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第60章 影、姿を現す

 
 住宅地区は活気づいていた。子供達がいろいろと趣向を凝らした衣装を身につけ、飛び跳ねている。その傍らで談笑する親達の服装もなかなか奇抜だ。これから祭りに出掛けるのだろう。そんな喧噪の中で、教会の周りだけは静謐な佇まいを見せていた。祈りの場に乱痴気騒ぎは似合わない、まるでみんなそう思っているかのように、教会の前を通るときだけは黙って足早に通り過ぎていった。が・・・教会の扉を開けた途端、賑やかな笑い声が響いてきた。子供達がたくさん、みんな物語に出てきそうな魔法使いや騎士の出で立ちではしゃぎ廻っている。見覚えのない女性達が数人・・・彼女達もかなり奇抜な衣装を身につけているところを見ると、子供達を連れてこれから町に繰り出すのだろうか。変わった恰好をしていても皆気品に満ちている。社会奉仕活動の一環として孤児院に来てくれるという貴婦人達のようだ。
 
「早く行こうよ!」
 
「私の恰好おかしくない?」
 
「えーん!このスカートもっと短くないとかわいくなーい。」
 
「ばっかだなあ、魔法使いがミニスカートなんて変だよ。」
 
「僕の剣はかっこいいだろう?」
 
「本物の騎士の鎧着たいなあ。」
 
 子供達は大はしゃぎだ。
 
「こんにちは。」
 
 声をかけると、神父様が気づいて振り向いた。
 
「おやクロービス、いらっしゃい。少し待ってくださいね。この子達を送り出してしまいますから。」
 
「わかりました。お待ちします。」
 
 神父様は子供達に、連れて行ってくれる婦人達の言うことをよく聞くように言い聞かせている。シスターの姿が見あたらない。
 
「お待たせしました。」
 
 子供達を送り出し、『やれやれ』と言った風に肩を回しながら神父様がやってきた。
 
「まだこちらにいたのですね。奥方はどうされました?祭り見物ですか?」
 
「いえ、今日はそれぞれ忙しくなってしまったので、別々に行動しています。」
 
「おや、そうですか。さあ、そちらのテーブルにおかけなさい。今お茶を淹れましょう。シスターが熱を出した子供についているので、今日はここに私一人なんですよ。子供達も出掛けてしまったことですし、ティータイムにしましょうか。」
 
「はい。」
 
 神父様が淹れてくれたお茶を飲み、しばし世間話に花を咲かせた。もっともその内容はほとんどが祭りのことだ。
 
「フロリア様が祭りを始められると聞いたときは少し不安でしたが・・・こんなに盛況になって、とてもよかったと思っています。この平和な時代を築き上げたのは間違いなくフロリア様ですが、その礎を気づいてくれたのは、やはりあなただと思っています。本当に感謝しているのですよ。」
 
「神父様、私は何も・・・」
 
「あなたはいつも、自分は何もしていないと言う。確かに、英雄として祭り上げられるのは、あなたのような性格の方には重荷でしょうけれど、感謝の気持ちくらいは受け取ってください。」
 
「はい・・・。」
 
 神父様の穏やかな笑顔の前では、自分のこだわりなどとても小さく思えてしまう。
 
「さて、そろそろ本題に入ったほうがいいのでしょうか?」
 
「え・・・?」
 
「ライザーのことを聞きに来られたのではないかと思ったのですが、違いましたか?」
 
「いえ・・・おっしゃるとおりです。」
 
 神父様は、私の用向きも最初からわかっていたのだ。その上で、私が話を切り出しやすいようにしてくれている。
 
「ふむ・・・しかし、私も彼の居所はわかりません。彼がこの町で頼るとすれば、私か、彼の叔父君だと思うのですが、あの家は今でもそれほど暮らし向きがいいわけではありませんから、さてその家に長逗留するかどうか・・・。」
 
「島を出る前に、ライザーさんは私が祭りに出掛けることも知っていましたが、いつどこで落ち合おうという話は全く出ませんでしたから・・・いろいろと用事もあるのでしょうし、無理に探し出したいわけではないんです。ただ、どうしても伝えたいことがあるので、それさえ伝えられれば・・・。」
 
「・・・詳しく話していただくことは出来ませんか?」
 
「いえ、お話しします。今日はそのつもりでうかがったんです。」
 
 しんと静まりかえった礼拝堂の片隅で、祭りの夜、イルサとアスランが計画的に襲われたらしいこと、さらに後日、ライラが王宮の中で襲われたことを、一通り神父様に話した。
 
「なんと・・・そんな恐ろしいことが起きていたとは・・・。」
 
 言葉の最後はため息と共にはき出され、神父様の顔は悲しげにくもっていた。
 
「もしや、何日か前に雷の音を聞いたというのはその時の・・・。」
 
「どなたかお聞きになったんですか?」
 
「よくここに祈りを捧げに来られる方が、そんな話をしていました。夜の祭りに行ったときに、大きな雷の音を聞いたと。大方の意見は『花火の音を聞き間違えたのだろう』でしたが、花火の音と雷の音は元々が全く異なるもの。奇妙なこともあるものだと思っていたのですが・・・そう言うことだったのですね・・・。しかし子供達が無事でよかった。本当にあなたには感謝してもしきれませんね。ライザーは私の子供のようなもの。その子となれば私にとっては孫のようなものです。私からもお礼を言わせてください。本当にありがとう。」
 
