翌朝・・・。
「さあてと、本日も相変わらずの人混みを警備か・・・。」
あきらめたような顔でヒューイが言った。パーシバルとヒューイより少し早く、ガウディとグラディスは町に出掛けていった。あの食堂での大喧嘩のことは2人とも反省しているらしく、パーシバルとヒューイに平身低頭謝ってはいたのだが・・・。
「あいつ等が謝ってそれでおわりってわけにはいかないもんなあ。」
「そりゃそうだ。俺達に謝ったところで2人がもう少し自分達のことをなんとかしようと考えてくれない限り、また同じことが起きるだろうな。」
「そうだな。それじゃお前はそっちを頑張れよ。」
「それはそうなんだが、仕事は仕事だ。お前に何でもかんでもおんぶにだっこというわけには行かないじゃないか。」
「まあそれもそうだな。俺としても、おんぶにだっこをするなら女のほうがいいな。出来れば美人だとなおよしだ。」
「何がなおよしだ。それは次の非番の楽しみと言うことにしてくれよ。」
「ははは、もちろんだ。さてと、それじゃ今日も二手に分かれるか。」
「ああ、効率よく回らないと時間の無駄だからな。」
「いいかパーシバル、お前はグラディス達の回っている近くを歩いてくれ。俺はもう少し足を伸ばす。でないと、お前の近くに俺がいるばかりに、お前が団長からの指示を無視して俺と一緒に奴らのことを解決しようとしてるなんて言われてもまずいからな。」
「そこまで気にすることもないと思うが・・・まあ疑われるようなことはしないのが一番だ。悪いなヒューイ・・・。何とか早く片をつけるから、しばらくは協力してくれ。」
「ああ、もちろんだ。それじゃ俺はもう少し西側の通りを回ってくるよ。」
「わかった。気をつけてな。」
「お前もだぞ。大変だとは思うが無理だけはするなよ。」
ヒューイは西側の通りに向かって歩いていった。
「さてと・・・すこし周旋屋達に聞き込みをするか・・・。」
グラディスが言っていたように、王国剣士を見ただけで顔を引きつらせたと言うことは、なにかしらあると思って間違いないだろう。そして完璧に嘘をつきとおせるまでには、彼らの肚が決まっているわけではないらしいということだ。しつこく思われない程度に聞いてみて、ぼろを出すかどうかを見てみようか。
「その結果によっては、もう一度アルスさん達に話を聞いたほうがいいのかもしれないな・・・。」
一度事故死として終わった案件でも、事件性が疑われるとなれば話は変わってくる。しかし、アルスとセラードはパーシバルとヒューイより遥かにたくさんの案件を抱えて走り回っている。彼らの手で再調査というのは難しいだろう。となると、もしかしたら先輩の顔をつぶすことなく、パーシバルとグラディス達でこの件を再調査できるかもしれない。
(まあそうなれば・・・ヒューイにはばれちまうが・・・。)
話の流れでどうしてもヒューイに知られるとなれば、剣士団長も理解してくれるだろう。そしてヒューイだって、わかってくれるはずだ。
「俺はあの2人ほどガルガスさんとは親しくなかったし、グラディス達は顔もろくに知らないらしい。アルスさん達より冷静に考えられるかもしれないな。」
パーシバルは周旋屋の事務所がある市場に向かって歩き出した。
「行って来ます。」
「いってらっしゃい、とうちゃん、気をつけてね。」
「ああ、お前もな。」
父親が定職とも言えるほど長い期間の仕事につけてから、こうして毎朝父親を送り出すのがカインの日課となった。嬉しくて仕方ない。それほどご馳走とは言えなくても、父親は毎日新鮮な野菜や肉を買ってきてくれる。それを2人であれやこれやと工夫しながら料理する。今までは考えられないことだった。
「あらエイベックさん、おはようございます。」
隣の家のおかみレイラが出てきた。
「おはようございます。」
「この間頼まれたのが出来たんだけど、直接渡していいかしら。」
頼まれたの、とはカインのズボンのことだ。仕事の合間に作るから時間がかかるとは言っておいたが、レイラは大急ぎで作ったのだ。カインのズボンはもう継ぎあてだらけで、元の生地がわからないほどになっている。
「ありがとうございます。それではよろしくお願いします。私は仕事に出かけますので。あと、もしも生地が余ったら、それは差し上げます。私が持っていても使い道がないですからね。」
「ありがとう。それじゃいってらっしゃい。カイン、ちょっとおばさんの家にいらっしゃい。いいものがあるのよ。」
「いいもの?」
カインはきょとんとして、レイラの後について隣の家に入った。
「あ、来た来た、カイン、待ってたよ。」
「いいものがあるんだぜ。」
レイラの家の子供たち、モルクとミーファ、リーファが笑顔で迎えてくれた。3人とも『いいもの』の正体を知っているらしい。
