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 父さんを信じている・・・。この言葉が私の胸を刺した。故郷の島を出てから、私自身がずっと心の中で繰り返し自分に言い聞かせてきた言葉だったからだ。そしてあの『彷徨の迷い路』でも、たとえ王国の人々全てが父を罪人だと決めつけたとしても、私は父を信じよう・・・。そう心に決めてあの迷路を進んでいったのだ・・・。それに・・・デールさんがウィローに会わないと言うのも、自分を王と名乗っているかのように言っているのも、みんなあの衛兵が言っていただけだ。本当のところなどわからないじゃないか。本人に会って聞くまでは、本当のことなんて・・・。
 
 カインは眉間にしわを寄せ、自分の頭を拳でトントンと叩きながら、何度も深呼吸した。
 
「ごめん・・・。ちょっと頭に血が上っちまって・・・。きつい言い方してすまなかったな。でもなウィロー、俺達は王国剣士なんだ。俺だって君の父さんが反逆を企てているなんて信じたくないよ。でも、それを証明する手だてがないんだ。そして中で働いている人達の安全も確認出来ない以上、最悪の事態も想定して行動しなければならないんだよ。俺達はすぐに王宮に戻らなくちゃならない。でも、だからといって君をここに置いていくわけにはいかない。とにかく今は一度、俺達と一緒に引き上げてくれ。頼むよ。」
 
 カインは懇願するようにウィローを見つめている。ウィローは唇を噛みしめたまま下を向いていたが、やがて涙をためた眼でカインと私を交互に見つめ、口を開いた。
 
「・・・ごめんなさい。あなた達が私のこと心配してくれるのわかってる・・・。でもやっとここまで来たのよ・・・。あの中に父さんがいるの・・・。だから私はどうしても会いたい・・・。自分がどんなに身勝手でわがままなこと言っているのかわかってる。でも・・・ごめんなさい・・・。これだけは譲れない・・・。それに、カナに戻っていたら王宮に戻るのが遅くなってしまうわ。私にはかまわないで、あなた達は・・・王国剣士としての任務を果たしてちょうだい。ここでお別れね・・・。今まで色々・・・ありがとう・・・。」
 
 くるりと背を向けて、ウィローはハース城に向かって歩き出した。ウィローが行ってしまう・・・。そう思った瞬間、突然全身を恐怖が駆け抜けた。
 
(これで終わりなんて・・・いやだ!)
 
 何を終わりにしたくないのか、任務か、ウィローとの旅か、どちらとも判断がつかないまま私は駆けだし、ウィローの前に立ちはだかった。ウィローの瞳からは涙が溢れていた。
 
「どいて、クロービス・・・。」
 
「どかないよ。」
 
「・・・じゃ、いいわ・・・!」
 
 ウィローは私の横をすり抜けて駆け出そうとした。だが素早さなら私のほうが遙かに上だ。私はウィローの前に腕を伸ばし、難なくその腕をつかんだ。
 
「クロービス!!お願い!離して!私は・・・行かなければならないの・・・!!」
 
「離さないよ。君を一人でなんて行かせない。私も一緒に行くよ。」
 
「クロービス・・・!?」
 
 ウィローはぎょっとして顔をあげ、大きく目を見開いて私を見つめた。
 
「カイン・・・私はここに残るよ。ウィローを一人にしておけないよ。」
 
 私はカインに視線を移した。なぜか驚いた様子が見えない。カインは私のことならなんでも判ると言った。私がウィローを一人でハース城に行かせたりしないと、予感していたのだろうか。
 
「ばかなこと言わないで!あなたには任務があるじゃないの!これは私のわがままなのよ!あなたを巻き込むわけにはいかないわ!お願いよ、離して!」
 
「なんて言われても離さないよ。私は決めたんだ。君と一緒にここに残る。」
 
 ウィローが私の腕を振りほどこうと腕を引っ張っている。私は自分の手に力を込めた。
 
「・・・クロービス、本気なのか?」
 
「本気だよ。」
 
「だが、俺達は・・・。」
 
「・・・判ってるよ。私達は王国剣士だ。自分達の任務を最優先に考えなければならない。でもね、王国剣士の仕事は、与えられた任務だけじゃないはずだよ。エルバール王国の人々を守るのも任務のひとつなんだ。今ここでウィローを一人にして北大陸に戻ったりしたら、私達は自分の任務を放棄したことになるよ。」
 
 カインは私をじっと見つめ、くすっと笑った。その笑顔を見て、私はカインから以前聞いた、彼の研修の話を思い出していた。あの時カインは、指示を無視して山賊に襲われていた旅人を助けようと飛び出していった・・・。結局山賊には逃げられ、おまけに殴られて気を失い、不合格を覚悟して王宮に戻ったカインに剣士団長はこう言った。
 
