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「ええ、教えてもらいました。ウィローが気にしていたので。」
 
「少し前にドーソンさんがここに来たんだよ。その時にその話を聞いたのさ。」
 
『ウィローの頭の中ではまだローランドは信用出来ない人物らしいんだが、こっちに来てから考えは変わったのかな。』
 
「って、心配してたよ。だからこの間のトーマス卿との食事会で和解出来たから、今は大丈夫だと思うと、言っておいたけどな。」
 
「あの時は、セルーネさんがトーマス卿に利用されるんじゃないかとか、ローランド卿を信じていいのかとか、いろいろ頭を悩ませていましたからね。」
 
「お前は気づいたもしれないが、ドーソンさんとしては、どこまで話していいか迷ったらしいよ。自分のことじゃないしな。だから、ウィローが納得してくれそうなところまでは話したが、クロービスには全部話してないって気づかれたかもなって言ってたっけな。」
 
「それは何となくわかりましたけど、あそこまで教えてもらえたら、ウィローも納得したと思いますよ。ただ、ドーソンさんがローランド卿と、ティールさんほど仲が良かったわけじゃないがって言っていたので、それはもしかしたら変だなと思ったかもしれませんね。」
 
「それは多分ドーソンさんの予防線だろうな。だから自分はそんなに詳しく知らないんだって事のアピールなんじゃないか?」
 
「おそらくは。」
 
 ドーソンさんが大分迷っているようなのは気づいていたが、私が口を挟むようなことじゃない気がしたのだ。ドーソンさんは私よりずっと大人で、思慮深い人だ。彼はちゃんと考えて、セルーネさんとローランド卿の個人的なことを暴き立てるようなことにならない、ぎりぎりのところまで話してくれたのだろうと思う。
 
「そうか、昨夜オシニスさんがなんで急にあんな話を持ち出したのかと思ってましたけど、ドーソンさんから話を聞いて、私達がどう考えているかを聞きたかったからなんですね。」
 
「まあそういうことだ。」
 
「20年も音信不通でいたら、もう知り合いとすら言わないくらいのものだと思いますけど、皆さん暖かく迎えてくれて、ウィローとしても、いやまあ、私もなんですけど、以前と同じ距離感で何でも教えてもらえると思い込んでしまったかなあって、私も反省しました。」
 
「お前達が島に帰ったあと、こっちに出てくる気になれなかったのは仕方ない。だが手紙だけでも交流があればまた違ったんじゃないかと思うから、この先島に帰っても手紙くらいは出してくれよ。」
 
「ええ、そのつもりです。今回せっかくここまで来たのですから、これを機会に人脈作りもしていこうと思ってますよ。」
 
「ほお、それはまた随分と前向きになったな。」
 
「そうですね・・・。フロリア様との間にあった誤解が解けたのが一番大きいですが、医師会との交流も、いろいろと学ぶことが多いと改めて感じたんです。もっとも、いろいろなことが起きすぎて、ちっとも動けずにいるところですけどね。」
 
「なるほどな。動くのはクリフの手術が終わったら、好きなだけ動いてくれよ。俺に出来ることなら協力するぞ。」
 
「ええ、何かあればお願いすることがあるかもしれませんので、その時はよろしくお願いします。」
 
「それじゃこの話はもう終わりだ。お互い大人同士なんだし、言って聞かせる、みたいなのは違うだろうしな。それで、さっきセルーネさんにはなんて言われたのか教えてもらってもいいか?もちろん話せることだけでいいが、セルーネさんのことだからお前を励ましてくれようとしたんだろう。どうだ?少しは自信を持てるようになりそうか?」
 
「自信があってもなくても、それを簡単に悟られてしまうようでは、医師としては半人前だと言うことはわかりました。」
 
「・・・何だかはっきりしない返事だな。」
 
 私はさっきセルーネさんに言われたことをそのまま話した。別に隠すようなことではないし、セルーネさんだってオシニスさんに話したことについて文句を言ったりはしないだろう。
 
「今回の手術は確実に成功すると言えません。なのに大丈夫、成功すると言ってしまったら、それはいい加減な安請け合いというものです。ですが、確実じゃないと言ってはいても、見た目だけでも自信があるように見えれば、患者本人やご家族はそれで安心するんです。だから、肚の内をまわりの人に悟られてしまったのは私の至らなさのせいだということですよ。」
 
 セルーネさんだから気づいたのだとは思う。あの人の洞察力は並ではない。
 
「つまり、自信がないのは変わらないが、それを悟られないようにしようと思ったわけか。」
 
「セルーネさんの意図とは違うと思いますが、クリフにもご家族にも、もう少し自信があるように振る舞えるよう努力しますよ。それに自信があろうとなかろうと、全力を尽くすのは言うまでもありません。でもさっきセルーネさんは、もっとまわりに頼ってもいいんじゃないかって言う意味のことを言ってくれたので、そのあたりは気が楽になりましたよ。」
 
