せっかく次の目的地が決まったというのに、補給のために戻ったベレゴストで衝撃的な出来事が待ち受けていた。ダイナヘールがしばらくパーティーを抜けたいと言い出したのだ。理由を尋ねると、しばらくの間呪文の勉強に専念したいのだそうだ。今だってダイナヘールの魔法にはかなり助けられている。今のままではだめなのかと聞いてみたが、どうやらダイナヘールは野盗の幹部達の中にいたメイジの力に圧倒されてしまっているらしい。もっともっと修行を積まなければ、いずれ私達の足手まといになってしまうと言うのだ。仕方ない。パーティーにとって損失だと言うだけでなく、ダイナヘールは私にとってもイモエンにとってもとても良い友人だった。その彼女がいなくなるのは寂しいが、今は黙って送り出すのが一番いいのだろうと思う。ミンスクも名残惜しそうだったが、彼はダイナヘールのそばを離れない。二人はしばらくの間ジョヴィアルジャグラーに滞在し、ダイナヘールは呪文を、ミンスクは剣の修行を積むそうだ。私達が戻ってくるまでいてくれるといいのだが、それはわからないと言う。また会えるといいのだけど・・・。
でも二人の離脱を私より残念に思っているのはイモエンだろう。どうも最近、イモエンはダイナヘールと内緒話をしていることが多かった。何を話しているのか聞いても、『いずれちゃんと話すから』と、私には教えてくれない。あ〜あ・・・また仲間捜しをしなければ・・・。でも、とにかく今はクロークウッドに向かおう。あの不気味な森に何が隠されているのか、この目で確かめなければならない。
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この森は深く、暗く、そして果てしなく広い。当分文明の地へ戻ることは考えないほうがいいだろう。森に入る早々、タスロイの群れに出くわした。その中の一匹がいやに上等なクロークを持っていた。何に使っていたのか考えたくもないほどに汚れているが、もしかしたらこれが、ベレゴストのジョヴィアルジャグラーにいたグルケが盗まれたというクロークだろうか。
「確かに汚いけど、少なくともお尻を拭いていたわけではなさそうよ。洗えば使えそうだわ。」
イモエンはけろりとしてクロークを荷物にしまい込んだ。このクロークについては彼女に任せよう。このあたりは思っていたほど鬱そうとはしていない。狩人の小屋らしきものがある。そこで出会ったアルデス・サシェンスターは毎年ここに狩りに来ているらしい。そのせいで地元のドルイドと諍いが絶えず、死人まで出ているのだそうだ。ドルイドと言えば私はジャヘイラしか知らないが、彼らはそんなに獰猛な連中なのだろうか。今年もそろそろ文句をつけに来るらしい。かなり緊迫した状態なので守ってくれないかというアルデスの頼みを引き受けることにした。やがてやってきたドルイドのセニヤドは、目をぎらつかせて怒り心頭と言った表情だ。彼が引き連れている他のドルイド達も似たような顔をしている。結局話し合いは決裂し、ドルイド達を殺す羽目になった。あまり気分のいいものではないが仕方ない。アルデスに味方するものは彼らにとってすべて「悪」だなんて、こんな極端な考え方をする連中は好きになれない。アルデスは私達に感謝し、バルダーズゲートに行くことがあったらぜひ商人協会を訪ねてくれと言い残して去った。彼はそこの幹部らしい。殺しの代償として妥当かどうかはともかく、いずれ訪れるバルダーズゲートで活動するための足がかりは得たようだ。しばらく歩くと川があった。イモエンはにこにこして荷物からあのクロークを引っ張り出し、洗い始めた。なるほど洗ってみると、透けるような不思議な生地で出来た美しいクロークだ。
「あそこの橋の上に誰かいるようだな。敵でなければよいのだが。」
ずっとあたりに気を配っていたカイヴァンがつぶやいた。彼の指さした先には、川に架けられた橋がある。その上を行きつ戻りつしながら、エルフらしい男が何事かぶつぶつつぶやいている。きちんと武装しているようだ。敵だったら援護してねとカイヴァンに声をかけ、私は思いきってそのエルフに話しかけた。彼はコランといい、エルフのファイターだった。この森のどこかにワイヴァーンの巣があり、その退治をベレゴストの知事から請け負ったらしい。だが一人では無理なので一緒にやらないかというのだ。誰かが通りかかるのを当て込んで仕事を請け負うとは、計画性のない奴だ。だが背負った弓はよく使い込まれており、いかにも腕は立ちそうに見える。ダイナヘールとミンスクが抜けたことで戦力に不安を感じていた私は、ワイヴァーン退治の手伝いを引き受け、彼をパーティーに誘った。この男、どうやらシーフとしても修練を積んでいるらしい。それを聞いたイモエンの目が輝いたことには気づいたが、なぜなのかまではわからなかった。
