小説TOPへ ←前ページへ



 
「フロリア様、レイナック殿、ノイマン行政局長殿、立会人の剣士団長殿、申し立てをこのまま続けさせてください。イノージェン、さっきの一文で最後だよね?続けられる?」
 
「大丈夫よ。驚いたけど、続きを読めば私の申し立ては終わりなの。」
 
「イノージェン、こんなことになって申し訳ありません。では申し立てを続けてください。」
 
 フロリア様の言葉で、ラッセル卿はリーザが隣について、妹のランサル子爵夫人は椅子に座ったまま、申し立てを続けることになった。
 
「ノイマン行政局長、弟は今、指一本動かせません。でも耳は聞こえるはずですので、イノージェンさんの申し立てを最後まで聞かせなければなりません。イノージェンさんの付添人の方に、お席に戻られるよう、お伝えくださいませ。」
 
 リーザが言った。すぐ隣にいるのだから、私達に直接話しかけたかっただろうに、異議申し立ての間はリーザ達と会話も交わせない。
 
「わかりました。クロービス殿、ウィロー殿、席に戻ってください。イノージェン殿、申し立てを続けてください。」
 
 ノイマン行政局長に促され、私達は椅子に座り直した。イノージェンの背中はピンと背筋が伸びて堂々としている。
 
(心配は要らないみたいだな・・・。)
 
 イノージェンが続きを読み上げ始めた。
 
「私には、ガーランド家の相続人に名を連ねる意思はありません。私にとってガーランド男爵様は他人でしかありません。男爵様は母と私が北の島で苦労をしたと仰っていたようですが、母は亡くなるその時まで幸せに暮らしていました。そして私も、北の島でとても幸せに暮らしています。優しい夫とかわいい子供達と、仲のいい友達に囲まれて、何一つ不自由なものなどないのです。男爵様には、私などよりもご家族の皆さんを大事にしていただきたいです。私は今後二度とガーランド家と関わりたくありません。この申し立てによって、私とガーランド家の縁がきっぱりと、そして永遠に切れることを望みます。」
 
 イノージェンの声ははっきりとしていて、読み上げ方も堂々としていた。
 
「イノージェン殿、あなたの申し立てが受理されれば、このテーブルの上に置かれた手紙とお金は、あなたが受け取ることの出来ないものとなります。そして相続人にならない場合、あなたが受け取れるはずのお金についてもその権利が消滅します。それで異議ありませんか?」
 
「ありません。」
 
 ノイマン行政局長の問いに、イノージェンの答えは早かった。
 
「なお、先代のガーランド男爵がイノージェン殿の母上エレシア殿に手切れ金として渡したお金については、今回の申し立ての範囲外ですので、イノージェン殿はガーランド家にそのお金を返す必要がありません。そしてガーランド家でも、そのお金についての請求権はありません。ではフロリア様、ご裁定をお願いいたします。」
 
 ノイマン行政局長がそこまで言って、後ろに下がった。いよいよ裁定だ。
 
「イノージェン、あなたの申し立てを受理します。今この時より、あなたとガーランド男爵家との縁は法的に切れました。ラッセル・ガーランド卿、現在入院中のあなたの父上に代わって、あなたが今回の申し立てで決まったことを遵守してください。リーザ、ランサル子爵夫人、ガーランド男爵は今入院中ですが、あなた達から今回の申し立てについて説明をしてください。イノージェン、あなたはガーランド男爵に会う事も出来ます。もう裁定はくだったのですから、あなたと男爵が会っても会わなくても決定が覆ることはありません。もしも会いたいと思うのでしたら、リーザ、あなたが仲介をしてください。」
 
「わかりました。」
 
 リーザは複雑そうだった。
 
「フロリア様、お心遣いありがとうございます。ですが私は男爵様にお会いする意思はありません。もう2度と顔を合わせることもないでしょう。そのほうがいいと思います。」
 
 そう言って、イノージェンはリーザ達に向き直った。
 
「ラッセル卿、リーザさん、チルダさん、あなた達にとっておそらく私は災厄のようなものだったでしょう。私を疎ましく思う気持ちはよくわかるわ。でもね、私にとっても男爵様の申し出は災厄でしかなかったのよ。もう顔を合わせなくてもいいのだから、お互い様と言うことで忘れましょう。でもうちの子供達はこの町に仕事があるわ。だから子供達とは顔を合わせることがあると思う。今回のことは、子供達には何の責任もない話よ。だからあの子達に敵意を向けるようなことはしないでね。」
 
 淡々とした、でも確固たる意思を持った強い言葉に、リーザもランサル子爵夫人も言葉に詰まった。倒れたままのラッセル卿は呆けたように天井を見つめたままだ。
 
「イノージェンさん、ライラとイルサのことについては、心配しないで。あの子達に敵意を向けるようなことは絶対にないから。」
 
 リーザが言った。それは心からの言葉だとわかった。
 
「ではこれにて、ガーランド男爵家の相続に関する異議申し立てについては終了とする。なお、今回の裁定の内容については、ガーランド男爵家、イノージェン殿、それぞれに書面にて通知する。みなご苦労であった。」
 