 神父様が頭を下げた。
 
「とんでもない。神父様、顔を上げてください。あの子達は私にとっても自分の子のようなものですから。・・・子供達も私を慕ってくれてはいますが・・・やはり両親に会いたいんじゃないかと思います。子供達の職場見学をする予定だと言っていましたから、いずれは会うつもりでいるのでしょうけど・・・あの子達は、今この時も両親に会いたいと思っていると思うんです。」
 
「わかりました。もしかしたら、ライザーはまたここに来るかも知れません。その時は必ず伝えます。それから、彼の叔父君の家は教えましょう。地図を書いてあげますから少し待ってください。」
 
 神父様は大きめの紙に鉛筆で地図をかいてくれた。
 
「ただ・・・私から話を聞いたとして、あなたがうまくライザーに会って話が出来たとして、彼がどう動くかについては何とも言えません。かなりの決意を秘めていることだけはわかったので、彼には彼なりの事情があるのは確かなようですが・・・。」
 
「・・・・・・・・・。」
 
「でも、ライザーが子供達の話をするとき、とてもうれしそうにしていたのを憶えています。親にとって子は宝。話を聞けばきっと会いに行ってくれると思いますよ。」
 
「そうですね。」
 
 
 
 教会を出て、神父様からもらった地図を頼りに歩き出した。地図は住宅街の奥に向かっている。昔カインが住んでいたという貧民街から、ほど遠くない場所にその家は建っていた。家々の屋根越しに貴族達の住まう北地区のお屋敷群が見える。貧民街ではないとは言え、このあたりの家に住む人達もそれほど裕福とは思えない。実際ライザーさんの叔父さんの家と思われる建物も、さすがに傾いてはいないが、まるで廃材で作ったのではないかと思えるほど、薄汚れてみすぼらしい建物だった。
 
「こんにちは。」
 
 扉を叩きながら声をかけてみた。
 
「はーい。」
 
 明るい声がすぐに帰ってきて、程なくして扉が開いた。中から出てきたのは、柔和な笑顔の品のいい老婦人だった。
 
「はい、どちらさま・・・・?」
 
 私は自分の名前と身分を伝え、北の島でライザーさんに世話になっていると話した。
 
「まあ?あなたがライザーのお友達ね?いらっしゃい。私はライザーの叔母のルイーズよ。大したおもてなしは出来ませんけれど、よろしければお茶でもいかが?」
 
「あ、あの、ライザーさんはこちらには・・・。」
 
「少し前に来てくれたわ。お祭りを見にこっちに出てきたばかりだって言ってたの。うちに泊まってくれるように勧めたんだけど、もう宿を取ってあるからって。でも一晩だけ泊まっていってくれたわね。あとは、そのうちまた寄るからって言って、出掛けて・・・そのあとはまだ会ってないわ。」
 
「そうですか・・・。」
 
「お約束はしてなかったの?あなたの奥様は確か・・・ウィローさんとおっしゃるのよね。イノージェンが早く会いたいって言っていたのを憶えているけど・・・。」
 
「約束できればよかったんですが・・・仕事柄なかなか出発日を決められずにいるうちにライザーさん達が出掛けてしまったので・・・。」
 
 もっともらしい理由を言ってみたが、ルイーズさんは特に不審にも思わなかったようだ。
 
「それもそうですわねぇ・・・。お医者さまともなれば、大勢の患者さんを抱えていられるのでしょうし・・・。あの子達がここに泊まってくれるとよかったのだけれど・・・うちの暮らし向きは今だってそんなにいいわけではないから、きっと気を使ったのね。あの子には本当に世話ばかりかけて・・・。兄達の忘れ形見を立派に育てようって夫と話し合ってあの子を迎えに行ったのに、かえってあの子に助けられてばかり・・・。頼りない身内で本当に申し訳ないわ・・・。」
 
「そんなことはないと思いますよ。叔父さん夫婦に連れられて城下町に行ったおかげで、王国剣士という仕事に巡り会えたと言っていたことがありますから。もう・・・だいぶ前ですけど・・・。」
 
「そうでしたの・・・。本当に優しい子ですの・・・。お嫁さんもかわいらしくて・・・そのうち子供達を連れてくると言っておりましたわ。私も夫も、あの子の子供達に会えるのを楽しみにしているんですよ。」
 