『言われた通りのことを言われた通りにこなすだけなら誰にでもできる、でも王国剣士として何よりも大事なものをお前は持っている・・・』
 
 言われたとおりのことだけをすませて王宮に戻ったとして、そのまま何事もなかったように今までの生活になんてきっと戻れない。ウィローを、戻らない鉱夫達を見捨てて帰ってきたのだという罪の意識に一生とらわれ続けることになる。
 
「・・・いつになく雄弁だな・・・。わかったよ、お前は言いだしたらきかないもんな。さてと、団長になんて説明するかな・・・。本当は二人一組でなければ行動出来ないのに、一人で戻るんだからな・・・。」
 
「でもそれは基本的にはって言う注釈付きだよね。今は非常事態だよ。今南大陸にいる王国剣士は私達二人だけだ。そのうち一人は誓いを破ってしまったから、一人で戻って来ましたってでも言っておいてよ。誰も君を責めたりしないよ。」
 
 カインの顔から笑みが消え、ギロリと私を睨んだ。
 
「おいクロービス、この次その誓いを破ったの何のと言ったらぶん殴るぞ。」
 
「でもほんとのことだよ。隠しておくことなんで出来やしないよ。」
 
「バカなことを言うな!!それこそ非常事態だ。あの状況ではやむを得なかったって、誰もが納得してくれるさ!お前の説明がへたくそだって俺がちゃんとフォローしてやる。だからそんなバカなことはもう言うな!」
 
「・・・わかったよ、ごめん。でも、私はここに残るよ。ここで君がみんなと一緒に戻ってくるのを待っているよ。」
 
「そうか・・そうだな・・・。わかった、そのほうがいいんだろうな、きっと。」
 
 言いながらカインはウィローに視線を移した。その瞳はとても優しかった。
 
「ま、非常事態に変わりはないから、剣士団長のほうには俺がうまく言っておくよ。・・・そうだな・・・。統括者の娘さんが案内のために同行してくれたから、その護衛のためにクロービスは残りましたってのはどうだ?それなら納得してもらえるだろう。」
 
「そうだね・・・。君に任せるよ。」
 
「決まりだな。今回のこの報告を聞けば、今度こそフロリア様も剣士団のハース投入を承諾してくださるだろう。そうなれば、俺は剣士団と一緒にすぐ戻ってくることが出来る。それまで絶対に無茶はするんじゃないぞ。」
 
「わかってるよ。無茶なんてしないよ。」
 
「とにかく一度戻ろう。ここにいては危険だ。いつあいつらから攻撃されるかも知れない。ウィロー、そういうわけだ。とりあえず渓谷の中まで戻ろう。一緒に来てくれるよな・・・?」
 
「でも・・・。」
 
 ウィローはまだ戸惑った表情で立ちつくしている。
 
「いいよ。もう話は決まったんだから。とにかく一度戻ろう。ちゃんと計画を立てないとね。君が納得してくれないと、君の手を離せないじゃないか。」
 
 まだつかんだままのウィローの腕を、本当はずっと離したくなかった。
 
「だってこれは私のわがままで・・・。」
 
「ウィロー!」
 
 突然カインが大声を出した。ウィローが飛び上がりそうなほどびくっとしたのが、隣にいてはっきりとわかった。
 
「クロービスの言うとおりだよ。もう話は決まったんだ。どうしても君が言うことをきいてくれないなら、君を縛り上げて担いででも、カナの村に連れもどすぞ。さあ、選べよ。クロービスと一緒にここに残るのと、縛られて荷物みたいにカナに送り返されるのと、どっちがいい!?」
 
「わかったわ・・・。ごめんなさい二人とも・・・。」
 
「よし、決まりだ。行くぞ!」
 
 カインの声で、やっと私はウィローの手を離した。よく見ると、ウィローの手が赤く腫れている。ところどころ紫色にもなっていた。さっきハース城の扉を叩いた時に出来たらしい。私はあらためてウィローの手を取ると、光の癒し手を唱えた。腫れと打撲がみるみる引いていく。
 
「これで大丈夫。・・・戻ろう・・・。」
 
 ウィローは無言で頷き、歩き出した。ハース渓谷の中ほどから少し東側にキャンプ場所を決め、私達はやっと一息つくことが出来た。食事の支度の間も食べている時も、ウィローは時折涙を滲ませ、一言も話さなかった。あまりの痛々しさにカインも私も声のかけようがなく、黙ったまま食事を終えた。
 
