←前ページへ



 
「健気ねぇ。まだ15歳だって言うのに、あんなに重いワゴンを押して食事を配るなんて。」
 
 クリスティーナが出て行った扉を見つめ、妻が笑顔で言った。
 
「ここで看護婦としての仕事をする気ならそれは仕方ないよ。みんなやっていることなんだから。」
 
 手伝いだから楽な仕事だけしておこうなんて言う考えは、あの娘にはなさそうだ。
 
「そうね・・・。さあライラ、温かいうちに食べたほうがいいわ。食事は自分で出来る?」
 
 イルサがベッドの上に備え付けのテーブルをだし、妻がクリスティーナから受け取った食事を乗せた。
 
「自分で食べるよ。先生、そのくらいはいいよね?」
 
「かまわないよ。今日はだいぶ動いたからね。食べたあともう一度診察するよ。」
 
 ライラが起きあがって食事を始めた。スプーンを持ちづらそうにしているが、取り落とすほどしびれがひどいわけではないようなので、黙っていた。隣のベッドではアスランがセーラに食べさせてもらってるらしい。隣のベッドとこちらの間にはカーテンが引かれている。その向こうからセーラの声が聞こえてきた。
 
「ねえ、これっておいしいの?」
 
「ここのメシよりはうまいな。どろどろだからみんな同じかと思ったけど、やっぱりチェリルのメシはうまいよ。」
 
「ふーん・・・。」
 
「お前も食ってみればいいよ。別に健康な奴が食っちゃいけないってわけでもないだろ?」
 
「そ、それはそうだけど・・・。」
 
「・・・・・・・・・。」
 
「あ、本当だ。おいしいわ、これ。」
 
 どうやらセーラはアスランの食事を食べてみたらしい。
 
「な?まあ、しばらくはこの歯ごたえのない奴で我慢しなくちゃならないんだから、せめて味だけでもって言う心遣いはうれしいな。」
 
「そうね・・・。見習いたいわね・・・。」
 
「ローランの診療所か?」
 
「うん・・・。患者さんにとって、食事は楽しみだもの。おいしい食事を食べさせてあげたいわ。」
 
「明日チェリルが来たら聞いてみろよ。別に企業秘密ってわけじゃあるまいし、作り方とか教えてくれると思うぞ。」
 
「そうねぇ・・・聞いてみようかなあ・・・。」
 
「そうだな・・・。おっと、口は自分で拭くぞ。」
 
「はいはい、どうぞ。」
 
 カチャカチャと食器を重ねる音がした。アスランの食事は終わったらしい。こちらでもライラが食べ終わったところだ。
 
「へぇ・・・昨日よりはちゃんと拭けるようになったわね。」
 
「このくらいのことは出来るようにならないとなあ。」
 
「でもリハビリも順調なようだし、きっとすぐによくなれると思うわ。」
 
「ああ、そうだな。」
 
「そのためには、はい薬。」
 
「うへえ・・・またそれかぁ。苦いんだよなぁ・・・。」
 
「早くよくなりたいんでしょ。さあ飲んで。」
 
 セーラの声は楽しそうに聞こえる。
 
 しばしの沈黙。
 
「うー・・・・うぇ・・・ふぅ・・・・やっと飲めた・・・。」
 
 相当苦かったらしい。
 
「はい、お疲れ様。それじゃもう寝たら?」
 
「うん・・・。」
 
「・・・どうしたの?」
 
「なあセーラ・・・。」
 
 アスランが遠慮がちな声で話し出した。
 
「なに?」
 
「母さんが風邪ひいてるって・・・お前言ってたけど、ひどいのか・・・?」
 
「そんなでもないと思うわ。自分で診療所に来たんだし。」
 
 セーラの口調は素っ気ない。
 
「そうか・・・。ならいいんだけどな・・・。」
 
「あの人が風邪ひいてなくたって、私が来たわよ。あの人だってここに来たくなんてないんじゃない?」
 
「そんな言い方するなよ。」
 
「お兄ちゃんのこと本当に大事だったら、風邪くらい無理矢理薬飲んででも来たと思うわ。結局、ここに来て昔の知り合いなんかに会ったらいやだからよ、きっと。」
 
「おいセーラ!」
 
「だってそう思わない?ずっと昔から、あの人は城下町に行こうとしなかったわ。お祭りだって父さんが連れて行ってくれただけよ。おにいちゃんが剣士団に入ってから、1回くらいはこっちに来たけど、それもやっとじゃない。」
 