「とてもいい子達ですよ。」
 
「そうね、あなたはご存じなのね。・・・あらあら、私ったら玄関先にお客様を立たせたままにして。どうぞ中に入ってくださいな。お茶でも・・・」
 
「いえ、これから行かなければならないところがありますので・・・。」
 
 とっさに嘘をついた。訪ねた相手がいなかったのに、上がり込んでお茶をごちそうになるのはあまりにも図々しい。
 
「そうですか・・・。それでは仕方ないですわね・・・。あ、そうだわ。ライザー達が泊まると言っていた宿屋はわかりますから、それをお教えしますね。」
 
 ルイーズさんは一度奥に消え、小さな紙を持って戻ってきた。そして私の前でその紙に地図を書き、その宿屋のある場所に×印をつけて、『金のたまご亭』と書き入れた。
 
「金の・・・たまご亭・・・・ですか・・・・。」
 
 奇妙な名前だ。どういう意味なのだろう。
 
「そうなのよ。変わった名前よね。なんだか昔は違う名前だったみたいだけど、今のご主人がこの名前に変えたみたいね。場所はこの地図でわかるかしら?」
 
 ルイーズさんが少し自信なさそうに、たった今書いた地図を私に見せてくれた。場所についてはわかりそうだが、元の名前がなんだったかまではわからない。宿屋がそこ一件ならば話は早いが、そううまくいくとは限らない。もっとも、こんな変わった名前をつけるくらいだから、きっとでかいたまごの看板でも掛かっているだろう。探せば何とかなりそうだ。
 
「ええ、大丈夫です。いろいろありがとうございました。」
 
「本当にごめんなさいね。門前払いするみたいで・・・。」
 
「とんでもない。助かりました。では失礼します。あ、もしもライザーさんが顔を出したら、『我が故郷亭』に私を訪ねてくれるか、でなければ教会の神父様に会いに行ってくれるように伝えてください。大事な用件が出来てしまったので。」
 
「ええ、必ず伝えますわ。」
 
 話し相手がほしかったのか名残惜しそうなルイーズさんに、玄関先で礼を言って出てきた。
 
 
「結局無駄足か・・・。」
 
 住宅地区の通りを歩きながら、思わずつぶやいた。半分は予測出来ていた。でもあとの半分ではライザーさん達に会えることを期待していた。神父さまの予想は当たっていたわけだ。あの家にライザーさんが長逗留することはないかも知れないと。額から流れる汗に気づき、空を見上げるともう太陽が空の真上にさしかかるところだ。そろそろ昼になる。私は思いきって『金のたまご亭』に足を向けた。会える可能性は少なかったが、このまま帰りたくはない。
 
「あれかな・・・。」
 
 ルイーズさんの書いてくれた地図を頼りに歩いていると、奇妙な看板が見えてきた。ごく普通の鶏がたまご産んだところらしいのだが、そのたまごが金色の塗料で塗られているのだ。近づくにつれて、看板の下に書いてあった店の名前が見えてきた。
 
『金のたまご亭』
 
 ここがライザーさん達の宿屋か・・・。さて会うことは出来るのだろうか・・・。扉の向こうからは、賑やかな声が聞こえてくる。
 
「いらっしゃいませぇ!」
 
 開けた途端に威勢のいい声が聞こえた。
 
 
 
 商業地区の中でもどちらかというと奥にある『金のたまご亭』は、大通りに面した『我が故郷亭』ほどではなかったが、やはり祭り見物の客達で賑わっていた。運良くカウンターに空きがある。マスターらしき中の男性に声をかけると、空いているので座ってくれとの返事だった。
 
「旦那は初めてだな。酒かい?メシかい?せっかくの祭りだってのに一人ってのは寂しいじゃねえか。なんなら、この裏手にいい店があるから紹介するぜ。とびきりとはいかねえが、なかなかの美人揃いだ。」
 
 マスターらしき男性が手早く食器を拭きながら声をかけてきた。城下町に初めて出てきたとき、同じような話を『我が故郷亭』のマスターからも言われたことがある。若かろうがいい年だろうが、男が一人でいれば女を世話してやるというのは、社交辞令のようなものらしい。
 
「いや、遠慮しておくよ。酒はいいから食事をもらえるかい?ここのおすすめでもあればそれがいいな。」
 
「ほぉ、メニューも見ずにおすすめを頼むとは、旦那、なかなかの通だな。よし、待ってな。おーい、ランチ一つだ!」
 
 マスターが奥に向かって怒鳴った。食事を待つ間、フロアを見渡した。『我が故郷亭』にあるような、二階の部屋への階段が見あたらない。宿屋はどこから入るのだろう。
 
「なんだい?待ち合わせでもしてるのかい?」
 
 先ほどの男性・・・ここのマスターと見ていいだろう・・・・が声をかけてきた。
 
「いや、ここは宿屋だって聞いたんだけど、部屋に行くにはどこから行くのかなと思ってね。」
 
「入り口が別なのさ。宿屋の入り口は裏にあるんだ。宿帳を書くのもそこだ。泊まりに来たところを酒場の客に見られなくてすむから、騒がしいのが苦手な客や、やんごとなきご身分の皆さん方がお忍びで逢い引きするにはもってこいというわけだ。」
 