「さてと・・・明日からのことを少し打ち合わせするか・・。」
 
 カインが遠慮がちに地図を広げ、ハース鉱山よりも北の方角に位置する砂漠を指さした。
 
「クロービス、俺は今回北部山脈を越えるぞ。南回りのルートで戻っていたら間に合わないかも知れない。」
 
「あっちは危険だってティールさんが言ってたよね。」
 
「そうだな。でも、そんなことは言っていられないよ。一刻を争うんだ。北部山脈を越えて砂漠を突っ切れば、確か3日ほどでロコの橋まで辿り着けるはずだ。」
 
「そうか・・・。今の君なら大丈夫だと思うよ。でも絶対に無理はしないでよ。一刻を争うとは言っても、途中で倒れたりしたらそれこそ水の泡だ。」
 
「わかってるよ。無理はしない。それは絶対に約束するよ。ロコの橋を渡れば、灯台守の伝令用の馬を借りられると思う。」
 
「君、馬になんて乗れたっけ?」
 
 そんな話は聞いたことがない。
 
「いや、全然。でも何とかなるさ。ロコの橋からまともに歩いて戻っていたら、一週間近くかかっちまう。馬を借りられれば、とりあえずクロンファンラまで夜通し駆けていって、そこで馬を乗り換えれば何とかなる。だふん王宮まで3日もあれば辿り着けるぞ。」
 
「何か・・・すごいおおざっぱで無茶苦茶な計画って言う気もするんだけど・・・。」
 
「そうか?まあ、ある程度はしょうがないさ。」
 
 カインはけろりとしている。
 
「仕方ないか・・・。私は君を信じるよ。君が何としてもフロリア様のところへこの報告を持って行くだろうってことは解るから。」
 
「ああ・・・。必ずこの報告を持っていくさ。必ずな・・・。さあ、もう遅い。明日に備えて早く寝よう。」
 
「そうだね。それじゃ、交替までよろしく。ウィロー、君も明日に備えてちゃんと眠らなくちゃだめだよ。」
 
「うん・・・。」
 
 カインと私の会話を終始無言で聞いていたウィローは、しょんぼりとしたままテントに入っていった。ウィローの心が痛んでいるのが解る。それが私達にすまないと思っての痛みなのか、カインと離れることがつらくての痛みなのかまでは、私には判断がつかない。そして・・・カインは本当にこれでいいのだろうか・・・。寝床に潜り込んだ私は、何の夢も見ないまま目を覚まし、交替のためにカインの隣に行き腰を下ろした。
 
「交替するよ。」
 
「もうそんな時間か・・・。」
 
 カインは空を見上げてつぶやいた。
 
「なあ、クロービス、明日からしばらくウィローの訓練をしてやってくれないか。」
 
「・・・訓練か・・・そうだね・・・。」
 
「今のウィローでは、万一この渓谷内にまでモンスターや盗賊が現れたりした時に、どこまで対処できるか不安だからな。」
 
「今までの訓練は、私達が二人ともいることを前提にしていたからね。」
 
「そうだな。今までみたいにのんびりと腕が上がるのを待っているわけにはいかないよ。それに、いつハース城に向かって飛び出していくか知れやしないしな。」
 
「・・・いつまで引き留めておけるかなぁ・・・。」
 
 正直なところ自信がない。
 
「さっき・・・俺がうっかり『時間をかければ中に入る方法がないこともない』なんて言っちまったからなぁ・・・。もしかしたら何か気づいたかも知れないぞ。」
 
「ティールさんが言っていた話?ハース城の地下とハース鉱山が繋がっているって言う・・・。」
 
「うん・・・。鉱山経由でなら、中には鉱夫達もいるだろうし、情報収集しながら中に入ることも出来ないことはないと思うんだ。でもそれには時間が必要だ。カナに辿り着くまでに2日ほど多くかけちまったけど、そのあとスムーズにハース城まで辿り着いていたなら、門番に追い返されたとしてもその方法で中に入れたかも知れなかったんだがな。・・・ま、仕方ないさ。今さら言っても始まらない。これからのことを考えよう。ウィローを引き留める方法はお前に任せるよ。無理は禁物だが、なんとかもう少し腕を上げてもらわないとな。それに・・・どうだ・・・?『防壁』のほうは・・・。」
 
「今のうちに一度手伝ってくれる?」
 
「わかった。」
 
 カインに手伝ってもらい、改めて自分の力をしっかりと押さえ込んだ。でもこれがいつまで持つのか、それは判らない。
 
「・・・ありがとう・・・。あとは何とか一人で頑張ってみるよ。」
 
「いっそ、ウィローに手伝ってもらったらどうだ?」
 
「・・・そんなこと出来ないよ。ウィローは私の力が本当はどんなものなのか何も知らないのに・・・。」
 
「知られたくないんだろう・・・?」
 
「出来るならね・・・。」
 
「無理にとは言わないよ。だがな、万一この間みたいなことになった時、ウィロー一人ではどうにもならないんだ。へたすりゃ共倒れだぞ?」
 
「・・・・・・・・・。」
 
「俺が戻ってくるまでここにいられるなら、そんな心配はしなくていいんだがな。」
 
「・・・考えてみるよ・・・。」
 
「そうだな・・・。」
 
「カイン・・・一つ聞いていい?」
 
「何だ?」
 
「君がここに残るって言う事は考えないの?」
 
「・・・どうして?」
 
「君が残ってもいいんだよ。さっきの理由付けなら、どちらが一人で戻っても誰もおかしいとは思わないし、私は剣士団長に事の次第を報告して、自分の処分を決めてもらうことも出来る。」
 