 レイナック殿の言葉で、見届け人の大臣達が部屋の外に出始めた。これならもうあの話をしても大丈夫だろう。
 
「ではノイマン行政局長殿、ここからはリーザと話をしても大丈夫ですね?」
 
「かまいませんよ。もう裁定は終わりですからね。」
 
 ノイマン行政局長が言った。
 
「わかりました。リーザ、ここにも備え付けの担架はあるよね?ラッセル卿を医師会に運んで。彼は大量の鎮静剤を飲んでる。早く毒を出さないと命に関わるよ。」
 
「ど、どういうことよ!?それは父様の話じゃ・・・。」
 
「おいクロービス、その話はどこから出てきた!?」
 
 オシニスさんが驚いて駆け寄ってきた。
 
「今朝のうちに牢獄から報告書が届いているはずです。医師会に届いた報告書を、先ほどここに来る前に読ませてもらうことが出来ました。フロリア様もレイナック殿も、報告書を読んでいただけませんか?とにかく一刻を争うくらい危険な状態なんです。」
 
 ラッセル卿はぐったりとしている。リーザが麻痺を解いたが動く気配がない。最近はおそらくかなり大量に「ハーブティ」を飲んでいたはずだから、それだけでも体にかなりの負担がかかっているはずだ。早く毒を出さなければ、幻覚と妄想に取り憑かれた状態が続くことになる。精神的にも疲弊するし、禁断症状が出る恐れもある。
 
「リーザ、ラッセル卿がいつも飲んでいたって言う「ハーブティ」なんだけどね、どのくらいの頻度で飲んでいたか、君の家のメイドに聞くことは出来るかい?」
 
「それは出来るけど・・・ねえクロービス、あなたどうしてうちのことにそんなに詳しいの?」
 
 この疑問はもっともだ。
 
「クロービス、その話は昨夜聞いたのか?」
 
 後ろでオシニスさんの声がした。
 
「そうです。」
 
 私は振り向かないまま答えた。
 
「そうか・・・。悪いがリーザに昨夜の件を話してやってくれ。どっちみちこの申し立てが終わったら話を聞きに行くつもりだったからな。」
 
「わかりました。」
 
「話って・・・昨夜?何があったの・・・?」
 
「ちょっとこっちに来てよ。ウィロー、イノージェンを頼むよ。」
 
「ええ、任せて。」
 
 妻とイノージェンが小声で何か話している。今の私の話が昨夜のことだという内容かもしれない。
 
 私はきょとんとしているリーザを部屋の隅に連れていって、聞き耳を立てている人がいないかどうか確かめてから小声で昨夜のことを耳打ちした。リーザの顔がみるみるこわばり、ガタガタと震えだした。
 
「リーザ、落ち着いて。」
 
「おい、どうしたんだ?」
 
 そこにハディがやってきた。
 
「フロリア様の護衛は大丈夫なの?」
 
「今交代したよ。オシニスさんがリーザのところに行ってやれって言ってくれたから来てみたんだが、何があったんだよ・・・。」
 
 さっきまでハディが立っていた場所を見ると、女性剣士が立っている。どうやらリーザの後継候補らしい。
 
「昨夜一悶着あってね、その話をリーザにしたところなんだ。君にリーザを任せられるなら、頼むよ。ラッセル卿は執政館勤務の王国剣士が連れて行ってくれるみたいだし。」
 
 既に担架が用意され、ラッセル卿が乗せられて運ばれていくところだった。
 
「私は医師会に戻ってラッセル卿の病室を確保するよ。もしかしたらハインツ先生が手配してくれているかも知れないけどね。」
 
「一悶着?」
 
「オシニスさんのところには報告書が出ているはずだから、教えてもらえると思う。それより、今はリーザを支えてあげてよ。」
 
 そのリーザはその場にしゃがみ込み、泣き出してしまった。
 
−−もう・・・ダメかもしない・・・。今度こそ取りつぶされてしまうかも・・・。−−
 
 申し立ての場であれだけの騒ぎを起こしたのだから、それだけならば確かにそうなる可能性はあるだろう。だが「ハーブティ」の一件とドーンズ先生の讒言について、フロリア様とレイナック殿、そしてノイマン行政局長はどう考えるだろう・・・。
 
「お、おい!?」
 
 ハディがリーザの隣にしゃがみ込み、『どうした?』と聞いている。リーザのことはハディに任せれば大丈夫だろう。
 
 
 