「はい、これ、着てみて。」
レイラが差し出したのは真新しいズボンと、そろいのベストだった。
「こ・・・これ・・・。」
「あなたのお父さんがね、この間帰って来た時にこの生地を買ってきたのよ。あなたのズボンを作ってほしいって。でもズボンを作ってもまだ生地があまったから、ベストも一緒に作ったの。中にシャツを着て、上から羽織ればちょうどいいわ。」
カインはズボンを脱いで新しいズボンをはいた。シャツの上にベストを羽織ってボタンを留めた。こんないい服なんて着たことがない。自分がまるで『いいとこのお坊ちゃん』になったような気がしたほどだ。
「あらよく似合うわ。まあ、その靴はお父さんが買ってくれたのね。素敵よカイン。」
レイラはカインの足元に目をとめ、微笑んだ。この間エイベックが下げていた袋の中身はこの靴だったらしい。
「い・・・いいのかな・・・こんないいもの着て・・・。」
「カイン、この服の生地も靴も、あなたのお父さんが一生懸命働いたお金で買ってくれたものよ。あなたのためにね。あなたは胸を張って着ればいいの。それが子供の役目よ。」
エイベックが毎日仕事に行けるようになったおかげで、カインはやっと『子供』でいられるようになったのだ。学校で勉強をして、夕方家に帰り、親の帰りを待つ、それが子供の役目だと、レイラは考えている。
「かっこいいなカイン。俺もこんなのほしいなあ。」
モルクがうらやましそうにカインのベストを見ている。
「同じ生地はもうそんなにないから、違う生地をあわせて、今度作ってあげるわ。ミーファとリーファにもね。」
「かあさん、あたし達はスカートがいいな。」
「はいはい、作ってあげるわよ。でもこの生地では作れないから、いい生地が見つかったらよ。」
「はあい。あたしはフリルのついたのがいいなあ。」
「あたしはレースのスカートがほしい。」
無邪気に夢を語る娘達に、レイラは困ったように微笑んだ。この町に住んでいるうちは、レースもフリルも縁がない。そんな高価な生地や飾りはとても買えないのだ。時々、請け負った仕事で余った生地やレースをもらえることはある。でも本当に少しだけだ。
「そういえば俺、この間すごいきれいなレースのドレスを着たお姫様を見たぞ。」
モルクが言った。
「へー、どんなドレス?」
ミーファとリーファが目を輝かせたが、モルクはうーんと唸って黙ってしまった。『どんな』といわれても全然覚えていない。男の子にとって、ドレスはドレスであって違いなんてわからないのだ。隣で黙っているカインはといえば、さりげなく聞いているふりをしてはいたが、内心は心臓が飛び出しそうなほど驚いていた。
(あの女の子のことかな・・・。すごくきれいなドレスだった・・・。)
「あら、それじゃそれが噂のフロリア様かしら。」
「フロリア様!?」
子供達がほぼ同時に聞き返した。
「ええ、なんでも最近、フロリア様がお忍びでこの街にいらしたって話よ。モルクの見たお姫様が、はちみつ色の髪をきれいに結い上げたかわいらしいお姫様で、神父様の服を着た人と一緒だったら、フロリア様かもしれないわよ。」
「へぇ・・・すごくかわいい子だったんだよ。髪は・・・そう言えばはちみつ色だったかもしれない。隣に誰か・・・いたかなあ。なんだかよく覚えてないや。でも何でこんなところに来たのかなあ。お城にいたほうがいいじゃないか。」
「フロリア様はこの国の国王陛下ですからね。いろんなところを実際に歩いて、国民の暮らしを直にご覧になっていらっしゃるのでしょう。いつも最高神官のレイナック様がお供をされるそうだから、多分ご一緒だったはずよ。6歳で即位された時には、あんな小さな子が国王なんて大丈夫なのかしらと思ったけど、いろんな政策をたくさん出していらっしゃるそうよ。この間父さんが言ってたわよ。この町に住んでいる人達をいろんな仕事で積極的に雇用するようにって、お布令が出たんですって。それもフロリア様の発案らしいわ。」
「6歳で?それじゃフロリア様のお父さんとお母さんは・・・。」
カインが驚いて尋ねた。
「うーん・・・あなた達は覚えてないわよねぇ。4年前にね、亡くなられたのよ。それからずっとフロリア様は国王としてこの国の運営を担ってこられたの。カイン、確かフロリア様はあなたの二つ上よ。」
「・・・俺と二つしか違わないのか・・・。」
カインはそんな話、全然知らなかった。貧しい暮らしをしていても、カインは『子供』でいられる。でもフロリア様は・・・大人と一緒にこの国を動かさなくてはならない。
(・・・ひどいこと言っちゃったな・・・。)
カインがぶつけた言葉に、表情を凍りつかせたあの少女の顔が浮かんだ。
「あら、なんだか随分おしゃべりしちゃったわ。さ、今日は学校の日でしょう?遅れないようにね。」
