サンダーハンマースミシーに向かう途中、小さな女の子が近づいてきた。こんな子供が暗殺者とは疑いたくないが、私はもうさんざん狙われている。警戒は怠らないようにしなければ。女の子は私の顔をのぞき込み、『お姉さんアデルさんね?』と尋ねた。なぜ知っているのか聞くと、『鎧を着たきれいなファイターのお姉さんを見つけたらそう聞いてねって。オフィサー・ヴァイに頼まれたの。』よく話を聞いてみると、オフィサー・ヴァイとはフレイミングフィストの女性将校らしい。私に用事があるからジョヴィアルジャグラーに呼んできてくれと頼まれたそうだ。とりあえず女の子に礼を言って、その将校に会いに行くと約束した。私がいかないと、女の子はお駄賃をもらえないのだそうだ。フレイミングフィストの将校のくせに、変なところで締まり屋だ。お駄賃くらい用事を頼んだ時点で渡せばいいのに・・・。とにかく会いに行こうと歩き出したところ、今度は前方から妙な人物が歩いてくる。赤いとんがり帽子に珍妙な色の服。以前ライオンズウェイで出会ったおかしなじいさんだ。なんとこのじいさん、『エルミンスター』と名乗った。あのエルミンスター!?いや、単なる同名なだけかもしれない。相変わらず言うだけ言ってさっさと行ってしまった。だいたい本当にあんなすごい魔法使いなら、パッと現れてパッと消えるくらいのことはして見せてほしいものだ。この間も今回も、普通に歩いてきて普通に歩いて去っていった。どこがエルミンスターなんだか・・・。
オフィサー・ヴァイは実に礼儀正しい女性だったが、彼女の依頼は奇妙なものだった。彼女達の部隊は街道が野盗に荒らされていることで、バルダーズゲートとの連絡が取れなくなり、ベレゴストで孤立しているらしい。そこで野盗の掃討を考えた。ソードコースト沿いを荒らし回る野盗を一掃できれば、野盗の被害は減るしヴァイ達はバルダーズゲートに戻れる。一石二鳥というわけだ。それはいいのだが、ヴァイの依頼は野盗を殺して、彼らの頭皮を必ず持ってくること。それを一枚50Gで買い取ってくれるという。バルダーズゲートへの手みやげとするそうだ。確かに野盗討伐の証拠としてこれ以上のものはないだろうが、何とも気味の悪い仕事だ。だが贅沢は言っていられない。お金を稼ぐチャンスだ。
野盗掃討の前に、ベレゴストで以前受けたままになっていたいくつかの依頼はこなさなければならない。受けっぱなしで忘れてしまっては信用に関わる。出掛けようとしたとき、ハンがしばらくの間パーティーを離れたいと言い出した。もうずっとエベレスカに帰っていないので、今までのことを報告するために一度戻りたいというのだ。考えてみれば、ハンはムラヘイに囚われて85日間もあのじめじめした地下にいたのだ。その後私達と一緒に行動するようになってからもしばらく過ぎる。故郷に帰りたいのだろう。気持ちはわかる。私だって出来るものならキャンドルキープに帰りたい。たとえそこにはもう自分の居場所がなかったとしても、あの場所は私にとって唯一故郷と呼べる場所だ。また戻ってくるからと言い残して、ハンは去っていった。あんな暗い男でも、いなくなればそれなりに寂しい。それに戦える仲間は多いほうがいい。また誰か見つけたら仲間に誘ってみよう。
夢を見た・・・。夢の中で私はナシュケル鉱山にいた。死んだはずのムラヘイがいて、彼の前を骨の短剣が浮遊している。まるでこの短剣でムラヘイを突き刺せと誘っているようだ。黄泉の国から現れた邪悪な霊が彼を待ち伏せている。その霊に呪われる前に殺せと・・・。私は短剣に背を向けた。ムラヘイはもう死んでいる。これ以上傷つける必要はないのだ。短剣が音をたてて床に落ちる。ムラヘイは感謝の表情で私に近づき、そしてすり抜けて消えた。邪悪な霊は怒り、骨の短剣はふたたび宙に浮き、そして私の心臓めがけて飛んできた。刺された瞬間目覚め、冷たい汗が額を流れて目にはいる。目が覚める直前、確かに聞こえてきた声、
『いずれわかるだろう』
あれは一体・・・・。
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イモエン念願のハイヘッジにやってきた。高名なメイジ、サランティールが屋敷を構える地区だ。途中、その屋敷を狙う自称『大泥棒』に出会ったが、彼はその手柄を快く私達に譲ってくれた。私は別に屋敷を襲う気はないけれど。サランティールは実に愛想のない年寄りだ。私の顔を見るなり、魔法に縁がない奴には用はないとばかりにそっぽを向いた。だが以前からダイナヘールがほしがっていたスクロールを何枚か買うというと、ころりと態度が変わった。高名なメイジもゴールドの輝きには弱いらしい。その後は多少うち解けて(あくまでも多少、だけれど)話を聞くことが出来た。イモエンは例によって『すばらしいお屋敷』だの(実は珍奇な形の殺風景な建物だけど)『理知的でダンディな魔法使い』だのと(本当は愛想のない偏屈な年寄りにしか見えないんだけど)サランティールを持ち上げていた。高名なメイジはお世辞にも弱いらしい。なんともはや・・・。