「へぇ、でも珍しい作りだね。」
 
「まあな。なんでかって言うとな、ここは昔、連れ込み宿だったからなのさ。」
 
「連れ込み宿か・・・。」
 
 なるほどそれなら、泊まり客は酒場の客と言わず誰にも顔を見られたくない客ばかりだろう。
 
「この辺り一帯にある宿屋ってのはほとんどそうだったんだ。商業地区の中でも奥に位置してるから、人通りも少ないしな。今でも連れ込みをやってる店もあるぜ。」
 
「あなたはここのマスターみたいだけど、連れ込みの頃からここをやってるのかい?」
 
「まさか。俺は10年ほど前にここを買い取ったのさ。何でも前の持ち主が博打に手を出して、借金のカタに取られたらしいがね。おかげでかなり安く買えたよ。ま、造りが造りだから連れ込みで営業するのが一番手っ取り早かったのは確かだが、そうなるとどうしても怪しげな連中がうろつき廻るようになっちまうからな。そこで、健全なる宿屋を目指して、店の名前も変えたってわけさ。」
 
「変わった名前だね、金のたまごなんて。」
 
「ああ、俺がこの店を始めるだいぶ前だがな、酒場で会った冒険家って男から聞いた話さ。将来有望な若い奴らのことをそう言うんだと、そいつがどっかの離島で聞いてきたんだとさ。この国じゃそんな言い方はしないから、そいつがどこで聞いたのか、作り話なのかはわからんがね。ところがなぜかその言葉が気に入っちまってね。で、この店を始めるときに『将来有望な宿屋』って意味で、この名前をつけたんだ。」
 
「繁盛しているところを見ると、確かに金のたまごだったんだね。」
 
「へっへっへ、うれしいこと言ってくれるじゃねぇか。最初は苦労したんだぜ?建物は補修して、部屋もきれいにして、酒場も明るいオープンな雰囲気にして、それなりに客も入ってくれるようになった、そこまではよかったんだが、なんせ連れ込みだった頃の名残で目つきの悪い連中から覗かれるし、歓楽街の女が男を連れて逃げ込んできたりして、そう簡単に健全な宿屋にはなれなかったな。」
 
 マスターは大声で笑った。
 
「なるほどね・・・。」
 
 マスターと呼ばれる人達がおしゃべり好きなのはどこも同じか・・・。あまりしゃべらないのはセーラズカフェのマスターくらいだ。もっともあの店は、マスターが無口な分セーラさんが賑やかなので、結局は同じことか。なかなかこちらの用件を切り出すことが出来ないまま、食事が運ばれてきた。なかなかのボリュームだ。食べてみるとこれがうまい。洗練された味と言うより、野趣溢れる風味とでも言うのだろうか。どちらかというと、一般庶民向けな味だ。
 
「うまい。さすが、おすすめだね。」
 
 こんな時は素直に感想を言うのが一番いい。私が下手に言葉を飾ろうとしたところで、気の利いた台詞など出てきようもない。
 
「ほぉ、またまたうれしいこと言ってくれるねぇ。ま、王宮の隣に住んでるご貴族様方の舌には合わないようだが、俺の店は一般庶民の味方だからな。安くてうまくてボリュームがあるってことにかけては、他の店にひけはとらないと思うぜ。旦那は見たところこの町の人じゃなさそうだが、表通りの『我が故郷亭』は知ってるかい?」
 
「知ってるよ。」
 
「なら話は早い。あの店は俺の店のライバルなのさ。ラドの奴には負けられないからな。」
 
「ラドの知り合いなんだね。」
 
「ん?なんだ、お客さんもラドの知り合いか?」
 
「まあ古い知り合いだよ。その縁で今は『我が故郷亭』に泊まってるんだけどね。」
 
「む!?するとお客さんはラドのスパイ・・・・」
 
「まさか。」
 
「だよなあ。」
 
 マスターはまた笑い出した。話し好きのマスターは冗談も好きらしい。
 
「ここがラドの知り合いの店だってことさえ今聞いて知ったんだから、そんなことはないよ。ここに私の知り合いが泊まっているらしいって聞いて、それで訪ねてみたんだけど・・・。」
 
 やっと用件が切り出せそうだ。
 
「へぇ、そうなのか?なんて名前だ?」
 
 私はライザーさんの名前を告げた。
 
「うーん・・・・。」
 
 マスターは腕を組んで考え込み、首を振った。
 
「いや、知らねぇな。もちろん宿屋は別な奴に任せてあるから、たとえばたった今泊まりに来た客のことまではわからんが、毎日宿帳の確認はしてるからな。だが、そんな名前のお客は知らねぇな。」
 