『大量の鎮静剤』
 
 ドーンズ先生はもしかしたら、あの薬を使って他にも何かやっているのではないだろうか。彼がこの鎮静剤を大量に使うのは、おそらく根を乾燥させて作る薬も、花を乾燥させて作る薬も、この国ではどこにでも生えるありふれた薬草だからだ。当然価格は安い。一定の在庫を確保するためにうちの島でも栽培しているが、ライザーさんに言わせると『全く手をかけなくても勝手に育つ』らしい。民間療法にも使われているし、実際に花から取れる方の薬草は『気鬱を治す』として一般の薬屋でも売られている。そんな安価なものならいくら大量に使っても懐は痛まない。それでガーランド家から金を搾り取れるなら安いものだと言うことなのかもしれない。
 
 だがラッセル卿だって、それが薬と知っていたならそんなに大量に飲まなかっただろう。それを「ハーブティ」と偽って飲ませていたのは全てドーンズ先生の仕業だ。
 
「クロービス、私はイノージェンと一緒に東翼の宿泊所に戻るわ。子供達に話してあげなきゃ。」
 
「頼むよ。私は医師会でラッセル卿の病室を確保するから。」
 
イノージェンを妻に任せて執務室を出ようとした時に、背後で声が聞こえた。
 
「くそっ!ドーンズの奴どこまで性根が腐ってるんだ!」
 
 オシニスさんの声だ。報告書を読んだのだろう。その時廊下の先で『ラッセル卿!?どうしました!?』と叫ぶ声が聞こえ、私は駆け出した。ラッセル卿を乗せた担架が廊下に下ろされ、王国剣士の1人が治療術を唱えている。
 
「どうしたんだ!?」
 
「あ、クロービス先生、ラッセル卿が白目をむいてしまったんです。泡も吹いているので一度治療をしてから向かいます。」
 
 ラッセル卿の顔色はさっきより酷く悪い。念のため脈を診てみたが、何とか生きていると言うくらい脈が遅い。
 
「クロービス先生、何かお手伝い出来ることはありますか!?」
 
 声に振り向くとローランド卿が走ってきていた。
 
「ローランド卿、申し訳ありませんが医師会のドゥルーガー会長に、ラッセル卿のための個室を確保してくれるよう頼んできてくれませんか。ハインツ先生が手配してくれているとは思いますので『解毒のための設備もお願いします』と。そう仰っていただければ会長もハインツ先生もわかると思います。」
 
「わかりました。」
 
 ローランド卿は、あっという間に廊下を駆け抜けていった。私より10歳以上年上とは思えない、素晴らしい身のこなしだ。
 
 
 ラッセル卿の脈が、少しずつ戻ってきた。落ち着いたのを確認して、再び担架を持ち上げて医師会に向かって歩き出そうとした時、さっきローランド卿の立っていた場所の後ろに、チルダ・ランサル子爵夫人が立っていることに気づいた。
 
「ずっとそこにいらっしゃったんですか?」
 
 チルダさんは頷き、小さな声で
 
「お久しぶりです、クロービスさん。」
 
 と言った。
 
「ええ、久しぶりですね。以前お会いした時は、ちょうどご結婚されたばかりの頃でしたね。」
 
 チルダさんは早くに結婚して家を出ていたのだが、結婚相手のランサル子爵、当時はまだ家督相続をしていなかったご夫君の計らいで、出掛けることは自由に出来たらしい。そこで兄上のラッセル卿と一緒に、町の中で姉のリーザを探してはおしゃべりしたりお茶を飲んだりしていたのだが、私達も当時の警備場所は町の中が多かったので(というより、南地方に迷い込んだりして酷く怒られた後の話だったので、指示がない限り城壁の外には出られなかった頃の話だ。)時々一緒にお茶を飲んだ記憶がある。結婚したと言ってもまだ当時は確か14〜5歳だったはずだから、外で見るもの聞くもの全てが新鮮だったのだろう。確か本人も言っていたことがある。
 
『わたくし、結婚してからの方がとても自由にしておりますのよ。』
 
 そのチルダさんの言葉に、リーザが複雑な顔をしていたのを覚えている・・・。
 
「兄は大丈夫なんですか?」
 
 不安そうにそう尋ねたので、正直なところなんとも言えないが、これから医師会で解毒をして、しばらく安静にしてもらうようにすると伝えた。
 
「わたくしもご一緒していいでしょうか。」
 
「かまいませんよ。ご家族にも連絡していただいていいですか?」
 
「はい、ロビーに使用人を待たせておりますので、ロビーに出たら一声かけておきます。」
 
「では一つお願いがあるのですが、ラッセル卿のご家族に、ラッセル卿がいつも飲まれている「ハーブティ」について、最近どのくらいの濃度と頻度で飲まれていたか、ガーランド家のメイドさんに聞いてきてくださるよう、お願い出来ませんか。それとその「ハーブティ」がお屋敷にあるなら、それも持って来ていただきたいと。」
 
