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「カイン・・・今何か言った・・・?」
 
「いや・・・何にも・・・。何だよ、何か聞こえたのか?」
 
 カインは怪訝そうに首を横に振った。
 
「あ・・・いや・・・。」
 
 私はカインの背後に視線を移した。そこにあるのは、たった今私達が出てきた扉だ。オシニスさんもライザーさんもまだ中から出てこない。でもさっき私が立ち聞きしていた場所よりは遠ざかっている。この距離で中の声が聞こえてくるとは考えられなかった。
 
「おい、クロービス、どうしたんだよ?何だかおかしいぞ、お前。」
 
 カインの声は聞こえていたが、頭の中をすり抜けていくばかりだった。そう言えばさっきも声が聞こえた。『会いたい』と・・・。そして今の声はもっとはっきりと聞こえてきた。それも耳からではなく、頭の奥に直接響いたような声だった。でもそれがライザーさんの声だとすぐにわかった。あまりにもつらいことを聞いたせいで、私はおかしくなってしまったのだろうか。ライザーさんの声が、頭の中に響いてくるなんて・・・。
 
「あれ?お前ら何やってんだ?」
 
 オシニスさん達が部屋から出てきた。立ち止まっていた私達を訝しげに見ている。私は慌てて歩き出した。
 
「あ、何でもないです。」
 
 後ろでカインが返事をしている。私はそれにも構わず自分達の部屋に向かってどんどん歩いていった。歩きながら、背中を冷たいものが流れていった。さっきの声は一体何だったのだろう。最初に聞こえた声も、今思えばライザーさんのものだったに違いない。
 
『会いたい』
 
 あの時は、確かライザーさんがイノージェンのことを話しだした時だった。話しながら、彼はきっとイノージェンに会いたいと思っていたに違いない。そしてさっき、ライザーさんは私に謝っていた。嘘をついてすまなかったと・・・。あれほどひどい言葉を投げつけた私に・・・。
 
 部屋に戻ると、私は鎧も制服も放り出すように脱ぎ捨て、ベッドの上に座り込んだ。あの声が本当にライザーさんの声だったのだとしたら、つまり・・・彼が心に思ったことが私に聞こえたことになる・・・。
 
「まさか・・・。」
 
 思わず声が漏れた。
 
「おい、クロービス。」
 
 背後から肩を掴まれ、私はすぐ後ろにカインがいたことに初めて気づいた。
 
「・・・なに・・・?」
 
 振り向いた私の顔を覗き込んで、カインの顔がこわばった。
 
「さっきのことだよ。何があったんだ?」
 
「何でもないよ。」
 
「何でもなくてオシニスさん達にあんな態度を取るのか?それに、目が赤いぞ。泣いてたのか・・・?」
 
「何でもないよ。遅くなったのは悪かったよ。お休み。」
 
「おい待て!!」
 
 カインは私の肩をぐいっと自分のほうに向けさせた。私は思わずカインから顔を背けた。
 
「・・・とても何でもないって顔じゃないな・・・。言いたくないなら無理にとは言わないけど、そんな青い顔のままで明日訓練に出られると思っているのか?俺達がこれから向かおうとしているのがどういう場所なのか、よく考えてみろ。みんなが何のために必死で訓練してくれたと思ってるんだ。」
 
「ごめん・・・。」
 
 それでも私はすぐに話す気になれなかった。これが自分のことなら私はカインに隠し事などしない。でも他人の話を盗み聞きした挙げ句、それを誰かに話すなんてするわけにはいかない。もう一度、何でもないよと言おうと口を開きかけたが、その途端涙がこぼれた。
 
「なぁクロービス、いったい何があったんだよ・・・?何か言われたのか・・・?でもちょっとくらい厳しいことを言われたってお前は泣くような奴じゃないし・・・。」
 
 カインは困ったように首を傾げている。
 
「オシニスさん達が悪いんじゃないよ。私がばかなんだ。ひどいこと言ったのは私のほうなんだ・・・!」
 
 どうしようもなく涙が流れてきた。結局私は、先ほどの話をカインに話してしまった。そしてさっき聞こえた不気味な声も・・・。だがそれでも・・・オシニスさんが言っていた『カインの純粋さが怖い』・・・そのことだけはさすがに口に出すことは出来なかった。
 
「・・・なるほどな・・・。そんなことがあったのか。しかしお前も間抜けな奴だな・・・。足音を立てないつもりなら、もう少し注意を払えよ。」
 
「そうだよね・・・。ほんと、ばかみたいだ・・・。」
 
 言いながら、私は袖で顔を擦った。本当に自分がどうしようもないくらいばかに思えた。他人の話を盗み聞きし、挙げ句に立ち去ろうとして音をたてる。どんな喜劇の主人公だって、ここまで間抜けな奴なんていないんじゃないだろうか・・・。
 カインは心配そうに私の顔を覗き込みながら、腕を組んだまま考え込んでいたが、しばらくして、やっと口を開いた。
 