「だって仕方ないだろう。今は普通に暮らしてるんだから、昔のことなんてほじくり出されたくないじゃないか。」
 
「どうかしらね。結局あの人は、自分が一番大事なんだわ。」
 
「そんなことないって。」
 
「もうやめましょ。あんな人の話はしたくないわ。風邪でも何でもひいてればいいのよ。」
 
「おい・・・・!」
 
「ちょ、ちょっと、痛い!離してよ!そんなに怒ることないじゃないの!」
 
「怒るのが当たり前だ!なんでお前はそんな言い方しか出来ないんだ!?あの人なんて言うな!俺達の母さんじゃないか!」
 
 2人とも、いつの間にか声が大きくなっていることに気づいてないらしい。
 
「あんな人が母親だなんて思いたくないわ!・・・なんで子供は親を選べないのかしら。あんな・・・汚らわしい・・・・!」
 
「セーラ!・・・・う・・・・・。」
 
 どさりと音がした。
 
「無理しないでよ。まだ自分で起きられるわけないじゃないの!」
 
 アスランはどうやら起きあがろうとして出来なかったらしい。
 
(音がしたってことは、途中までは体を起こせたわけか。)
 
 回復はかなり順調のようだが・・・今はそれを喜んでいる場合ではなさそうだ。
 
「汚らわしいだと・・・?」
 
 アスランの声が震えている。
 
(・・・・・・・・。)
 
 汚らわしいという言葉の中に、セーラのとまどいのようなものを感じた。本当は・・・セーラはそんなこと思っていないんじゃないだろうか・・・。でも今さら引っ込みがつかなくて、素直に謝ることが出来なくて、母親を非難する言葉を必死に探している、そんな気がした・・・。母親を非難すればするほど、傷ついていくのは自分なのに・・・。
 
「ちくしょう・・・この体が動くなら、お前を思いきりぶん殴るところだ・・・。」
 
 アスランの声は悔しいというより悲しげだ。
 
「・・・・・・・・・・。」
 
 セーラの後悔・・・罪悪感・・・。セーラは自分が今言ったことが、どれほど兄を傷つけたか、そしてどれほど言ってはいけないことだったか、わかっているはずだ。
 
「そ・・・そう。それじゃいきなり殴られないように、私は喫茶室でコーヒーでも飲んでくるわ。」
 
 セーラが立ち上がる気配がした。それと同時に私の背後でも誰かが立ち上がった。カーテンの向こうからセーラが顔をだし、私達の脇をばつの悪そうな顔で通り過ぎようとしたとき・・・
 
「待ちなさいよ。」
 
 背後の人影がセーラを呼び止めた。妻かと思っていたのだが、なんとそれはイルサだった。
 
「な、なんですか?」
 
 イルサは応えず、立ち止まったセーラに向かって右手を振りあげた。
 
−パシッ−
 
 イルサの平手がセーラの頬に飛び、病室の中に音が響いた。
 
「な・・・なにするの!?」
 
 セーラは驚いて声をあげた。
 
「あ、あの・・・イルサさん・・・?」
 
 アスランの声は戸惑っている。彼の位置からは何が起きているかは見えないはずだが、音で察しがついたのだろう。
 
「何よその言い方。」
 
 イルサはアスランには振り向きもせず、立ったままセーラを睨みすえている。
 
「な・・・何よって何よ!?」
 
 セーラはいきなり叩かれて、わけもわからないまま言い返した。
 
「何が汚らわしいよ!自分のお母さんに向かって、そんなこと言っていいと思ってるの!?」
 
「あ・・・あなたになんてわからないわよ、私の気持ちなんて!」
 
「いいえ、わかるわ。子供みたいにだだこねて、お母さんの愛情を踏みにじっているってことがね!」
 
「何が愛情よ!あの人は・・・私達のことより、自分が昔の知り合いに・・・客に会うのが嫌なだけよ!私達を産んだ人が昔どんな仕事をしていたか、あなた知ってる!?」
 
 セーラは自嘲するような口調で叫んだ。
 
「・・・知ってるわ。」
 
「え・・・・?」
 
 セーラがぎょっとして後ずさった。
 
「アスランに聞いたもの。」
 
「それならわかるでしょう、私がどんな気持ちでいるか!」
 
「あなたね、子供を産むとき、母親がどれほど痛い思いをしているのかわかってるの!?」
 
「え・・・・?」
 
「産むときだけじゃないわ。お腹に赤ちゃんが出来たときから、つわりに悩まされたり、食事が出来なくなったり、ひどくなるとね、産むまでほとんど普通の生活が出来なくなってしまう人だっているのよ!」
 