 ハインツ先生のこともそうだが、とにかく私が全ての責任を負わなければと、かなり気負っていたのは確かだ。無論執刀医としての全責任が私にあることは変わりないが、もう少しまわりを頼って、落ち着いて進めようと思えるようになった。
 
(セルーネさんの言葉って、説得力があるんだよなあ。話し方とか声とか、そういうのも影響しているんだろうけど。)
 
「なるほどな。それじゃクリフの様子を見に行かないか。自信があるように振る舞ってくれよ。」
 
「もちろんです。」
 
 
 オシニスさんと私はクリフの様子を見に行くために剣士団長室を出た。ロビーを通った時・・・
 
「申し訳ございませんが、そう言う方は王宮にいらっしゃいません。」
 
 ロビーの受付嬢が困ったような声で話しているのが聞こえてきた。
 
「いや、そんなはずはないんだ。ずっとここにいるって聞いたんだから。」
 
 オシニスさんが立ち止まり、「あれ?」と小さく言った。
 
 受付の前には年配の男性が立っている。初めて見る顔のはずだが、どこかで見たような記憶もある。誰だろう・・・。
 
 その疑問はオシニスさんの言った一言で解決した。
 
「あれはガーランド男爵じゃないか・・・。なんで今日あたりここに・・・。」
 
「え、それじゃリーザのお父さんですか。」
 
「ああそうだ。誰かに会いに来たようだが、受付嬢が困っているようだし、少し話を聞くか。お前は先に医師会に行ってくれていいぞ。」
 
「わかりました。」
 
 不安は残るが、ここはオシニスさんに任せて、私は医師会に向かって歩き出したのだが・・・。
 
「あ、クロービス!」
 
 声に振り向くと、何とイノージェンが玄関からロビーに入ってきたところだった。危うく名前を呼びそうになり、危ういところで口を閉じた。すぐそこにはガーランド男爵がいる。かなりまずい。オシニスさんが男爵と話している間に、早いところイノージェンを連れて医師会に行ってしまおうとしたのだが、イノージェンが私を呼んだ声に、ガーランド男爵も振り向いた。
 
(まずい・・・。イノージェンの声はかあさんにそっくりなんだっけ・・・。)
 
 最近とみに似てきた気がすると聞くたびに思うほどだ。
 
「エレシア!」
 
 突然男爵がイノージェンに駆け寄って腕を掴んだ。
 
「きゃあ!離して!」
 
 イノージェンが怯えて叫び、逃げようとした拍子に転んだ。私は駆け寄ってイノージェンを抱き起こし。男爵の手をイノージェンから離したのだが、男爵はまたイノージェンの腕を掴んでくる。もう一度離そうとしたがすごい力でなかなか離せない。
 
(あれ・・・?)
 
 男爵の口元から漂う微かな匂い・・・。これは・・・鎮静剤の匂いだ。鎮静剤と言ってもいろいろな種類がある。この匂いは、かなり、いや、おそらく一番強い部類に入る鎮静剤だ。大量に飲んだりしたら眠ったまま数日目を冷まさなかったり、幻覚を引き起こして夢遊病のように歩き回ったり・・・。
 
(まさか!?)
 
「エレシア・・・やっと会えた・・・エレシア・・・。」
 
 自分の腕を掴んだまま、母親の名を呼び続けるその男性が誰なのか、イノージェンは気づいたらしい。しかし困った。まさかこのタイミングで男爵が王宮に来るなんて思っても見なかった。
 
「ガーランド男爵、その女性の腕を放してください。」
 
 オシニスさんが駆けてきて、イノージェンの腕を掴んだ男爵の手を力ずくで引きはがした。イノージェンの腕にはくっきりと指の跡が残っている。
 
「クロービス、彼女を連れて行ってくれ。」
 
「わかりました。行こうか。」
 
 私はイノージェンの名を呼ばず、ただ彼女を立たせて、早足で医師会に向かってその場を離れた。
 
「エレシア!行かないでくれ!エレシア!私が悪かったんだ!」
 
 イノージェンのかあさんはとっくにこの世にいない。男爵はそれを知っているはずだが、遠い昔に彼が『不幸にした』と思い込んでいる女性とそっくりの女性が目の前に現れて、かなり混乱しているようだ。オシニスさんが立たせて私達が今来た方向に男爵を連れて行った。おそらく剣士団長室に行ったのだろう。
 
 
「怖かった・・・。」
 
 イノージェンは突然のことに驚いて震えている。無理もない。リーザもラッセル卿も、イノージェンと男爵を会わせることに躊躇している。イノージェンとしては、以前剣士団長室で話し合った時に手紙とお金をラッセル卿に返したことで、もう終わったことだと考えていたようだ。なのにいきなりやってきて、しかもイノージェン本人の名ではなくかあさんの名前を呼びながら迫ってこられたら怖いに決まっている。
 