「なあクロービス・・・。」
 
「・・・ん・・・・?」
 
「その・・・お前が聞いたって言う声は・・・本当にライザーさんの声だったのか?」
 
「・・・多分ね・・・。はっきりわかったってわけじゃないんだけど、その時のタイミングを考えると、そうとしか思えないんだ・・・。」
 
「・・・そうか。確かにそうかも知れないな・・・。」
 
「信じてくれるの?」
 
「当たり前だ。2回も聞こえたって言うことは、空耳なんかじゃないだろうしな。でもそんな風に声が聞こえたりしたら、確かに怖いかもな。」
 
 そう言って微笑むカインの笑顔を見て、何だか少しだけ安心した。
 
「昔ね・・・島の友達が、冗談半分に『人の心の中が読めたらいいのに』なんて言っていたことがあったんだ。私は人と話すのがあんまり得意じゃなかったから、その時は単純に『そうしたら楽だね』なんて言った憶えがあるけど、本当にそんなことになったらこれほど恐ろしくなるなんて考えもしなかったな・・・。」
 
「そうだな・・・。知りたい時だけわかるってんなら都合がいいかもしれないけど。でもどういうことなんだろうな・・・。」
 
 昔、グレイが笑いながらそんな話を私にした時、彼が心を知りたいと思っている相手がイノージェンだったとはつゆほども思わなかった。知りたい相手の心だけを知りたい時だけ読めるのなら、それはもしかしたら便利なのかもしれないが、現実にはそんな都合のいい話はない。
 
「わからないよ・・・。今までこんなこと一度もなかったのに。」
 
「やっぱり聖戦竜に出くわしたからなのかな・・・。お前あの時、ものすごい思念を感じたって言っていたよな?それで気分が悪くなったって。」
 
「どうなのかな・・・。確かにあの時まではこんなこと感じたことはなかったけど・・・。でもそんなことがあるなんて聞いたことがないよ。聖戦竜に関する神話や噂はよく耳にするけど、聖戦竜と戦った人間が人の心を読めるようになるなんて・・・まさか・・・。」
 
 言いながら、セントハースらしき何者かの思念が心の中に流れ込んできた時の、あの心臓を掴まれたような感覚がよみがえった。
 
「それに、君は何ともないじゃないか。」
 
「まあな。でもお前は俺と違って呪文を使うから、精神的なものに対して敏感なんじゃないのかな。ま、もうセントハースは追い払ったんだ。そのうち前みたいに何も感じなくなるかもしれないよ。あんまり気にするなよな。」
 
「うん・・・そうだよね・・・。あまり考えないようにするよ。ありがとう、カイン。」
 
 カインは満足そうに笑うと、私の肩をぽんぽんと叩いた。
 
「よし、これでお前が泣いていた原因の一つは何とかなったな。それじゃ次だ。」
 
「次?」
 
「オシニスさん達のことだよ。」
 
「そのことか・・・。」
 
 さっきの彼らの顔を思いだした。そしてまたやりきれなさが募ってきた。滲んだ涙を擦る私を見ながら、カインが小さくため息をついた。
 
「なあ、クロービス、前から一度聞こうと思ってたんだけどさ・・・。」
 
「何・・・?」
 
「お前ってさ、オシニスさん達のこと、俺達とは別の世界に住んでいるような人みたいに思ってるんじゃないのか?」
 
「別の世界って・・・?」
 
「うーん・・・なんて言えばいいのかな、あの二人は俺達とは別格だから何をやってもうまくいくし、取り乱したりなんて絶対にしないって思い込んでいるみたいな・・・。クロンファンラに行く途中に会った時も、お前そんなようなこと言っていたじゃないか?」
 
「・・・・・。」
 
 答えられない。確かにそう思っていたかも知れない。あの時は笑われたっけ。『おとぎ話の勇者じゃねぇぞ』って。カインは私の顔を覗き込んでいたが、答を待たずにまた話を続けた。
 
「あの二人だってさ、25歳だぞ?いや、確か・・・どっちだったかな、もうすぐ26になるって聞いたことがあるな。その間に好きな女の一人や二人、いたってちっともおかしいことじゃないじゃないか。」
 
「私だって・・・もしかしたらライザーさんにもそう言う人がいたかも知れないって思ったことはあったよ。そのほうが自然かも知れないって思ってたんだ。でも・・・実際にそう言う話を聞いちゃうと・・・。」
 
「そんなのはいやだ、納得出来ないってか・・・?」
 
「そんなことを言う権利があるわけじゃないってことはわかってるよ、でも・・・。」
 
「頭ではわかってるけど、感情が嫌がってるってところか?」
 
「・・・君のほうが私の心を読めるみたいだな・・・。」
 
「ははは。俺はお前の顔に書いてあることを口に出しているだけさ。お前はイノージェンのことがあるから、ライザーさんも彼女のことを同じように思っていてくれたらいいのにって思ってたのはわかるよ。実際仮入団の日にはそのことでお前に約束してくれたから、よけいに信じちゃったんだろうな。」
 