「・・・お前は、俺がそっちを選ぶ可能性があると思うのか?」
 
「正直言うと・・・そのほうがいいんじゃないかと思ったことはあるよ・・・。」
 
「お前はそれでいいのか・・・?」
 
「・・・君達がうまくいくなら、それはそれでいいじゃないか。君によかったねってくらいは言ってあげられると思うよ。」
 
「・・・バカなことを言うな・・・。」
 
「バカなことなんかじゃないよ。私だって君の気持ちくらいわかる。」
 
「へぇ・・・。どうわかるんだ?」
 
 その口調が、何となく私をからかっているように聞こえて、いらだたしかった。
 
「とぼけないでよ。君がウィローのことを好きなんだってことくらい私にだってわかるよ。違うって言える?」
 
「それじゃお前はどうなんだ。」
 
「今質問しているのは私のほうだよ。答えられないの!?」
 
「大きな声を出すなよ。お前の質問には答えてやるよ。ただし、それはお前が俺の質問に答えてからだ。どうなんだ?お前だってウィローのことが好きなんだろう?お前の気持ちに俺が気づいていないなんて、思ってたのか?俺はそこまで鈍感じゃないぞ。」
 
 やはりカインは気づいていたのだ。北へ帰ろうと言われて返事が出来ずにいた私に向けた、いたわるような視線も、ウィローと共にここに残ると言った時、驚く様子をみせなかったことも、それならば納得出来る。
 
「改めて訊くぞ、クロービス。お前、ウィローのこと好きだよな?」
 
「・・・好きだよ。でも君だって同じじゃないか。私が正直に答えたんだから、君も答えてくれるよね?どうなの!?」
 
「ああ、俺も正直に答えるよ。俺もウィローのことは好きだよ。」
 
「やっぱり・・・。それなら君がここに残れば・・・」
 
「ちょっと待て。そう結論を急ぐなよ。」
 
「結論て・・・そんなのひとつじゃないか。君が・・・ここに残ればいいんだ・・・。」
 
 一大決心して言ったはずの言葉は、何だか自分で聞いても拗ねたような卑屈な口調になってしまった。カインが隣でため息をついた。あきれたやつだと言わんばかりの大きなため息だった。
 
「俺がウィローのことを好きだって言うのは認めるよ。でもな、お前がウィローに対して持っている気持ちと、俺の気持ちは多分別なものだ。」
 
「別なものって・・・。好きは好きじゃないか。別なものだなんて言ってごまかさないでよ。」
 
「だからそう結論を急ぐなって。俺は・・・。」
 
「もういいよ!そんなに気を使ってもらったってうれしくない!ウィローだってきっと君のことが好きなんだ。お互いの気持ちが同じなら結論なんてひとつじゃないか!君がここに残ればいいんだ。明日は私が北へ帰るよ。ウィローのことよろしくね。」
 
 私は出来るだけ一気にまくし立てた。途中で息でも吸おうものなら、もうそれ以上一言も言えなくなってしまいそうだったからだ。これでいいんだ。カインがウィローのことを好きなら、私が身を引けば丸く収まる。心からそう思っているはずなのに、言いながら目のふちに涙がたまっていくのをはっきりと感じていた。
 
「ちょっと来い。」
 
 カインはいきなり立ち上がると私の胸ぐらを掴み、返事も待たずに歩き出した。慌てて立ち上がったものの、足がもつれてよろけそうになる。それでもかまわずカインは歩き続け、焚き火からだいぶ離れた、でもちゃんとテントは見える場所まで私を引きずっていった。
 
「お前本気で言ってるのか?」
 
「本気だよ。手を離してよ。」
 
 そう言った途端、カインと私のまわりの空気がピシッと音をたてたような気がした。
 
「・・・本当にいいんだな?」
 
 念を押すようなカインの口調にどきんと心臓が波打った。
 
「・・・・・・。」
 
 声が出ず、私はカインから視線を逸らした。冷や汗が流れる。心臓の音が次第に大きくなり、まるで耳元から聞こえてくるような気がした。
 
「そうか・・・。わかった、それじゃ俺は寝るよ。ウィローと一緒にな。」
 
 カインが私をつかんでいた手をパッと離し、私はまたよろけそうになった。でもそんなことより、今のカインの言葉が私の頭をガツンと殴ったように重く響き、めまいがしそうだった。
 