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森の中でティベールという男に出会った。私よりは少し歳上だろうか。青ざめた顔で明らかに怯えている。話を聞くと、弟と二人でどこかから見つけた「スパイダーズベイン」というクモ殺しの剣を携え、「クロークウッドの勇者」となるべくスパイダー退治にやってきたと言う。だが剣の威力を試す前にクモに捕まってしまい、弟が行方不明になったそうだ。見ればろくな装備を身につけていない。彼らはその剣が勝手にクモを殺してくれるとでも思っていたのだろうか。自業自得と言いたいところだが、弟が行方不明だというのが気にかかる。気の毒になって、その弟を見つけてあげると約束した。だがそう簡単にはいかなかった。このあたりはとにかく罠だらけだ。イモエンの大活躍と言うところだが、それにしても数が多い。罠はみんなウェブの呪文がかけられているらしい。罠が発動して身動きがとれなくなったところに現れるのは多分スパイダーなんだろう。イモエンは罠を探索するとき、いつもコランと一緒に行っていた。コランのシーフ能力を試したいらしい。何を考えているのだろう。
森の奥に進むと、妙な建物・・・いや、これは巣のようだ。何かいるのは多分スパイダー。気を引き締めて中に入ると・・・・なぜかそこにいたのは、大量のスパイダーを従えた女・・・。人間の女だった。しかもかなり太っている。あれでは立ち上がるだけでも相当なエネルギーを必要とするんじゃないだろうか。センテオールというその女は、ジョン・イルカスというアークメイジに横恋慕して彼と彼の妻に悪巧みをしかけたが、逆に呪いをかけられ、以来ここに住んでいるらしかった。彼女の命令で一斉に攻撃してきたクモたちを何とかなぎ払い、センテオールを殺した。こんなところで世の中すべてを呪いながら生きるより、そのほうが幸せなんじゃないかと思う。彼女の住処の中から、若い男の死体と立派なツーハンデッドソードが見つかった。これがチェラックだろうか。だとしたら悲しすぎる結末だ。ティベールのところに戻り確認してみると、やはりそうだった。彼は嘆き悲しみ、その立派なツーハンデッドソード「スパイダーズベイン」を私達に託した。
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こんな薄暗い森の中で、なぜか優雅にワインを飲んでいる男に出会った。彼はエルドスと名乗り、ちょっと話を聞いてくれとワインを勧めてきた。話しだけならとごちそうになったが、なかなか上等なワインだ。エルドスの話はこうだ。彼にはスキーという恋人がいる。彼女はなんとバルダーズゲートのエンタールシルバーシールド大公の娘だそうだ。彼女は父親から離れて一人暮らしをしたがっているという。それを手助けしてほしいというのだ。つまりは父親の厳しい管理の下で暮らすより、恋人と自由に暮らしたいと言うことなんだろう。それだけなら裕福な暮らしを捨てても愛を貫くというその姿に感動しそうなものだが、なんと彼は追いかけてこられたときのために、恋人であるはずのスキーを人質として、彼女の父親に大金を要求するというのだ。いくら恋人を自由にするためとは言え、お金を受け取ってしまったら私達は立派な誘拐犯になってしまう。とりあえず今やりかけの仕事が終わったら考えてみるとだけ言っておいた。ワインの代金分ならこのくらいがいいところだ。
エルドスと別れて、私達は森の奥へ奥へと進んだ。このあたりはシャドードルイドの縄張りらしい。またセニヤドみたいな、ぎらついたわからずやが出て来るのかと思ったが、出会うドルイド達は一応こちらの言い分を聞いてくれる。彼らの話を総合すると、アイアンスロウン達がこの森の奥にある鉱山を根城にしているのは間違いないらしい。森を抜けるためにファルドーンという彼らの仲間を連れて行くことを勧められたが、彼女を仲間には入れなかった。バランスを重視するはずのドルイドにしては、彼らの考え方が偏りすぎているような気がして、あまり好きになれなかったからだ。