「そんな人がいたんなら・・・言ってくれたらよかったのに・・・。」
 
 また涙がこぼれて、慌てて袖で顔を擦った。カインは小さくため息をついて、何か考えるように首を傾げながら頭をかいている。
 
「なあクロービス、お前はこの町に来て、初めてライザーさんに会ったんだよな?昔遊んでもらったことは全然憶えていなかった、お前そう言ってたよな?」
 
「そうだよ・・・。ライザーさんは私のことを憶えていてくれたけど・・・。」
 
「でもライザーさんのほうだって、憶えていたのはお前の小さい頃だけじゃないか。5歳の子供がいきなり20歳になって目の前に現れてみろ、初めて会うのと変わりないんじゃないのか。しかもライザーさんは、その彼女と別れた時のことを未だに引きずっているんだろ?そんなつらいことを、初めて会ったような相手にほいほい喋れると思うのか?」
 
「それは・・・。」
 
「すこし冷静に考えてみろよ・・・と言ってもまだ無理かも知れないけどな。」
 
「・・・ごめん・・・。みんな私の思いこみだね・・・。一人で思い込んで、その通りじゃなかったからって勝手に傷ついて・・・。ほんと、ばかみたいだ・・・。ライザーさんに謝らなくちゃ・・・。すごくひどいことばかり言ったんだ・・・。」
 
 カインはいたわるように私の肩に手をかけ、何度か叩いた。
 
「そう落ち込むなよ。とにかく明日は最終日なんだ。明日だけは気持ちを切り替えてくれないか?そのあとで謝ればいいさ。それに、南大陸に行けばお前と二人きりだからな。いくらでも話を聞いてやるよ。愚痴でも何でも、お前の気がすむまでな。」
 
「うん・・・。わかった。ありがとう、カイン。」
 
「よし、決まりだな。それじゃこの話はいったん終わりだ。ちょっと遅いけど、風呂に行くか?だいぶ汗かいたからべたべたして気持ち悪いしな。」
 
「そうだね・・・。お風呂に入ってさっぱりすれば、気分も晴れるかも知れないな。」
 
 着替えやタオルの入った袋を持ち、私達は風呂へと向かった。脱衣所への扉を開けると、中には誰もいない。
 
「お、貸し切りだな。」
 
 カインはにやりとしながら中に入って、服を脱ぎ始め、私がまだ脱ぎ終わらないうちにさっさと風呂場に入っていった。あとを追って隣に腰を下ろし体を洗い始めると、カインが話しかけてきた。
 
「なあクロービス・・・。」
 
「ん?」
 
「オシニスさんの好きな女って誰なんだろうな。」
 
「気になるの?」
 
 平静を装っていたが、カインが気づくのではないかと、ドキドキしていた。そしてその話をしなければよかったと思った。ライザーさんのことを話す都合上、彼らがなぜ歓楽街などに足を踏み入れたのかを説明する必要があったのだ。これがもしエリオンさん達の話なら、彼らがあの場所にいる理由など、わざわざ説明するまでもないのだが・・・。
 
「う、うん・・・まあな・・・。覚悟を決めてるっいうのが・・・何となく俺と似てるなと思ってさ。」
 
「そうだね・・・。ねえカイン、君も自分をごまかしたくなるほどつらい時があったの?」
 
「そうだな・・・。あったかも知れないな・・・。」
 
「そんな時どうしてたの?」
 
「何もしない。」
 
「・・・何も?」
 
「そうだよ。だって仕方ないじゃないか。相手は女王陛下なんだ。もともとお側にいられるだけで幸運なのさ。それ以上のことなんて望みようがないじゃないか。」
 
 確信に満ちて答えるカインに、なぜか意地の悪い質問をしてみたくなった。今思えば、八つ当たりだったのかも知れない。
 
「フロリア様を・・・自分のものにしたいなんて思ったことはなかったの・・・?」
 
 カインは一瞬驚いたように私に振り向いたが、いきなり笑い出した。
 
「ばか言うな。そんなこと考えたこともないよ。俺にとってあの方は・・・そうだな・・・不可触の女神・・・かな・・・。とてもそんな目でなんて見ることは出来ないよ。」
 
「そっか・・・。」
 
「しかし・・・お前も大胆なこと言うようになったなぁ・・・。」
 
 カインはまだ笑っている。
 
「でも男だったら、好きな女の人に対してそう言う感情を持ったっておかしくないじゃないか。」
 
「そりゃそうだよ。だがな、それは相手が手の届く範囲にいる時だけだ。そして大抵の場合は手が届くんだ。だからそう思うんじゃないか。フロリア様が俺を助けてくれた時、いじめっ子達に意見をしていた時から、俺に怒鳴られて立ち去るまで、あの方はずっと誇り高く毅然とした態度を崩さなかった。フロリア様は生まれながらの女王だよ。手が届かないどころか、そんな感情をあの方に対して抱くことさえ、許されないと思うくらいだよ。」
 