「そうか・・・。」
 
 マスターが本当のことを言っていないと言うことは、何となく感じることが出来た。腕を組んで考え込む仕草も、もっともらしく見せるためだ。だが、自分でもある程度予測はしていた。少なくともまともな宿屋なら、突然訪ねてきた客に、自分の宿屋にどんな客が泊まっているかなんて簡単に教えたりはしないものだ。
 
「それじゃ、そのうち来るかも知れないから、そうしたら『我が故郷亭』を訪ねてくれるように伝えてくれるかい?でなければ住宅地区にある教会のほうがいいかな・・・。」
 
「来なかったら?」
 
「来なけりゃ仕方ないさ。」
 
「それもそうか。」
 
 私は自分の名前を伝え、『もしもライザーと名乗る人物が現れたら』伝えてくれるように頼んだ。多分今日の夜には伝わるだろうと思いながら。
 
 
 
「伝わったところで・・・会いに来てくれるかどうかはわからないわけだしな・・・。」
 
 外に出るとまたため息が漏れる。教会、叔父さんの家、宿屋、3ヶ所に頼んできたが、さてライザーさん達は現れるだろうか。教会で話を聞いてくれるのが一番手っ取り早いのだが、私に出来ることはここまでだ。あとは手の打ちようがない。
 
「・・・あれ・・・?」
 
 ふと立ち止まり、あたりを見渡した。このあたりには見覚えがある。ずっと昔、カインと2人で『もっと町の中に目を向けよう』と話し合って何度か警備に来た場所だ。
 
『あのあたりは連れ込み宿が多いからな。治安もよくないんだ。常時2〜3組で見回ってくれるとありがたいってランドさんも言ってたし、行ってみようぜ。』
 
 城下町で育ったカインの先導で何度か歩いたことがあるが、あたりはすっかり変わっている。さっきのマスターが言っていたとおり、連れ込み宿が少なくなり、『健全な宿屋』が多くなっていた。
 
「これも時代の流れなんだろうな・・・。」
 
 何となくつぶやいて歩き出そうとしたところで、後ろから肩を叩かれた。
 
「旦那、偉いお医者の旦那じゃございませんか?」
 
 振向くと、そこに立っていたのはトゥラの働いている店『ヘブンズゲイト』の用心棒の男だ。
 
「君か。今日は休みなのかい?」
 
 娼館の用心棒に定期的な休みがあるのかどうかわからないが、この場所は歓楽街からは少し離れている。こんな場所に彼らが仕事で来るとも思えない。もっとも、逃げた娼婦を追ってきたとか言うなら別だが。
 
「あたし達の仕事に休みらしい休みなんぞございませんよ。女達がおとなしくしていてくれりゃあ、ちょっとは休めますがね。今日はちょいとヤボ用で出掛けてきたところなんですが、ちょうどよかった。ぜひ旦那のお耳に入れたいことがございましてねぇ。」
 
 用心棒の態度は、相変わらず卑屈なまでに低姿勢だ。
 
「私に?君のヤボ用が何かなんて話は、特に興味がないけどな。」
 
「あっはっは!旦那もなかなか冗談がお好きでございますねぇ。そんな話じゃございません。ま、立ち話もなんでございますからね、この先にあたしの馴染みの店があるんですが、ちょいとご足労願えませんでしょうかねぇ。」
 
「ここじゃまずいのかい?」
 
「まあその・・・往来で話さないほうが、旦那にとってもご都合がよろしいと思いますぜ。」
 
「どうやら、あまりいい話ではなさそうだね。」
 
「へっへっへ、まあ、そうですねぇ・・・。もっとも、本来旦那にはなんの関係もないことなんですがね。聞きたくなければそれでもかまいませんが、どうなさいます?」
 
 こういう言い方をされては、『ではやめておく』とは言えない。私は彼の『馴染みの店』についていくことにした。そこは商業地区の中程にある小さな酒場だ。祭りの真っ最中の今でさえ、そんなに客がいない。だが寂れているというわけではなさそうだ。こんな時期にもゆっくり飲める『穴場』と言うところか。
 