「カイン・・・何するつもり?」
 
「何するって・・・決まってるじゃないか。具体的に言ってほしいのか?」
 
 心臓が、このままいきなり止まってしまうのではないかと思われるほどに速く鳴っている。カインの声が遠くから聞こえてくるようだ・・・。
 
「だって・・・君はフロリア様が・・・好きなんじゃないか・・・。」
 
 自分の声が震えているのがわかる。何で私はこんなことを言っているんだろう。カインはウィローのことが好きで、ウィローもきっと同じ気持ちだ。『よかったね』って言うはずなのに・・・。
 
「ああ、好きだよ。あの方は俺にとってのすべてだと言っても過言じゃないくらいだ。」
 
「だったら何で!」
 
「あの方は俺なんかに手の届くような方じゃないからな。ウィローのことは初めて会った時からいい子だなと思っていたんだ。それに、せっかくお前が譲ってくれるって言うんだからお言葉に甘えることにしたのさ。お前は俺とウィローがうまくいくなら『よかったね』って言ってくれるんだろ?」
 
「そんな・・・そんないい加減な気持ちで・・・。」
 
「そのいい加減な俺にウィローを譲ると言ったのはどこのどいつだ。」
 
「君がウィローのことを好きだって言うから・・・だから・・・ウィローも君のことをよく見てたみたいだったから・・・君達がうまくいくならって・・・そう思ったんだ・・・。でも君がそんなにいい加減な気持ちでいるなら話は別だ!」
 
「今さら遅いよ。さてと、朝になっちまう。お休み、いい夢見させてもらうよ。」
 
 カインがにやりと笑った。私をからかうような笑みだ。その笑みを見た瞬間、私の心の中で何かが爆発したような気がして、頭の中が真っ白になった。実はこのあと、自分がどういう行動を取ったのか私はよく憶えていない。気がついた時にはカインはたった今立っていたところから少し離れた場所に仰向けに倒れていて、顔の半分を抑えていた。そして私は拳を握りしめたまま、ウィローの眠るテントとカインの間に立ちはだかり、息を切らせていた。
 
 カインは頬をさすりながら体を起こし、私を見てやれやれというようにため息をついた。
 
「・・・これがお前の出した答だ。自分で自分をごまかそうなんて、考えるだけ無駄だぞ。」
 
「カイン・・・。」
 
 カインは立ち上がり、服についた砂や草を叩いて落とした。そうだ・・・私はカインに殴りかかったのだ。私よりも背も高く体格のいいカインの体が、吹っ飛ぶほどの力を込めて・・・。
 
「ごめん・・・。君を殴るなんて・・・。そんなつもりじゃなかったのに・・・。」
 
「・・・ウィローを俺に取られたくなかったんだろう・・・?俺を殴る時にお前なんて叫んだか覚えているか?」
 
「・・・叫んだ・・・?」
 
「ああ、『君にウィローは渡さない』って言ったんだぞ?」
 
「・・・・・。」
 
 全然覚えていない。私が覚えているのは・・・体の内側が爆発するような・・・激しい感情・・・。
 
「いててて・・・。お前のパンチも効くようになったなぁ・・・。」
 
 笑いながら頬をさするカインに私は慌てて駆け寄り、治療術を唱えようと手をかざした。その途端自分の手にも痛みを感じた。
 
「お前の手も怪我してるぞ。ほら、アザになってる。」
 
「ほんとだ・・・。」
 
 今まで全然気づかなかった。私は光の癒し手を唱えた。カインの頬から腫れがひき、私の手のアザも消えた。骨が折れていなくてよかった。光の癒し手では骨折を治すのは難しい。
 
「ありがとう。もう大丈夫だよ。」
 
「ご・・・ごめん・・・。」
 
「ほら、そんな顔するな。とにかくちょっとここに座れよ。」
 
 カインはくすくすと笑いながら、自分の隣を指さしている。言われるまま、私はカインの隣に腰を下ろした。
 
「どうだ?まだ一人で北に帰るつもりか?」
 
 カインが私の顔を覗き込む。さっきのからかうような笑みは消えて、優しい微笑みが私を見つめている。私は黙って首を横に振った。
 
「やっと素直になったようだな。まったく世話の焼ける奴だなぁ・・・。」
 
「ごめん・・・。」
 
「誤ることはないさ。俺も少し意地が悪かったしな。」
 
「そんなことないよ。私が悪かったんだ。自分に嘘ついて君を騙そうとした・・・。こんな男じゃ、ウィローには好きになってもらえないだろうなぁ・・・。」
 
「ははは、そんなに悲観するなよ。」
 
「カイン、あらためて訊くけど・・・。」
 
「ん?」
 
「ウィローのこと、本当はどう思ってるの?」
 
「それはさっき言ったとおりさ。」
 
「でも・・・別のものって・・・どういう意味?」
 
「そうだなぁ・・・。こっちに来る前に、お前、俺に聞いたよな?フロリア様を自分のものにしたいと思ったことはないのかって。」
 
「うん・・・。」
 
「お前はどうだ?ウィローを自分のものにしたいと思うか?」
 
「そ・・・それは・・・。」
 
 カインはテントのほうをちらりと窺った。そして私の隣に座り直して、顔を近づけた。
 
「さあ、これだけ近づいてちいさな声で話せば、ウィローに聞こえる心配はないぞ。どうなんだ?正直に答えろよ。俺に嘘は通じないからな。」
 
「・・・そりゃ・・・思うけど・・・。でもそれは・・・ウィローが私に振り向いてくれたら・・・の話であって・・・。」
 
 言いながら顔や耳が火照ってくる。きっと真っ赤になっているに違いない。今私達を照らしているのは月明かりだけだ。焚き火の明かりもここまではほんの少ししか届かない。よかった・・・。こんなに真っ赤になっている自分の顔なんて、今だけはカインに見られたくない。
 