 カインは体を洗い終え、石けんを流そうと洗面器にお湯を一杯に汲むと、頭から思いきりかぶった。カインが本当にそう思っているのかはよく判らなかったが、これ以上追求する気にもなれなかった。湯舟に向かったカインを追って、私も湯舟に入った。肩まで熱いお湯につかると、体中の疲れがお湯の中にとけていくような気がして、やっぱり来てよかったと思った。
 
「でも、オシニスさんは俺とはまた違うからな。相手が誰なのかは知らないけど、それほど好きだったってことなんだろうな。」
 
「そうだね・・・。」
 
「それより、俺が気になるのはフロリア様のことだ。」
 
「この間様子がおかしかったって話?」
 
「ああ、この間の・・・。」
 
 カインの言葉が途切れた。風呂場の外で扉が開く音が聞こえたのだ。
 
「誰か来たらしいな。上がるか。」
 
 私達が風呂場から出てみると、副団長とオシニスさん達が来ていた。
 
「おお、なんだお前ら、まだ寝てなかったのか?」
 
 副団長は陽気に声をかけてくれる。その後ろで、オシニスさん達は黙ったまま服を脱ぎ始めていた。
 
「明日はどんな訓練が待ってるのかな、なんて話してたら遅くなっちゃったんですよ。」
 
 笑顔になれない私をちらりと横目で見て、カインが大きな声で答えてくれた。
 
「ほお、それじゃ期待していてくれよ。楽しい訓練になるぞ。」
 
 副団長はニッと笑った。
 
「楽しい訓練か・・・。それじゃさっさと寝たほうが良さそうですね。」
 
 カインが肩をすくめてみせた。
 
「そうだな。ちゃんと眠っておけよ。明日寝ぼけていてみろ。お前らの脳天を直撃してやるからな。」
 
 オシニスさんがこちらを振り向き、副団長と同じようにニッと笑った。
 
「ははは。それは痛そうだなぁ。それじゃ俺達は行きます。お休みなさい。」
 
「ああ、お休み。」
 
 私はとうとう一言も口をきけなかった。そしてライザーさんも、一言も口をきかなかった。
 
「副団長に変に思われたかな・・・。」
 
「気にするな。疲れてたんだろう、くらいにしか思わないよ、きっと。」
 
 部屋に戻り、ベッドに腰掛けてやっと一息つけた。そしてさっき脱衣所で、オシニスさんの後ろで黙ったままでいたライザーさんの横顔を思い出した。きっと彼もつらかったに違いない。それなのに私は子供みたいに拗ねて、目を合わせようともしなかった。
 
「・・・・・・のか・・・?」
 
「え?」
 
 カインが何か喋っていたらしいが、私の耳には入っていなかった。
 
「あ、ごめん・・・。聞いてなかった・・・。」
 
 カインはため息をついて、『仕方ないな』と言うような表情をしてみせた。
 
「さっきの話の続きだよ。フロリア様の様子がおかしかったって言う。」
 
「そのことか・・・。そうだね、確かにあの御前会議の時、フロリア様の様子は変だったと思うよ。」
 
「たとえばどんなふうに?」
 
「具体的にどこがどうおかしいってわけじゃないんだ。でも・・・何となく違和感があったことは確かだよ。入った瞬間から部屋の空気が異様に冷たかった。ライザーさんもあの時言ってたよね?そしてフロリア様の様子も、いつもの優しい雰囲気が感じられなくて、何となく冷たいような、そんな気がしたんだ。最もあの時の議題が議題だから、それで厳しい表情をされていたのかも知れないけど・・・。」
 
「3年前もこんな感じだったのかな。」
 
「この間の団長の話?」
 
「ああ・・・。俺にはどうしても信じられないんだ。フロリア様があんな無慈悲なことをされるなんて・・・。」
 
「そうだね・・・。私だって信じたくないよ。」
 
「フロリア様は俺達ならと南大陸行きを許可してくださった。今回の任務を無事遂行することが出来れば・・・その答えも見つかるのかな・・・。」
 
「そう願いたいね。それに、この任務が成功すれば、君だって願いが叶うじゃないか。」
 
 カインは少しの間黙っていた。
 
「・・・気づいてたのか・・・。」
 
「気づいてないと思われていたんだったら心外だな。君に私の考えていることがわかるように、私にだって君の考えていることくらいわかるよ。」
 
「そうだな・・・。」
 
 カインはごろりと自分のベッドに寝ころんだ。そして天井を見つめたまま、ちいさな声でつぶやいた。
 
「・・・クロービス・・・ごめんな・・・。」
 
「謝るようなことなんてないじゃないか。」
 
「俺のわがままに・・・お前まで巻き込んだ・・・。」
 
「別に巻き込まれてなんていないよ。私は自分から志願したんだから。それに、わがままなんかじゃないよ。誰かがやらなくちゃならないんだ。それが私達だっていいじゃないか。」
 