帰り道、レンジャーらしいエルフに出会った。仲間に入れてくれと頼まれたので事情を聞くと、恋人を野盗のかしらの気まぐれで殺され、その復讐のために仲間を捜しているという。その野盗がなんと『タゾク』という名だそうだ。こんな偶然があるだろうか。このエルフはタゾクの顔を知っている。そしてどんな奴かも。恐ろしく残忍な奴のようだ。ぜひ彼に仇を討たせてやりたい。私は快く、カイヴァンと名乗ったそのレンジャーを仲間に加えた。
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海岸沿いを少し歩いてみたが、このあたりは危険極まりない。あちこちにいるサイリーンが、遊び半分でダイアチャームをかけてくる。人を操って遊ぼうだなんて冗談じゃない。サイリーンの気配に神経をとがらせながら歩いていると、一人の女が助けを求めてきた。『正義の使者ミンスク』がブーとともに彼女を守ると胸を叩いたのだが、彼女がミンスクに『お礼のキス』をした途端にミンスクはばったりと倒れて動かなくなってしまった。私達は怒り、彼女を殺した。彼女は実はサイリーンだったようだ。誰かに命令されているようなことを言っていたが、こいつらの言うことなんてあてにならない。急いでミンスクをベレゴストの知事のところに運び込むと、なんとか生き返らせてくれた。海岸沿いを歩くのはもう少しとあとにしよう。経験を積むのは大事だが、それで死んでしまっては元も子もない。
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ベレゴストで頼まれていた仕事を全部終えた。お金も貯まったし、大分実戦経験も積めたと思う。いよいよ野盗どもの本拠地を叩くときだ。
『で、どうやって連中の本拠地を突き止めるの?』
イモエンはなんだか楽しそうに訊いてくる。トランジックの地図には場所は記されているが、彼らが自分達の本拠地に看板を出しているとは思えない。私はずっと考えていたことをみんなに話した。彼らの幹部が連絡を取り合っているというシャープティースの森に出向き、わざと彼らと出くわして仲間に入れてもらおうという作戦だ。
『野盗の仲間になるだと!?そんな面倒なことをしなくても、ダイナヘールとミンスクとブーがいれば、野盗の奴らなんぞあっという間に蹴散らしてやるさ!』。
ミンスクが例によって吠えるように叫んだ。たとえ一時でも、自分がそんな悪党どもの仲間になるなんて考えたくもないらしい。直情型のミンスクらしいが、相手は海千山千の強者だ。一筋縄でいくとは思わないほうがいい。その私の考えを、ダイナヘールは理解してくれたようだ。ミンスクに何度も言って聞かせて、私の作戦に従うよう説得してくれた。デジェマというものがどんなものか私はよく知らないが、ミンスクはダイナヘールには逆らわない。彼女を心から敬愛しているようだ。男が女を見る目というのではなく、たとえて言うなら臣下が国王をあがめ奉るような、そんな雰囲気に近いものを感じる。
『おお、ブーよ、俺達は少しの間悪党どもの中に身を置かなければならない。でも俺とブーならどんな試練も乗り越えていける!がんばろうな!』
どうやら納得してくれたらしい。実にわかりやすい奴だ。さてどこから森に入ろう。ベレゴストからだと、ラースウッドと呼ばれる森が近いようだ。ラースウッドを抜けて、ペルドベールと呼ばれる湖沼地帯に入ってみようか。どちらも街道の東側にあり、南側は森が消えて、確かファイアーワイン橋の遺跡があるはずだ。となると、野盗どものキャンプがあるとすればシャープティースの森のさらに東か、それとも北か・・・。トランジックの荷物をもう少しいろいろみてみよう。どちらから行けばいいか、何か手がかりがあるかも知れない。
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まんまと野盗の幹部達をだまし、キャンプに入り込んだ。タゾクは疑っていたようだが、私達の腕をみてとりあえず信用する気になったらしい。キャンプは活気に満ちているが、和やかとは言い難い。さて、忠実な野盗のふりをして少し中を歩き回ってみよう。あの大きいテント・・・・まわりの警備がいやに厳しい。さて誰に聞いてみようか。イモエン得意の話術をここでも披露してもらうことになりそうだ。
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とうとう野盗の大幹部達を倒した。しかも4人もだ!タゾクがいなかったのは残念だが、奴に関してはまだチャンスがある。ついでと言ってはなんだが、彼らに捕まっていたらしいローグを一人助けた。罠かとも思ったが、どう考えても罠としての機能は果たせそうにない場所に彼はいた。エンデルサイと名乗るそのローグから、野盗達のことをもう少しいろいろと聞き出すことが出来た。彼らは一時的にこの森を拠点としていたが、本拠地はもっと別にあるらしい。エンデルサイの言葉をヒントに、次の目的地が決まった。ソードコースト西側に広がる不気味な森、クロークウッドだ。
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