「男爵がいきなり来るとは思っていなかったよ。君は今買い物にでも行っていたの?」
 
「そうなのよ。城下町の大きな食材のお店ならいろいろ売っているから、いいものがあれば買ってこようと思って。ここからすぐだから危なくないだろうって歩いて行ったんだけど、結局人が多すぎてお店まで行けなかったのよ。だからすぐ帰ってきたところなんだけど、こんなことになるなんて・・・。」
 
「とにかく食堂に行こう。マレック先生とローランのデンゼル先生が来てるんだよ。まさか昨日手紙を送って今朝来てくれると思わなかったから、私も驚いているんだけどね。いい先生だから紹介するよ。あと、君は食堂から出ない方がいい。さっきの男爵の様子は普通じゃなかったし、向こうから来たのにこっちが勝手に男爵に会ったようなことを言われるのは不本意だろうしね。」
 
「それはそうよ。私としては、もう手紙もお金も返したし、終わったことだと思ってるのよ。会ってくれと言われれば会うけど、不意打ちみたいにいきなり訪ねてくるなんて酷いわ。」
 
 もしかしたら子供達がいつまでも会わせてくれないからと、出掛けてきたのだろうか。それにしても、病気という話だがどこが悪いのかよくわからない。本当に仮病なんだろうか。
 
 
 私はまずイノージェンの腕にくっきりとついた男爵の手の跡を消すべく治療術を唱えた。
 
「はぁ・・・よかった。痛みが消えたわ。」
 
「すぐに離してあげられなくてごめんね。ものすごい力だったよ。」
 
「大丈夫よ。ありがとう。」
 
 2人で医師会の食堂に顔を出した。マレック先生とデンゼル先生が何か話しているところだ。私はデンゼル先生にイノージェンを紹介した。マレック先生もイノージェンの知識については認めている。早速話を聞かせてくれとデンゼル先生が乗り気になったので、お昼時にでも顔を出すからと言って、私はクリフの病室に向かった。
 
「ウィロー、ちょっといい?」
 
 マッサージは終わったところらしく、クリフは眠っている。
 
「何?」
 
 妻は立ち上がり、病室の入り口に立っている私のところまで来た。私は妻を廊下に促し、病室の扉を閉めた。そして小声で、妻の耳に近づいて先ほどの騒ぎについて伝えた。
 
(そんなことが・・・。どうするの?)
 
 私はイノージェンをマレック先生のところに預けてきたが事情は話していないので、クリフのほうが落ち着いているなら食堂でイノージェンと一緒にいてくれるように妻に頼んだ。オシニスさんが団長室に連れていったのだから、そこを飛び出して医師会に乱入してきたりはしないだろうが、様子を見ておく必要はありそうだ。私は団長室に行くからと、妻に頼んで医師会を出た。
 
(ゴード先生もハインツ先生もいなかったな・・・。)
 
 会議室で話しているのか、ハインツ先生の部屋か、どちらにせよ、ゴード先生が落ち着くのを待つしかなさそうだ。そちらは今考えないでおこう。私はロビーを抜け、剣士団の採用カウンターに向かって階段を上がった。
 
 
「ランドさん、ちょっといいですか?」
 
 ランドさんは椅子に座ったまま、団長室の方を向いて考え事をしていた。
 
「ああ、もしかしてさっきの客のことか?」
 
「ええ、どんな様子でした?」
 
 ランドさんは私に顔を近づけて声を落とした。
 
(オシニスが肩を貸して連れてきたんだが、心ここにあらずと言った雰囲気だったぞ。さっきリーザを呼んできてもらって、ちょっと前に団長室に入ったところだ。ラッセル卿を呼んでほしいと言われたので、いまロビーにいた奴を走らせてるよ。あとレイナック殿もな。)
 
(レイナック殿を?)
 
(ああ、ガーランド家の家督相続について、男爵が来てるなら少し話を聞いてもらおうって事らしい。訪ねていってもなかなか会えないでいるらしいからな。)
 
(わかりました。私も行ってみます。)
 
(他に誰か呼んできてほしい時は声をかけてくれ。)
 
(はい、その時はお願いします。)
 
 
「失礼します。」
 
 団長室の扉をノックした。中から開けてくれたのはリーザだ。
 
「入っても大丈夫かな。」
 
「・・・ええ・・・入って・・・。」
 
 リーザは疲れた顔をしている。私は中に入り、扉を閉めた。誰かがここに来ればすぐに気配がわかるように、出来るだけ注意しておくことにした。
 
「お前か。そっちは大丈夫だったか。」
 
 オシニスさんもイノージェンの名前は言わない。
 
「ええ、大丈夫ですよ。」
 
 私はそれだけ言った。うっかり『食堂に置いてきた』なんて言ったら大変なことになる。
 
 団長室の中では、放心状態のガーランド男爵が椅子に座っている。何かぶつぶつ言っているのを聞いてみると『エレシア・・・どうして・・・やっと幸せに出来るのに・・・。』と、何度も繰り返している。
 