「わかってるわよそんなこと!うちの患者さんには妊婦さんだってたくさんいるんだから!」
 
「それならなんで!自分もそうやって生んでもらったんだって考えないのよ!?」
 
「・・・・・・・・。」
 
 イルサはライラとアスランの間を隔てるカーテンをざっと開けた。
 
「イ、イルサさん・・・。」
 
「アスラン、あなた、この間私にいろいろ話してくれたわよね。お母さんが結婚する前のこととか。」
 
「・・・ああ・・・うん・・・・。」
 
「そのこと、まだセラフィさんに話してあげてないの?」
 
「それは・・・その・・・。」
 
「必ずちゃんと話して、お母さんとセラフィさんの間の誤解を解くんだって言ってたじゃないの。」
 
「・・・情けない話だけど・・・俺の勇気がなかったってことかも知れないな・・・。」
 
「・・・・・・・・。」
 
「な、なによ・・・?私が知らないことがあるって言うの?」
 
 セーラが不安げにアスランを見た。
 
「・・・ああ・・・。」
 
「どうしてそれをイルサさんが知ってるのよ?」
 
「俺が話したからさ。イルサさんにはちょっとつらいことがあってな、元気になってもらいたくて、いろいろと話をしたんだよ。」
 
「ばかね・・・。そんな話をするから、イルサさんだっていやになったんじゃないの・・・。誰だってあんな女が母親だなんて聞いたら・・・。」
 
「それは違うわ。」
 
 セーラの言葉をイルサが遮った。そして小さくため息をついて、セーラを真正面から見つめて言葉を続けた。
 
「私ね、ずっと昔から好きな人がいたの。でもその人は私のことは友達としてしか見てくれなくて、でもそれでもあきらめられなくて、いつまでも引きずったままだったわ。アスランと最初に会ったときね、私の仕事を手伝ってくれたお礼にって、食事に行ったの。その時に私があんまり落ち込んでいるものだから、アスランがいろいろと話して励ましてくれたのよ。あなたのお母さんが出会った出来事は、とても悲しいお話だったけど・・・今は優しいご主人と子宝にも恵まれているんですものね。とても勇気づけられたわ。」
 
「・・・・・・・・。」
 
「子供は親を選べない、それはあなたの言うとおりだと思う。でも、あなたとアスランを見ていると、きっとご両親は立派な方なんだって思うわ。昔の仕事が何よ?なんの関係があるの?いつの話だか知らないけど、そんな昔のことより、あなたのお母様が今、あなたをどれほど愛してくれているか、それを考えてよ!」
 
「・・・俺の言いたかったこと、イルサさんに全部言われちゃったな・・・。」
 
 アスランがベッドの中でつぶやいた。笑っているような声だ。
 
「ごめんなさいね、アスラン、差し出口だってわかってたけど・・・。」
 
「いいよ・・・。誰かに言ってもらわないと、こいつもいつまでも意地張ってるから・・・。」
 
「い、意地なんて別に・・・。」
 
 セーラは唇を噛みしめてそっぽを向いた。
 
「なあセーラ、今イルサさんが言ってたことだけどな。」
 
「なに・・・?」
 
「母さんな、昔一度流産したことがあるらしいんだよ。」
 
「え・・・・・?」
 
「知らなかっただろ?」
 
「そ、そんなこと知らないわよ・・・。どうせ、仕事してた時のどこの誰ともわからない・・・」
 
「それは違う。」
 
 アスランがセーラの言葉を遮った。
 
「どうしてそんなに言い切れるのよ?」
 
「母さんが俺くらいの年の頃だったそうだから、まだその仕事をする前だったらしいよ。店の下働きをしていた頃のことらしい。」
 
「どうだかわからないわよ、そんなこと。」
 
 セーラは素っ気なさを装っているが、内心の動揺が声ににじみ出ていた。
 
「まあ聞けよ。そのころ母さんには、本気で好きな男がいたんだそうだ。一年くらいはつきあってたらしい。でも結局、母さんは仕事をしなくちゃならなくなって、その男と別れた。子供がいるってわかったのはそのあとだそうだよ。」
 
「・・・・・・・・・・。」
 
「母さんとしては産むつもりだったらしいんだが、結局流産しちまった。その時、もう子供は産めないかも知れないと医者に言われたそうだ。」
 
「う、うそ!?それじゃ、私達は・・・。」
 
「俺とお前は間違いなく父さんと母さんの子供だよ。俺が母さんの腹の中にいるってわかった時、父さんと2人で抱き合って泣きながら喜んだそうだ。結婚したときから子供はあきらめていたから、思いがけず家族が増えてすごくうれしかったって。だからお前が出来た時も、これ以上幸せになっていいんだろうかって大騒ぎだったらしいよ。そして産まれてみたら女の子だった。この子には、絶対につらい思いをさせないって、大きくなったら好きな仕事に就けて、好きな人と結ばれるよう、私達ががんばらなきゃって、産まれたばかりのお前を抱いて、母さんが泣いていたことも聞いた。」
 
「そ、そんな・・・そんな話いつしたのよ。私そんなの知らない・・・。」
 
 セーラの目から涙が落ちる。
 
「母さんの昔の仕事を聞いて、お前が部屋を飛び出したあとさ。」
 
「・・・・・・・・・・。」
 
「俺もあんまりびっくりして立ち上がりたかったけど、お前に先を越されて出て行くに行けなくなっちまった。それで肚をくくって、父さんと母さんの話を聞いたんだ。でも聞いてよかったよ。でなきゃ俺は今頃グレて、王国剣士になるどころか、王国剣士に捕まって牢に放り込まれる側だったかも知れないぜ。」
 