「先ほども姉にそのことを聞かれてましたわね。重要なことなのですね?」
 
「はい、ラッセル卿の今後の治療は、そのメイドさんにかかっていると言ってもいいくらいです。」
 
「わかりました。必ず持って来てくれるように申し伝えます。」
 
 ロビーに出たところで、チルダさんに向かって「奥様!」と駆け寄ってくる者がいる。
 
「何かございましたか!?」
 
 何人かの王国剣士が担架を持っているので驚いたらしい。奥様と呼ぶと言うことは、ランサル子爵家の使用人だろう。チルダさんは使用人に何事か話していたが、彼は顔色を変えて、すぐに外に出ていった。
 
「ガーランド家とうちと、両方に連絡してくれるよう頼みました。兄の家族と、うちの夫が来てくれると思います。先ほどのお茶の件も合わせて頼んでおいたので、義姉が聞いてきてくれると思います。」
 
「そうですか。ご家族がいらっしゃったら、ラッセル卿の今の状態を説明させていただきます。ご主人にも一緒に聞いていただきますか?」
 
「お願いします。義姉と子供達だけでは不安でしょうし。」
 
「わかりました。」
 
 
 医師会の入り口には、ゴード先生が待っていてくれた。
 
「ハインツ先生がお待ちです。私が案内しますのでついてきてください。」
 
 私達はゴード先生について、病棟の2階の病室に入った。
 
「お待ちしていましたよ。すみませんね、1階の病室が空いてなくて。担架を担いで階段を上がるのは大変だったでしょう。」
 
 その部屋は元々3人部屋らしいのだが、ベッドを一つにして空いた場所に解毒のための設備が設えられていた。
 
「ありがとうございます。すぐに解毒に入りましょう。」
 
 解毒とは実はとても原始的な作業で、要は胃の中にあるものを全て吐き出させるということだ。飲んだのが本物の『毒』ならば毒の中和の呪文でもいいし、解毒剤を飲ませればすむ話なのだが、ラッセル卿が飲んだのは薬だ。大量に飲んだとしても毒の中和では解毒出来ない。
 
 ラッセル卿が「ハーブティ」を飲んだのはおそらく申し立ての前の昼だろう。イノージェンが既に死んでいると思い込んでいたとしても、まず疑われるのはガーランド男爵家なのだから、追求されることは考えていたのかも知れない。それで心を落ち着けるために、「ハーブティ」をおそらくはがぶ飲みしてきたのではないかと思う。申し立ての前にラッセル卿が私の隣を通った時、ほんのわずかな鎮静剤の香りがしたのだ。牢獄からの報告書にあったものと同じ鎮静剤の香りが。
 
 念のため王国剣士とチルダさんには部屋の外に出てもらった。そしてハインツ先生とゴード先生と私は、こういう時のために着る専用の服と帽子を被り、マスクとめがねもかけて、手袋もした。飛沫が目や鼻に入ったり、皮膚につくのを防ぐためだ。それからラッセル卿の上着とズボン、そしてシャツも脱がせて別な袋に入れた。袋の口をしっかりと閉めて、出来るだけ解毒をする場所から遠くに置く。ラッセル卿が今着ているのは下着だけだ。上から病人用の服を着せたが、おそらく全部、あとで着替えることになるだろう。
 
「行きますよ!」
 
 ハインツ先生が大きなコップでラッセル卿の口に水を流し込む。何度も流し込むと、ラッセル卿は大きく咳き込んで、ゲエッ!と胃の中のものを吐き出した。用意しておいた大きなたらいに吐かせたのだが、ほぼ茶色の液体だ。あの鎮静剤の匂いがする。
 
「大当たりですね。次行きますよ!」
 
 ハインツ先生が水を飲ませ、ゴード先生はラッセル卿の体を支えている。私がラッセル卿の口に指を突っ込んで、吐かせる役だ。何度も何度も吐かせ、やがて鎮静剤の匂いのする茶色い液体があらかた出てしまった頃、ラッセル卿の顔色が少しずつ戻っていった。
 
「どうやらここまでで大丈夫なようですね。」
 
「はい、ありがとうございました。」
 
 今度は私達が来ていた専用の服を全て外してゴミを入れる大きな袋に入れ、着ている服にシミが残ってないかを確認する番だ。
 
「大丈夫みたいですね・・・。」
 
 3人でそれぞれお互いの服の確認をし合い、どうやら大丈夫となった。次はラッセル卿の着ていた下着も全て取り替えて新しい病人用の服に着替えさせ、ベッドに寝かせた。
 
「ラッセル卿の着ていた服はあとでご家族にお返しするか、チェストの中に入れておきましょう。」
 
「そうですね。ハインツ先生、報告書をスタンリーに届けさせてくださったこと、本当に助かりました。おかげでこの処置が出来たんです。ラッセル卿がおかしくなった原因を突き止められなければ、彼はもしかしたら命を落としていたかも知れません。」
 