「さっきからこの調子なんだ。何を言っても反応しない。ただエレシアさんという女性の名前を呼んでいるだけだ。」
 
 オシニスさんはどうしたものかと腕組みして考えている。
 
「父様・・・話を聞いてよ・・・。」
 
 リーザは半泣きで男爵に話しかけるが、男爵は一言も返さない。
 
「今までもこんな調子だったの?」
 
「いいえ、この間の話し合いの結果を報告した時にはこんなじゃなかったわ。いったいどうしてこんなことに・・・。」
 
「でもここまでは1人で来たんだよね?」
 
 誰かが一緒だったなら、イノージェンに駆け寄る前に止めただろう。まわりに誰かがいた気配はない。
 
「多分・・・。」
 
 リーザは首をかしげている。
 
「俺がここに連れてくる間、ロビーを見渡してみたが同行して来たと思われるような人物はいなかったな。さっきランドに頼んで玄関の門番に確認してきてもらったが、男爵が玄関前に来た時は1人で歩いてきたそうだ。だから馬車で来たとしたら、表通りで馬車を降りて帰したか、それとも最初から歩いてきたのかだな。」
 
 貴族の当主が1人で歩いて王宮に来るなんて普通は考えられない。
 
「ラッセル卿が到着するのを待つしかなさそうですね。」
 
「そうだな・・・。とにかく事情を聞いてみよう。」
 
 ラッセル卿を待つ間、ガーランド男爵をそれとなく観察してみたが、特に何かに操られているわけではなさそうだ。やはりこの状態になっているのは、薬の副作用だろう。あの鎮静剤は強すぎて、よほど大暴れして手をつけられないなどの患者にしか使うべきでないと言われている薬だ。麻酔薬の初期段階では少量使われたことがあるが、他の薬と相性が悪く、早々に使うのをやめたと言う経緯がある。
 
(この状態で家から来たとは思えない・・・。ロビーに来た時には受付嬢と話をしていたし、となるとイノージェンを見て、いや、声を聞いて錯乱したのか・・・。)
 
 声を聞いて、イノージェンのかあさんの幻覚を見たのだろうか。
 
「そういえば、男爵はさっきどなたに会いに来られたんですか?」
 
「受付嬢には、エレシアさんを訪ねてきたと言ったそうだ・・・。」
 
「・・・・・・・・。」
 
 どうやら男爵は王宮に来た時点で、いや、もしかしたらもっと前から普通の精神状態ではなかったようだ。
 
 
 しばらくして扉がノックされ、ランドさんが顔を出した。
 
「オシニス、ラッセル卿と主治医の先生が来てるが、通していいか?」
 
「ああ、頼む。」
 
「失礼します!剣士団長殿、申し訳ありません!」
 
 団長室に飛び込んできたリーザの弟ラッセル卿は、開口一番そう叫んだ。だがガーランド男爵はラッセル卿のほうを見ようともせず、呆けたまま宙を見つめている。
 
「・・・失礼します。」
 
 ラッセル卿のあとから入ってきたのが主治医の先生らしい。確か名前がドーンズ先生だったと思う。
 
「父上・・・?」
 
 ラッセル卿も男爵の様子がおかしいことに気づいたらしい。
 
「これは・・・どうしたんですか?」
 
「男爵様、ドーンズですよ。男爵様!」
 
 ドーンズ先生が声をかけると、ゆっくりと振り向いた。
 
「ああ・・・ドーンズ先生か・・・。」
 
 そう言うなりガーランド男爵は涙をこぼした。
 
「男爵様、どうされたのです?突然いなくなられて心配しましたよ。」
 
 ドーンズ先生の声には反応するようだ。
 
「ドーンズ先生でしたね。今日ははお屋敷にいらっしゃったのですか?」
 
 オシニスさんが尋ねた。
 
「はい、今日は検診の日でしたので、伺っていました。ところが準備をしている間に男爵様がいなくなられて、驚いて家中を探していたところに、王宮から王国剣士の方がいらっしゃって・・・。」
 