「はあい。カイン、行こうぜ。」
カインはモルクたちと一緒に家を出た。新しい靴とズボン、そしてベストが誇らしい。この服を着て、もう一度あの女の子に会えたら・・・素直にお礼を言えるかもしれない。
(でも・・・王様じゃ無理だろうなあ・・・。)
カインの脳裏には、あの時の女の子の悲しげな顔が浮かんでいた。とてもかわいらしい顔立ちだった。あんな悲しい顔じゃなくて、笑ったらきっともっとかわいいだろう。もう一度会って、お礼を言って、あの子の笑顔を見られたら・・・。
「あれがフロリア様かあ。かわいかったなー。」
モルクはにこにこ顔だ。隣を歩くミーファとリーファは『レースのドレス』について何か議論を戦わせている。
「どこで見たんだよ。」
「うーんと、あれは・・・。」
モルクから聞いた場所は、貧民街の中でもかなり奥のほうだった。ということは、あの女の子はカインをいじめっ子から救い出したあと、この町の奥まで歩いて視察したということか・・・。カインは恥ずかしくなった。八つ当たりで怒鳴ってしまったのに、あの子はそれでもこの街を視察して、この町の人達が少しでも暮らしやすいよう、いろいろとお布令をだしてくれている。
(俺は・・・一人でいじけて八つ当たりして、最低だ・・・。)
どうすればいいだろう。あの子に、フロリア様に、謝りたい。お礼も言いたい。でも会えるわけがない・・・。
「あーあ、またフロリア様に会いたいけど、来年の誕生日までは無理だろうなあ。でもこの間みたいに近くでは見られないもんなあ。」
モルクはまだ残念そうにため息をついている。毎年フロリア様の誕生日には、国民が王宮の玄関前に集まり、お祝いする。その日だけはフロリア様がバルコニーに出られて、国民の前に姿を見せるのだが、カインは今まで行ったことがなかった。王様の誕生日なんて、自分には関係のないことでしかなかったからだ。
「やっぱり王国剣士かな。それなら毎日会えるよな。」
モルクが独り言のように言った。
「・・・王国剣士?」
「ああ、いつも町の中を見回りしている王国剣士さ。フロリア様の誕生日のときは、隣にすごい腕っ節の強そうな人がいるんだよ。なんでも剣士団長らしいぜ。」
「・・・・・。」
王国剣士と聞いて、カインは複雑な気持ちだった。父親が市場で盗みを働いた時、王国剣士に地下牢まで連れて行かれる。カインにとって王国剣士は、父親を捕まえる悪者のように思えていたのだ。
(でも・・・実際には悪いのは父ちゃんで、王国剣士は悪者を捕まえたってことなんだよな・・・。)
「王国剣士になれれば、多分いつも近くで見られるんだろうな。でも俺は剣なんてさっぱりだから、やっぱり無理か。」
モルクは肩をすくめた。
「そんなのわかんないじゃないか。これから始めたってうまくなれるかもしれないぞ。」
カインは思わず言い返した。そんなに簡単にあきらめたくない、カインの頭の中に、突然そんな思いが現れたのだ。
「そうだなあ。王国剣士はどこに住んでいても関係なく雇ってくれるって言うし。でも給料は安いみたいだぞ。」
貧民街に住むどんな子供だって、この町が貧しいことを知っている。少しでも多くお金を稼げる仕事に就きたいと、モルクはいつも言っている。彼にとって王国剣士は、あまり魅力的な仕事ではないらしい。
「へー、それも困るなあ。」
相槌を打ちながら、カインの心に『王国剣士』と言う言葉が刻み込まれた。王国剣士になれば、あの女の子に、フロリア様に会える。
「おーい、始まっちまうぞ!」
カイン達の横を追い越して走っていったのは同じ町に住む友達だ。
「おう!カイン、行こうぜ。おいミーファ、リーファ、ドレスの話は後にしろ。遅れるぞ!」
モルクにせかされ、4人は走り出した。
「うーん・・・。」
今日の警備場所『城下町市場周辺』に来て、今日もグラディスは腕を組んで考え込んでいた。
「今日はどうする?昨日は午後からほとんど仕事らしい仕事が出来なかったから、今日こそはきちんと警備をしないとな。」
「そうだなあ・・・。その他にいろいろと調べないと・・・。なあガウディ、あの周旋屋の組合長が死んだ時の調書を見せてもらいに行かないか?」
「調書か・・・。そういえば昨日、パーシバルさんは見せてもらったと言ってたなあ。」
「ああ、顔見知りだったらしいから、調書を作った先輩に話を聞きに行ったと言っていたな。どうする?俺達も話を聞きに行くか?」
「それはまずいだろう。俺達がこの件の調査をしていることは誰かに知られるわけに行かないからな。」
「そうだよな・・・。でもまあ調書は見られるか。数日前の調書だから、まだ詰所に保管されて・・・。」