「旦那、なんかお飲みになりますかね。ここはあたしが持ちますよ。」
 
「そうだね・・・食事もしたところだし、ここでは酒じゃない飲み物は置いてないのかい?」
 
「それじゃ、紅茶でもいかがです?」
 
「ああ、それがいいな。」
 
 用心棒は誰もいないカウンターの奥に向かって『おやじ!紅茶ふたつ!』と叫んだ。ちょっと意外だった。この男が私につきあって紅茶を飲むとは思わなかったからだ。
 
「さてと、旦那もお忙しい身でしょうから、早速用件を話しましょうかね。」
 
「頼むよ。」
 
 用心棒はうなずいた。
 
「先だって旦那にお世話になったとき、うちのシエナを追っかけていた若い王国剣士のことを憶えておいでですかね。」
 
「ああ、憶えてるよ。あのあと会ってないけどね。」
 
 やはり話というのはトゥラのことか。
 
「あの剣士様がですね、昨日うちの店にやってきたんですよ。」
 
「え・・・?」
 
 あの剣士は確か謹慎中のはずだ。謹慎期間は絶対に王宮の外に出られない。ハディが訓練場で面倒を見ていたはずなのだが・・・。
 
「まさかトゥラに会わせたのかい?」
 
「とんでもない!あたしはね、あの時剣士団長様とちゃんと約束したんですからね。この商売はね、信用が第一なんですよ。一度約束したことを平気で違えるようでは、店の信用まで落とすことになっちまいます。ですがね旦那、あの剣士様が妙なことを言ってたもんで、その真偽のほどを旦那にお聞きしたかったんですよ。」
 
「どういうことなんだい?」
 
「実はですね・・・。」
 
 用心棒の話に驚愕した。あのラエルという剣士が昨日の朝早くトゥラの店を訪れ、近く謹慎が解けてトゥラとも会えるようになる、トゥラの借金も払える目処が立つかも知れないから、いくらなのか教えてくれと言ってきたのだそうだ。その『うれしい知らせ』をトゥラにぜひ直接伝えたいと、かなりしつこく会わせてくれるよう頼んだらしいが、それについては用心棒が頑として受けつけなかったそうだ。
 
「まあそんな話を聞いたもんですからね、ですがこの間の話とだいぶ違うじゃありませんか。それで誰かに真相を尋ねたかったわけですが、さすがに王宮は敷居が高いもんでねぇ。その点旦那なら、宿屋のあたりで会うこともあるかも知れないから、会えたら聞いてみようなんて思ってたらまあ・・・こんなところでお会いできるってのも、神様のお導きですかねぇ。」
 
 都合のいいときだけ崇められても、神様のほうが困りそうだ。
 
「借金の額は教えたのかい?」
 
「とんでもない。金の話となればそれはもう、店の主と直接話してもらわなけりゃなりません。娼館の主と言っても、なかなかお忙しいんですよ。予約もないのに勝手に通したりしたらあたしが怒られますよ。」
 
「なるほどね、その剣士が来たことをトゥラには?」
 
「まだ話してませんよ。一応店の主には話しておきましたが、かなり胡散臭い話ですからな。ま、信用はしないでおくのがいいだろうという結論に至りましてね。」
 
「賢明だな。私もそう思うよ。」
 
「シエナがあの剣士様のことをどう思ってるかはわかりませんが、自由になれるかも知れないなんて言う話を聞いた後、それが嘘だったなんてことになったら、下手すりゃ絶望して自殺でもされかねないですからねぇ。」
 
 鉄格子もなければ鍵もかけられていない、いつでもどこにでも出て行けるようで、本当は決して出られない『歓楽街』というかごの中に囚われた女達にとって、『自由』とはどんなに願っても決して手に入らないものだ。それをちらつかせられてまた取り上げられたとしたら・・・・絶望のどん底にたたき落とされたとしても不思議ではない。だが・・・この用心棒が、そんなことに気を回すとは思わなかったので、少し驚いた。
 
「わかった。事の真相は私が聞いておこう。君はいつもは店にいるのかい?」
 
「他の連中は、けっこう歩き回ってますがね、あたしはたいてい店の厨房におりますよ。裏口なんですがちょいとわかりづらいかも知れませんねぇ。」
 
「裏口の場所が20年前と変わっていなければわかるよ。」
 
「ほぉ?確かに変わっていませんが・・・・こりゃまた意外なお答えですな。」
 
 用心棒は大げさに驚いた顔をして見せ、片頬でにやりと笑った。
 
「へっへっへ、詮索はしないでおきましょうかね。何かわかったらお知らせいただけますか?ま、どちらにせよホラ話の公算が強くなってきたようですが、はっきりさせないままほっといて、いきなり女を掠われたりしちゃあ、こちらの面目丸つぶれですからねぇ。」
 