「私もあの報告書を見た時はさすがに驚きましたよ。ドーンズ先生があんなに酷い人物だとはねぇ・・・。」
 
 
 やっと部屋の中が落ち着いたことで、外で待っていた王国剣士達とチルダさんを中に入れることが出来た。
 
「そちらの設備には近づかないでくださいね。今片付けてもらいますから。」
 
 そんな説明をしている間に、ハインツ先生の助手達が何人かやってきて、解毒の設備と汚れた服を全て運んでいった。
 
「兄は・・・どうですか?」
 
 チルダさんは心配そうだ。
 
「大丈夫ですよ。大分落ち着きました。さっきよりは顔色もいいし、あとはしばらく薬を飲んで安静にしていれば、よくなりますよ。」
 
 落ち着いてくれば、イノージェンが男爵家を乗っ取ろうと考えているなどと言う妄想はなくなるだろう。異議申し立ての決着もついた。もっともガーランド男爵は何も知らないまま眠っている。彼が今回の話を聞いてどう思うか、そして彼を説得するのはラッセル卿の役目だ。まだまだ落ち着かないだろうけど・・・。
 
「では私達は剣士団長に報告に戻ります。おそらく今日はここの警備をすることになると思います。」
 
「ありがとう。よろしく頼むよ。」
 
 王国剣士達は部屋を出て行った。チルダさんはベッドのわきに置かれた椅子に座り、ラッセル卿を見ている。
 
「クロービス先生、私達はラッセル卿に飲ませる薬の手配をしてきます。少しの間お願い出来ますか?」
 
「ええ、私がここにいますので、よろしくお願いします。」
 
 ハインツ先生とゴード先生は部屋を出て行った。
 
 
「クロービスさん・・・。」
 
 チルダさんが私を呼んだ。時折鼻をすすっている。泣いていたのだろう。
 
「どうしました?」
 
「少し、話を聞いていただけますか?」
 
「かまいませんよ。」
 
 何か話したいことがあるらしい。さっきから何かもやもやしたものがチルダさんを包んでいた。
 
「わたくし・・・本当はイノージェンさんに会いたかったんです・・・。」
 
「・・・・・・・・。」
 
「イノージェンさんの存在を知った時から、姉は母の気持ちを思いやって、イノージェンさんを私達のお姉様だと認めようとはしませんでした。兄も・・・夢見がちな父がいずれ男爵家の財産分与まで考えるのではないかと不安そうでした。でもまずはイノージェンさんと話をしてみたほうがいいのじゃないかと思ったんです。でもわたくしは、もうガーランド家を出た人間ですから、姉も兄もわたくしの意見など聞いてくれませんでした。家のことは全て任せて、必要な時にだけ自分達の言うとおりにしていればいいと言われて・・・。だけど・・・。」
 
 チルダさんがまた鼻をすすった。
 
「わたくし、会いたかったんです。どんな方か、ひと目お会いして話してみたかった・・・。姉と兄は顔を合わせる前から、絶対にイノージェンさんを認めないと言っていたんですけど、それでも・・・お会いして話をしてみれば、また見方も変わるかも知れないと思っていたのですが・・・。」
 
 
『お姉様、お兄様、その方とちゃんと話し合いをしたほうがいいのではありませんか?』
 
『何だと!?』
 
『だってどんな方かもわからないのに決めつけるのは・・・。』
 
『チルダ、あなたはもうガーランド家を出た人間よ!口出ししないで!あなたは必要な時に私達の言うとおりにしていればいいのよ!』
 
『その女と話し合い!?冗談じゃない!父上に任せておいたら、いずれ相続にまで首を突っ込ませてしまうだろう。その前に何としても阻止しなければ!』
 
 
 父親が結婚前に別な女性との間に子供をもうけていた。そして父親は、その子供にひと目会いたいと言っている。それがリーザにとってもラッセル卿にとっても衝撃的でつらいことだったというのは容易に想像がつくが、それはチルダさんにとっても同じなんだと、ちゃんと考える余裕すらなかったのだろうか。
 
(でも・・・リーザとラッセル卿がさっき聞こえた声みたいな調子だったら、チルダさんは自分の気持ちを誰にも言えなかったんだろうな・・・。このまま聞いてあげよう。)
 
「以前の話し合いの時のことは、姉から聞きました。あろうことか、イノージェンさんのお母様が、父が結婚したあとも密通していたのではないかなどと申し上げたそうですね・・・。」
 
「リーザはお母さんの気持ちを思いやっていたのでしょう。」
 
 それは紛れもなくイノージェンの母さんを侮辱する言葉だが、リーザの気持ちを思うと、何とも言いようがなかったものだ。
 
「でもそれは酷い侮辱ではありませんか。初対面なのに、しかも会ったこともないお母様に不義の疑いをかけるなんて・・・。あの時話し合いにわたくしも参加出来ていたなら、何としてもそんなバカなことを申し上げるのを止めたのに・・・。」
 