グラディスの声が途切れた。詰所・・・。昨日自分達を追い立てるようにして詰所から出したあと、まさか団長達がその調書をどうにかしたなんてことは・・・。
「詰所か・・・。行ってみるか。一度正式に調書として提出された書類なら、そう簡単に誰かが握りつぶすってこともないだろうからな。」
ガウディも同じことを考えたらしい。
「そう願いたいよ。」
詰所には必ず誰かしら王国剣士がいることになっている。ただし詰所勤務と言うものは存在しないので、大体は周辺勤務の剣士達が交代でいたりすることがある程度だ。詰所の扉を開けると、中にいたのは同期の剣士2人だった。
「お、ちょうどいいところに来たな。お前らしばらくここにいてくれよ。」
「しばらくってどのくらいだよ。」
「多分あと1時間くらいで交代がくると思うぞ。それまでだよ。」
「しょうがないな・・・。」
うんざりしたような言い方をしてみせたものの、グラディスは内心ホッとしていた。ここに来た理由が『詰所の様子を見に来た』と思われたらしいからだ。誰もいなければ、調書をじっくり読むことが出来る。2人はガルガスの亡くなった日付の調書を引っ張り出してきた。あった。ガルガスの死についての調書は、日付順にきちんと綴じられている。2人は早速読み始めた。調書を書いたのはアルスとセラードという、入団してもう12〜3年になるベテランの剣士だ。
「・・・なるほど、確かにおかしなところは何もないな・・・。」
ガウディが言った。
「そうだな・・・。飲んでいた場所がこの店で・・・家がここなら確かにあの橋の上を通るし・・・。」
「服に汚物が付着とあるから、吐いたってことかな。泥酔して橋の欄干にもたれかかって吐いた時に、汚物が服についたと言うことか・・・。」
「で、勢いあまってドボンと・・・。」
「あれ?これを見ろよ。死因は溺死じゃなくて、頭蓋骨の陥没骨折ってなってるぞ。ドボンと落ちた拍子に川底にぶつかったのかな。」
「うーん・・・しかしこの川は結構深いぞ?かなり体格のいい人だったらしいが、それにしてもそれこそ橋の上から思い切り投げ落とされでもしない限り、川底に頭をぶつけるってのは・・・。」
「いくら体格がよくたって、水に入れば浮力が働くしなあ。」
「そうだよな。例えば川底に激突させるつもりで投げ落とそうと考えたら、相当な力が必要になるぞ。」
「一人では無理だろうな。団長くらい腕っ節の強い奴でもない限り・・・。」
「・・・・・・・・・・・。」
何気なく口を突いて出た言葉に、2人とも黙り込んだ。あの団長なら、出来るかもしれない。なんと言っても、素手でモンスターと渡り合ったという武勇伝まである人物だ。その真偽のほどはともかく、確かに団長は力がある。胸板は厚く、腕も太い。不可能ではないかもしれない・・・。
『だが人間というものは、一つ疑いが芽生えると、何でもかんでもそれに結び付けて考えようとしてしまうんだ。』
不意に昨夜のパーシバルの言葉がよみがえった。
「はぁ・・・先入観は禁物だな。なあ、この橋は今日の警備場所の近くだ。歩きながら行ってみるか。」
「そうだな・・・。この通りの道筋を辿ってみよう。警備も兼ねながら歩くにはちょうどいいルートだ。」
「アルスさん達に話が聞ければいいんだがなあ。」
「なんて言って聞くんだよ。事件として処理されてるわけじゃないのに、先輩達が調査した案件を俺達が蒸し返すなんて、相当な理由がなければ怒られるのが落ちだ。」
「まあそうだよなあ・・・。」
この件を調べていることは、出来る限り誰にも知られたくない。この件にパーシバルの団長就任がかかっているかも知れないとなればなおさら慎重になる。
「仕方ない。出来るだけ中身をメモしておこう。歩きながら検証してみるか。」
「そうだな・・・。」
2人はそれぞれ調書の中身をメモしておくことにした。出来る限り詳細にメモを取り、保管棚に調書を戻したところで、ちょうど「交代」の剣士達がやってきた。
「あれ?なんでお前らがここにいるんだ?」
この2人もグラディスたちと同期の剣士だ。留守を頼んだはずの剣士達と違うコンビがいたので、驚いたらしい。
「さっき顔を出したら、ここにいてくれと言われたんだよ。後はお前らがいてくれるんだよな?」
「ああ、昼までいるよ。後はまあ誰かしら顔を出すだろう。本当は詰所勤務っていうのもあったほうがいいんだけどなあ。空っぽにしないようにいつも気をつけてなくちゃならない。昨日みたいにうまい具合に団長達が来てくれるとありがたいんだが、さすがにそれはないかな。」
「昨日もお前らがここにいたのか?」
「ああ、昨日俺達は昼を早めにとったんだ。で、誰かいるかと思って顔を出したらヒューイさんに捕まっちまってなあ。」
「ヒューイさんに?パーシバルさんは一緒じゃなかったのか?」