「わかったよ。」
 
 話が終わったところにお茶が運ばれてきた。運んできたのは年配のマスターだ。
 
「なんだよ遅いな。話が終わっちまったじゃねぇか。」
 
 用心棒がマスターを睨んでみせる。
 
「へ!お前の話の仕方が悪いんだ。話が半ばあたりでお茶が届くように、伸ばしてしゃべりゃあよかったじゃねぇか。」
 
「そんな都合よく行くか!」
 
 馴染みの店と言うだけあって、2人は仲がいいようだ。口を挟むこともないので、紅茶を一口飲んでみた。
 
「うまい。」
 
 思わず言葉に出た。香りもよく、美しい赤い色が窓から差し込む光を映してゆらゆらと揺らめく。
 
「お、うれしいねぇ、こんな立派な旦那がうまいと言ってくださるってことは、俺の腕もまだまだ捨てたもんじゃねぇかな。」
 
 マスターは大げさに驚いてみせた。
 
「なんだよ?俺だっていつもうまいって言ってるじゃねぇか。」
 
「ふん、お前みてぇな大酒飲みに紅茶の味なんぞわかるもんかい。」
 
「けっ!酒好きだとお茶の味がわからねぇってのかよ!」
 
「年中酒でしびれっばなしの舌で味わっちゃあ、うちの紅茶が泣くぜ。俺が厳選した葉を使ってるんだからな。お前にはもったいねぇや。」
 
「まあまあ、そんなことはないよ。この紅茶は、誰が飲んだってうまいとわかるよ。お茶の葉はどこのだい?」
 
「へっへっへ、これはね、南大陸の西側に広がる、離島のあたりでとれるものですよ。あのあたりは気候もいいですからねぇ、野菜でもお茶でも果物でも、実に品質のいい物がとれるんですよ。」
 
「そうか・・・。でもね、どんなに良質のお茶でも、淹れ方がよくないと台無しだからね。その点、ここのマスターの淹れ方は完璧だな。」
 
「おやおや、これはまたありがたいお言葉ですな。これを機にどうぞごひいきに。」
 
「私はここに住んでいるわけじゃないけど、まだしばらくはこっちにいるからね、機会があれば妻も連れてくるよ。」
 
「え・・・えぇ?奥方がご一緒なのにこいつと・・・」
 
 マスターがおかしな顔をした。
 
「おいこら、俺はな、この旦那に女を世話してたわけじゃねぇよ。ちょいと別な話があったのさ。」
 
 用心棒がむっとした口調で言いながらマスターを睨んだ。
 
「お、なるほどな。こんなご立派な旦那がお前と話してるなんて世も末だと思ったが、そう言うことなら納得だ。旦那、なんの話か存じませんが、こいつに丸め込まれないようにだけは気をつけてくださいよ。」
 
「ははは、気をつけるよ。」
 
「旦那ぁ、そりゃないじゃございませんかぁ。」
 
 したり顔のマスターに用心棒は情けない顔をしてみせる。こんなやりとりも、この2人の間ではいつもかわされている冗談の一つなのだろう。
 
「でも、今の話は信じるよ。何かわかったら知らせるからね。では私は失礼するよ。」
 
 そろそろ戻らないと、妻が心配しているかも知れない。立ち上がって財布を出そうとしたが、用心棒がそれを制した。
 
「いけませんや旦那。あたしが持ちますよって約束したことですし、せっかく信用してくださったのに、それを裏切るようなことは出来ませんからねぇ。」
 
「わかったよ。それじゃ、ごちそうさま。」
 
 なかなか義理堅い男のようだ。見た目はそうは見えないのだが。
 
 
「またおかしな話になったもんだな・・・。しかし謹慎が解けるとか金を払うとか、そんな話がどうして・・・。」
 
 店を出て、王宮へと戻る道を歩きながら、たった今聞いた奇妙な話を改めて考えてみた。入団して3年程度の若い剣士に、娼婦の借金をすべて払えるほどの財力があるとは思えない。家が金持ちだとでも言うなら別だが、もしもそうなら、あの若者はとっくにトゥラを自由にしていたはずだ。では彼は、いったいどうやってその金を工面するつもりなのだろう。昨日その話をしに行ったのなら、金の目処が立ったのはおそらくその前・・・。一昨日くらいか・・・その前か・・・。
 
(あれ・・・?)
 
 昨日ハディとラエルの話をしたとき、ハディはなんて言っていた・・・・?
 
『昨日も午後からどこかに行ってたみたいだからなぁ・・・。』
 
「昨日の昨日ってことは、つまり一昨日・・・・。」
 
 ラエルが姿を消したのが一昨日の午後・・・・。ライラが襲われたのも一昨日の午後・・・。
 
「まさか・・・。」
 
 いくら否定しようとしても浮かんでくる『仮説』。しかも限りなく真実に近いと思われる・・・。ライラの襲撃に荷担した王国剣士。その剣士はだまされたのか、それとも脅されたのか、いや・・・もしかしたら悪いことだとわかっていても抗えないほどの、『報酬』に惹かれたか・・・・。恋人に会いたがっている謹慎中の剣士に、謹慎期間の短縮と、恋人を自由にするための多額のお金を提供するといえば、あのラエルという剣士はどんなことでもするかも知れない・・・。
 
「いや・・・結論を出すのは早い。とにかく戻ろう・・・。」
 
 王宮に着いたらまずライラの病室に顔を出すつもりだったのだが、突然飛び込んできた思いがけない話の真相を確かめるべく、私は剣士団宿舎への階段を上がった。カウンターにはランドさんがいて、大きなあくびをしている。
 