「・・・そうか・・・。そうだな・・・。任務を果たして戻ってくればいいんだからな。」
 
「そういうことだよ。もしも私達が戻って来れなかったりしたら、オシニスさんがロコの橋を越えてしまうよ。あの人がロコの橋を渡るって言えば、ライザーさんも必ず一緒に行くって言ってた。あの二人がそうすれば、他の人達だって同じ行動に出るかも知れない。そんなことになったら剣士団の統制だって乱れてしまうからね。私達の責任は重大なんだ。もう後戻りは出来ないんだから、それならどうやったらうまく前進出来るかのほうに頭を使おうよ。これ以上先輩達に迷惑はかけられないよ。」
 
「そうだな・・・。それじゃ、明日に備えて寝るか。もう明日しかないんだ。しっかり調整しておこうぜ。ぼんやりしてる間にモンスターにやられたりしたら全てが水の泡だ。」
 
 カインは自分に言い聞かせるように大きな声で言うと、布団に潜り込んだ。
 
「うん、そうだね。お休み、カイン。」
 
「お休み。」
 
 カインを励ましているうちに、少しずつ悲しい気持ちが薄らいでいったが、布団に潜りこむと、また後悔の念が押し寄せた。あんな話聞かなければよかった。どうしてあの時、私の足は動かなかったのだろう。どうして聞き耳を立ててしまったのだろう。どうしてあんなひどい言葉を言ってしまったのだろう。今さら何を言ってもどうしようもない。そう思ってみても私の心の中には「どうして」という思いが湧き上がってくる。また涙が出た。そして故郷の島で、王国の島影を見つめながらライザーさんの話をしているイノージェンの背中を思い出した。彼女は今頃どうしているのだろう。今も毎日岬に立っているのだろうか。私が剣士団長と島に帰った日、グレイがイノージェンに気持ちを打ち明けたらしいことはわかった。そして彼女がどんな答を返したのかも。彼女はそうして今も待っているのだろう。ライザーさんが島に帰るのを。
 
「クロービス。」
 
 突然カインに呼ばれ、私はカインがまだ眠っていなかったことに気づいた。
 
「明日の朝までに気持ちを切り替えておけよ。」
 
 そう言うと、カインがベッドの中で向こうを向く気配がした。
 
「うん・・・。ごめん・・・。」
 
 カインは、私がベッドに入ってもまだ、べそをかいていたのに気づいていた。私は考えるのをやめた。カインの言うとおりだ。とにかく明日の朝までに気持ちを切り替えて、最後の訓練に臨まなくてはならない。私は涙を擦ると、布団を頭からかぶった。
 
 翌日の朝、眠ったのかどうかもわからないうちに、私は目を覚ました。それでも疲れは残っていなかった。風呂に入って汗を流しておいたのがよかったのかも知れない。まだ時間は早い。少し荷物の整理でもしておこうかと、私は自分のチェストの中を開けた。そしてそこに本が二冊入っているのを見つけた。図書室から借りた本だった。明日の朝は早くにここを発たなければならない。返すとしたら今日しかない。多分夜は疲れてそれどころではないだろうから、今のうちに返してこよう。図書室の開く時間にはまだ早かったが、司書達は大抵、規定の時間よりも早くから開けておいてくれた。着替えをして部屋を出ようとすると、カインが目を覚ました。
 
「おはよう。もう行くのか?」
 
「おはよう。まだ早いよ。図書室に借りてた本があったんだ。ちょっと返してくるよ。直接食堂に行くから、そっちで会おう。」
 
「わかった。」
 
 部屋を出て、図書室に向かうためにロビーを通った。まだ玄関は開いてないので、パティもいない。だが、図書室の扉は開いていた。私は司書のカウンターへ行き、声をかけた。
 
「おはようございます。本を返したいんですけど。」
 
 カウンターにいた司書のレディ・マリーが顔をあげた。
 
「あら、おはよう、クロービス。あなた、南大陸に行くのよね?」
 
「はい。」
 
 レディ・マリーの口調はまるで、ちょっとそこまで買い物にでも行くのかと尋ねるような、そんなさりげない口調だった。『南大陸へ行く』と言う言葉を、今までこれほど軽やかにさらりと口に出した人はいなかったので、私は少し面食らった。レディ・マリーはそんな私を見上げ、くすりと笑った。
 
「どうしたの?」
 
「あ、いえ・・・。」
 
「ふふふ・・・。私が他の人みたいに悲壮な言い方しないから?」
 
「は・・・はい・・・。」
 
 この人はまるで人の心が読めるようだ。
 
「私がそう言う言い方をすればあなた達が安全になるって言うなら、いくらでもそうするわ。でもそう言うわけじゃないわよね?そうね・・・確かに南大陸は危険だわ。昔はあっちまでよく移動図書館で行ったものだけど・・・。」
 