「二手に分かれて歩いていると言ってたぜ。のどが渇いたから水を飲もうと思って来たら誰もいなかったんだと。で、動くに動けずいたところに俺達が顔を出しちまったと言うわけさ。」
「うーん・・・ここにただいるってのも大変だが、一時でも空っぽになるのもなあ。やっぱり街中を警備するときだけでも、詰所勤務ってのを作ったほうがいいんじゃないのかなあ。」
これはグラディスがいつも考えていたことだ。町の中を勤務する王国剣士は、出かけるときに必ず一組に一つずつ詰所の鍵を渡される。近くを通ったら顔を出せと言われるのだが、必ず詰所の前を通るとは限らないし、通ったところで中を覗ける余裕があるかどうかは何ともいえない。だがこんなに人が増えている今、詰所に誰かしらがいつもいてくれれば、一般市民が騒動に巻き込まれたりしても逃げ込む場所として機能するんじゃないだろうか。
(ま・・・もう少し王国剣士の数が増えないと難しいよな・・・。)
剣士団は慢性的な人手不足に悩まされているのだ。
「昨日団長もそんなことを言ってたよ。ま、もっと王国剣士が増えるか、住宅地区が完成してこの状況が改善されるか、どっちも難しそうだからまだ当分は無理だなあ、なんて言って笑ってたぜ。」
誰しも考えることは同じらしい。同期の剣士に後を任せてグラディスとガウディは先ほど立てた予定の通り、ガルガスが通ったと思われる道を歩き始めた。そして彼が落ちた橋の上まで来て、下を眺めてみた。
「うーん・・・確かにここから落ちれば死ぬなあ。」
「酔っていればな。素面だったら泳げさえすれば何とかなりそうだと思うが・・・。」
「まあそりゃそうだ。あの日を挟んで前後は雨も降らなかったから、特に増水はしていないしな。それに素面だったら頭から落っこちたりしないだろう。落ちる途中で本能的に体を起こそうとするんじゃないか。」
「少なくとも頭を川底にぶつけたりはしないよな・・・。」
「おい、お前らなにやってんだ?」
声に振り向くと、そこにいたのはなんと、ガルガスの死についての調書を書いた、アルスとセラードだった。
「いや、警備でここを通ったんですけど、この間ここから誰かが落ちて死んだって聞いたもんで・・・。」
とっさに口をついて出た出任せだが、ガルガスの死は特に伏せられているわけではない。警備の一環として死人が出た現場を確認する、これは特におかしくはないだろうとグラディスは考えた。
「ああ、ガルガスさんか。頑固者って言われてたけど、気のいいおやっさんだったんだよな。ま、飲みすぎで落ちたんだから仕方ないのは仕方ないんだが、気の毒だよなあ。」
アルスは思ったとおりグラディスの話を不審がる様子も見せず、橋の欄干から下を覗き込んだ。
「しかし・・・いくら酒好きとは言え、あのおやっさんがなんで吐くまで飲んだりしたのか、俺は未だに納得いかないね。」
セラードが、川の流れを見つめながらつぶやいた。
「お2人ともご存知なんですね、その亡くなった人を・・・。」
ガウディが尋ねた。
「ああ・・・ガルガスさんは元々城下町で周旋屋をやっていた、あの業界じゃかなりの古株なんだ。俺達が駆け出しの頃、いろいろと町のことを教えてくれたりして、随分世話になったよ。その俺達がこの事件を扱うことになったのも、縁なのかもしれないなあ・・・。」
「こんなことで関わるなんて思ってもみなかったよな・・・。」
2人とも、川面を見つめたまま悲しげに眉根を寄せた。
「酒好きだったっていうなら、それなりに強いはずですよね。それが吐くほど飲むなんて、なんかあったんでしょうか・・・。」
グラディスが尋ねた。せっかく話の糸口が見つかったのだ。ガルガスの死について、怪しまれずに2人から何か聞きだすことが出来るかもしれない。
「亡くなるしばらく前から、元気がなかったことは確かだったよ。事件性があるって言うならいろいろ調べるんだが、聞いても『最近調子が悪くてね』なんて言ってただけだったしなあ。」
「なあ、せっかくここを通ったんだし、下まで降りて手を合わせておくか。」
「そうだな・・・。」
「あ、あの、俺達も行ってもいいですか?」
「ん?いやそりゃ構わんが、お前らおやっさんと面識があったのか?」
「そういうわけではないですけど、人が亡くなった場所だとわかっているのに素通りというのも・・・。」
それ以上なんと言っていいかわからず、グラディスは口ごもった。だがアルス達は『まあそれもそうだな』と言って、一緒に川べりに降りることになった。橋の袂に、下へと降りる道がある。
「この川は案外深いんだよな。素面ならなあ・・・。まあ酔っていたにしても、川に落ちていれば、死ぬことはなかっただろうが・・・。」
セラードが悔しげにつぶやいた。
(・・・川に落ちていれば・・・?)