 セーラは溢れる涙を拭おうともせず、呆然と立ちつくしていた。
 
「お前と俺が生まれたとき、父さんと母さんがどれほど喜んでくれたか、父さんと母さんが俺達をどれほど大事に思ってくれているか、それをわかってほしかったんだよ。でもお前はずっと家にも寄りつかなかったし、ローランまで会いに行っても母さんの話を出すと怒り出して聞いてくれなかったから、ずっといつ言おうか考えてたんだ。でもイルサさんのおかげで、今言えた。イルサさんに感謝だな。」
 
「・・・お兄ちゃんずるいよ・・・。そんな話・・・今ここでするなんて・・・。」
 
 セーラが顔を覆って泣き出した。
 
「優しいお母さんなのね。」
 
 イルサが笑顔をアスランに向けた。
 
「うん。いいお袋だよ。子供の時はそれなりに、母親なんてって突っ張ってたけどさ、俺は甘ったれだったそうなんだ。今だってお袋のことは好きだよ。ま、だからって面と向かって『母さん大好き』なんてのは今更言えないけどな。子供の頃はしっょちゅう言ってたそうなんだけど。」
 
「・・・・そうね・・・。あなたがこの間お母さんの話をしてくれたとき、とても優しい顔で話してくれたわ。」
 
「そ、そうかな・・・。」
 
「ふふふ・・・私、泣いてたけどね、それはちゃんと見てたのよ。」
 
「そ・・・そうか・・。なんか恥ずかしいなあ。」
 
「そんなことないわ。・・・セラフィさん、叩いたりしてごめんなさい。よけいな口出ししちゃったけど、私、母さんから子供を産むのがすごく大変だってこと聞いてたから、そんな思いをして産んだのに、あんな言い方されたら悲しいって思ったから・・・。」
 
 セーラは答えず、泣いている。
 
「謝ることなんてないよ。俺のほうがイルサさんにお礼を言わなくちゃ。ありがとう。そんな風に本気で怒ってくれて。」
 
「お兄ちゃんてば・・・変なお礼の言い方・・・。」
 
 セーラが泣き顔のまま少しだけ笑った。
 
「あ・・・それもそうだな。」
 
 アスランも笑い出した。そんな2人を、イルサは少しの間微笑んで見つめていた。
 
「ねえアスラン。」
 
「は、はい?」
 
「やっと普通に話してくれるようになったわね。」
 
「え・・・?・・・あ・・・。」
 
「ふふふ・・・。やっぱりそのほうがいいわ、堅苦しくなくて。」
 
「あ、はい・・・。」
 
 妙にかしこまったアスランの返事がおかしかった。真面目な若者らしいから、きっとイルサに対して敬語でも使っていたのだろう。小さい頃からイルサはとても明るくて、誰とでもすぐに友達になった。
 
『堅苦しいのはナシね』
 
 それがイルサの口癖だ。言葉の意味がわかっているんだろうかと言うくらい小さな頃から、よく言っているのを聞いた。そこにライラが『堅苦しいって言う意味はね・・・』などと憶えたての知識を披露して、うるさがられたあげくに喧嘩になる。そしてカインとアローラが訳もわからずに仲裁に入り、かえって話をこじらせて今度は4人で大喧嘩・・・。久しぶりに聞いて、何となく子供達の小さな頃のことを思い出していた。
 
「ねえセラフィさん、今いきなり、お母さんに対して考えを変えてなんて言えないけど、せめて、もう一度考えてみて。出来れば、お母さんと一度話し合ってほしいなと思う。」
 
 セーラが黙ったまま、小さくうなずいた。それを見て、イルサはほっとしたように笑顔を見せた。
 
「ねえアスラン、セラフィさん、あのね、一つ言っておかなきゃならないことがあるの。今度は私の話を聞いてくれる?」
 
「は、はい・・・。」
 
「え・・・と、な、なにかな・・・?」
 
「私ね、本当は、もうここに来ないほうがいいかと思ってたの。また私のことでアスランに迷惑をかけたくなかったし、セラフィさんだって私がここにいたらいやな思いすると思うし・・・。」
 
「イルサさん・・・。」
 
 アスランの声に悲しげな響きがこもった。
 
「でもライラが入院しちゃったから、やっぱり毎日ここに来ることになっちゃった。セラフィさん、いやかも知れないけど、ライラが退院するまではよろしくね。あなたがお兄さんを心配するのと同じように、私もライラが心配なの。見た目はこうだからみんなライラがおとなしいと思い込むんだけど、本当はすごい無茶をするんだから。」
 
