「はいはい。早く行ってやれよ。」
クロービスは照れくさそうにうなずいて部屋を出て行った。
「すぐ戻るよ、か・・・。まったく律儀なやつめ・・・。こんな夜更けにせっかくウィローが自分の部屋に招き入れてくれるって言うのに・・・どうせなら朝まで一緒にいてくればいいのにな・・・。」
クロービスが出て行った扉に向かって、カインはため息をついた。好きな女と気持ちが通じ合えたのなら、そのあとすることなんてひとつしかないのだから、迷うことなんてないのに・・・。
「だいたい押しが弱すぎるんだよ、惚れてるならこう、がーっと気持ちをぶつけて・・・。」
「・・・・・・・。」
「何言ってんだ、俺は・・・。」
カインは何となくおかしくなった。昔は自分もそう思っていたけど・・・結局はそれが見込み違いだったことになる。自分が女王陛下に恋しているなんて夢にも思わず、何人かの女を傷つけた・・・。
「こんな俺が何言っても説得力ゼロだな・・・。黙っていた方がいいか・・・。」
肌がけを体に巻き付けたまま、カインはごろりとベッドに横になった。
「・・・あいつは俺と違う・・・。ゆっくりのんびり、ウィローとの愛情を育てていくんだろうな・・・。でもあんまりゆっくりしていたら、どっちもじいさんとばあさんになっちまうぞ、まったく・・・。」
カインは一人でくすくすと笑った。
「レイナック殿に頼んで式だけでも挙げてもらえばいいんだよな・・・。別に結婚したからって使命が果たせないわけじゃなし・・・。」
結婚式・・・。自分には一生縁のない行事だ・・・。それどころか、この先仕事以外でフロリア様と言葉を交わすことなどまずないだろう。そう思っているはずなのに、いつの間にか頭の中には、フロリア様の隣で、彼女の手を取り微笑みかける自分がいる。
(ばかな・・・何を考えているんだ俺は・・・。)
あり得ない光景を追い出すように、カインは強く頭を振った。そんなことが起こるはずはない。フロリア様の手を取ることが出来ることなど、もう二度と・・・。
理性と感情はいつだって相反する。起こるはずがないとわかっている頭の片隅に、何よりもそれだけを強く願っている自分がいる。もう一度・・・あの方の手を取って、言葉を交わすことが出来るのなら・・・俺は命さえも投げ出すかも知れない・・・。
・・・何かの気配で目が覚めた。いつの間にか眠っていたらしい。そう思った時部屋のランプが消えた。
(クロービスか・・・。やっぱり戻ってきたんだな・・・。)
カインは姿勢を変えずに声だけをかけた。
「吹っ切れたか?」
「起きてたの?」
クロービスが驚いたように返事をする。
「いや、うとうとしてて、今目が覚めた。」
「あ、ごめん。」
「いいよ。」
「吹っ切れた・・・のかな・・・。今そう思うだけかも知れないけどね・・・。」
「そうか・・・。それじゃ、お休み。」
「お休み。」
吹っ切れたと思うのなら、今はそれでいい。どうせこいつはまだまだ悩むんだろうから、その時になったら手を貸してやればいいさ・・・。自分のことは・・・
(今は忘れよう・・・。どうせどうにもならないことなんだから・・・。)
カインはきつく目を閉じた。脳裏に浮かぶフロリアの面影がゆらゆらと揺れてやがて薄れ、眠りの中に飲み込まれていった・・・。
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続かなそう・・・