 男爵が王宮にいると聞いて、ラッセル卿とドーンズ先生は慌ててここに来たのだという。
 
「それじゃ男爵は歩いてここまで来られたんですか?」
 
「家の馬車はありましたから、まさか外に出たとは思いませんでした。」
 
 オシニスさんの問いに、青ざめた顔のまま、ラッセル卿が答えた。
 
「とにかく、父は連れて帰ります。団長殿、皆さん、お騒がせして申し訳ありませんでした。」
 
「ちょっとラッセル、連れて帰るのはいいけど、父様はいつもこんな様子なの?」
 
 リーザが尋ねた。
 
「最近はたまにこうなる時がありますが・・・どうしてなのかまでは・・・。」
 
 ラッセル卿は本当に心当たりがないらしい。
 
「ドーンズ先生は、何か原因に心当たりはないんですか?」
 
 オシニスさんに尋ねられ、ドーンズ先生を包む『気』が少し震えた。何だろう、この人は何か知っているのではないか・・・。
 
「ドーンズ先生、エレシアがいたんだ。やっと会えたんだよ。やっと・・・幸せに出来るんだ。だから、エレシアも連れて帰ろう。どこに行ったんだろう。」
 
 焦点の定まらない目で、ガーランド男爵が言った。
 
「エレシアさんが?」
 
 ドーンズ先生が聞き返した。
 
「・・・父の昔の恋人です。しかしその方はもう亡くなっているはずですが・・・夢でも見たのでしょうか。」
 
「ラッセル、父様はここまで自分の足で歩いてきたのよ。起きたまま夢を見るわけないじゃない。ロビーで偶然イノージェンさんに会ったらしいわ。」
 
「え!?」
 
 ラッセル卿がますます青ざめた。
 
「団長殿、父はイノージェンさんに何か言ったりは・・・。」
 
「何か言うも何も、男爵は相手がイノージェンさんだと認識していなかったよ。お母さんのエレシアさんだと思い込んでいたようだ。」
 
 オシニスさんが先ほどのロビーでの出来事を話して聞かせた。
 
「ラッセル卿、リーザ、君達が男爵とイノージェンさんをいつまでも会わせなければ、これからもこんなことは起きるぞ。それにイノージェンさんだっていい迷惑だろう。早いところ会わせて決着をつけるべきではないのか。」
 
 ラッセル卿はぐっと言葉に詰まった。
 
「失礼するぞ。」
 
 団長室の扉がノックされて、返事を待たずに扉が開いた。
 
「お、じいさんやっと来たか。」
 
 オシニスさんがほっとしたように言った。レイナック殿が団長室にやってきたのだ。
 
「おお、ラッセル卿、久しいな。元気にしておるか?」
 
「は・・・はい・・・。レイナック様もお変わりなく・・・。」
 
 レイナック殿はにこにこしているが、ラッセル卿を猛禽のごとき瞳で捉えている。
 
「ガーランド家の家督相続について、全く話が進まないと言うことだったのでな。理由を聞きに行かねばならぬかと思っていたところに、ガーランド男爵が来ているという話を聞いたので来てみたのだが、男爵よ、どうしたのだ?」
 
 男爵はまた呆けたように宙を見ている。
 
(これは演技ではなさそうだ。そもそもここで演技する必要はないし、それにあの薬を大量に飲んだのなら、こうなってもおかしくないが・・・。)
 
 気になるのは、ドーンズ先生の声にだけ反応することだ。
 
「うーむ、これでは話にならんな。」
 
 レイナック殿はガーランド男爵の背中に手を置き、「はぁぁぁ!!」と叫んだ。
 
「うぅあっ!?」
 
 声にならない声を上げて、男爵が体を震わせて椅子から落ちそうになる。ラッセル卿が慌てて男爵の体を支えた。
 
「ラッセル卿、そのまま支えておれ!」
 
 レイナック殿はそう言うと男爵の前に回り、今度は額に手を当てた。
 
「喝っ!」
 
 男爵の体がびくんと震えた。
 
「あ・・・。」
 
 男爵の瞳に生気が戻った。
 
「ここは・・・。」
 
「父上、気がつかれましたか!?」
 
 今、『気』の流れは全く見えなかったのだが、レイナック殿が今使ったのが、ファルシオンの神官だけが使える、いわば神聖魔法とも言うべきものであることには気がついた。魔法は『気』を使わずに、或いはほんの少しの『気』だけで発動させることも出来る。無論種類にもよるのだが。
 
「気がついたようだな・・・。ラッセル卿、男爵はどうしたのだ?どこか悪かったのか?」
 
「い、いえ、今日は主治医の先生が検診のために家にいらっしゃったのですが、突然いなくなってしまって・・・。」
 
 ラッセル卿の説明も要領を得ない。この言葉から察するに、男爵が強度の鎮静剤を大量に飲んでいることには気づいてないようだ。
 
「ほぉ、そこにいるのが主治医ということか?」
 
 レイナック殿に見つめられ、ドーンズ先生が生唾を飲み込むようにゴクリと喉を鳴らした。かなり緊張しているのがわかる。
 
「は、はい・・・。ドーンズと申します。その・・・ガーランド家に伺って検診の準備をしていましたところ、その、突然男爵様がいなくなられまして・・・。」
 
 レイナック殿はこの主治医を疑っているようだ。その鋭い視線に、リーザも不安げにドーンズ先生を見ている。
 
(鎮静剤の件は・・・。言った方がいいのかな・・・。)
 
 ドーンズ先生が何かしら知っていることは間違いなさそうだ。だがその大量の鎮静剤を飲ませた目的は何なのだろう。それがわかればここでそのことを言うべきかどうか判断の材料になるのだが・・・。
 