「イルサ、なんで僕に矛先が向くんだ?」
 
 ライラがあきれたように言った。
 
「さっき先生達に聞いた話、ちゃんと憶えてるわよ。今度から、ライラが私に『慎重に行動しないと』なんて言っても聞かないようにしなくちゃね。」
 
「はぁ・・・しばらく言われそうだな・・・。」
 
「ふふん・・・覚悟しておくのね。」
 
 2人のやりとりを聞いていたセーラが笑った。
 
「ねえイルサさん。」
 
「なあに?」
 
「もしよければだけど、ライラさんが退院してからも、ここに来てくれる?」
 
「え・・・?」
 
「あなたがいやなら無理にって言わない。剣士団の人達があなたのことを、お兄ちゃんの彼女だって騒ぎ立てているのも、あなたがそれで困ってるのも知ってるわ。だけど・・・あなたがこの病室の中にいるだけで、お兄ちゃんすごくうれしそうなんだもの・・・。だから・・・。」
 
「こ、こらセーラ!よけいなことを言うな!」
 
「あ、よけいなこととは何よ。イルサさんが来ていないと、ため息ばっかりついてるくせに。」
 
「・・・俺はイルサさんをちゃんと守れなかったんだ。それどころか一番先に倒れて、ずっと迷惑のかけっぱなしだ。イルサさんに来てもらう資格なんてないよ。イルサさん、無理しないでくれよ。」
 
「そんな言い方しないで。資格も何もないじゃないの。あなたは私をちゃんと守ってくれた。そのことはとても感謝しているの。」
 
「お兄ちゃんに怪我させた人達は捕まったの?」
 
「それはまだだよ。」
 
 なかなか微笑ましい若者達の会話をずっと黙って聞いていたかったが、この問いについては答えておくことにした。
 
「王国剣士がだいぶがんばってくれたらしいけど、祭りの人混みに紛れ込まれてしまったらしい。」
 
 本当は一人捕まえたと言うことだが、すぐに毒をあおって死んでしまった。失敗すれば死ななければならないなんて、いったい彼らはどういう組織の者達だったのか、それは本当にまだわからない。
 
「そうなんですか・・・。」
 
「いずれ捕まるさ。剣士団が必ず捕まえてくれるよ。そんなことは気にしなくていいから、君はお兄さんの看病を、しっかりしてあげなさい。」
 
「はい・・・。」
 
「あの・・・クロービス先生・・・。」
 
 アスランの声がした。
 
「なんだい?」
 
 私は立ち上がり、アスランのベッドのそばに行った。
 
「・・・・・・・・・。」
 
 アスランは何か迷っているような複雑な表情を浮かべて黙り込んでいる。
 
「どうしたんだい?具合が悪いところがあるのなら、遠慮しないで言ってくれ。ちゃんとハインツ先生に伝えておくよ。」
 
「いや、そうじゃないんだけど・・・・聞きたいことがあって・・・。」
 
「なんだい?」
 
「いやその・・・雲を掴むような話で、本当かどうかわからないことなんだけど・・・。」
 
「かまわないよ。答えられるかどうかは聞いてみないと何とも言えないけどね。」
 
「あの・・・先生は昔王国剣士だったんですよね・・・。」
 
「ああ、そうだよ。」
 
「・・・いや、やっぱりだめか・・・・。名前もわからないし・・・。わかっても・・・。」
 
 アスランは一人でぶつぶつ言っている。
 
「・・・・・・・・・・。」
 
 少し待ってみることにした。質問の意図はわからないが、まず内容を聞いてみないことには始まらない。
 
「もう途中まで聞かれちゃったから言いますけど、俺達のお袋は昔歓楽街にいたんですよ。10歳の時にあの町に売られてきたそうです。住んでいた村一つ、救うための金と引き替えに。」
 
「・・・・・・・・・・?」
 
 どこかで・・・聞いた話のような・・・。
 
「さっき俺達が話してた、お袋の好きだった男ってのが、何でも当時王国剣士を目指していたって話だったんで、知ってるかなあなんて思ったんですけどね。考えてみれば俺はその人の名前も知らないし、お袋もそれ以上は話してくれなかったから、もしかしたら単に王国剣士にあこがれてただけの奴かも知れないし、第一聞いて知ったところでどうにもならないなあ、なんて思ったら、先生に何を聞いていいのかわからなくなっちゃって・・・。」
 
「なほどね・・・。確かにそれは雲を掴むような話だな。それに、私がここにいたのはせいぜい1年程度のことだからね。歳も知らないんだろう?」
 
「それも言わなかったな・・・。俺もそんなに詳しく知りたいと思わなかったから。」
 
「まあそれはそうだろうな。私もね、私よりずっと年配の人達とかになるとよくわからないんだ。1年程度では執政館勤務の先輩達と顔を合わせる機会も稀だったからね。まあさすがに顔を知らないってことはなかったけど。」
 
「そうですよね・・・。」
 
「もしも私が知っていたら、君はどうするつもりだったんだい?」
 
「・・・それもわからないんです。どうする気だったのかな・・・。今となってはなんの関係もないんだし・・・ははは・・・ただ知りたいだけってのは、理由にはなりませんよね。」
 
