を受けながら、自分は何一つそれを返すことが出来なかった・・・。ライザーの心は悔恨の念で一杯だった。どれほど悔やんでも・・・もう取り戻せない・・・。
 でも今ここにいるクロービスは、これからこの町で生きていこうとしている。サミル医師には何一つ恩返しが出来なかったけれど、彼の息子であるクロービスを手助けすることは出来る・・・。ライザーは涙を拭うと、ゆっくりとクロービスに向き直った。
 
「すまなかったね・・・君のほうがつらいのにね・・・。」
 
 クロービスは不安げな瞳でライザーを見つめていたが、
 
「いえ・・・。あの、でもどうして父はライザーさんがここにいることを・・・。」
 
さっきと同じ質問を繰り返した。この様子では、クロービスはサミル医師がライザーと会った日のことを何も聞いていないらしい。
 
「・・・会ったことがあるんだ。僕が王国剣士になってから・・・一度だけ・・・。」
 
「え・・・?」
 
 クロービスの顔に驚きが走る。そしてライザーに向かって身を乗り出していた。
 
「あ、あの・・・どこで・・・。」
 
「1年ほど前・・・僕が相方のオシニスと共に、城下町の警備をしていた時のことだ。オシニスが裏通りの奥で怪しげな商売をしている商人に尋問をしていた時、通りの入口を誰かが素早く通過していったことに気づいた僕は、その場をオシニスにまかせて通り過ぎた人影を追いかけたんだ。盗賊などが僕たちの姿を見て逃げていったのかもしれないと思ってね。」
 
 ライザーはそこまで話すと一息ついてお茶を飲み、言葉を続けた。
 
「人影は奥へ奥へと逃げていく。とうとう行止りの路地奥で僕は人影を追いつめた。向かってくる様子はなかったので、用心して近づき顔を見ると、それがサミル先生だったんだ。」
 





 追いつめられた人影は、顔を隠すように下を向き息を弾ませている。見れば身なりも悪くない。髪が白くなってはいるが、先ほどからの逃げっぷりからしてそれほどの老人とも思えなかった。
 
「どうされました?」
 
 ライザーは慎重に声をかけた。相手は答えない。ゼェゼェと息をして苦しそうだ。
 
「・・・傷つけるつもりはありません。なぜ私達を見て逃げたのか、教えてください。」
 
「私は・・・何もして・・いない・・・。」
 
 苦しい息の下から、人影はやっと声を出した。
 
「ではなぜ逃げたのです?」
 
 ライザーがさらに問いつめる。
 
「・・・・・。」
 
 相手は答えない。いつまでもここでにらめっこをしているわけにもいかないので、ライザーは、念のため腰の剣に手をかけながらゆっくりと近づくと、相手の肩に手をかけてぐいっと自分のほうに向けた。
 
「サミル先生!」
 
 ライザーは驚愕した。遠い昔、体の弱かった自分に健康を取り戻してくれた、恩人とも言える診療所の先生が今、目の前にいる。こんなところで再会しようとは・・・。
 
「・・・君は?」
 
「憶えてらっしゃいませんか?と言っても僕はまだ小さかったけど・・・。ライザーです。小さな頃、あなたに病気を治していただいた・・・。」
 
「・・・ライザー・・・。ライザー・・・?昔島に住んでいたライザーか!?」
 
「そうです。思い出してくれましたか。ご無沙汰しています。こんなところでどうされたのですか?」
 
 サミルはその時、ほっとしたようにその場に座り込み、大きくため息をついた。
 
「いや・・・道に迷ってね・・・久しぶりにここに出てきたので・・・。」
 
 何となく要領を得ない返事だった。
 
「・・・失礼は承知の上ですが・・・一つだけ質問させてください。王国剣士を見て逃げたわけではないのですね?」
 
 サミルは青い顔をしていたが、ライザーの眼を見てゆっくりと口を開いた。
 
「いや・・・。道が判らなくなって焦って走り回っていたら・・・誰かが追いかけてきたので賊と間違えてね・・・。逃げてしまったんだ・・・。仕事の邪魔をして、申し訳ないことをしたな・・・。」
 