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森の中でキャンプを張ったとき、また夢を見た。今までの出来事、誇らしい勝利の数々。そしてキャンドルキープの夢。自分が鳥になり、投石機の石になり、世界の中心まで落ちていく夢・・・。そこは洞窟になっていて、なぜか自分にひどく似た石がある。骨の短剣がどこからか飛んできて石を穿つ。石にはほんの少しのひびが入っただけなのに、体を引き裂かれそうなほどの激痛が走る。「お前の体はもろい。」「お前も死ぬと言うことを忘れるな。」また不気味な声が響く。まるで何かにもてあそばれているようなとりとめのない悪夢。この夢は、あの声は、いったい何を意味しているのだろう・・・。
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森のかなり奥まで来た。このあたりにはなぜか鉱山の守衛達がうろついている。まだ鉱山など影も形も見えないというのに、何でこんなに遠くまで警備しているのか。答は一つ、鉱山に近づかれては困るのだ。どこの誰にも。
「ちょっと待ってくれ。」
突然コランが立ち止まった。不気味な洞窟の前だ。
「ここがおそらくワイヴァーンの巣だ。」
「ではさっさと退治して先に進もうではないか。」
カイヴァンが答えて、私達は慎重に準備をして洞窟の中に足を踏み入れた。中にいたワイヴァーンは2匹、小型のベビーワイヴァーンが3匹。どうやらワイヴァーン達は友人を食事に招待してはいなかったようだ。おかげでそれほど苦労せずに倒すことが出来た。彼らはここで親子仲良く暮らしていたらしい。ほとんど骨だけになった人間の死体が一ヶ所に積み上げられているのは、ここが彼らにとっては生ごみの捨て場所だったんだろうか。
「奴らの食卓に載るのが人間や家畜でなくネズミ程度だったなら、この家族は今夜も無事に食事にありつけたんだろうけどな。」
退治の証拠となるワイヴァーンの頭を切り離しながら、コランがつぶやいた。
「ここはどのあたりなの?」
ブランウェンが辺りを見回し、額の汗を拭った。さっきからずっと同じところを歩き回っているかのごとく、周りの風景には少しも変化がない。どこまでも続く鬱蒼とした森の中だ。
「そろそろこの森も終わりだ。野盗のキャンプにいたローグの情報が正しければ、この先にアイアンスロウンの拠点である鉱山があるはずだ。」
カイヴァンが言って、先頭になって歩き出した。長い間森の中にいたレンジャーだ。彼の勘は信用出来る。しばらく歩いた頃、カイヴァンが立ち止まり、あたりを見渡して呟いた。
「どうやら抜けたようだな・・・。」
でもあたりの木々は鬱蒼としていて、さっきまで歩いていた森の中となんの変わりもないように見える。『それじゃ今度は私達の出番かしら』うれしそうにそう言って、イモエンはまたコランと一緒に偵察に出かけた。コランのシーフ能力がどの程度なのか私はよくわからないが、彼のステルス能力がずば抜けていることはわかる。コランなら、敵のすぐ隣をすり抜けても気づかれないんじゃないかと思うほどだ。やがて戻ってきた二人はなぜか楽しそうだった。
「なかなか手応えがありそうな奴らがいたぞ。」
「ほんと、一応冒険者のふりしてるけど、目つきが鋭すぎるわ。あれじゃ私達は殺し屋ですと看板を出しているようなものよ。」
イモエンもけらけらと笑っている。つまりこの先には冒険者を装った殺し屋達が、野盗の幹部を殺した『傭兵団』を殲滅すべく待ちかまえているというわけだ。
「頭の中まで筋肉で出来ていそうなファイターが先頭に立っていたな。だがメイジらしき奴もいるようだ。油断は出来ん。」
「なるほど、では彼らを倒せば、そこはおそらく鉱山の入り口だな。」
カイヴァンが笑った。
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冒険者達の死体が足下に転がっている。なかなかいい装備を身につけていたのでいただいていくことにした。殺しを請け負う冒険者・・・私達だってアルデスに頼まれて、結果としてドルイド達を殺してしまった。この連中を非難する気はないが、肯定する気にもなれない。ただ一つわかっていることは、彼らを殺さなければ今ここに転がっているのは私達だったのだろうということだ。念のため、宿舎らしき建物に足を踏み入れ、中にいた衛兵達も殺した。キャンドルキープを出てから今まで、私はいったい何人の人間を殺したのだろう。そしてこれから何人殺すのだろう。ハンマーにべっとりとついた血を見ていると、心の奥がざわめき出す。それが恐怖なのか歓喜なのかよくわからない・・・。こんなことを考えるなんて・・・私はいったいどうしてしまったんだろう・・・。