「君の母さんは、知ってほしくないと思ったから言わなかったんだろうね。相手のあることだし。自分が今幸せな暮らしをしていて、相手も同じだったなら、そこに無用な波風を立てることにもなりかねないしね。」
 
「そうですよね・・・。はあ・・・俺何やってんだろ・・・。」
 
「しかしまあ・・・今の話で、君の頭の中の記憶障害がほとんどないことはわかったよ。それは収穫だったな。」
 
 息子が調べてくれたことと考え合わせても、彼の脳に障害が起きているということはなさそうだ。それもまた、フロリア様の呪文のおかげかも知れない。でもそう考えても、以前ほど悔しいなどと思うことはなくなった。吹っ切れたと言うことかも知れない。
 
「そうですね・・・。特に記憶が飛んでるとか、そういう感覚はないなあ。あ〜あ・・・これで体が動けばなあ。」
 
「リハビリは順調だそうじゃないか。」
 
「はい。思ったより回復してるらしくて、明日あたりから、少しならベッドの上に起きあがってもいいって言われてるんです。やっと体を起こしてメシが食えるかなと思って。」
 
「そうか。でもあまり張り切りすぎないようにね。」
 
「はい。無理はしません。早く仕事に復帰したいし。」
 
「それがわかっているのなら心配はないな。ではそろそろ私達も引き上げようか。」
 
「そうねぇ、お腹も空いたし、宿に戻りましょう。」
 
 妻も腰を上げた。
 
「私も戻るわ。今日は東翼のレストランで食事するつもりだから。」
 
 イルサもそう言って立ち上がった。
 
「ひとりで?」
 
 宿泊所が警備されているとは言え、あまり一人で行動するのはよくない。少し心配になって尋ねた。
 
「へへ・・・本当は約束してるの。図書室の司書をしているソフィアさんて人と。まだ時間があるけど、先に行って待ってるわ。あまり出歩かないほうがいいと思うし。」
 
 王宮の宿泊所は、なかなか設備が充実しているらしい。それほど規模は大きくないが、食事が出来るレストランや、日用品が買える店もあると聞いた。この宿泊所は司書や灯台守など、普段は王宮の外で仕事をしている人達が研修でやってきたり、イルサのように仕事で王宮に来たりした人達のために作られたものらしい。今は昔と違って、南大陸の端っこまでも王国剣士が出掛けていくし、灯台守達の仕事も、南と北の大陸を股にかけているためにかなり人数が多い。司書達も南大陸まで移動図書館で出掛けていくので結構な数の司書が採用されていると、イルサの仕事が決まったときにイノージェンが話してくれた。つまり、ここのレストランも店も、いわゆる『利用客』には事欠かないようなので、それなりに商売として成り立つらしかった。
 
「そうだね・・・。今の状況では仕方ないな・・・。それじゃイルサを送ってから帰ろうか。」
 
「そうね。」
 
「それじゃ、帰るわね。アスラン、セラフィさん、また明日ね。」
 
「うん、また。」
 
「はい、お気をつけて。」
 
「ライラ、あとはちゃんと寝ていてくれよ。明日また診てあげるから。」
 
 若者達の会話の間、少し診た限りでは患部に異常はない。おそらく明後日あたりには手のしびれもとれるだろう。他に異常が出なければ、一週間程度で退院できそうだ。私達はイルサを送ってから一度診療所に戻り、ドゥルーガー会長に会いに行った。
 
「・・・なるほど、それでは貴公はもうアスランの治療には関わらぬと、そういうことだな?」
 
 ドゥルーガー会長は、残念そうだった。
 
「はい。最先端の技術を身につけた医師会の皆さんがいらっしゃるのですから、私がこれ以上関わる必要はないと思います。元々私達はただの旅行者ですから。」
 
「ふむ・・・確かにそうなのだが・・・マレックから先ほど報告を受けたのだが、貴公は整体の技術も持っているそうではないか。」
 
「ブロムさんに教わりましたから。」
 
「うむ、あやつが整体の研究をしていたのはもう遠い昔だが・・・・忘れておらなんだとはうれしいことだ。クロービス殿、マレックも言っておったのだが、整体の師として医師会の者達に指導をしてくれる気はないか?いや、もちろん今すぐの話ではない。今は貴公の身の回りもだいぶ騒がしいようだ。落ち着いてからでもかまわぬし、一度島に戻ってからでもよいのだが・・・。」
 
「師と呼んでいただけるほどの技術があるかどうかは何とも言えませんが、その件については前向きに検討したいと考えております。でも私も、城下町を出たら今度はカナに向かう予定なので、その後一度島に戻って、ブロムさんとも相談してから決めさせていただきたいのですが。」
 