「そんなに何度も?」
 
「そうよ。でも、今の様子はわからないわ。気をつけていくのよ。」
 
「はい、ありがとうございます。」
 
 レディ・マリーは司書の仕事についてもう10年以上になるベテランだ。王宮とクロンファンラを何度か転勤で異動している。だが、ここ何年かの間にモンスターが活性化し、異動が取りやめになってからはずっと王宮にとどまっていた。彼女の本に対する情熱と知識の深さについては、王宮の中で右に出る者はいない。だから皆、尊敬を込めて『レディ・マリー』と呼んでいた。レディ・マリーは私に、少しの間南大陸についての知識を伝授してくれた。移動図書館の馬車に乗って見えた景色や、そこに棲むモンスター達のこと、そして訪ねた集落のこと、剣士団の先輩達から聞く話とは、また違った面から見た『南大陸』の姿を、色々と教えてくれた。
 
 礼を言って図書室を出たところで、いきなり腕を引っ張られ、私はあやうく転びそうになった。腕を引っ張っていたのはエミーだった。
 
「ちょっと時間はある?」
 
「今日は最後の訓練なんだ。今、レディ・マリーと話していて遅くなったから、急いで食堂に行かないとね。」
 
「それじゃ、ちょっとつきあってもらうわ。」
 
 エミーは私の袖を引っ張りながら、どんどん歩き出した。時間がないと言ったつもりの私の意図が伝わらなかったのだろうか。やがてエミーは私を王宮の外に連れだし、玄関の脇にある庭に向かった。庭には春の花が咲き始めていた。エミーはそこを通り抜け、何と中庭へ行こうとしている。中庭から先は、王宮内部の人間しか入れない。内部の人間が外部の人間を連れて行くためには、あらかじめ許可を取り、内部の人間が必ず同行しなくてはならない。私は慌てて立ち止まり、エミーの腕を引っ張った。
 
「エミー、だめだよ。その先は行けないんだ。許可は取ってあるの?」
 
「そんなものないわ。いいから、中庭へ行くの。」
 
 言いながら、エミーは私の腕を引っ張り、また歩き出した。いつもと様子が違う。私は腕を振りほどき、逆にエミーの腕を掴んで引き寄せた。
 
「だめだってば!無許可で中庭に行ったりしたら、見張りの剣士に見つかって連れ出されるよ。それだけじゃない。君はもう王宮に出入り出来なくなってしまうんだ。そしたらもう図書室で勉強することも出来ないじゃないか。それに、君の姉さんにだって迷惑をかけることになるんだよ!」
 
 エミーは怒ったように振り向くと、私を睨んだ。
 
「そしたら私はあなたに連れてこられたって言うわ。そうすればあなたも処分は免れないわよね。」
 
「・・・何を言いたいんだ?」
 
 エミーの意図がわからない。さっきはやはり、私が時間がないと言ったのを承知の上でここまで引っ張ってきたのに違いない。
 
「私はあなたに無理やり連れてこられたって言うの。そしてあなたがそれを私のせいにしたら、きっとあなただって処分は免れないわ。それに、きっと剣士団の中でも信用をなくすわ。」
 
 冷たい言葉とは裏腹に、エミーの目には涙が滲んでいる。以前、エミーが私のことを好きなのだとカインに聞いてから、図書室に行く回数が少なくなっていた。行く時はエミーと顔をあわせなくていい時間帯を選ぶようになっていた。それでも顔を合わせてしまうことはあった。そんな時、エミーは何事もなかったかのように私に接し、私も出来る限り今までと同じように接してきたつもりだった。彼女の気持ちに気づかないふりをし続けていたことが、これほど彼女を傷つけていたのだろうか。明日の朝にはここを出る。話す機会は今しかない。私はエミーの話を聞くことに決めた。
 
「・・・君は・・・一体どうしたいんだ・・・?」
 
 エミーは私が怒り出さないことに戸惑ったらしく、顔をこわばらせた。
 
「規則を破るような信用のおけない剣士に、重要な任務なんて任せられないわ。そしたら、あなたは今回の南大陸行きからきっと外されるわよ。」
 
 突然、エミーの意図を理解したような気がした。彼女は私を南大陸に行かせたくないのだ。だからこんなことをして、私の信用を落とそうとしたのだ・・・。子供じみた考えではあるが、エミーがこんな行動に出るほど追いつめてしまったのは、きっと私自身なのだ。今さら彼女を傷つけたくないなんて、きれい事は言っていられない。はっきりと言うしかない・・・。
 
「エミー、それはないよ。カインと私が南大陸に行くって言うことは、もう決まったことなんだ。そしてそのために、剣士団の先輩達が一生懸命訓練してくれている。その訓練の最終日が今日なんだ。今からこの任務が取りやめになるなんてことは絶対にないよ。それにね、そもそもそんなことで剣士団長もフロリア様も、私に対する評価を下げたりしないよ。剣士団て言うのはね、君が考えるほど甘くないんだ。」
 