妙な言い方だ。
「あの・・・この事件のことを教えてもらうのはだめですか?」
なぜだと聞かれたらなんと言おうか、頭の半分でそんな事を考えながら、グラディスは恐る恐る聞いた。
「それは構わんが・・・。」
アルス達はしばらくグラディスとガウディを見つめていたが・・・。
「お前らももうすぐ入団して3年か。よし、この事件について、俺達が知っていることを教えてやるよ。町の中で起きた事件について関心を持つことは悪いことじゃないからな。それに再発防止のためにも情報はみんなで共有しなきゃならん。」
4人で川べりに降りた。ちょうど橋の袂の真下辺りに位置する場所に、誰が手向けたのか花と小さな酒瓶が供えられている。4人で祈りをささげたあと、アルス達が今回の事件について、話してくれた。それによると、ガルガスの遺体が川に浮いているとの第一報は、早朝新聞配達をしていた青年によってもたらされた。最初は何か大きな荷物が浮いているのかと思い、近くを歩いていた王国剣士、つまりそれがこの2人なのだが、彼らに『荷物が川を流れているから回収したほうがいいのではないか』と知らせてくれたのだそうだ。そこで2人は確認のためにこの川べりに降りた。確かに大きな『荷物』が川の中ほどに浮いている。だがどうにも様子がおかしい。『荷物』にしては形が奇妙だ。だが確かめようにも川の真ん中では、水の中に入らないとその『荷物』を引き上げることは出来ない。そこで一度詰所に戻って準備をし、その『荷物』を岸に上げようと川に入ったのだが、そこでそれが人間の体だと気づいた。
「明け方でまだ薄暗かったからなあ。すぐに死体だと気づけなかったのが、未だに悔しいよ。」
「でもこの橋から落ちたのに、何でここで発見されたんでしょうね。」
グラディスが尋ねた。
「そういえばそうだな・・・。普通は川に落ちたらそのまま流されていくはずだし・・・。」
ガウディも首をかしげた。
「ま、それがもっともな疑問だよな。俺達も、荷物と聞いたときにはどこかの橋か船着場から落ちて流されてきたのかと思ったんだよ。それが人間で、しかも自分のよく知っている人物だと知った時には、さすがに震えが来たもんだ。」
セラードが大きなため息をついた。
「それがここから落ちたんだと、どうしてわかったんですか?」
「ああ、それがこれだ。」
アルスが指差したのは、花が供えられた場所のすぐ隣、よく見ると土がえぐれたようになっている場所がある。
「引き上げたあと、牢獄の検死医が調べたんだが、死因は頭部を強打したことによる、頭蓋骨の陥没骨折だった。そして、頭皮に付着していた土と、ここの土の成分が一致した。」
「そして体の中からは大量のアルコールも検出された、まあアルコールについては、俺達が川から引き上げる時もかなり臭かったから、死ぬ前に相当飲んだんだなってのはわかったがな。それで、酔っ払ってあの橋から落ちて頭を強打し、即死ではなくともそのまま倒れていたんだろうということになった。多分意識もなかっただろう。そのうち川の流れに掴まってゆらゆらと川の中に流されたところを、見つけられたんじゃないかということになったのさ。」
「つまり、あの橋の上から真っ逆さまに落ちたけど、川の中に直接じゃなくて川べりに落ちたってことですか。」
「そうだ。ほら、ここから上を見てみろ。ちょうど真上のあの辺から落ちたらしい。」
アルスが指差したほうを見上げた。さっきグラディス達が川を覗き込んでいたのは橋の真ん中ほどだが、この場所は橋を渡り切った袂のほうだ。ガルガスが飲んでいた店の方角からすると、『橋を渡る手前』ということになる。酔っ払ってここまで来たガルガスは、橋を渡る手前で手すりに寄りかかり吐いたらしい。そしてそのまま頭から落ち、地面に激突した。その衝撃で頭が地面にめり込み、おそらくは川側に倒れたのだろう、そのまましばらくはここに遺体があったのが、何かの拍子に川に向かって流された、ということらしい。『あんまり水ぶくれになってないから、水に浸かっていた時間はそんなに長くなさそうだな』検死医はそうも言っていたそうだ。
「正直俺としては納得いかなかったんだが、実際にそういう形でおやっさんは死んだんだ。検死医にも言われたよ。人間て言うのは、誰も考え付かないような状況で死んじまうこともあるんだぞってな。」
「とは言ってもやっぱり納得いかなくて、いろいろ調べたんだがな。おやっさんがあの日酒を飲んでいた店もわかっているし、かなり速いペースでぐいぐい煽ってたというのも、複数の客が証言している。店を出るときは足元もおぼつかない状況だったそうだから、どう考えてもこれは事故死でしかないってことだ。」
「つまり、全ての調査結果が、これを事故であると証明している、ということですか。」
「そういうことになるな。」
2人は渋い顔だ。自分達で得た調査結果に納得していないのは明らかだ。