『フロリア様を・・・自分のものにしたいなんて思ったことはなかったの・・・?』
 
『でも男だったら、好きな女の人に対してそう言う感情を持ったっておかしくないじゃないか。』
 
 カインにそう言ったのは私だ。でもこんな質問をされることがこれほどばつの悪いことだったなんて、意地の悪い気分になっていたとは言え、あんな質問をした自分があらためて恥ずかしくなった。
 
「ま、さっきあれだけ怒ったんだから、聞くまでもなかったか。さっき俺が違うって言ったのはな、俺がウィローに対して持っている気持ちはそう言う類のものではないってことさ。」
 
「それじゃどういう類のものなの?」
 
「そうだな・・・。妹みたいなものかな。」
 
「妹か・・・・。」
 
「そうだよ。歳は同じだけどな。一生懸命なところがかわいくてほっとけなくて・・・つい面倒を見たくなる・・・。でもそれだけだ。・・・こんな時に引き合いに出すべきじゃないのかも知れないけど・・・多分お前がエミーに対して持っている感情と同じようなものだと思うよ。」
 
「女性としては見たことがないってこと?」
 
「うーん・・・。そういう言い方も語弊があるなぁ・・・。お前確か、前にセルーネさんにそんなこと言ってぶん殴られなかったか?」
 
「思いきりやられたよ。あの時は痛かったな・・・。恋愛の対象として見たことはないって言う意味だったんだけど、ちゃんと説明しないでいきなり『私にとってセルーネさんは女性じゃないですよ』なんて言っちゃったもんだから・・・。」
 
 カインはおかしそうに笑い出したが、テントのほうを窺い慌てて口を押さえた。それでも笑いは止まらない。
 
「お前らしいよな、まったく・・・。俺にとってウィローは女の子に見えないわけじゃないよ。ただ、一生一緒に歩いていける相手じゃないってことだ。」
 
「一生一緒に・・・か・・・。それじゃ、君にとってはフロリア様がその相手だってこと?」
 
「そうだな・・・。昔・・・フロリア様が俺を助けてくれた時・・・俺はあの時決めたんだ。フロリア様のために自分の人生を捧げようと。もっとも・・・俺はただの王国剣士だし、しかも貧民の生まれだ。そんな奴がフロリア様を一生の相手だなんて、口にしただけでバチが当たるかもしれないけどな。でも、それでも俺にはそれ以外の選択肢はあり得ないんだ。どれほどつらくても、自分が選んだこの道を進んでいくつもりだよ。」
 
「そうか・・・。」
 
「だから今後一切、ウィローのことで俺に遠慮なんてするな。お前にとってウィローは、もしかしたらまさに一生の相手かも知れないぞ。」
 
「・・・だといいけど・・・。」
 
「いやに自信なさそうだな。」
 
「だってウィローの気持ちがわからないよ。」
 
「気になるなら聞いてみりゃいいさ。ここで俺達二人でなんだかんだ言っているよりよっぽど正確にわかるぞ?」
 
「そんな簡単に言わないでよ・・・。」
 
「ははは・・・。ま、焦らなくても時間はあるんだ。ゆっくり確かめればいいさ。」
 
「・・・そうだね・・・。ウィロー・・・明日は元気になってくれるかな・・・。」
 
「だいぶショックを受けているみたいだからな。きっと・・・親父さんが反逆者じゃないって確かめたいんだろうな・・・。」
 
「カイン・・・。」
 
「・・・ん?」
 
「本当に・・・ウィローのお父さんが反逆者じゃないかって思ってる・・・?」
 
「・・・何とも言えない。」
 
「信じてるっては言ってくれないんだね・・・。」
 
「信じるに足るだけの情報がないからな。」
 
「でも前は言っていたじゃないか。ウィローのお父さんが反逆者だなんて思えないって。」
 
「俺個人の感情としては、信じたくないよ。でも信じたいかどうかと、信じられるかどうかってのは・・・別じゃないのか?」
 
「冷静だな・・・。だから、昼間あの衛兵にあんなこと聞いたわけ?」
 
「あのことか・・・。お前ならあそこまでは聞けないだろうな。」
 
「聞けないよ。ウィローが必死で信じたいって願っているのに・・・。」
 
「あの時・・・俺は任務のことしか考えてなかったんだ。あんなに取り乱すほど、ウィローが親父さんのことを慕っているのを百も承知で、それでも任務のために必要だと思ったら、俺は迷わなかったよ。」
 