 エミーは黙って私の話を聞いていたが、聞いているうちに、怒ったような顔が歪み、泣き顔に変わっていた。
 
「それじゃ・・・どうしたらあなたを止められるの?どうしたら・・・あなたを南大陸に行かせないように出来るの?」
 
「出来ないよ。これはもう、決まったことなんだ。」
 
「あなたは行きたいの?」
 
「行きたいか、行きたくないかじゃないんだ。これは仕事なんだよ。自分の好き嫌いで決められることじゃない。」
 
「だって死ぬかも知れないところよ!?それなのに、選択の余地さえないって言うの!?」
 
「王国剣士になった時から、その覚悟は出来てるよ。それに、私達は任務を遂行して戻ってこなくちゃならない。だから死んだりしないように、みんなが必死で訓練してくれているんだよ。」
 
「行かないで!」
 
 エミーは突然私に抱きつき、泣きながら叫んだ。
 
「それは出来ないよ。」
 
 言いながら私はエミーをそっと体から離し、なだめるように肩を叩いた。
 
「こんなに頼んでいるのにだめなの?私の頼みは聞いてくれないの!?」
 
「私に出来ることなら聞いてあげるよ。でも、これは出来ないことなんだ。だからきけない。」
 
 涙顔で私を見上げるエミーに言うにはつらい言葉だったが、それでも私は意識してきっぱりと言い切った。エミーは涙をぽろぽろこぼしながら、じっと私を見つめている。
 
「わかったわ・・・。それじゃ・・・別なことを頼むわ。」
 
 私はほっとして、エミーの次の言葉を待った。だが、彼女の口から出た思いがけない『頼み』に、私は言葉を失った。
 
「あなたは必ず帰って来るって言ったわ。それなら、帰ってきたら、私とおつきあいして。」
 
「そ・・・それは・・・。」
 
「これなら出来るわよね?仕事のことは自分の意志では決められなくても、これはあなたの意志で決められることだわ。私、あなたのことがずっと好きだったの。だから、帰ってきたら・・・。」
 
 口調は強引だったが、エミーが一大決心して言っていることは判った。涙をためたまま、すがるような瞳で私を見上げている。一瞬だけ心が動きそうになった。彼女を女性として見たことは今まで一度もない。でもこれほど慕ってくれるのなら、この先そう言う眼で見ることが出来るようになるかも知れない。南大陸で死ぬ気など毛頭ないのだから、必ず帰ってくるのだから、この約束は果たせるかも知れない。そこまで考えて、いきなり私は昨夜のライザーさんの言葉を思い出した。
 
『果たせないかも知れない約束なんて、するべきじゃなかったんだ・・・。』
 
 仮入団の日、イノージェンを幸せにしてくれと言った時、私は、やっぱりこんなふうだったのだろうか。こんなすがるような瞳でライザーさんを見上げていたのだろうか。私が彼を追いつめ、無理な約束をさせてしまったのだろうか・・・。
 そして今、私はエミーに同じことをしようとしている。果たせるかも知れないということは、果たせないかも知れないと言うことだ。確率は半分。でも私が約束に応じれば、エミーはその半分の確率にすべてをかけて私を待つかもしれない。そして私が帰って来れなかったら?いや、帰ってきて再会しても、私が彼女をやはり女性として見ることが出来なかったら?
 
 黙り込んだ私を見つめ、エミーが不安そうに口を開いた。
 
「どうして黙ってるの・・・?他に好きな人がいるの・・・?」
 
「いないよ。」
 
「それとも私が嫌い?」
 
「そんなことないよ。」
 
「それじゃ、聞いてくれるのね?」
 
 ほっとしたようにエミーが微笑んだ。この笑顔を打ち砕くのかと思うと胸がズキンと痛んだが、やはり私にはこの頼みを聞くことは出来ない。
 
「ごめん・・・。その頼みは・・・きけないよ・・・。」
 
 エミーの顔がこわばった。
 
「どうして?好きな人がいないんでしょう?私のこと嫌いじゃないんでしょう?それなのにどうしてだめなの!?」
 
「私は・・・君のことを妹のように思ってるよ。でも女性として見たことは一度もないんだ。」
 
「それならこれから見てくれればいいわ。おつきあいしていれば、見方も変わるわよ。」
 
「変わらないかも知れないよ。」
 
「かも知れないって言うのは、半分は期待していいってことよね?」
 
「そして半分は期待しちゃいけないんだ。そんなあてにならない約束で君を縛るわけにはいかない。」
 
「私がいいって言うんだからいいのよ!そのくらいきいてくれたっていいじゃないの!」
 
 エミーがヒステリックに叫んだ。庭の中には、少しずつ一般の人達が入ってきている。その人達の何人かが、エミーの声で振り向いた。もう日は高い。訓練場に行かなければならない。
 