 リーザとラッセル卿は、最初からチルダさんを話し合いの席に同席させる気はなかったらしい。自分も行かせてくれと頼んだそうだが、『もうガーランド家の人間じゃないから』という理由で聞いてもらえなかったそうだ。リーザもラッセル卿も、その時から既に冷静さを失っていたのだろう。でもチルダさんには、とてもつらい言葉だったのではないだろうか。
 
「さっきの申し立ての時、イノージェンさんは私達と他人になることを切望していたと知って・・・。せめて・・・せめて兄と姉がもう少しちゃんと話を聞こうという姿勢を示してくれていたら・・・。」
 
 そもそも当代の男爵が、もっときちんとした態度をとっていればこんなことにはならなかっただろう。ガーランド家の利益を守り、自分の娘にひと目会って話をする程度にとどめておけば、リーザとラッセル卿だってあそこまで頑なにはならなかった気がする。そうすれば友好的とはならなくても、あんな風に縁を切らなければならないようなことには、ならなかったかも知れない。何もかも、自分だけの思い込みで無理矢理イノージェンを相続人に加えようとしたガーランド男爵に、みんなが振り回されて傷つき、悲しんでいる。
 
「チルダさんはどうしたいですか?イノージェンとガーランド家の縁は法的に切れました。血の繋がりは消すことが出来ませんが、それでもイノージェンは男爵を他人だと言い切っています。リーザはもうイノージェンのことで思い悩まなくてもいいだろうし、ラッセル卿もイノージェンが家を乗っ取ろうとしているなどという妄想からは解放されるでしょう。でもチルダさん、あなただけがまわりに振り回されて、自分がどうしたいのかを見極めることが出来ていないように思えます。あなたがイノージェンに対してどうしたいのか、私が聞いてそれを伝えることは出来ます。もちろんイノージェンがどう答えるかは私にはわかりません。」
 
「出来るなら・・・一度お会いしたいです。それが無理なら、せめて・・・せめて手紙を出すことを許していただけないかと・・・。わたくしは、今はもうガーランド家の人間ではありません。でも相続となれば関わらなければならないので、イノージェンさんがわたくしをどう思われるかはわたくしにもわかりません・・・。」
 
「伝えてみますよ。返事を聞けたら、ランサル子爵家に連絡を差し上げます。」
 
「よろしくお願いします。ただひと目お会いして、わたくしの気持ちを聞いていただきたいだけなんです。よろしく・・・お願いします・・・。」
 
 
「失礼します。」
 
 扉がノックされてハインツ先生が顔を出した。
 
「薬が出来ましたよ。それと、ランサル子爵がお見えです。入っていただいても大丈夫だと思いますが、いかがですか?」
 
「はいどうぞ。」
 
「失礼します。あなたがクロービス先生ですか。お初にお目にかかります。私はロゼル・ランサル子爵と申します。このたびは妻がお世話になりましたようで・・・。お、いたのか。義兄上はどうだ?」
 
 私は名を名乗り、今のところは解毒の効果があってか大分落ち着いているという話をした。
 
「そうですか・・・。実はガーランド家の義兄の家族なんですが、今人をやって呼びに行かせたところ、どうやら実家に帰ってしまったらしくて・・・。今迎えに行かせておりますが、今日は来られるかどうかわからないと思います。申し訳ありません。」
 
「あなた、お義姉様達が家にいらっしゃらないの!?」
 
 チルダさんが驚いて立ち上がった。
 
「ああ、その・・・ここしばらく義兄上の様子がおかしかっただろう?どうも昨夜は派手に喧嘩をしたらしくて、義兄上が義姉上を殴ってしまったらしくて・・・。」
 
「そんなことが・・・。リーザお姉様は何もおっしゃっていなかったわ。お姉様は昨日から家に戻っていらっしゃるはずだから、知らなかったわけはないでしょうに・・・。」
 
「メイドの話では、リーザ義姉上は義兄上を止めようとなさっていたらしいが、詳しい話はしたがらなかったんだ。私も無理矢理聞き出すわけにも行かないし。」
 
 前日の夜にそんなことがあったのか。使用人の立場では、いくらその家から嫁いだ令嬢の夫が相手だとしても、何があったかを話すことは出来なかっただろう。申し立ての席でチルダさんをリーザがかばったのも、今のラッセル卿は誰に対してでも暴力を振るいそうな危うさを感じていたから、ある程度心の準備をしていたのかもしれない。
 
(薬を吐き出して、あとはもう穏やかに戻ってくれるといいけど、禁断症状が出たりしないといいな・・・。)
 