−−≪くそっ!いつも通り寝ているかと思ったのに、今日に限ってふらふらと・・・!≫−−
 
「・・・・・・・・・。」
 
 いつも通り、つまりガーランド男爵はたびたびこの医師に強い鎮静剤を飲ませられていると言うことか・・・。だからっていきなりその話をするのは危険だ。ここは少し、疑問を口にするところから始めてみるか・・・。
 
「ドーンズ先生でしたね。ガーランド男爵はご病気だと伺ってますが、検診にいらした時に薬などは飲んでいないのですか?」
 
 ドーンズ先生は私をぎろりと睨んだ。素人が余計な口を出すなと言いたげだ。
 
「気になることがあるのか?」
 
 オシニスさんが尋ねた。
 
「ええ、さっきイノージェンの腕を掴んだ時に、強い鎮静剤の臭いが口元からしていたんですよ。」
 
 ドーンズ先生はぎくりとした顔をしたが、私が何者かわからないらしく、馬鹿にしたような目を向けた。
 
「あなたがどなたか知りませんがね、男爵様は時折そのエレシアさんという方の幻覚を見て恐慌状態になられることがあるんですよ。だから鎮静剤はいつも飲んでいただいています。」
 
「幻覚を見ると暴れたりなさるんですか?」
 
「まさか!叫んだり泣いたりすることはありますけどね。」
 
「でもこの薬は鎮静剤の中でも一番強い薬ですよね。多量に摂取すると数日目を覚まさなかったり、でなければ夢遊病者のように幻覚に導かれるまま歩き回ったり、危険きわまりないシロモノです。」
 
「バカを言うな!この薬は麻酔薬にも使われている物だ!貴様何者か知らんが医師を愚弄する気か!?」
 
「麻酔薬にはこの薬は使われていませんよ。研究の段階で何度か使ってみたことはありますが、他の薬との相性がよくなかったので使うのは止めたんです。ついでに言いますと、医師を愚弄する気はありません。私も医師ですからね。」
 
「おいクロービス、そろそろ名乗ってやれよ。」
 
 オシニスさんがこらえきれずに笑い出した。
 
「え、クロー・・・ビス・・・え?・・・ええ!?」
 
 さすがに私の名前には聞き覚えがあるらしい。
 
「男爵の今の様子を見るにつけ、どうやらたびたびこの強い鎮静剤を大量に男爵に飲ませているようですが、あなたの目的は何なんです?」
 
「ほぉ、ドーンズと言うたな。確かそなたの父親もガーランド家の主治医だったはずだが、親子二代で何か企んでおるのか?」
 
 レイナック殿が言った。ぞっとするほど冷たい声だ。
 
「くっ!」
 
 ドーンズ先生は扉に向かって突進しようとしたが、その前に私が腕を掴んでねじ伏せた。そこにオシニスさんが近づいてきた。
 
「剣士団長室から逃げられると考えるとは、俺も随分と見くびられたものだな。さて、ドーンズ先生、口を開けたまま舌の先も動かせないほど麻痺させられて、よだれを垂らしながら牢獄まで連行されるか、ここで洗いざらい白状するか、どっちがいいのかな。」
 
「わ・・・私は悪くない!男爵に頼まれたんだ!病気らしく見えるように強い薬をくれと!」
 
「なるほど、つまりガーランド男爵の病気というのは、仮病と言うことか?」
 
 レイナック殿の問いに、ドーンズ先生はうなずいた。
 
「・・・結婚前に作った娘を相続人に加えたいから、娘に会えるまで病気に見えるようにしてほしいと言われたんですよ。」
 
 この答えにリーザとラッセル卿を包む『気』がゆらりと揺らめいた。
 
「ふむ、では見返りは?」
 
「え?」
 
 冷徹なレイナック殿の問いにドーンズ先生はぎくりとして顔を背けた。
 
「事が露見すればただで済まないのはそなたも同じであろう。にも関わらずその頼みを引き受けた事による見返りは何なのだ?」
 
「そ・・・それはっ!」
 
「それと、さっき男爵はここに来られてから誰の声にも反応しなかったのに、ドーンズ先生の声にだけ振り向いて涙を流されましたよね。まさか催眠術のようなものを併用しているんですか?あなたの声にだけは反応するように?」
 
「・・・・・・・・。」
 
 黙っているところを見ると、図星らしい。しかしなぜだ?男爵から頼まれて強い薬を渡したのなら、そこまでしなくても男爵の望みはとりあえず果たされているわけだというのに。
 
「オシニスよ、どうする?」
 
 レイナック殿がオシニスさんに尋ねた。
 
「今家宅捜索の令状を書く。ドーンズの診療所と邸宅を捜索させよう。」
 
「そ、そんな!」
 
「そんな?男爵に頼まれたのは強い薬で病気に見えるようにと言うことだけだろう?貴様男爵の弱みにつけ込んで余計な色気を出してるんじゃないのか?何もないなら騒ぎ立てる必要もないだろう!」
 
