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神殿の訪問者

 
 ファルシオンの使い手は、仲間と共に神殿の探索を続けるべく去っていった。
 
「ふう・・・見ればまだ若く、実に穏やかそうではないか・・・。なんとも厳しい時代に現れたものよ・・・。」
 
「そう言うわりにはうれしそうではないか、導師よ。」
 
「おや、これはこれは・・・。あなた様がここにおいでになるとは珍しい。しかもそのように、いつもと違うお姿で・・・。」
 
「ふふふ・・・あの剣の波動を捉えて以来、ずっと見守っておったのだ。我が眷属はどこにでもおる。目と耳には事欠かぬからな。」
 
「なるほど・・・。確かに、旅をするものにとって、あなた様の眷属は身近なものでございますからな。」
 
「私の見たとおり、あの者は心正しき者だ。剣の使い手となるにふさわしい。私にはあの者の腰に下げられた剣が、喜びに打ち震えているのが感じ取れたほどだ。」
 
「そうでございましょうとも・・・。今まで何度も使い手となるにふさわしい者が現れながら、剣はその者の元にたどり着くことが出来なかった・・・。一番最近ですと、常命の者の時間で、200年ほど前のこととなりますか・・・。」
 
「うむ・・・あの者は剣が手元にないにもかかわらず、見事エル・バールとの交渉を成立させた。類稀なる輝きを持った者であったが・・・。」
 
「しかしやはり、見た目はどこにでもいそうな若者でございましたな。」
 
「真の英雄とはそうしたものであろう。しかしそなたもご苦労なことだな。剣がこの神殿にない以上、そなたもお役ごめんとなって皆の待つ天の国へと向かうことを考えてもよいのではないかと思うが・・・。」
 
「そう考えたこともございました。私は元々人でございますから、ファルシオン最後の王が剣を手放して以来、今までの時間が気の遠くなりそうなほど長く感じられておりました。ですが・・・剣は人知れず主人を見定め、戻ってまいりました。今しばらくは、剣の使い手と、この世界の行く末を見つめていることにいたしましょう。」
 
「なるほどな・・・。あの者がこの先立ち向かわなければならない試練は大きい・・・。ではムーンシェイの長老に、それとなく頼んでおくことにしよう。私が近づくとあの長老はいやな顔をするのだがね。」
 
「ムーンシェイの長老様はもうだいぶお歳でございます。いつものお姿で現れれば、確かに警戒もされましょう。」
 
「ふふふ・・・脅かしてやるのも悪くないが、今回ばかりはこの姿で訪れるとしようか。たまにはのんびりと話したいからな。」
 
「そうなされませ。ファルシオンの使い手は、そろそろこの神殿の探索を終えるころでございます。その後は、あのお方にお任せしました。もう彼らがここに戻ってくることはないでしょう。」
 
「そうだな。では失礼するとしようか。あの者がこの先の試練を乗り越えたなら・・・われらが手を差し伸べねばならぬ。」
 
「乗り越えられると、私は信じております。人の心は、人が思っているほど強くはありませんが、人が思っているほど弱くもないものでございます。必ずやあの若者は、皆様の前に現れることでございましょう。」
 
「私もそう願っているよ。」
 
 かすかに微笑み、訪問者は去った。導師は彼が去った方角を見つめ、小さくため息を一つついた。
 

本編のどこかに間接的に続く

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