「・・・・・。」
 
「なあクロービス、ひとつ聞くけど、もしもお前がウィローのことを何とも思ってなくて、それでハース城に行ったとしたら、お前は俺と同じ質問をあの衛兵にすることが出来たと思うか?」
 
 少し考えてみた。が、やはり私にはそこまで冷徹になることは出来そうにない。
 
「・・・やっぱり出来ないと思う。ウィローがどれほど必死でお父さんを信じたいと思っているのかわかっていたら・・・。」
 
「やっぱりそうか・・・。お前は優しい奴だよ。俺はお前のその優しさは好きだ。でもな、それは間違いなくお前の長所だと思うけど、同時にお前の短所にも成りうるってことだ。いつだったかな・・・。オシニスさんが言ってたよ。お前の剣はもっともっとのびるのに、お前のその優しさが邪魔してるって。」
 
「そう・・・なのかな・・・。」
 
「だってさ、お前って基本的に争いごとは嫌いだろう?」
 
「好きな人なんているの?みんな嫌いだと思うんだけどな。平和なのが一番じゃないか。」
 
「そりゃそうだよ。でも誰だって怒らなくちゃならない時ってものがあるのさ。さっきのお前みたいにな。」
 
「でも・・・だからって君に殴りかかるなんて・・・。」
 
「相手が誰だって関係ないさ。笑顔で接するばかりが思いやりじゃないよ。前にアラム達に出会った時もそうだ。あいつらが盗賊かも知れないと疑っていたのに、それをお前は表に出さず隠そうとした。表面を取り繕ってすませておいて、もしもあの連中が本当に盗賊団だったら、大変なことになっていたじゃないか。」
 
「ごめん・・・。」
 
「別にお前を責めてるんじゃないよ。俺が言いたいのは、必要な時には鬼にもなれる心の強さも必要だってことさ。たとえ相手が俺でも、本気で戦うくらいのな。」
 
「君と本気で戦うなんてごめんだよ。」
 
「バカ、当たり前だ。俺だってそうだよ。今のはものの例えさ。そのくらいの気持ちを持てってことだ。」
 
「そうだね・・・。君の言うとおりだ・・・。いきなりは無理だと思うけど、頑張るよ。」
 
「そうだな。でも無理はするなよ。さぁてと、夜が明けちまうな。俺は寝るよ。ちゃんと自分の寝袋にもぐって一人でな。」
 
 カインはニッと笑って立ち上がった。
 
「うん、ありがとう。明日は少し遅くまで寝ていていいよ。ちゃんと体を休ませないとね。お休み。」
 
「ああ、お休み。」
 
 二人で焚き火のところに戻った時、火は消えかけていた。カインはテントの中に姿を消し、私は焚き火に薪をくべると、ため息と共にその場に腰を下ろした。
 
 カインがもし・・・私の申し出を本当に受け入れていたら、私は果たしてどうするつもりだったのだろう・・・。わかったよと言ってこのまま王宮に戻ることが出来ただろうか・・・。戻ったとしても二人のことが気になって、かえって任務どころではなくなるか・・・それとも潔くウィローのことは諦めて仕事に専念するか・・・。どうも前者のような気がする・・・。
 以前、ライザーさんと出会って話をして、この人にはかなわないと思ってイノージェンを諦めることが出来た・・・。ではその時のようにカインとウィローをにこやかに祝福することが・・・今の私に出来たのだろうか・・・。あの時のイノージェンに対する感情と、今のウィローに対する感情とでは、何となく違うような気がする。ただ何よりも、私はウィローのそばにいたかった。離れたくなかった。だからここに残ろうと思った。ただ彼女が心配だと言うだけなら、カインの言うように無理やりにでもカナに連れ戻せばすんだことだ。・・・不殺の誓いを破ったとか、非常事態だとか、そんなことは全部言い訳だ。このまま離れてしまったらもう二度と会えないかも知れない。それだけが怖かった・・・。
 
 これほどの激情が自分の中にあったことに、私は驚いていた。そして同時に、本気で誰かを愛すると言うことがどういうことなのか、やっとわかったような気がした。昔の恋人とイノージェンの間で揺れるライザーさんの気持ちや、幼稚ではあったけれども自分なりに精一杯のやり方で私に気持ちをぶつけてきたエミーの心を、少しだけ理解することが出来たような気がする。今、無性に彼らと話したかった。
 