 オシニスさんは取り急ぎ令状を書いて、それを採用カウンターに持っていった。その間にリーザがドーンズ先生を縛るための縄を持って来て、私が取り押さえている間に両手を後ろに縛った。
 
「ドーンズ先生、おとなしくしてください。あなたを傷つけたくはないですから。」
 
 縄を縛る手が震えている。とてもいい先生だと言っていたのに、こんなことになってリーザは泣きそうだ。
 
「自宅と診療所にそれぞれ二組ほど向かわせた。同時に始めないと片方で悪事の証拠を隠蔽されそうだからな。」
 
 オシニスさんが戻ってきて言った。
 
「失礼します。罪人を連行しに参りました。」
 
 扉がノックされ、王国剣士が2人入ってきた。
 
「この男だ。活きがいいから逃げられる可能性もある。悪いが担いで行ってくれないか。」
 
 言うなりオシニスさんの手から『気』が放たれ、ドーンズ先生の足は動かなくなった。
 
「わかりました。」
 
 2人の剣士は事もなげにうなずくと『おい、そっち持ってくれ』『よし、落っことしたら悪いからな。慎重に行くぞ。』そう声を掛け合いながら団長室を出て行った。結局担いで連れて行かれることにはなったが、顔のほうは麻痺させられていない。よだれを垂らしながら連れて行かれることにはならなかったようだ。
 
 
 そして・・・
 
「父上、帰りましょう。こんなことになるなんて・・・。帰ったら話を聞かせてください。」
 
 ラッセル卿が立ち上がり、とりあえず正気を取り戻したらしい男爵を立たせようとした。
 
 が・・・。
 
「ラッセル卿よ、まだ用事は済んでおらぬぞ。」
 
「え?あ、あの、私も取り調べとか・・・。」
 
「いや、そのようなことではない。ガーランド男爵と、その結婚前に作ったという娘を会わせなければならぬ。」
 
「そ、それは・・・まだ・・・。」
 
「ではいつだ?先延ばしにすればまたこのようなことが起きるやもしれぬぞ。」
 
「で、でも、ドーンズ先生が薬を出さなければ・・・。」
 
 ラッセル卿としては、いや、おそらくリーザも、イノージェンに会わせたくはないのだろう。だがいつまでもこんなことをしてはいられない。島に帰ってからまでまた手紙やお金が送られたりしたら、またイノージェンが返してよこさなければならない。それこそ男爵はイノージェンが相続人として名を連ねることを承諾するまでは、死ぬまで家督相続をしようとしないだろう。
 
「そして、また男爵はイノージェンさんに手紙と金を送るわけだ。ラッセル卿、今のままでは男爵は死ぬまで家督相続をしようとしないぞ。君はいつまで『息子』の立場に甘んじているつもりだ?君だってもういい年の父親だ。奥方や子息達のことを、君は考えているのか?」
 
 オシニスさんの声も厳しい。
 
「当たり前です!考えないわけがないじゃないですか!でも・・・。」
 
「今回の事態を招いたのは、男爵やドーンズだけのせいじゃない。ラッセル卿、君がいつまでも自分の考えに囚われているからこんなことになったんだぞ。イノージェンさんはガーランド家の相続なんて興味がないと言っていたし、実際男爵から送られた金も全部返した。それでも君がイノージェンさんと男爵を会わせない理由は何だ?」
 
「じゃあもしもイノージェンさんが突然手のひらを返して相続人になると言ったらどうするんです?私にとってあの方はついこの間まで見知らぬ方だったんですよ。手紙やお金を返していかにも男爵家の相続なんて興味がない振りをして、父と会った途端にやっぱり相続してお金が欲しいと言われたら?そうなったら誰がどうしてくれるって言うんです!?私が阻止するしかないじゃないですか!」
 
 ラッセル卿が叫んだ。
 
「そんなことになったら私が止めるよ。」
 
 ラッセル卿は私の存在を忘れていたらしい。ぎょっとして振り向いた。
 
「万に一つもないことだけどね。イノージェンの事だから、情に絆されるなんてこともないだろう。さっきロビーで、男爵はいきなりイノージェンの腕を掴んで、エレシアさんの名前を呼びながら『許してくれ、やっと幸せに出来る』と叫んでいたんだ。その時イノージェンがどれほど恐怖に震えていたかわかるかい?男爵は確かに自分の腕を掴んでいるのに、呼びかけた名前はもうこの世にいない自分の母親だったなんて。」
 
「クロービス、その娘・・・いやまあいい年の母親だろうがな。呼んでくることが出来るか?」
 
 レイナック殿が言った。
 
「呼んでくるのは構いません。ただし、ウィローも一緒ですし、出来るなら当事者の1人としてライラとイルサにも同席させたいです。」
 
 出来るなら今ここには呼びたくない。ラッセル卿はイノージェンを敵視している。迂闊に呼んで危害を加えられるようなことになれば、イノージェンだけでなく、ラッセル卿の身も危うくなる。
 