「君がそれでよくても、私はよくない。そんないい加減な約束はするべきじゃないんだ。もう一度言うよ。私にとって、君は妹みたいな存在なんだ。それ以上でもそれ以下でもない。これからもそれは変わらないよ。」
 
 エミーは涙をためた瞳で私を睨んだ。どれほど憎まれても仕方ないと思った。エミーはそのまま少しの間肩を震わせていたが、やがて涙を袖でゴシゴシと拭うと、いきなり私の頬を思い切り叩いた。
 
「行っちゃいなさいよ!そんなに大事な仕事に、さっさと行けばいいわ!」
 
「エミー・・・ごめん・・・。」
 
 玄関へと歩き出した私の背中に向かって、エミーが叫んだ。
 
「帰ってくるのよ!必ずよ!このくらいの頼みなら聞いてくれるわよね!?」
 
 私は振り向いて微笑んだ。
 
「それなら請け合うよ!必ず帰ってくる!」
 
 そして玄関に向って駆けだした。
 
−−死なないで!!−−
 
 突然頭の奥に響いた声で、私はあやうく立ち止まって振り向きそうになった。これは・・・多分エミーの声・・・。心の中の叫び・・・。エミーの切なさが伝わってくるような気がして、涙が出そうだった。
 
 まっすぐ訓練場に行こうかと思ったが、まだ食事をしていないことに気づいた。胃が空っぽのままで出来るような生やさしい訓練ではない。だが食べてすぐでは吐いてしまうかも知れない。一瞬迷ったが、私は食堂へ向かった。食事時にモンスターが襲ってこないなんて限らない。消化するまで待っていてくれるとも思えない。これもまた訓練の一環だ。そう自分に言い聞かせて、私は食堂に駆け込み、すぐに食べられる食事を作ってもらって大急ぎで食べた。
 
 朝、部屋を出てから、もうかなりの時間が過ぎている。みんな怒っているに違いない。私は走って訓練場に飛びこんだ。既にみんな来ていて、それぞれ素振りなどを始めていた。入るなり怒鳴りつけられるだろうと覚悟していたのに、みんな私のほうをちらりと見ただけで、誰も声をかけてこなかった。見渡すと、副団長もいたし、セルーネさん達もいた。セスタンさん達もいる。彼らが黙っているのが不思議でならなかった。ベンチに座っていたオシニスさんだけが立ち上がり、私に近づいてきた。叱られる前に先手を打とうと、私は必死で頭を下げた。
 
「遅くなってすみませんでした!」
 
 私は頭を下げたままオシニスさんの怒鳴り声を待った。だが、聞こえてきたのは思いがけず優しい声だった。
 
「まあいいさ。少し体慣らしをしろ。準備が出来たら声をかけてくれ。」
 
 私は思わずぽかんとして顔をあげた。
 
「何だよ?遅れてきたならぼんやりしてる暇はないはずだがな?」
 
「あ、は・・・はい・・・。」
 
 わけがわからないまま、私は訓練場の中にカインを捜し、壁際で素振りをしていたところに近づいていった。カインにも怒鳴られるかと思ったが、カインは素振りをやめ、私に向かって微笑んだ。
 
「用事は済んだのか?」
 
「用事って・・・。それより、どうしてみんな怒らないのかな。遅くなったから、怒鳴りつけられるのを覚悟で来たんだけど。」
 
「お前、図書室を出たあと、エミーに会っただろ?」
 
「どうして知ってるの?」
 
「さっきお前がなかなか来ないから、図書室の前まで探しに行ったんだ。その時、執政館の前にいたシルフィさんが教えてくれたんだよ。お前がエミーに引っ張られて玄関から出ていったってな。エミーとお前との噂のことはみんな知ってるからな。明日出かけちまえばもう当分会えないんだから、まあ大目に見ようってことになったのさ。」
 
「何か誤解されてるみたいだね。」
 
「どうかな・・・。カーナの奴は『やっぱりねぇ』なんて言ってたけど、お前がどうやら引っ張られてついて行ったらしいって俺がみんなに言っといたから、他の人はそんなこと思ってないと思うよ。それより、準備はどうだ?飯も食ったばかりなんだろ?大丈夫なのか?」
 
「大丈夫だよ。モンスターが食事時を外して攻撃してくるとは限らないからね、どんな時でも戦えるようにしておかなくちゃ。エミーのことはあとで話すよ。明日出掛けたら、当分君と二人きりなんだから、話題を取っておかないとね。」
 
「ははは。そうだな。それじゃ始めてもらうか。」
 
「そうだね。今日は全員参加みたいだから、楽しい訓練になりそうだな・・・。」
 
「確かにな・・・。」
 
 カインも勢揃いした先輩達を眺め渡し、ため息をついた。
 
「よし、行くか。」
 
「うん。」
 
 顔を見合わせ、どちらからともなくにやりと笑うと、私達は準備を整えオシニスさんのところに行った。
 
「よろしくお願いします。」
 

第20章へ続く

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