プロローグ |
バルダーズゲートを出た私達は、懐かしい仲間達と再会した。ジャヘイラとカリードは、あの時私が自分達と別れるという決断を下したのは正しかったと言ってくれた。
「もしも私がずっとあなたといたら、きっといつまでも1から10まで口出しして、あなたを一人前の大人として認めることが出来なかったでしょう。今のあなたは本当にりっぱになったわ。」
ジャヘイラに対して、どちらかと言えば「気むずかし屋」というイメージを持っていた私だったが、それも全ては、亡き友人の残した子を一人前にしなければと言う、彼女の責任感から来ていたようだ。ダイナヘールとジャヘイラもすぐに仲良くなった。ミンスクは相変わらずブーといっしょに、悪に鉄槌を下すために日々精進しているという。以前は騒々しいだけだと思っていたけど、この男も裏表がない、気持のいい人間なのだろうと思う。私達はいったんフレンドリーアームインに落ち着き、ベントリーの歓迎を受けた。ベントリーはもしかしたら私のことを知っていたのかも知れないが、何も言わずに乾いた清潔なベッドとおいしい食事を提供してくれた。ゴライオンが受け取った手紙の中で、ジャヘイラとカリードは私のことを何も知らないと書かれていたけれど、本当は知っていたようだ。ハーパーの仲間が、突然キャンドルキープに隠棲し、しかも小さな子供を2人も連れていた、そのことと、その時期に起きた「ある出来事」を考え合わせて、その結論に至ったのだそうだ。だからツァーが冗談交じりにバールの話などを持ち出したとき、あれほど不快な顔をしたのかと、今になればそこまで思い至ることが出来る。そして、あの手紙を出した「E」が誰なのかも・・・。
私達はまた冒険の旅に出た。ソードコーストを一巡りし、サレヴォクの残した混乱が未だ残っていないか、人々の暮らしが戻りつつあるか、それを確かめるのが目的だった。そして、ナシュケルまでたどり着いた私達は、ナシュケルのアムン兵達から、バルダーズゲートとアムンの緊張は未だ解けてはいないことを知らされた。アムンの指導者達の元には、バルダーズゲートの大公達からこの騒動の犯人がわかったという連絡は行っているはずだが、自分達が疑われ、諸悪の根源のごとくに扱われたアムンの指導者達としては、その説明だけでは納得出来ないと言うことらしい。『然るべき謝罪と誠意』を、アムンの指導者達は求めているとのことだ。謝罪はともかく、誠意というのが何を意味するのかはわかる。だが、バルダーズゲートの大公達としても、サレヴォクのせいで大打撃を受けた町の経済の修復や、鉄不足による様々な影響から立ち直るためにはお金が必要だ。アムンに誠意を見せたくとも、そんな余裕はないというのが本音だろう。
『お前が気にすることじゃないさ。あとはお偉いさん達の仕事だよ』
以前ナシュケル鉱山のもめ事を解決した縁で仲良くなっていたアムン兵の一人が、笑って肩を叩いてくれた。確かに、この緊張の中で私が出来ることは何もなさそうだ。だが、これ以上アムンの国内にとどまるのもやめたほうがいいだろう。ナシュケルでは私達は『鉱山のもめ事を解決した英雄』という扱いだが、私の素性が知られたとき、彼らが変わらぬ笑顔を向けてくれるとは思えないし、私の居場所がアムンの指導者達に知られたら、それこそどんなことになるかわからない。私達は腰を上げ、今度は北に向かうことにした。バルダーズゲートよりずっと北の彼方にあると言われる「ノース」という地方の話を、ジャヘイラとカリードがイモエンに聞かせたらしく、イモエンはとても興味を持っていた。小さな湖の畔に肩を寄せ合うように点在する「テンタウンズ」や「北方の玉石」ネヴァーウィンターを、この目で実際に見てみたい、そう話がまとまり、私達はナシュケルを出て北へと向かった。だが・・・
油断していたのかと問われれば、そうだと答えざるを得ない。バルダーズゲートの近くでキャンプしていた私達は、突然謎の集団に襲われた。静かに、息すらしていないかのように静かに忍び寄ったその一団にあっという間に自由を奪われ、それきり私の意識は遠のいていった・・・。
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