 その時突然ドサリと音がして、声も立てずにガーランド男爵が椅子からずり落ちた。
 
「父上!?」
 
 ラッセル卿が慌てて支える。
 
「ラッセル卿、ちょっと見せてくれるかい?」
 
 男爵の体を助け起こしたがどうやら意識を失ったらしい。顔は真っ青だし、目は半開きで白目をむいている。
 
「幻覚のあとに来る失神ですね。出来れば医師会で手当てしたいんですが、どうします?」
 
「ふむ、薬物の影響ではわしの気付けも長くはもたなんだか。」
 
「さっき正気を取り戻したようでしたが、一言も話さなかったところを見ると、まだ薬の影響は抜けていないでしょう。強い薬を何度も飲んでいたのではこのまま寝ていても回復しません。時間をかけて少しずつ回復の呪文を使うか、滋養強壮などの薬湯を飲ませないと。」
 
 剣士団の採用カウンターには緊急用の担架がある。それに乗せて、オシニスさんとラッセル卿が医師会に運ぶことにした。ロビーを通るので、顔が見えないようにマントで顔の半分まで覆い、私は一足先に医師会に向かい、病室を確保することにした。
 
「リーザ、お前も一緒に行きなさい。フロリア様にはわしから言うておく。オシニスよ、わしはいったんフロリア様の執務室に戻る。この部屋は鍵をかけておいた方がいいぞ。」
 
 レイナック殿はそう言って団長室を出て行った。
 
「わかった。フロリア様への報告は頼むよ。おいランド、執政館勤務の奴をひと組医師会に回してくれ。腕っ節の強そうな奴を頼む。」
 
「わかった。」
 
 そちらは任せて、私は医師会に戻った。クリフの状態を見ておくはずがとんでもないことになってしまった。明日は手術だというのに。だが起きてしまったものは仕方ない。明日の予定は外せないので、ドゥルーガー会長に頼んで人を手配してもらうしかなさそうだ。
 
「失礼します。」
 
 会長室をノックしたところ、中から開けてくれたのは何とハインツ先生だった。
 
「こちらにいらっしゃったんですか。」
 
「ええ、今朝のことでね・・・。」
 
 中に入ると相変わらずの仏頂面でゴード先生が座っている。だが今は彼にかまっている時間はない。私はガーランド男爵の件を手短に伝え、強い薬物の影響で意識を失っているので、しばらく入院させてもらうことは出来ないかと言った。
 
「なんと・・・そのようなことが起きていたとは・・・。病室は個室か2人部屋の方が良かろう。ハインツよ、その男爵殿の様子を見てあげなさい。薬物による影響だとすれば、そなたが一番的確に状況を見極められるだろう。」
 
「わかりました。」
 
「さて、ゴードよ、しばし私と話をしようか。」
 
 ドゥルーガー会長の言葉にも、ゴード先生は黙ったままだ。気にはなるが仕方ない。私はハインツ先生と一緒に会長室を出て、ガーランド男爵が眠っている病室へと向かった。
 
「使われた薬は特定出来ていますか?」
 
 ハインツ先生が尋ねた。
 
「ええ、今のところ匂いだけですが。」
 
 私は口のあたりから漂ってきた匂いから、一番強い鎮静剤であることと、しかもかなりの量飲んでいるらしいこと、そしてそれは今日だけの話ではなく今までにも何度もあったらしいことまで話した。
 
「しかし酷い話ですね。ドーンズ先生と言えば開業医としては有名なんですがねぇ。評判も悪くないですし。」
 
 ハインツ先生は呆れたように言った。
 
「では少しお待ちいただけますか。薬の用意を頼んできます。」
 
「はい。」
 
 ハインツ先生は薬草庫の隣にある自分の部屋に戻ったらしい。少しして戻ってきた。
 
「いまお聞きした症状に合わせて、薬の手配を頼んできました。この先の2人部屋が空いていますので、男爵様にはそちらに入っていただきましょう。」
 
 やがて病室についた。2人部屋だが今は誰も入っていないらしい。
 
「私が中を確認してますから、男爵様をこちらに連れてきていただいて大丈夫ですよ。」
 
「わかりました。ではお願いします。」
 
 医師会からロビーに向かう通路を戻った時、ちょうど男爵を乗せた担架が医師会の通路に入ってくるところだった。
 
「こちらへどうぞ。病室が確保出来ましたので案内します。」
 
 オシニスさんとラッセル卿が運んでいる担架の後ろからリーザがついてくる。そしてそのさらに後ろから、王国剣士が2人入ってきた。
 
「すみません、医師会の警備と伺ってきたんですが。」
 
 久しぶりに会う、フィリスとクロムだった。

第102章へ続く

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