「ま、お前らもこれから先、こういう納得いかないことで歯がゆい思いをすることになるさ。この仕事を続ける限りな。」
「それじゃ調査はもう終わりなんですね。」
「事故と言うことになっちまったからな。ほんのわずかでも事件性があるなら継続調査も出来るんだが、俺達は何も見つけられなかった・・・。」
アルスがため息をついた。
「なあアルス、こいつらに再調査してもらうってのはどうだ?」
「へ?」
セラードの言葉に、アルスはぽかんとして聞き返した。
「俺達は2人ともおやっさんとは親しかったし、どうしても客観的にこの件を見ることが出来なかったと思うんだよ。こいつらならおやっさんとは面識がないし、冷静な目で見ることが出来るんじゃないかと思ってな。」
「ふぅん・・・。」
アルスが考え込んでいる。
「でも・・・一度終わった話なのにそんなことをしていいんですか?」
グラディスとガウディにとって、アルスもセラードも尊敬すべき先輩だ。彼らの面子をつぶすようなことをするわけにはいかない。
「そうだなあ・・・。普通はやらないと言うより、出来ないんだよな。他にもいろいろと案件はあるし、今の城下町の状況では、毎日何かしら事件が起きる。」
「正直俺達も忙しいんだ。だから大分頑張って調べたが、何も見つけられなかった。だがどうしても納得がいかない。」
「でもアルスさん達が調べて何も出てこなかったのに、俺達が調べたところで・・・。」
このベテラン剣士2人の仕事を引き継ぐには、自分達があまりにも力不足だと言うことは、考えなくてもわかる。
「ま、何も出てこなくてもそれならそれであきらめがつくさ。だが、お前らに再調査をさせるには、それなりの理由が必要だな・・・。」
「それならこいつらを仲良くさせるためとでも言っておこうぜ。」
セラードの言葉にアルスが笑い出した。
「なるほど、それはいいな。この間の食堂での大喧嘩みたいなことが、もうなくなるようにってな。」
「あ、あの・・・あの時は・・・その、すみませんでした・・・。」
この2人も、あの時食堂にいたらしい。
「あの時お前らが食堂を飛び出したあと、ヒューイとパーシバルが心配してたんだぞ。『何とかしてやらないと今後の仕事にも差し支えるんじゃないか』ってな。そういえばお前ら、南大陸と執政館、どっちの勤務が先になりそうなんだ?」
「多分執政館になると思います。人手が足りないような話でしたので・・・。」
ガウディが答えた。2人がそれぞれエイベックとローディに出会ったあの日の数日前、剣士団長から『そろそろお前達も3年だな。ローテーションの状況から見て、まずは執政館の警備ってことになると思う。先輩達からいろいろと聞いて置けよ。』そう言われていたのだ。あの時は団長を疑うなんて、考えもしなかったのに・・・。
「あー、そうか。最近南大陸に向かう連中は4人くらいのパーティを組んでいくから、執政館の警備に回せる数が少ないって言ってたな。」
「南大陸はいつも4人で行くんですか?」
「いや、前は2人で行っていたんだが、最近モンスターどもが狂暴になりつつあってな。砂漠を渡るだけでも大変なのに、旅人を助けたりしながら歩くには、2人では手が足りなくなることが多いんだよ。それで最近は、二組4人で歩くことが多くなったんだ。まあ、南大陸の中でも東側に向かう時だな。西側はそれほど手強い奴がいないから、今まで通り2人一組で歩くことになってる。」
南大陸・・・。先輩達から聞いてはいたが、相当厳しい場所であることは確かだ。北大陸南地方の警備は、グラディス達は何度も行っている。2人が南地方に行けるようになったのは、入団して1年半くらい過ぎた頃だ。南地方だって生半可な腕では歩けない場所だが、南大陸の厳しさは、それを遥かに上回るものだ・・・。
「ま、執政館も南大陸も、あんな喧嘩をしていられるような場所じゃないからな。もう少し冷静になれよ2人とも。あと、この件について、もう一度調べてみてくれよ。俺達から団長に話は通しておく。」
「・・・わかりました・・・。」
「ま、何も出てこなくて元々だ。事件の調査に慣れるためってことにして、気楽にやってくれよ。ただし、仲よくな。」
「は、はい・・・。」
二人とも神妙に頭を下げた。『喧嘩をした』ことについては、2人とも反省している。
「妙な話になったなあ・・・。まあおかげで堂々と調べることができるようになったが・・・。」
アルスとセラードが巡回警備に戻り、グラディスとガウディは川べりでぽかんとしたまま立ち尽くしていた。
「だがどうするんだ?あの二人が調べても何も出てこなかったのに、俺達で何とかできるのか?」
「わからん。」
グラディスの返事は素っ気ない。
「わからんて・・・それは無責任じゃないか。こうなったら何が何でも新しい事実を探し出さないと。」
ガウディは苛立った。まったく、こいつはいつもこうだ。無責任なことばかり言う。
