ここはキャンドルキープ。フォーゴトンレルムの中でも険しさで知られる海岸、ソードコースト沿いにある。町と言うよりは要塞のように、周囲を高い城壁で囲まれており、町の中央には大図書館がある。中に入るとすぐに、このキープを開いたと言われる賢者アラウンドーの銅像が出迎えてくれるのだが、いつも睨まれているようで気分がよくなかった。この町は退屈だ。いずれはここを出て行きたいと思っていた。でもこの町は、出るのはたやすいが入るのは難しい。キープに入ろうとする者は、必ず価値のある本を図書館に寄贈しなければならない。この町に生まれた時から住んでいることなど、何も意味も持たない。一度キープの外に出た者は、このルールを守らない限り自分の家に帰ることすら出来ないのだ。
養父ゴライオンの教えを受ける以外は、キープの人達と会話を交わし、簡単な仕事をこなしたりしながら毎日を過ごしていた。ちょっとした小遣いを稼げる時もあるが、使うところはほとんどない。この街にある店は一件きり。キャンドルキープインを経営するウィンスロップが、鎧や武器を売る片手間に日用品などの雑貨を扱っている程度だ。ほしいものがあれば頼んで取り寄せてもらうことも出来なくはないが、特別ほしいものも思いつかない。ほんの少しのお金でも、貯めようと思えば貯められるだろうか。そしていつか、貯まったお金を持って、キープの外に大冒険に飛び立てたら・・・。
それはあくまでも「夢」だった。そう、今日養父から、突然の旅立ちを告げられるまでは。理由を聞いても教えてくれない。ただ、どこかからかき集めてきたのかいくらかのお金を押しつけられ、旅の支度を調えるようにと命じられた。でもなぜか安心する。ここ最近養父はずっとふさぎがちで、何となく自分を避けているようなところがあった。でも今朝はとても元気に旅支度のために走り回っている。とりあえずキャンドルキープインに行ってみようか。旅に必要なものならあの店でも少しは売っていたはずだ。
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みんなが早く養父に会いに行けと言う。『養父』と言う言葉は自分にとって耳慣れた言葉だ。ゴライオンは本当の父ではない。では本当の両親はどこにいて、それは誰なのか。当のゴライオンはもちろん誰も教えてくれない。小さな頃から、ゴライオンは様々な話を聞かせてくれたが、ただ一つ、私の出生にまつわる話だけは何一つ聞かせてくれたことはなかった。本当の両親に会いたいわけじゃない。ゴライオンは優しい父であり、よき人生の師だ。彼が養父であったことがうれしく、また誇りに思っている。それでも時折心がざわめく。自分はいったい何者なのか、どこで生まれ、なぜゴライオンに引き取られることになったのか・・・。それもみな、時が来ればゴライオンが話してくれるだろうか。そう言えばファイアービード・エルフェンヘアーが妙なことを言って呪文をかけてくれた。
「今夜出会うかも知れない邪悪から身を守れるように」
あれはどう言う意味だったのだろう。
夕方、図書館の前でゴライオンと合流した。養父の顔は心なしかやつれて見えた。急な旅立ちのために忙しかったのだろうか。もう一度旅立ちの理由を尋ねた。でもゴライオンは『いずれ時が来れば話す』の一点張りだ。仕方なく、旅立ちの準備がすべて整ったことを告げると、もう暗くなろうというのにすぐに出かけると言う。外への門の前で、ゴライオンは昼間襲われた時の怪我を治してくれた。自分の一撃を受けて倒れた男の顔が浮かぶ。あんなことは初めてだ。それがおなじ日に二回も起きた。その話を聞いた養父は悲しげに首を振ったが、何も言わなかった。
いよいよキャンドルキープの門を出る。この門の向こうは自分にとって未知の世界だ。いざ出て行くとなると胸がどきどきする。ゴライオンのあとについて、外の世界への記念すべき第一歩を踏み出した。これからいったい、どんな冒険が待っているのだろうか。
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