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鉱山の中は薄暗く、かびくさい。鉱員達は一様に生気がなく、怯えたような目をしている。ナシュケル鉱山で働いていた鉱員達も最初はこんなだったが、ムラヘイを殺してコボルド達を追い出してからは、忙しさに愚痴をこぼしつつも楽しそうに仕事をしていた。ここにはコボルドはいない。だが・・・おそらくはもっとタチの悪いものが巣くっている。
慎重に通路に踏み出した。ここの守衛達はみんなアイアンスロウンの息がかかった者達ばかりだ。にこやかに挨拶してくれる者は誰もいない。何人かの守衛をなぎ払ったところで、まわりにいた鉱員達の目つきが変わった。何を話しかけてもぼんやりしていた彼らが『助けてくれ!ここから出してくれ!』と私達に迫ってきたのだ。みんなここから出たがっている。でもそんなことを言えば殺されてしまうらしい。何とかなだめて、私達は進んでいった。
奇妙な装置を見つけ、近寄ってみた。その装置の前には他の鉱員達と同じように生気のない怯えた目の鉱員が、ぼんやりと立ちつくしている。鉱員は私達を見ると、ここから助け出してくれるなら、ここに巣くう悪党共ごと鉱山を壊滅させる方法を教えてくれると言い出した。その話が本当なら助けてあげようと、話をよく聞いてみると、この鉱員は以前素行不良という名目で、鉱山のなかの牢獄に投獄されていたという。その時に知り合ったのが、おなじ牢獄にいたイェスリックという老ドワーフだそうだ。そのドワーフはなんと元々ここの鉱山に住んでいたドワーフの氏族の最後の生き残りで、アイアンスロウンからやってきた鉱山の管理者に脅されてこの装置を作り上げたという。
この装置は、近くを流れている川から地下の水脈に流れ込んでくる水をせき止めておくためのプラグだそうだ。美しい黒曜石で出来ており、単なる『栓』の役目にしておくのはもったいないほどだ。ドワーフという種族は、こういった細工物が他のどの種族より得意だと聞いたことがある。そのプラグを外すためには鍵が必要だ。だが、その鍵は当然ながらそのあたりに置いてありはしない。ここの鉱山の管理者が持っているだろうと、その鉱員は言った。私達はその管理者を捜し、鍵を持って戻ることをその鉱員に約束した。鉱員は喜んで、下層に行ったらリルという鉱員を探し、その鉱員にここの鉱員達を救うための相談をしてみてくれと言われた。なかなか頭の回る男らしく、きっといい方法を見つけてくれるはずだということだった。
鉱山の管理者とはおそらく、野盗のキャンプで見つけた手紙にあったダヴァエロンという人物だろう。ムラヘイやタゾクを操っていたのが彼なのか・・・。だがこのダヴァエロンもアイアンスロウンの操り人形に過ぎないかも知れない。私を狙う者は、アイアンスロウンなのか?でも彼らと私の接点など、ナシュケルの鉄騒動くらいのものだ。私が狙われていたのはもうずっと以前、キャンドルキープで暮らしていた頃からなのだ。どんどんわけがわからなくなる。でも今は考えることをやめて、とにかくこの鉱山の鉱員達を何とかすることにしよう。
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下の階は、どうやら坑道ではなく、鉱山労働者達の住居や事務所になっているらしい。だが、どうしてそこにホブゴブリンの匂いがするものやら。牢獄もここにあったようで、鍵を開けて中を覗くと、二人の囚人がいた。話してみるとそのうちの一人がリルで、もう一人のドワーフがイェスリックだった。私達はリルに話をし、金を渡して鉱員達をまとめて地上に逃がすよう頼んだ。ここから上に行くまでの敵はすべて倒してある。これで鉱員達は大丈夫だろう。そしてイェスリックは私達の仲間としてパーティーに入ってもらうことにした。彼はファイターでありクレリックだった。彼は私達にとても感謝し、この先何があってもあんた達のために戦おうと約束してくれた。長い牢獄暮らしですっかり弱っているイェスリックのために食料を提供して、食べている間にいろいろと話を聞くことが出来た。
125年前まで、この鉱山はイェスリック達の氏族の住処だった。だが掘削中にたまたま掘り当てた川底から洪水がおこり、多くの仲間を失った。イェスリック達はこの鉱山を仲間達の墓場としてここを離れた。そして長い年月が過ぎ、イェスリックはアイアンスロウンのリエルタールから仕事をもらい、彼を友と信じてこの鉱山の話をした。その話を聞いたリエルタールは手のひらを返し、イェスリックを捕らえて拷問した。そして場所を聞き出すとこの鉱山をアイアンスロウンの拠点とし、イェスリックはそのまま牢獄にぶち込まれたのだという。