「よぉ、クロービス、急いでるみたいだがどうした?」
 
「オシニスさんは部屋ですか?」
 
「ああ、ちょうどよかったよ。今疲れた顔して戻っていったところだ。あの様子じゃ、大した成果は上がらなかったみたいだな。」
 
「聞き込みですか?」
 
「ああ。東翼別館の警備が増えたもんで、城下町警備のはずの奴らが急遽南地方に行っちまったりしてなあ、なかなか全員から話が聞き出せていないみたいだぜ。ま、行くなら元気づけてやってくれよ。」
 
「わかりました。」
 
 
 剣士団長室の扉を叩くと、少し元気のない声で返事があった。中に入ると、なるほど疲れた顔をしているオシニスさんが、椅子に座ってため息をついていた。
 
「お前か。ずいぶん遅かったな。あの夫婦のところで何かわかったか。」
 
「その話をする前に、だいぶお疲れのようですね。お茶を淹れますよ。」
 
「すまんが頼む。全くまいったよ。いくら歩き回ってもちっとも成果が上がらない。」
 
「焦らないのが一番ですよ。」
 
「だが時間が限られている。いつまでも敵のしっぽをつかめなければ、どんどんこっちが不利になるんだ。」
 
「それはそうですけどね・・・。」
 
 剣士団長室には一通りのお茶はそろっている。コーヒーの豆もあるようだが、ふと思い立ち、腰に付けた袋の中からハーブティーをとりだした。今のオシニスさんの疲れを癒やすには、何となく、このお茶が一番のような気がしたのだ。
 
「どうぞ。手持ちのハーブティーですけど。」
 
「へぇ・・・。」
 
 オシニスさんは気づくだろうか・・・。一口飲んで、ぼんやりしていた目が見開かれた。
 
「これはお前が作ったのか?」
 
「これはだいぶ前ですけど、ライザーさんにもらったものですよ。」
 
「そうか・・・。」
 
 ずっとずっと昔、海鳴りの祠を出て行く私にライザーさんが手渡してくれたお茶だ。このハーブの組み合わせは元々私の父のオリジナルなのだそうだが、ライザーさんにとっては未だにこの組み合わせが一番らしい。私も教えてもらって同じ組み合わせで作ってみたことがあるが、どうにもライザーさんの作ったものよりうまいお茶は出来なかった。
 
『特に変わったことがあるわけじゃないんだけどね』
 
 ライザーさんはそう言いながら、今でも時々作ってはうちに持ってきてくれている。このお茶に含まれる成分は、体だけでなく心も癒してくれる。お茶に使われている一部のハーブは、不眠症などの治療に使われる薬草でもある。同じ組み合わせでも、どうして私が作ると味が落ちるのか、その理由を何となくわかるような気はする。私がハーブを組み合わせようとすると、どうしても『効能第一』になってしまうのだ。せっかく薬草を使うのだから、少しでも大きく効果が出るようにと。だがライザーさんは違う。薬草自体に力があるなら、使いさえすれば効果は期待できる。それならば少しでもおいしく飲めるようにと、味を追求する。
 
『足して二で割れば、ちょうどいいものが出来そうなのにね』
 
 昔、イノージェンが笑いながらそんなことを言っていたものだ。
 
「落ち着きましたか?」
 
「ああ、すこしな・・・。ふふ・・・今になってライザーに助けられるとはな・・・。」
 
「早く会えるといいんですけどね。」
 
「・・・・・・・・・・。」
 
 オシニスさんは答えず、手に持ったカップの中身をぐいと飲み干した。
 
「さてと、お前の話を聞かせてくれないか。」
 
「はい。」
 
「あの店の夫婦はどうだった?信用できそうか?」
 
「大丈夫だと思いますよ。」
 
 セーラズカフェの夫婦から聞いた話を、一通りオシニスさんに聞かせた。
 
「なるほど、それならば心配ないか・・・。しかし、アスランの母親の話まであの夫婦が知っていたとはな。」
 
「昔私達を助けてくれた人達の中に、アスランの母親もいましたからね。アスランがイルサにしていた話の内容でわかったみたいでしたよ。」
 
「そうか・・・。」
 
「まあその件はともかく、あの店に行く分には、ライラは安心してのんびり出来るでしょう。マスターは腕も立つようですし、ライラだって人並み以上の腕はありますからね。もっとも、ライラとマスターが2人で立ち回りをする羽目にはならないことを祈りたいですが。」
 
「ま、そりゃそうだ。そのあたりは、町の中をどれだけちゃんと警備できるかにかかってるからな。それは任せてもらうしかないが、しかしありがたいな。いくら危険だからって王宮に押し込めておくわけにもいかないし、王宮の中だって安全と言えないことは今回の件でわかったし、お前を頼るにしても、お前だって毎日朝から晩までライラに張りついているわけにもいかんだろうしな。ま、一安心だ。それじゃ、俺はまた聞き込みにでもいくか。とにかく足を使って情報を集めるしかなさそうだしな・・・。」
 
「それについても、ちょっとした情報を持ってきましたよ。」
 
「・・・なに?」
 
「これからお話ししますから、もう一杯くらいお茶を飲んでください。」
 

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