「うむ、了解した。ではブロムによろしく伝えてくれ。私から手紙を出してもいいのだが、ものには順序というものがあろう。貴公から話を通してくれれば、私も奴に頼みやすいというものだ。」
 
「わかりました。」
 
「ではよろしく頼む。いい返事を期待しているぞ。アスランのことは承知した。安心して任せてくれてよいからな。」
 
「ありがとうございます。よろしくお願いします。」
 
 
 
 ドゥルーガー会長の言葉は社交辞令ではなく、本当に私に整体の技術を教えてほしいと考えているようだった。一度今のうちにおじさんに手紙を出しておこう。おじさんは私のために、ドゥルーガー会長に医学の資料を送ってくれるよう頼んでくれていた。おそらくは医師会なんて、出来る限り関わり合いたくない相手だったろうに。私が医師会と交流することで、ドゥルーガー会長とおじさんとの間にある溝を、少しでも埋めることが出来るかも知れない。
 
「私がしっかりしなくちゃな・・・。」
 
「え?」
 
 妻が振り向いた。
 
「いや、独り言さ。」
 
 
 
 もう夜だ。祭りの人混みを縫って、私達はまっすぐに宿に戻った。宿の賑やかさは相変わらずだ。食事を頼んで部屋に入るなり、妻が口を開いた。
 
「ねえクロービス、あの子達・・・。」
 
「待った。」
 
 妻が言いたいことはわかる。さっきの話を聞く限り、妻と私は同じことを考えたはずだ。だが、まずはそれぞれが聞いたライラとイルサの話をちゃんと聞いておく必要がある。
 
「そうね・・・。そっちが先よね・・・。」
 
 妻がため息をついた。
 
「まず私から話すわ。イルサも誰かに話を聞いてほしかったみたいでね・・・。自由に歩き回れるなら友達もこっちにいるみたいなんだけど・・・。」
 
「さっき言ってた司書の友達もその一人なんだろうね。」
 
「そうね。でも、下手に友達といて、その人まで巻き込まれたら申し訳ないって、なかなか会えなかったみたい。今は東翼にも王国剣士さんがいるし、ライラのほうも心配ないから、やっと食事の約束が出来たって言ってたわ。」
 
「敵を捕まえるってのは難しそうだけど、あの二人の身の安全くらいは確保してやらないとなあ・・・。」
 
「そうね・・・。」
 
「で、君が聞いた話は、やっぱりアスランのことかい?」
 
「ええ。あと、父さんと母さんはどこにいるのかなって。」
 
「やっぱりそうか・・・。」
 
「ライラも言ってたの?」
 
「うん・・・。」
 
「そう・・・。気になるわよね。こっちにいるのがわかってるのに顔を出さないなんて。」
 
「うん・・・。まあ子供達の職場見学って言う話もあるから、入れ違いでハース鉱山とかクロンファンラに行ったのかなあとも思ったんだけど・・・。でも日程も決めずにいきなり行ったら、会えるかどうかわからないことくらいはわかるはずだしなぁ・・・。」
 
「まだ城下町にいるのかしらね。」
 
「少なくとも、ライザーさんがオシニスさんに会いに来ないでここを出るってのは考えにくいな。もしかしたらいつ来るか考えてて遅くなっているのかも知れないけど・・・。」
 
「そうねぇ、つまり・・・今わかってることは、私達がいくら頭を悩ませてもどうしようもないってことね。」
 
「うん、たしかにそうだな・・・。」
 
「それじゃ、とりあえず私が聞いた話をするわ。」
 
 妻はイルサから、アスランと出会ったときのことをいろいろと聞き出してくれていた。2人が出会ったのは、祭りが始まる一ヶ月ほど前のことらしい。イルサがクロンファンラの図書館の本と、王宮の図書室との本の入れ替えを、初めて任されたときのことだったという。この『本の入れ替え』というのは、どうやらかなり重要な作業らしい。新刊の運搬ばかりでなく、それぞれの蔵書を定期的に入れ替えることで、出来るだけたくさんの人達に王宮の蔵書を見てもらいたいという配慮のようだ。新しく丈夫な本ばかりを運ぶわけではなく、かなり貴重な古本も扱う。持って行く本と持ってくる本の内容をきちんと把握して、傷まないように細心の注意を払って運ぶ。その作業を採用されて1年のイルサが任されると言うことは、かなりの大抜擢らしかった。王宮の図書室で、司書と一緒に持って行く本のチェックをしていたときに、借りた本の返却のために顔を出したのがアスランだった。王宮図書室の司書のソフィアという女性が、アスランに本を馬車に運んでくれるよう頼み、イルサはアスランと2人でしばらくロビーの中を行ったり来たりしていたというのだ。アスランが今年入ったばかりの新人剣士と聞いて、イルサはどきりとした。その後何度かロビーを往復するうちにオシニスさんに会い、アスランとオシニスさんとの会話から、彼がカインの相方であることを知った。ずっと思い続けてきたカインとの接点を彼に見いだし、イルサはアスランと話をしてみたくなったのだそうだ。そこで、ライラに以前から聞いていた、コーヒーがうまいと評判の店に彼を食事に誘った。『手伝ってくれたことへのお礼』として。
 