「やつを信じたわしが愚か者だった。やつらの腐った計画をぶちこわせるなら、喜んで手伝おう。しめたプラグは、ゆるめればいいだけだ。さあ行くぞ!」
すっかり元気を取り戻したイェスリックは力強く立ち上がり、倒した守衛達の装備から良さそうなものを拾って身につけた。彼はこの鉱山のなかを誰よりもよく知っている。百万の味方を得た思いで、私達は下の階へと降りていった。
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地下四階へと下りた。ここは明らかに今までの階と違う。不気味なほどに静かだ。階段を下りてからの通路は一本道で、隠れられそうな場所もない。前方から守衛がやってくる。
「ダヴァエロンは急な来客は好まないんだ。」
「あらそう、私達も邪魔されるのは嫌いなの。」
守衛が振りあげた剣は、振り下ろされる前に床に落ちた。私の背後から守衛の喉を狙っていたカイヴァンとコランの矢が、同時に命中したのだ。二人の弓の腕はすばらしい。彼らが以前の仲間のように去っていかないといいのだけど。少しの間待ってみたが、新たな守衛が現れる気配はない。通路に罠がしかけられていることも充分考えられる。コランが今度は一人で先行し、幾重にもしかけられた罠をすべて解除した。
「やるじゃない。」
イモエンは上機嫌だ。
「当然だ。このくらいは出来ないとな。」
コランがにやりと笑う。
「多分無理だと思うけど、とりあえず話してみるわ。」
私が先頭に立ち、ゆっくりと慎重に歩を進めた。部屋の奥に人影がぼんやりと見えた。ミサイル防御の呪文に包まれたメイジが立っている。こいつがダヴァエロンか。守衛が倒され罠も解除され、もはや彼を守るのは自分の呪文だけなんだろう。思った通り、話し合いにも何もならなかった。相手はメイジだ。強力な攻撃呪文をしかけられる前に攻撃をかけると、呪文で姿を消した。うっかり追いかけると罠に誘い込まれる危険性もある。確か呪文で場所移動は出来ても、壁を抜けていくことは出来ないはずだ。じっと待つ。やがてしびれを切らしたダヴァエロンが現れ、呪文を唱え始めた。また攻撃する。また逃げる。こうなると我慢比べだ。しびれを切らしたほうが負ける。辛抱強く待ち続け、すっかり呪文効果の切れたダヴァエロンが姿を現したところでとどめを刺した。私達は部屋の中を物色し、いくつかのアイテムと手紙を見つけた。ついでに物陰で震えていたダヴァエロンの弟子まで見つけてしまった。泣きながら命乞いする男に、知っていることをすべてしゃべらせ、解放した。あの男を一人殺したところで、この鉱山の異変はすぐにでもアイアンスロウンの本部へと知らされるだろう。無用な殺しはしたくない。イェスリックがダヴァエロンの懐を探っている。程なくして小さな鍵を見つけた。
「これがプラグの鍵じゃよ。これでこの鉱山もおしまいじゃ。元々ここは仲間の墓場だった。あんた達のおかげで元に戻すことが出来る。」
イェスリックが言った。
私達は急いでプラグの前に戻った。もう他の鉱員達は誰もいず、あの鉱員が一人でぽつんと待っていてくれた。プラグをゆるめても、鉱山の中が水に沈むには時間がかかる。全速力で出口まで走れば間に合うだろう。鉱員がプラグをゆるめた瞬間、私達は彼の手を引っ張ってかけだした。地上へと向かうエレベーターが動き出したころには、通路には水がたまり始めていた。鉱員達はリルが逃がしてくれただろうが、ダヴァエロンの配下の守衛達がまだいたかも知れない。
「あきらめろ、もう手遅れじゃ。」
さすがに渋い顔でイェスリックがつぶやいた。
地上に出ると、一人の鉱員が立っていた。中にいたときとは別人のように表情が明るい。私達にお礼を言いたくて待っていてくれたのだという。鉱員は涙を流しながら、ありがとうありがとうと繰り返して私の手を握った。私達は鉱山をアイアンスロウンから取り戻し、鉱員達を救ったのだ。そしてソードコーストの鉄危機を裏で操るアイアンスロウンの計画にも大打撃を与えたはずだ。そう思うことで、いかに敵とはいえ、何人もの人間を見殺しにしたかも知れないという思いが、少しだけうすれた。もちろん、罪が軽くなるわけではないのだろうけど・・・。
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