 そのラッセル卿は、体を起こして薬を飲ませるために声をかけたところ、うっすらと目を開けた。だが言われたとおりに薬を飲んだあとは、また目を閉じてしまった。
 
「うーん・・・起こしただけで目を開けると言うことは、大分薬の影響は抜けてきているようですね。しかしそれなら目が覚めてもおかしくないんですが・・・。」
 
 ハインツ先生の説明を聞いていた後ろで「あ!?」とランサル子爵が声を上げた。
 
「クロービス先生、妻から頼まれていた義兄のお茶ですが、現物をお持ちしました。それとですね・・・。」
 
 ランサル子爵はポケットから紙をとりだして、私に見せた。
 
「これが、義兄がここ一週間程度に飲んだお茶の量と回数だそうです。義姉が留守なので勝手にメイドだけ連れてくるわけにもいきませんでしたが、もっと正確な情報が必要であれば、義姉に許可を得てから、いつもお茶の用意をしていたメイドを連れてくることも出来ます。これは記憶だけで書いてもらったものですから、一週間程度までしか遡れませんでした。」
 
「とんでもない。ありがとうございます。」
 
 私はランサル子爵から紙と「ハーブティ」が入っている麻の袋を預かった。この「ハーブティ」が実は鎮静剤の種類に属する薬であり、大量に飲めば幻覚や幻聴、妄想などを引き起こす危険なものであることを伝えた。そして、調べたいことがあるのでこのまま預からせてくれないかとも頼んだ。
 
「これは・・・そんな恐ろしい薬なのですか?」
 
「用法、用量を守って少量を服用するだけなら、何も危険なことはありません。気持ちを落ち着かせてくれる、とてもいい薬なんです。でもラッセル卿はこれをお茶だと信じて飲まれていたようですから、気持ちを落ち着けるために、大量に飲まれたのだと思いますよ。」
 
「それもドーンズ先生の指示だったのですね。」
 
 チルダさんが言った。
 
「そのようですね。ただし、ドーンズ先生はどうやら一日一杯、これだけという指示は出していたようでした。でもそれが薬だとわかっていたなら、ラッセル卿だってそんなに大量に飲んだりはしなかったと思います。」
 
 メイドから聞き取った内容が書かれた紙には、それも書かれている。ドーンズ先生は、さすがに医師として最後の一線だけは守っていたらしい。
 
「しかしドーンズと言う医師は恐ろしい人ですね。彼の契約の話を受けなかった私の判断は正しかったと言うことになりますね。」
 
 ランサル子爵がほっとしたように言った。
 
「ランサル子爵家にも何か話が持ち込まれていたのですか?」
 
「ええ、ガーランド家には親子二代で仕えていると言う触れ込みで、我が家にもかかりつけ医として契約をしてくれれば、何があっても一番に駆けつけますよと言われましたが、私は断ったんです。知り合いにいい医者がいるので問題ないとね。」
 
 ドーンズ先生はその時に、そこそこ高額な『契約料』を提示したらしい。ランサル子爵は何かおかしいと考え、その話を断ったそうだ。ランサル子爵家にもかかりつけ医はいるし、その医師は誠実でいい先生らしい。しかも特別な契約などしなくても、何かあればすぐに来てくれる。
 
(そもそも大抵の診療所には医師は1人だ。急患の対応中に呼び出されてもすぐになんて来られないし、別な場所に往診に行ってる時でもそれは同じだ。何があっても一番に、なんて、何ヶ所にも声をかけていたら自分が大変な思いをするだけなのに・・・。)
 
「ドーンズ先生の意図はわかりませんが、医師がそんな契約を持ちかけることの方がおかしいんです。断られた子爵閣下の判断は正しかったと私も思いますよ。」
 
 
「クロービス先生、その「お茶」とやらを私に見せていただけませんか?」
 
 ハインツ先生が言った。
 
「はい、ぜひ見てください。」
 
 私は預かった麻袋の中から小さな紙袋を一つとりだした。その紙袋の中にも紙包みが入っている。
 
「これが一回分のようですね。」
 
 ランサル子爵が書いてきてくれた紙には、それが一回分、一日一回、夜眠る前に飲むととても気持ちが落ち着くとドーンズ先生から聞いていたと書かれている。ハインツ先生は紙包みを受け取って中を開き、匂いをかいだ。
 
「うーん・・・これはほとんどが鎮静剤の成分ですが、他の薬草も混じってますね。『お茶』としての体裁を整えるものかも知れませんが、あとで分析してみましょう。」
 
「お願いします。残りの薬は私が預かりましょう。」
 
「そのほうがいいですね。ここもいろいろと騒がしいですから。」
 
 医師会の中に、サビーネ看護婦のような怪しい人物がもういないとは限らない。せっかく預かったのだから私が責任を持つべきだろう。小さな紙包みの中に包まれていた薬の量は、至って常識的な量だった。ただ気になることもある。半年ほど前から、ラッセル卿はずっとこの薬を「お茶」だと信じて飲んでいたらしい。もしも今回の騒動がなくて、ずっと一日一杯を守っていたとしても、そもそも鎮静剤というものは常用するような薬ではない。長いこと服用を続けて、もしもラッセル卿の体に異変が起きたら、どうするつもりだったのか。
 