「そりゃ『新しい事実』があるならな。出てこない可能性もあるって言われたじゃないか。」
グラディスも苛立って言い返した。まったく、こいつはいつもこうだ。偉そうに言うわりに大した考えはないんだからな。
「それはそうだが・・・とにかくもっと調べないと。」
「調べるといってもなあ・・・。あ、そうだ。それじゃ検死医のところに行ってみないか。」
調書には当時当番だった医師会のモーガン医師が検死をしたと書いてあった。アルス達の話を聞く限り、経験豊富な医師のようだ。直接話を聞けば、もう少しいろいろとわかることがあるかもしれない。
「モーガン先生か。そうだな。話を聞いてみよう。」
ここで川を睨んでいても事態は変わらない。相方がどんなに気に入らない奴でも今はけんかをしている場合ではないということだけは、2人とも理解していた。食堂での大喧嘩は剣士団中の噂になった。先輩達だけでなく同期の剣士達にもからかわれる始末だ。言われるたびに謝ったところで説得力がない。この事件についての再調査は、ある意味チャンスかもしれない。何も見つけることが出来なかったとしても、きちんと調査をすることでみんなにその姿勢をわかってもらうことが出来るかもしれない・・・。
「しかし・・・調書を見ただけではわからないことはあるな。」
ガウディが言った。これにはグラディスも同感だ。
「そうだなあ・・・。あの調書を読んだだけでは『これは間違いなく事故死で問題なし』としか思えなかったよ。アルスさん達も、そう書くしかなかったんだろうな。」
「下手に事件性を匂わせるようなことを書いたら、それならなんで継続調査しないんだってことになるしなあ。」
「パーシバルさん達も多分同じ話を聞いたはずだよな。」
「話を聞かせてもらったとは言ってたが、果たして俺達と全く同じ話を聞いたかどうかはわからんぞ。」
「それもそうか。事件性がないのに自分達がおかしいと思うから再調査してくれとは、アルスさん達だって言えなかっただろうしな。」
「ま、俺達が期待されていないことだけは確かだ。何も出てこなくて元々、それでも剣士団の中の厄介コンビをおとなしくさせるにはちょうどいいかもしれないと思われたんだろう。」
ガウディの口調はいささか自嘲気味だが、グラディスもそれに異を唱えることはできない。確かに、自分たちが期待されて任されたのでないことくらい、わかっているつもりだ。
「パーシバルさん達なら間違いなく成果を上げてくれそうだが、あの二人は忙しすぎるしな・・・。」
アルス達の話を聞いたとき、おそらくパーシバルも疑問に思うことはあっただろう。だが先にそれを言ってしまうと、自分たちがパーシバルの意見に引きずられてしまうと思われたのじゃないだろうか。
「そうなんだよな・・・。だから昨夜は何も言わなかったんだろうな。」
そんな話をしながら、二人は地下牢へ向かうべく王宮の玄関前を通って木戸の前まで来た。この小さな木戸が、牢獄と外の世界を分ける門なのだ。
「あれ?なんだお前ら。」
なんとそこにいたのはヒューイだった。まさかこんなところで会うとは。おそらく泥棒でも連行してきた帰りなのだろう。パーシバルの姿は見当たらない。町の中を警備するとき、ヒューイとパーシバルはいつも二手に分かれて行動しているから、今回もそうなのだろう。
「泥棒でも・・・いや違うか。お前ら二人しかいないもんな。」
「は、はい・・・。この間捕まえた泥棒のことが気になって・・・。」
グラディスはとっさに出任せを言った。だがヒューイは不審がる様子も見せず、『なるほどな』とうなずいた。
「しかしお前らも人がいいなあ。捕まえた奴をいちいち気にしてたら仕事をする暇がなくなるぞ。」
ヒューイは先日の食堂での大喧嘩のことを言っているのだろう。あの時のけんかの原因は、ガウディが捕まえたエイベックのことだ。ヒューイは笑って『まあ程々にしておけよ』と言って立ち去った。パーシバルは、団長の指示が『グラディスとガウディを仲良くさせる』だとヒューイには言っておくと言っていた。たぶん今ここで会ってその話を何も言われなかったのはそのせいだろう。パーシバル一人で解決しなければならない問題だ。ここで自分が下手なことを言えば、パーシバルが禁を破ってヒューイに相談した、なんて言われかねないと思っているのかもしれない。
「あの人はすごく気が回る人だからなあ。」
「ヒューイさんにかかればすぐにでもこの件は解決しそうだよな。」
「まったくだ・・・。」
そしてまた湧き上がる疑問。団長は、それを見越してヒューイに秘密にしているのではないか・・・。
「ここで立っていても仕方ない。行くか。」
「そうだな・・・。」
二人は木戸を抜け、牢獄の建物へと向かった。
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