 でもウィローは、そんな私の気持ちにはまったく気づいていないのだろう。多分・・・彼女の瞳はカインに向いている。ウィローは・・・私が昼間言った言葉を、カインに言ってほしかったのではないだろうか・・・。そう考えると少し寂しかったが、こればかりは人の心の問題だ・・・。何ともしようがない・・・。
 とにかく明日からはウィローと二人きりだ。カインがさっきのいささか無茶な計画をうまく実行出来たとしても、王宮に帰り着くまで6日はかかる。それから剣士団投入の許可が下りたとしても出発までにまた何日かかかる。そして船で来たとしても、ここまで約2日くらいか・・・。そうすると、カインが戻るまでだいたい2週間前後・・・。その間中ずっとウィローをここに引き留めておくのは不可能に近い。とは言え、今のウィローでは私が盾になっても、ハース鉱山内に侵入することは難しい。せめて一週間くらい・・・何とか理由をつけてここに足止めし、しっかりと訓練をつけてやらなくてはならない・・・。
 翌日の朝早く、まずウィローが起き出してきた。まだ口をきいてはもらえないかも知れないが、それでも私は出来る限り明るく声をかけた。
 
「おはよう。もう食事の支度始めてるよ。」
 
「あ・・・あの・・・ね・・・。」
 
 ウィローがもじもじと話し出す。
 
「・・・なに?」
 
「ゆうべ・・・盗賊か何か・・・来たの?」
 
「いや・・・。何も来ないよ。結界があるからモンスターは寄ってこないし、他には何も・・・何か聞いた?」
 
 少しドキリとした。カインと私の会話を、まさかウィローは聞いていたのだろうか。
 
「そう・・・。夜中に何か、怒鳴り声が聞こえたような気がしたの・・・。だからもしかしたら何かに襲われたのかなと思ったんだけど・・・夢だったのかな・・・。眠くてぼんやりしてたから・・・夢でも見たのかも知れないわね・・・。」
 
「かも知れないね。ゆうべは静かだったよ。」
 
「そう・・・。」
 
 ウィローは所在なさそうに焚き火のそばに座ったが、テントを振り向いて声をあげた。
 
「カインはまだ起きてこないの?」
 
「まだだよ。ゆっくりさせてあげよう。体力を充分にしておかないと、北部のモンスターに太刀打ち出来ないからね。」
 
「・・・そ・・・そう・・・ね・・・。」
 
 ウィローは青い顔で黙り込んだ。
 
「そんな顔しないで、昨日言ったじゃないか。もう決まったんだから君がそんなに落ち込まなくていいんだよ。」
 
 そこにカインが起き出してきた。
 
「おはよう。」
 
「おはよう。まだ寝てていいよ。食事が出来るまでもう少しかかるから。」
 
「充分寝たよ。これ以上寝たら、体が動かなくなっちまうよ。それじゃ、メシが出来るまでの間、素振りでもしてくるかな。」
 
 カインは焚き火のそばから離れ、剣を抜くと一人で素振りを始めた。ウィローはカインの後ろ姿を目で追っていたが、立ち上がり私の隣に座ると食事の支度を手伝い始めた。青い顔のまま、一言もしゃべらない。私も黙ったまま、やがて食事の支度が出来上がった。
 
「当分ウィローの作ったメシにもありつけないからな。」
 
 カインはそう言いながら、いつもの倍くらい食べた。その言葉を聞きながら、ウィローは時折カインに視線を移し、ほんの少しだけ笑う。でも本当に笑っているのか、それともただ顔がひきつっているだけなのか、判断がつかないほどのかすかな笑みだった。
 
 食事を済ませ、私達は荷物を分けた。カインは、自分は一人だから寝る時はマントを着込めば大丈夫だからと、テントは私達に譲ってくれた。そして食料のほうは、料理が出来ないカインのほうに、すぐ食べられるものを入れた。その他傷薬や解毒剤など、私達二人なら呪文で代用出来るものはみんなカインに持たせた。
 
「よし・・・。これで大丈夫だ。さてと、もう行くよ。お前達絶対に無理して鉱山に強行突入なんてするなよ。」
 
 言いながらカインは、ちらりと私に目配せをした。ウィローがそんなことを聞いてくれないのは百も承知だ。カインの視線には、『出来る限り引き留めておけ』との意味が含まれているのだろう。
 
「解ったよ。カインも、無理は絶対にしないでよ。計画自体が既に無理だらけなんだから。」
 
「解った。それじゃすぐに戻るからな。」
 
 カインはふいに私の耳元に顔を寄せて囁いた。
 
(頑張れよ・・・。せっかく二人きりなんだから・・・いっそ押し倒しちまえ・・・。)
 
 ぎょっとしてカインを見つめる私にニッと笑ってみせると、カインはハース渓谷の入口に向かって走り出した。
 
「ほら!もう無理してるよ!!走ったら無駄に体力消耗するじゃないか!!」
 
「あ!そうだっけ!?」
 
 カインは振り返って笑ってみせると、また走りながら渓谷の彼方に消えていった。

第26章へ続く

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