「チルダ、私達もお暇しようと思うんだがどうだろう。義兄上についているかい?」
 
 ランサル子爵の問いかけに、チルダさんは椅子から立ち上がり、首を横に振った。
 
「帰ります。さっきより大分顔色もよくなったようですし、子供達も不安に思っているでしょうから、帰って今日のことをきちんと説明してあげないと。」
 
「そうだな・・・。みんな待っているよ。ではクロービス先生、ハインツ先生、義兄のこと、よろしくお願いします。」
 
「わかりました。ラッセル卿のご家族は今日はいらっしゃらないかも知れませんね。」
 
「そうですね・・・。もしも今日来なければ、明日改めて一緒に伺おうと思います。」
 
「はい、お疲れさまでした。よろしくお願いします。」
 
 
「ラッセル卿はもう大丈夫ですね。あと心配なのは大量に飲んだ薬が抜けていく過程で禁断症状が出たりしないか、ですね。」
 
「そうですね。いやぁ、ローランド卿が会長室に飛び込んでこられた時には驚きましたよ。」
 
 ドゥルーガー会長とハインツ先生は、会長室でガーランド男爵の本格的な治療について打ち合わせをしていたらしい。
 
「何か手伝えることはないかと聞いてくださったので、お言葉に甘えてしまいましたが、驚かせてしまいましたね。」
 
「あの方はいい方ですね。お礼は伝えておきました。」
 
「ありがとうございます。私もあとで改めてお礼に伺わないとなりません。」
 
「うぅ・・・。」
 
 ラッセル卿が声を上げた。目が覚めたのかと思ったがそうではないらしい。ラッセル卿の顔を見て、ハインツ先生がため息をついた。
 
「しかし・・・薬を使って金儲けをしようとは、ドーンズ先生という人はそんなにお金を儲けて何をしようとしてたんでしょうねぇ。」
 
 その疑問ももっともな話だ。父親の誠実なやり方に異を唱え、儲けることを第一に考えて行動を起こしたドーンズ先生の目的は何なのだろう。
 
(ローハン薬局と繋がっていたのはオシニスさんの調査でわかったけど・・・。)
 
 そしておそらくセディンさんのあの薬も、ドーンズ先生の手による処方箋を元にしているのだろう。だとすれば、シャロンはあの薬が手に入らなくなって慌てている頃だろうか。それとも、クイント書記官は何食わぬ顔で手持ちの麻薬を渡しているのだろうか。そもそもドーンズ先生の処方箋があったところで、患者の名前も明記されていないであろう処方箋など、効力があるはずがない。そうやってシャロンを、都合のいい駒として利用し続けるつもりなのだろうか・・・。
 
(最近フローラとも顔を合わせていない・・・。あとで一度顔を出すか、カインにも聞いてみるかな・・・。)
 
 
「まあ、世の中にはとにかくお金を貯めて貯まったお金を眺めるのが好きだという人もいますからね。」
 
 そう言う人間は確かにいるので、こう言っておけば今のところはあまり突っ込んで聞かれることはないだろう。
 
「確かにお金はいくらあってもいいのはいいですが、そこまでして集めようとまでは考えたことがないですね。」
 
「私もですよ。暮らしていくために十分なお金があれば、あとはあまり欲を出さない方がいいような気はしますね。」
 
「まったくですね。クロービス先生、私はこの部屋の夜勤の医師を手配して、あとはこのお茶とやらの分析を始めます。早いほうがいいでしょうからね。」
 
「それじゃ夜勤の医師が来てくれるまでここにいますよ。」
 
「そうですね、ではお願いします。」
 
 ハインツ先生が部屋を出て行き、1人になったところでラッセル卿の顔を覗き込んだ。呼吸は大分楽になっている。
 
「これなら明日には目が覚めるかも知れないな・・・。」
 
 最初の頃はきちんと一日一杯、紙包み一つ分を守っていた「ハーブティ」を、爆発的に飲む量が増えたとしたら、あの話し合いの日、突然剣士団長室に現れたあの頃からか・・・。
 
(短期間に何杯も飲むようになったのだろうな。さっき吐かせた胃の内容物だけを見ても、おそらく食事をほとんどとらず、この「ハーブティ」だけを大量に飲んでいたみたいだし・・・。でもガーランド男爵ほど酷い状態でないのはよかった・・・。)
 
 ラッセル卿が目覚めれば、家族と一緒に自分の今の状態をきちんと把握してもらわなければならない。そして父上であるガーランド男爵を、リーザとチルダさんと3人で説得してもらおう。
 
(あとはチルダさんの頼みか・・・。)
 
 イノージェンは何と答えを返すのだろう。ラッセル卿に殺されかけたことを思えば、ガーランド男爵家に関わるもの何もかもに近寄りたくないだろうけど・・・。
 

第105章へ続く

小説TOPへ ←前ページへ