「・・・ところが、そこでライラの話が出て、アスランが気づいたみたいよ。イルサがカインのことを好きだった女の子だってこと。」
 
「カインはアスランにそこまで話していたんだなぁ・・・。まあ隠し事をしないって言うのはいいこと・・・って言えるのかな・・・。」
 
 いささかしゃべりすぎではないかという気もする。
 
「アスランの話だと、その時よりもっと前にライラに会ったことがあるんですって。イルサのことはその時に聞いたみたいね。でもイルサとの話でライラの名前が出たときはすっかり忘れていて、あのお店の中の話を聞いて思いだしたって言ってたそうよ・・・。」
 
 その時アスランは、カインに恋人がいることをイルサに話したそうだ。しかもイルサがカインを好きだと知っていながら。推測でしかないが、アスランはその時すでに、イルサに惹かれていたんじゃないだろうか。だが、イルサがアスランを食事に誘った目的が、カインの話を聞き出すためだったとしたら・・・アスランは落胆しただろうし、イルサに対して意地の悪い気持ちになったかも知れない。その腹いせみたいな気持ちで、わざとカインの恋人のことを話した・・・。
 
「う〜ん・・・どうなのかしらねぇ・・・。アスランてとても真面目で誠実そうな子だし、そんな意地悪なことするとは思えないんだけど・・・。」
 
「それは私もそう思うよ。でもいくら誠実でも真面目でも、自分が利用されたような気がしたとしたら、意地悪の一つもしたくなるんじゃないのかな。惹かれている相手ならなおさらね。」
 
 好きだからこそ腹立たしくて、つい意地の悪いことを言ってしまう・・・。身に覚えのある感情は、理解できる。
 
「・・・かも知れないわねぇ・・・。そのあと、おいしいコーヒーとデザートのケーキが出てきてから、アスランがイルサに謝って、それでまあ・・・さっきのご両親の話をしてくれたらしいから、案外あなたの勘は当たってるかも知れないわよ。」
 
「ははは・・・そうかな・・・。」
 
 当たっているかどうかを確かめようがないことではあるのだが・・・。
 
「そしてお店を出たあと、アスランがお祭りに誘ってくれたんですって。今日のお礼にって。それでイルサはライラに一緒に行ってくれるよう手紙で頼んだらしいけど、ライラが断ったそうよ。兄貴がのこのこついて行ったら嫌がられるって。」
 
 妻が笑いながら言った。
 
「そりゃそうだろうな・・・。」
 
 そういえばイルサに、襲われた時のことを聞いていた時、そんな話をしてたっけ・・・。
 
「結局、お祭りの日に2人で会って、お芝居を観たあとおつきあいしてくれって、言われたそうなんだけど・・・。」
 
「断ったというわけか・・・。」
 
「そう。まだそこまでは考えられないから、もうしばらく時間がほしいって。イルサとしては嫌いじゃないけど考えるための時間がほしいっていうわけだったんだけど、アスランにしてみれば、今OKの返事がもらえないなら体よくふられたってことだと思うわよね。」
 
「ま、考えてみるとか、お友達でいましょうとか、しばらく距離を置きたいなんて言われればね。」
 
「・・・あら、今頃昔の仕返し?」
 
 妻がちょっとだけふくれっ面になった。
 
「ははは、そんなつもりじゃないよ。でもみんな一般的には断りの文句じゃないか。」
 
「そうなのよねぇ・・・。イルサもね、カインのことをあきらめるつもりでいろいろ考えていたそうなんだけど、なかなかきっぱりと思い切るためのきっかけがつかめないようなことを言ってたわ。そんな気持ちのままで他の人とおつきあいしても、うまくいくはずがないって。」
 
「まあそうだろうね。でも案外、さっき怒ったことがそのきっかけになったかも知れないよ。」
 
「そうねぇ・・・。何となくいい雰囲気だったわよね。」
 
「それですんなりアスランとうまくいくかどうかはともかく、なんて言うかなあ、昔のあの活発なイルサに戻ったような、そんな気がしたな・・・。」
 
「いきなりセーラをひっぱたいた時にはびっくりしたけど。」
 
「うん。後ろで誰か立ち上がったのはわかったけど、君かと思ってたよ。」
 
「ふふふ・・・私よりイルサのほうが早かったわ。だから、任せることにしたの。イノージェンの仕事をいつも見てたから、あの子なりにいろいろ考えてるんだなあって、なんだかうれしくなっちゃった。」
 
「そうだね・・・。イルサのほうは心配ないみたいだな・・・。」
 
「・・・ライラのほうは心配なの・・・?」
 
「ちょっとね・・・。」
 

次ページへ→