 辺りを見回したが、他にサミルを追いかけているような人影も見あたらない。いささか腑に落ちない点はあるが、ライザーはその話を信じることにした。
 
「そうですか・・・判りました。僕の方こそ驚かせてしまって申し訳ありませんでした。これからどちらへ行かれるのですか?」
 
「私は・・・島に戻らなければ・・・。」
 
 ライザーの問いに一応返事はするものの、サミルの瞳は宙を泳ぐように彷徨っている。
 
「・・・では・・・街の出口までお送りします。さあ・・・。」
 
 立ち上がったサミルの足下に何かが落ちている。拾い上げると楽譜だった。
 
「これは・・・先生のものですか?」
 
 ライザーが差し出した楽譜を見て、サミルは真っ青になってひったくるようにそれを受け取ったが、
 
「あ、ああ、すまない。ありがとう・・・。」
 
慌てて取り繕うように礼を言った。どうして医者であるサミルが楽譜などでそんなに顔色を変えるのか、ライザーは不思議だった。サミルはその楽譜を丁寧に荷物の中にしまっている。それほど大事なものなのだろうか。もう一度尋ねてみようかとも思ったが、サミルのあまりにも青ざめた顔を見て、喉元まで出かかった言葉を呑み込んでしまった。そのまま商業地区を出て住宅地区の大通りを歩き、やがて街の西門についた。
 
「ライザー、ありがとう。ここでお別れだ。」
 
「お一人で大丈夫なんですか?」
 
「心配には及ばんよ。ここから島までのモンスターなら戦い慣れているからな。」
 
「そうですね・・・。先生がこの辺りのモンスターに後れを取るはずがありませんよね。失礼しました。・・・こちらにはよく来られるのですか?」
 
「あ、いや、まあ・・・たまにな・・・。いろいろと薬草などの買い付けもあるし・・・。」
 
 サミルの顔が急に曇った。
 
「そうですか。今もお忙しいんですね。」
 
「そうだな・・・。なんだかんだとな・・・。」
 
「島のみなさんは・・・お元気なんですか?」
 
「ああ、みんな元気だ。・・・君は、まだあの島に戻るつもりでいるのか?」
 
「はい。いつか・・・必ず・・・。」
 
「そうか・・・。君は王国剣士だ。本当に立派になったよ。私は君の今の姿を見てとても嬉しい。だがあの島の人達に君を受け入れてもらうのは・・・大変かも知れないぞ・・・。」
 
「それは・・・もとより覚悟の上です。いつか、必ず僕はあの島に帰ります。たとえ・・・僕が忘れられてしまっていたとしても・・・。」
 
「そうか・・・。」
 
「サミル先生、今の僕があるのはあなたのおかげです。あの時あなたがあの島にいらして、僕の病気を治そうと言ってくださらなかったら、今の僕はなかったと思います。そして治療術も剣術も、教えていただいた全てのことが、今の僕に役立ってくれています。島を出る時、僕はまだ子供で、ろくなお礼も言うことができませんでした。ですから、あらためて言わせてください。ありがとうございました。」
 
 ライザーは深く頭を下げた。そんなライザーを見ながら、サミルの瞳に涙が滲む。
 
「・・私は何もしとらんよ・・・。病気が治ったのだって、君の生命力がそれだけ強かったと言うことだ。治療術も剣術も、君が頑張ったから憶えられたんだ。私に恩義など感じる必要はない。これからも・・・この王国を・・・守ってくれ・・・。」
 
「はい・・・。必ず・・・。」
 
「では元気で・・・。」
 
「はい。先生もお体に気をつけて・・・。」
 
 サミルがくるりと背を向け歩き出しかけた時・・・、
 
「ロストメモリーか・・・何と皮肉な・・・恐ろしいことだ・・・・。」
 
ちいさな声でつぶやいた。
 
「え?」
 
 ライザーが聞き返そうと声をかけようとしたが、サミルはもう何も耳に入らないかのように歩き去ってしまった。まるで・・・夢遊病者のような足取りで・・・。

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